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変形労働時間制のつづきとまとめ

 
KeyWords  フレックスタイム制変形労働時間制のまとめ(共通事項、例外事項)、労使協定と労使委員会・労働時間等設定改善委員会決議
 フレックスタイム制は、原則として、いつ、どれだけ働いてもよいことになっている。このため、時間外や深夜業の割増賃金はないと思い勝ちであるが、これは誤解である。使用者はフレックス制といえども勤務時間管理はきちんとしなければならず、また労働者にとっても、実労働時間が不足した場合、次期に上積みされても文句がいえないことになっている。
 ここでは、フレックスタイム制について学ぶとともに、これまでの変形労働時間制についておさらいをする。
 
 
1.フレックスタイム制(32条の3)
 「使用者は、
 @就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、
 A当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、
 B次に掲げる事項を定めたときは、
 Cその協定で第2号の清算期間として定められた期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間(特例事業では44時間)を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、
 D1週間において40時間(44時間)、1日において8時間を超えて、労働させることができる」
1  この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
2  清算期間(その期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1か月以内の期間に限る)
3  清算期間における総労働時間(1週間当たり平均労働時間が法定労働時間を超えない範囲の所定労働時間)
4  その他厚生労働省令で定める事項
1  標準となる1日の労働時間(年次有給休暇中の賃金の算定基礎となる時間)
2  労働者が労働しなければならない時間帯(コアタイム)を定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻 
3  労働者がその選択により労働することができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻
 
 
 趣旨(S63.1.1基発1)
 「フレックスタイム制は、1か月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業の時刻を選択して働くことにより、労働者がその生活と業務との調和を図りながら、効率的に働くことを可能とし、労働時間を短縮しようとするものである。
 従来は、労働基準法上、フレックスタイム制に関する規定はなく、事実上、始業及び終業の時刻が労働者の自主的決定に委ねられている限り、32条2項(1日8時間労働)及び89条(就業規則の作成及び届出の義務)の趣旨に反しないものとして扱われていたものについて、今回その採用の要件を法律上明らかにしたものである」
 就業規則の定め(S63.1.1基発1)
 「フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要があるものであること。
 その場合、始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定にゆだねる必要があり、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定にゆだねるのでは足りないものであること。
 なお、労基法89条1項は、就業規則で始業及び終業の時刻を定めることと規定しているが、フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則において、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨の定めをすれば同条の要件を満たすものであること。
 その場合、コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)も始業及び終業の時刻に関する事項であるので、それらを設ける場合には、就業規則においても規定すべきものであること。
 なお、このことに関して、フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる一日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨に合致しないものであること」
 時間外労働
 
清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間
⇒ 「36協定は、1日について延長できる時間を協定する必要はなく、清算期間を通算して時間外労働をすることができる時間を協定すれば足りる」(S63.1.1基発1)
 労働時間の過不足の繰越
 @実際の労働時間>定められた総労働時間
  実際の労働時間に相当する賃金の全額(割増賃金分を含めて)を当該期間の賃金支払日に支払うこと。
  超過分の労働時間を繰り越して、次の期間の労働時間は少なくてもよいことにするのはだめ。(賃金全額払いの原則に違反)
 A実際の労働時間<定められた総労働時間
  定められた総労働時間分の賃金を当該期間の賃金支払日に支払う一方、不足時間分を次の期間の総労働時間に上積みして労働させてもよい。(過払いの賃金を次の期間に清算するものと考える)(S63.1.1基発1)
  ただし、上乗せは次の清算期間において法定の総労働時間を超えない範囲とし、これを超えるときは割増し賃金が発生するので注意を要する)
 または、実際の労働時間に相当する賃金のみを支払う(不足分は賃金カットする)のでもよい。 
2.変形労働時間制のまとめ(共通事項、個別事項)
 
 労使協定の効力(再掲)
 「労使協定の効力は、その協定の定めによって労働者を労働させても労基法に違反しないという免罰効果であり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要である」S63.1.1基発1号)
 起算日(施行規則12条の2)
 「使用者は1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1ヵ年単位の変形労働時間制により労働させる場合には、就業規則その他これに準ずるもの又は協定、決議において、対象期間の起算日を明らかにするものとする」
 年少者への適用
 @原則 年少者(18歳未満)については、1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1ヵ年単位の変形労働時間制及び1週間単位の非定型的変形労働時間制の規定は適用されない。
 A例外 15歳到達年度末以降18歳未満の場合、1週間48時間かつ1日8時間を超えない範囲において、1か月単位の変形労働時間制、又は1ヵ年単位の変形労働時間制のもとで労働させることはできる。
 育児を行うもの等に対する配慮(施行規則12条の6)
 「使用者は1か月単位の変形労働時間制、1ヵ年単位の変形労働時間制又は1週間単位の非定型的変形労働時間制により労働者に労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練又は教育を受ける者その他特別な配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならない」
⇒ フレックスタイム制はOK
 法定労働時間の特例(特例事業の場合の1週44時間労働制)
⇒ 1か月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制はOK
 労働時間の上限
⇒ 1か月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制はなし
⇒ 1年単位の変形労働時間制 1日10時間、1週52時間
⇒ 1週間単位の非定型的変形労働時間制 1日10時間、1週40時間
 期間の名称
⇒ 1か月単位の変形労働時間制 変形期間
⇒ フレックスタイム制     清算期間
⇒ 1年単位の変形労働時間制   対象期間(変形時間)、特定期間
 労使協定の有効期間の定め
⇒ 1か月単位 (3年以内が望ましい)、1年単位(1年程度が望ましく3年程度以内であれば受理)
⇒ フレックスタイム制、1週間単位の非定型的変形労働時間制 不要
 労使協定と労使委員会・労働時間等設定改善委員会等決議 のまとめ

 
事項 労使協定 労使委員会決議(H22.05.28基発0518ー号他) 労働時間等設定改善委員会決議(H18.04.01基発0401006) 労働時間等設定改善企業委員会決議
実施可能 届出が必要 労使協定
代替可
届出が必要 労使協定
代替可
労使協定
代替可
 1週間単位の非定型的変形労働時間制 ] ]
 1か月単位の変形労働時間制 (就業規則でも可) (協定で実施する場合) ] ]
 1年単位の変形労働時間制 ] ]
 フレックスタイム制 (清算期間が1月を超える場合のみ) ] ]
 事業場外みなし労働時間制 (通常の所定労働時間を超える場合は協定で定めることができる) ○(法定労働時間を超える場合のみ) ○(法定労働時間を超える場合のみ) ]
 専門業務型裁量労働制 ] ]
 企画業務型裁量労働制の決議 ] 労使委員会のみで実施 ] ]
 36協定 ]
 一斉休憩の適用除外 ] ] ]
 年次有給休暇の計画的付与 ] ]
 代替休暇の付与(37条3項) ] ] 
 有給休暇の時間単位付与(39条4項) ] ]
 年次有給休暇期間中の賃金 ] ] ] ]
 高度プロフェッショナル制度の決議 ] 労使委員会のみで実施 ] ]
 貯蓄金の管理 ] ] ]
 賃金からの一部控除 ] ] ] ]
 :労働働時間等設定改善委員会決議及び同企業委員会に関する届出義務については、代替可能なものであれば、労使委員会決議と同様。
 なお、労働時間等設定改善委員会についてはこちらを、労働時間等設定改善企業委員会についてこちらをを参照照のこと
労使協定は、以下のような分類わけもでき、重要ポイントでもある。
  届出 締結しないで実施 締結したが届出しない
 36協定 義務  労基法違反  労基法違反(協定は無効、届出て初めて免罰効力が発生)
 貯蓄金の管理 義務  出資法違反(労基法 18条1項強制貯金禁止違反の場合もある)  罰則なし
 事業場外労働(法定労働時間超過)・専門業務型裁量労働制 義務  みなし時間制そのものが成立せず
 (通常の法定労働時間の規定を適用し、これに違反すれば労基法違反)
 労基法違反
 1週間単位、1か月単位、1年単位の変形労働時間制 義務   変形労働時間制そのものが成立せず
 (通常の法定労働時間の規定を適用し、これに違反すれば労基法違反)) 
 労基法違反
 (締結された協定は有効で、免罰効力が発生)
 フレックスタイム制 なし  −
 一斉休憩の適用除外 なし  労基法違反  −
 年次有給休暇の計画的付与 なし  計画的付与は成立せず(時季指定権が発生)  −
 有給休暇の賃金の標準報酬月額の30分の1を適用  なし  就業規則等の定めにより、@平均賃金またはA所定労働時間労働時の通常の賃金のいずれかの支払い義務発生  −
 賃金からの一部控除 なし  労基法違反  −