ミニ解説 マクロ経済スライド |
マクロ経済スライドによる年金額の改定の話はややこしいですね。
ここでは、中高生時代の数学を思い出して、実学的に解説してみました。
なお、平成30年度からは、従来からある(スライド)調整率に、さらに特別調整率というのが出てきた。
それまでは、調整率により年金額を抑制しようとすると、調整が効き過ぎて前年度の年金額を下回ってしまう場合は、年金額は据え置きとし、それ以上の調整は行わないことになっていた。
これでは、調整の未達成分がどんどんたまってしまい、年金財政の安定化に効かないことになってしまうので、平成30年からは、この調整の未達成部分を翌年度以降に持ち越し、いずれかの年度では必ずその分も含めて、年金額を抑制することになった。
よって、平成30年度以降については、以下の話において、調整率とあるのは、調整率×前年度特別調整率(前年度までの調整未達成分の累積値)と置き換えて、読んでください。
ポイント1:改定率
今後の国民年金の年金額は、改定率を改定することによって、毎年かわっていきます。(物価スライド特例措置の話はおいておきます)
新年金額=780,900×改定率(満額の場合)
また、厚生年金の報酬比例分についても、再評価率の中に改定率の考え方を持ち込んで、これも毎年変っていきます。
ポイント2:調整率
平成17年度から調整期間にはいり、改定率の改定にマクロ経済スライドの考え方が導入されます。これにより、年金額の改定の度合いが、物価や賃金の変動率に比べて小さく(感度が鈍く)なります。
すなわち、
調整期間中の改定率 ≒ 通常期間中の改定率×調整率 (≒ は、概ね等しいが、条件によっては異なる場合もあることを意味する)
ここで、調整率は少子高齢化が年金財政に及ぼす影響の度合いによってきまる率
ポイント3:調整期間中の基準年度前(68歳到達年度前)の者の改定率
改定率は賃金変動率をベースとして、調整率で微調整する。すなわち、
改定率 ≒ 名目手取り賃金変動率×調整率
一般のテキストによる説明文と条文には若干乖離があり、読者の混乱を招きやすいので、ここで整理しておく。
一般テキストでは、賃金変動率を1.0+δ(賃金アップ率)、調整率を1.0−δ((スライド)調整率)に置き換えて説明している。ここで、δは微小変化分をあらわす。
よって、 賃金変動率×調整率=1+δ(賃金アップ率)−δ((スライド)調整率)-δ(賃金アップ率)×δ((スライド)調整率)となるが、下線部は値が小さいので目をつぶり、また、改定率の変化分を改めて改定率と称し、以下のように説明している。
δ(改定率)=δ(賃金アップ率)−δ((スライド)調整率)
例えば、賃金のアップ率が2%(賃金変動率は1.02)、(スライド)調整率が0.9%(調整率は0.991)のときは、
条文によれば、改定率は掛け算によって1.01082、テキストでは改定率変化分は引き算によって1.1%となる。
また、賃金アップ率が0.3%(賃金変動率は1.003)、(スライド)調整率が0.9%(調整率は0.991)のときは、
条文によれば、掛け算によって0.994となるので1.0を採用、テキストで引き算によって-0.6となるから0とする。
数値的には
大きな問題はないが、混乱しないよう念のため。 |
ポイント4: 調整期間中の
基準年度以降(68歳到達年度以降)の者の改定率
改定率は物価変動率をベースとして、調整率で微調整する。すなわち、
改訂率 ≒ 物価変動率×調整率
以上のことをグラフでまとめると、右のようになる。すなわち、改定率は調整率(たとえば0.9%)のバイアスがかかっている(下駄をはいている)。
つまり、賃金や物価が上がっても、そのままの 率では年金額はあがらず、調整率(この例では0.9ポイント)だけ、あがり方が少ない。
賃金と物価がダウンしたときは、基本的には、ダウン幅の小さい方をとるが、年金が減額になることには変わりない。 |
|
ポイント5:実際の改定率
これまでの話は、あくまでも原則論であり、実際の改定率は次のようになる。
68歳未満の者(賃金がベース)
賃金アップ |
|
名目手取り賃金変動率×調整率
(変化分でいうと、賃金アップ率−(スライド)調整率) ただし、アップ率が(スライド)調整率よりも小のときは、1 |
賃金ダウン |
賃金ダウンより物価ダウンが大 |
名目手取り賃金変動率 |
賃金ダウンより物価ダウンが小 |
物価変動率 |
物価がアップ |
1 |
68歳以降の者(物価がベース)
物価アップ
|
賃金アップ率が物価アップ率より大 |
物価変動率×調整率
(変化分でいうと、物価アップ率−(スライド)調整率) ただし、物価アップ率が(スライド)調整率より小のときは、1 |
物価アップ率が賃金アップ率より大
| 名目手取り賃金変動率×調整率
(変化分でいうと、賃金アップ率−(スライド)調整率)
ただし、賃金アップ率がスライド調整値より小のときは1 |
賃金がダウン |
1 |
物価ダウン |
|
物価変動率 |
注 |
調整期間ではないときは、調整率は1((スライド)調整率は0)と考えればよい |
(スライド)調整率 =1−調整率 (マイナスになるときは、調整率は1とみなす) |
賃金アップ率=名目賃金変動率−1 |
物価アップ率=物価変動率−1 |
調整率が1とは、変化なしということ |
ポイント6:年金等の額
年金等の額は、この改定率(厚生年金保険法では、同様な考え方に基づく再評価率)を改定することにより、次のようにして自動的に計算される。
ただし、脱退一時金は保険料の伸びに応じて改定される。また、付加年金、死亡一時金、脱退手当金は自動改定の対象となっていない。
老齢基礎年金 |
780,900円×改定率×(保険料納付済月数、半額免除月数、全額免除月数に応じて計算した月数)/480 |
振替加算 |
224,700円×改定率×生年月日に応じた調整率 |
障害基礎年金 |
780,900円×改定率 (ただし、1級はこの1.25倍) |
子の加算(2人目まで) |
224,700円×改定率 |
子の加算(3人目以降) |
74,900円×改定率 |
遺族基礎年金 |
780,900円×改定率 |
寡婦年金 |
夫の老齢基礎年金算定額×3/4 |
脱退一時金(国民年金) |
(保険料納付済月数+半額免除月数×1/2)に応じた額で、17年度は16年度にくらべて、保険料の増額分280円(2.11%)の増額。18年度以降も保険料の増額率に応じて自動改定。 |
老齢厚生年金(報酬比例部分) |
平均標準報酬額(各標準報酬額×再評価率の総額/被保険者期間月数)×5.481/1000×被保険者期間月数 |
特別支給老齢厚生年金定額部分 |
1,628円×改定率×被保険者期間月数 |
加給年金額(配偶者及び2人の子) |
224,700円×改定率 |
加給年金額(3人目以降) |
74,900円×改定率 |
配偶者特別加算 |
昭和9年4月2日以降の生年月日に応じた一定額×改定率 |
障害厚生年金 |
老齢厚生年金(報酬比例部分)(ただし、1級はこの1.25倍) |
障害厚生年金最低保障額 |
障害基礎年金の額(780,900円×改定率)×3/4 |
遺族厚生年金 |
老齢厚生年金(報酬比例部分)×3/4 |
中高齢寡婦加算 |
遺族基礎年金の額(780,900円×改定率×3/4 |
経過的加算 |
中高齢寡婦加算−(780,900円×改定率×生年月日に応じた控除率) |
障害手当金 |
老齢厚生年金(報酬比例部分)×200/100
(最低保障額は障害厚生年金最低保障額×2) |
脱退一時金(厚生年金) |
平均標準報酬額(再評価率は1)×保険料率×1/2×被保険者期間月数に応じた一定数 |
用語の定義
調整率 |
公的年金被保険者変動率×0.997
⇒公的年金被保険者変動率は現役被保険者数の減少率を、また、0.997とは平均寿命の延びを考慮した一定値であり、調整率とは少子高齢化の年金財政に及ぼす影響の度合いを示す。 |
公的年金被保険者変動率 |
公的年金被保険者等総数の前々年度値/5年度前値の3乗根 |
名目賃金変動率 |
物価変動率×実質賃金変動率×可処分所得割合変化率 |
物価変動率 |
総務省作成年平均全国消費者物価指数の前年値/前々年値 |
実質賃金変動率 |
(標準報酬額等の平均値の前々年度値/5年前年度値)/(物価指数の前々年値/5年前値)の3乗根 |
可処分所得割合変化率 |
(0.91-3年前の9月1日における厚生年金保険料率×0.5)/(0.91-4年前の9月1日における厚生年金保険料率×0.5) |
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