基礎講座 労働基準法

R04

労働契約による強制労働等の排除

 
KeyWords  契約期間賠償予定の禁止前借金相殺の禁止強制貯蓄の禁止徒弟の弊害排除強制労働違反等に対する罰則
 不当な拘束により強制労働を強いる手段には暴力以外にもさまざまあり、これらが横行していた時代があった。
 そこで労基法では労働者保護の立場から、ひとつひとつ項を起こして、禁止したのである。
 これら全体の流れをつかみながら、個々の規定について理解を深めること。
 
1 契約期間(14条)
 「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約は5年)を超える期間について締結してはならない」  
 高度の専門的知識等を有する労働者との契約
 満60歳以上の労働者との契約
 
 期間の定めのない契約(いわゆる正社員等)の場合は、労働者はいつでもやめることができるし、使用者も労基法の規定(解雇権の濫用、解雇制限、解雇予告な)どに違反しない限り、いつでもやめさせることができる。⇒ 不当拘束にはならない。
 有期事業(一定期間たてば事業が終了するもの)については、契約期間の上限はない。
 期間の定めのある有期労働契約については、労働者側にも契約履行義務という一定のしばりがあるので、期間の上限を設けることにより、不当拘束にならないように配慮した。
 しかしながら、契約期間は長い方が雇用の安定にも繋がるという側面もあるので、平成16年1月より、従来の1年(例外3年)から3年(例外5年)に延長された。
 それでも、3年(例外5年)は長すぎて不当拘束になるのではないかという心配もあり、次のような暫定措置(附則137条)が講ぜられている。
 「1年を超える期間の定めのある労働契約(有期事業は除く)を締結した労働者は、3年後の見直し措置が講じられるまでの間、民法の規定(契約解除に伴う賠償責任)にかかわらず、労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる

1' 有期労働契約についての基準(14条のつづき)
 「2項 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる」
 「3項 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる」
 
 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
 
「有期契約労働者について適切な労働条件を確保するとともに、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにするためには、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決が図られるようにすることが必要であることから、厚生労働大臣が「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を定め、行政官庁が必要な助言及び指導を行うことができるようにしたものである」(H15.10.22基発1022001)
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 具体的には、
 契約締結時:契約更新の有無、更新に関する判断基準の明示。 
 1年超過継続勤務者の雇止め時:満了日の30日前までに予告。理由の証明書を交付。
 1回以上契約更新した1年超過継続勤務者の更新時:契約時間をできるだけ長くする。(努力義務)
 実質的には期間の定めのない契約と認められる例
 反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのない契約と異ならないものと認められるケースもあり、その場合は解雇に関する規定の適用によって雇止めが認められなかった判例も少なくない。
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2 賠償予定の禁止(16条)
 「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」
 
 趣旨
 そもそも民法においては、契約違反があった場合には損害賠償を請求することができるが、その賠償金額を決めるにあたっては当事者間でもめることが多い。そこで、420条において、
 「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所はその額を増減することはできない」として、わざわざ、「賠償額の予定」の規定を設けている。
 しかし労働契約の場合、使用者が労働者よりも優位な立場にたって不当な契約を押し付けないとも限らないので、
 「途中で労働契約を解除した場合は、実際の損害があるなしにかかわらず一定額を賠償として支払う」というような契約を結んで、不当な足止めをすることを禁止したのである。
 「本条は金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」(S22.9.13発基17)
 よって、例えば業務命令や就業規則に対する違反があった場合、使用者が予め金額を定めておいてこれにより徴収するのは本条違反であるが、実際に発生した損害に応じて賠償を求めることは、違反ではない。
 最近問題となりそうなのは、「会社の費用で、海外留学をさせたとか、資格を取らせるために大学院等に派遣した場合で、その後一定期間勤務せずに会社を辞めた場合に援助費用を請求できるか否か」である。
 これについては、@留学や派遣が業務命令なのか否か、A援助が足止めのための立替え金なのか、金銭貸借(一定期間勤務した場合は返還義務免除の特典もあるが、返済方法が定められている)に過ぎないのかなど、労働関係の継続を不当に強要するか否かによって、判断されるとされている。(労働法コンメンタール労働基準法上P236)
3 前借金相殺の禁止(17条)
 「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」
 
 「前借金」とは、労働契約締結の際あるいはその後に、「労働することを条件として使用者から借り入れ、将来受ける賃金でこれを返済 することを約束したお金」である。
 昔の人身売買(親が一時に多額のお金を受け取り、娘がただ働きするなど)はもってのほかである。人身売買とまではいかなくても、不当に労働を強制すれば5条(強制労働の禁止)違反、強制はないが賃金と相殺すれば17条違反である。
 ただし、会社からお金を借りて、給料で返済することは良くあるので、実際はかなりややこしい。
 「本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨であるから、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上等で、明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働をすることを条件とする債権には含まれない」(S22.9.13発基17)
⇒ 使用者の好意で、当座の費用調達のために給料を前借したなどは許される。
 「この規定は、前借金により身分的拘束を伴い、労働が強制される恐れがあること等を防止するためのものであるから、使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して、労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条は適用されない」(S23.10.15基発1510)
⇒ いわゆる住宅資金の借入金、物資購入や学資の借入金などは、返済不能なほどの大金や暴利でなければ許される。
4 強制貯金の禁止(18条)
 「使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」
 
  戦前には、賃金の全部又は一部を事業主がお国のためなどと称して半ば強制的に預かりおくことが良く行われていた。容易に貯蓄を引き出せないようにして労働者の足止めをしたり、経営資金として使用された結果、経営難のため払い戻し不能となるなど、問題点が多かった。
 戦後においても、倒産に伴う貯蓄金返還不能事件は結構多いことから、強制貯蓄は禁止とし、任意貯蓄にもさまざまな制約を課している。
 「労働契約に付随して」とは、労働契約の締結又は存続の条件とすることをいう。
 例えば、名称は任意貯蓄であれ何であれ、「貯蓄をやめれば解雇する」というような契約は労働契約と付随した強制貯蓄の契約であり、本条違反である。
 また、単に通帳を預かるだけでも、労働契約に付随して行われる場合は違反である。
 共済会等について
 共済会などと称して従業員全員から強制的に掛金を徴収することがよくあるが、この場合は、「その拠出金が、福利施設や見舞金、祝金など特定の事由が発生した労働者のみに支払われ、時に拠出額以上の恩恵を受けたり、逆にまったく受けなかったりする仕組みであれば、貯蓄金とは考えられないのので、使用者が保管管理しても18条違反ではない」と解されている。(労働法コンメンタール労働基準法上P248)
 
4' 任意貯蓄(18条2項)
 「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ないときは、労働者の過半数を代表する者)との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない」  
 
 任意貯蓄による貯蓄金を労働者の委託を受けて管理することは、
 
@労使協定の締結と届出
 A貯蓄管理規程の整備と周知(届出は不要)
 があれば許される。
 この、任意貯蓄には次の2種類がある。
 通帳保管  労働者が自分名義で貯蓄し、使用者が通帳等を保管する。
 預金受入れ  いわゆる社内預金で、 使用者が預金を受け入れて管理する。この場合はさらに制約が厳しく、
 @年0.5%以上の利子をつけることと、
 A預金の管理の状況を毎年4月30日までに、所轄労働基準監督署長に報告する義務がある
 派遣労働者の社内預金
 「18条は派遣元の使用者に適用される。派遣先の使用者は派遣労働者と労働契約関係にないので、18条に基づき、派遣中労働者の預金を受け入れることはできない」(S61.6.6基発333)
 つまり、18条は強制貯蓄を禁止している規定であるが、また一方では、労使協定の締結など一定の条件のもとで任意貯蓄を許容している規定でもある。

4'' 参考 貯蓄金の保全措置(賃金支払確保法3条)
 「事業主(国及び地方公共団体を除く)は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、厚生労働省令で定める場合を除き、毎年3月31日における受入預金額について、同日後1年間を通ずる貯蓄金の保全措置(労働者ごとの同日における受入預金額につき、その払戻しに係る債務を銀行その他の金融機関において保証することを約する契約の締結その他)を講じなければならない」
 
5.徒弟の弊害排除(69条)
 「使用者は、徒弟、見習、養成工その他名称の如何を問わず、技能の習得を目的とする者であることを理由として、労働者を酷使してはならない」
 「2項 使用者は、技能の習得を目的とする労働者を家事その他技能の習得に関係のない作業に従事させてはならない」

 趣旨
 「本条は、わが国における従来の徒弟制度にまつわる悪習慣を是正し、特に酷使の典型である雑役への使用を禁止する趣旨であるから、その監督取締を厳格に行うこと。
 2項の「家事その他技能の習得に関係のない作業」中には、機械、道具、器材等の出し入れ、整備、事業場の整頓、清掃等当該技能を習得するに必要と認められる作業は含まれないが、従来とかくかかる作業の範囲を超えて雑役に使用した弊が多かった実情(注、使い走り、子守、炊事、洗濯など)に鑑み、個々の場合につきその範囲を具体的に判断し、監督取締を適切に行うこと」(S22.12.9基発53) 
 強制労働違反等に対する罰則
1  強制労働の禁止(5条)
 「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」と、労基法では最も重い罰則が規定されている。
2  中間搾取の排除(6条)
 「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」
3  公民権行使の保障(7条)
 「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」
4  契約期間(14条)
 「3年(5年)を超える契約をした場合は、契約しただけで14条違反となり、使用者は30万円以下の罰金」
⇒ その場合は契約期間は自動的に3年(5年)となる。よって、3年(5年)経過したときは、労働者には労働の義務はないことになる。その後も依然として、「労働者の意思に反して労働を強制させた」場合は5条違反にもなりうる。
5  労働条件の明示(15条)
 「30万円以下の罰金」(帰郷旅費不支給の場合も同じ)
⇒ 労働契約自体は有効。
6  賠償予定の禁止(16条)
 「違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をした場合は、契約しただけで16条違反となり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」
⇒ 契約自体は無効。
 ただし、使用者が実際に損害を被った場合には、その事実を証明して損害賠償を請求することはできる。
7  前借金相殺の禁止(17条)
 「労働することを条件とする前借金と賃金との相殺を行なったとき、17条違反で、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金。さらに、賃金の全額支払を拒んだ場合は24条違反
となり、30万円以下の罰金」
 前借金そのものは適法であるが、身分的な拘束を意図して前貸しし、賃金から控除して返済させることは違法である。
 また、前借金のあることを理由に退職を認めず、「労働者の意思に反して労働を強制させた」場合は5条違反となりうる。
8  強制貯金(18条)
 労働契約に付随する貯蓄契約、貯蓄金管理 契約を契約をした場合は、契約しただけで18条違反となり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」
 中止命令に従わないとき、保全措置命令に従わないときは、さらに30万円以下の罰金。
9  徒弟の弊害排除(69条)
⇒ 本条違反に対する罰則の定めはない。ただし、年少労働者に対する保護規定や5条による強制労働の禁止、労働条件の明示等に違反する場合は、これらによる罰則が適用される。