対象事業場
繁閑の周期が1月以内であって、これを予め予測できる事業場にメリットがある。
月のうちの前半であるとか後半であるとか、5の付く日・10日の付く日であるとか、週のうち金曜日から日曜日であるとか、月のうち1週と2週であるとか、とにかく、繁忙である特定の日又は(及び)特定の週を予め指定できるところでなければならない。
あるいは、4週5休制、6休制などの場合、勤務ダイヤによる場合もこの変形労働時間制を利用する。 |
就業規則その他これに準ずるもの (S22.9.13発基173号32条の2関係)
「その他これに準ずるもの」とは、89条による就業規則を作成する義務のない(常時使用する労働者数が10人未満の)使用者についてのみ適用があること」
⇒ 「その他これに準ずるもの」については、89条による就業規則ではないから届出の義務はない。
「その他これに準ずるものによる定めをした場合には、これを労働者に周知させるものとする」(施行規則12条)
⇒ 「「周知」については、使用者がこれを行わない場合においても罰則適用の問題は生じないが、何らかの方法によって関係労働者に周知させなければ「定め」とは認められない」(S29.6.29基発355) |
労使協定か就業規則か(H11.1.29基発45(32条の2関係))
法改正前は、「就業規則その他」により実施するものとなっていたが、
「労使の話合いによる制度の導入を促進するため、また、1か月単位の変形労働制以外の変形労働時間制の導入要件は労使協定により定めることとされていることも勘案し、就業規則その他これに準ずるものによる定め、又は労使協定の定めのいずれによっても導入できることとした。いずれにするかは、最終的には使用者が決定できる」
ただし、労使協定は、特に労働組合がない場合は過半数労働者代表との協定でよいことから、労働者全員に「この協定に従って労働せよ」という強い拘束力までは有していないとされており、結局は就業規則において(労働組合があれば労働協約でもよい)、労使協定に従う旨の定め又は同様の定めをしておく必要がある。
免罰効果(S63.1.1基発1号) 「労使協定の効力は、その協定の定めによって労働者を労働させても労基法に違反しないという免罰効果であり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要である」)
⇒ 1週間単位の非定型的変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制については、必ず労使協定で実施しなければならないが、この場合でも同様の理由により、労働協約、就業規則等の根拠が必要である。
労使協定の有効期間
「労使協定は有効期間の定めをしなければならない。不適切な制度が運用されることを防ぐため、有効期間は3年以内とすることが望ましい」(H11.3.31基発169) |
労働時間の特定
「労使協定による定め又は就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、1か月単位の変形労働時間制に該当しない。
なお、就業規則においては、各日の労働時間だけでなく、始業及び終業の時刻も定める必要がある」(H11.3.31基発168)
特定された日 ⇒ 就業規則等により、予め、8時間を超えて労働させると定められている日
特定された週 ⇒ 就業規則等により、予め、週40(44)時間を超えて労働させると定められている週
勤務ダイヤ
「就業規則においてできる限り具体的に労働時間を特定すべきであるが、業務の実態から月毎に各人の勤務割(勤務ダイヤ)を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業
・終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続き及びその周知方法等を定めておき、それに従って各日ごとの勤務割は変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる」(S63.3.14基発150)
⇒病院、発電所など24時間操業の事業場における交代勤務制等がこれに該当する。 |
法定労働時間の総枠
「1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、変形期間を平均し1週間の労働時間が法定労働時間を超えない定めをすることが要件とされているが、これは要するに、変形期間における所定労働時間の合計が次式による法定労働時間の総枠の範囲内とすることが必要であるということ」
法定労働時間の総枠=40(44)×(変形期間の暦日数)/7 (H9.3.25基発195) |
時間外(以下のいずれかで、ダブルカウントは除く)
@8時間を超える定めをした日で、 かつこれを超えたとき ⇒ (実労働時間−定めた労働時間)
A8時間を超える定めをした日以外でかつ8時間を超えたとき ⇒ (実労働時間−8時間)
B40(44)時間を超える定めをした週でかつこれを超えたとき ⇒ (実労働時間−定めた週労働時間)
C40(44)時間を超える定めをした週以外でかつ40(44)時間を超えたとき ⇒ (実労働時間合計−40(44)時間)
D変形期間における実労働時間合計が法定労働時間の総枠を超えたとき
⇒ (実労働時間合計−法定労働時間の総枠)
注
特定された日であれば、実労働時間が10時間でも、定められた時間以内であれば時間外労働に該当せず。
特定された週であれば、実労働時間が50時間でも、定められた時間以内であれば時間外労働に該当せず。 |
趣旨 「年間単位で休日増を図ることが所定労働時間の短縮のために有効であり、そのためには年間単位の労働時間管理をすることができるような制度を普及させる必要があることから、年間単位の休日増による労働時間短縮が可能となるよう変形期間を3か月から最長1年まで延長したものであり、変形期間を平均して週40時間労働制を実現し、適正かつ計画的な時間管理をすることで、労働時間の短縮を図るものである。 また、予め業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であること」(H6.1.4基発1) |
対象事業場 繁閑の周期が1年以内であって、これを予め予測できる事業場にメリットがある。 たとえば、歳末・年始、中元などはかき入れ時であるが2月8月(ニッパチ)はだめであるとか、春・秋がいい、夏がシーズン、冬場向けなど。最近は、冬にアイスクリームやビールが売れるなどもあるが、需要が季節等に依存する事業場は多い。 |
労働時間の特定 「労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要し、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しないこと。 従って、例えば貸切観光バス等のように、業務の性質上1日8時間、週40時間を超えて労働させる日又は週の労働時間を予め定めておくことが困難な業務、又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、1年単位の変形労働時間制を適用する余地はない」(H6.1.4基発1) ⇒ 予め定めた労働時間で不足するときは時間外でと、最初から時間外をあてにしたものは認められない。 労働時間の特定の仕方
対象期間全体について、各労働日ごとの労働時間を1度に定める必要はない。例えば、対象期間が1年で、これを1か月ごとに区分した場合は、次のようにすればよい。
@ |
最初の1か月分について労働日及び各労働日ごとの労働時間+その後11か月分について各月の労働日数及び総労働時間を定める。 |
A |
各月初日の30日前に、
次の1か月分について労働日及び各労働日ごとの労働時間を定める。ただしその合計値は、@で定めた各月の労働日数及び総労働時間を超えてはならない |
「変形期間(対象期間)を1か月以上の期間に区分した場合、労働日数及び総労働時間のみを定めた期間について、労働時間の特定をする際、過半数労働者代表等の同意が得られなかった場合は、労使協定により定められている労働日数及び総労働時間の範囲内で、32条の規定(1日8時間、1週40時間以内)により労働させることとなる」(H11.3.31基発168) 特定された労働時間の変更
「労使協定において、「労使双方が合意すれば、協定期間中であっても変形制の一部を変更することができる」旨が明記されている場合であっても、変形期間の途中で変更することはできない」(S63..3.14基発150) |
夏季休暇 「労働日を特定するということは反面、休日を特定することであるから、7月から9月までの間に労働者の指定する3日間について休日を与える制度がある場合のように、変形期間開始後にしか休日が特定できない場合には、労働日が特定されたことにはならない」(H6.5.31基発330) ⇒ 1年単位の変形労働時間制で、たとえば1か月ごとに区分して実施する場合、少なくとも30日前にまでには、次ぎの月の各日について、休日か労働日か、労働日の場合はその労働時間を具体的に定めないといけない。
よって、7月から9月までの間に労働者が任意の3日間について休日をとってもよいとなると、会社側が具体的に休日と労働日を特定したことにはならない。
実際問題として労働者は、会社が指定した休日以外の労働日の中から、任意の3日を選ぶことになるであろう。 つまり、全労働日について労働時間を特定したことにはならない。 |
特定期間 (H11.1.29基発45(特定期間))
「特定期間は対象期間中の特に業務が繁忙な期間であることから、対象期間の相当部分を特定期間として定める労使協定は、法の趣旨に反する。また、対象期間中に特定期間を変更することはできない」 特定期間を設定する必要がない場合 (H11.3.31基発169(特定期間不要))
「特定期間を設定する必要がない場合においても、「特定期間を定めない」旨定めることが必要である。ただし、特定期間について何ら定めがない協定については「特定期間を定めない」旨定められているものとみなす」 |
休日振替
「使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することができないことを前提とした制度であるので、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できない。なお、労働日の特定時には予期しえない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行わなければならなくなること
が考えられるが、そのような休日振替までも認めない趣旨ではない」 |
法定労働時間の総枠
「1年単位の変形労働時間制は、週40時間労働制を前提とする制度であり、変形期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えない定めをすることが要件とされているが、その趣旨は、変形期間における労働時間の合計を次式による時間の範囲内とすることが必要であるということ」
法定労働時間の総枠=40×(変形期間の暦日数)/7 (H9.3.25基発195) |
時間外(以下のいずれかで、ダブルカウントは除く)
@8時間を超える定めをした日で、 かつこれを超えたとき ⇒ (実労働時間−定めた労働時間)
A8時間を超える定めをした日以外でかつ8時間を超えたとき ⇒ (実労働時間−8時間)
B40時間を超える定めをした週でかつこれを超えたとき ⇒ (実労働時間
−定めた週労働時間)
C40時間を超える定めをした週以外でかつ40時間を超えたとき ⇒ (実労働時間合計−40)時間)
D変形期間における実労働時間合計が法定労働時間の総枠を超えたとき
⇒ (実労働時間合計−法定労働時間の総枠)
⇒ 特例事業における週44時間の特例は適用されない。
⇒ 「変形期間における実労働時間合計が法定労働時間の総枠を超えたときの割増賃金は、一般的に変形期間終了時点で初めて確定するものであり、その部分については、変形期間終了直後の賃金支払期日に支払えば足りる
。この場合の時効については、当該変形期間終了直後の賃金支払期日が起算日となる」(H9.3.25基発195) |
定年後嘱託再雇用者への適用
「就業規則等において、労働者が希望すれば引き続き再雇用し、又は継続勤務とすることが明確に規定されている場合には、変形期間途中で定年退職を迎える者に1年単位の変形労働時間制を適用することは可能である」(H6.5.31基発330) |
派遣労働者に対する適用
「派遣労働者を派遣先において1年単位の変形労働時間制の下で労働させる場合には、派遣元の使用者は、派遣元事業場において労使協定を締結し、@1年以内の一定の期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、A労働日及び各労働日ごとの労働時間を具体的に定める必要がある」(H9.3.25基発195)
⇒ 派遣元事業主が具体的に労働時間を特定する。 |