18年度 法改正トピックス(労災保険法に関する主要改正点)

労働者災害補償保険法

  改正後 改正ポイント
  1.通勤災害(7条)(18年4月1日施行)
 「7条1項の2号 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下通勤災害という)」
 「同2項 通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」
1  住居と就業の場所との間の往復
2  厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
3  第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)


1号 従来の通勤の定義
2号 2重就職者対応(条文上は新規)
3号 単身赴任者対応(条文上は新規)

 一言で言えば、改正前は住居・事業場間の移動のみ。
 改正後は(反復、継続される場合の)事業場・事業場間、及び住居・住居間の移動も含める。


 「同3項 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為で あって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない」 
注 3項には、本質的な改正点はない。

 
(1) 複数の事業場で就労している者の事業場間の移動も対象とする。(図において、Aの部分を追加)
(2) 単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居間の移動についても対象とする。(図において、Bの部分を追加)

(1)の注
ア 第1の事業場から第2の事業場への移動についても、第2の事業場において労務を提供するために不可欠な行為であると評価できるので、住居から事業場までの移動に準じて保護する必要性が高い。
イ 第1の事業場から第2の事業場への移動中の災害については、第2の事業場の保険関係により処理することが適当であり、給付基礎日額も第2の事業場の賃金を基に計算する。
ウ 二重就職者の事業場間の移動の途中であっても、省令が定める場合を除き、経路の逸脱・中断があった場合には通勤とは認められない。


(2)の注
ア 赴任先住居から帰省先住居への移動については、勤務日当日又はその翌日に行われる移動を、原則として保護の対象とする。
イ 帰省先住居から赴任先住居への移動については、勤務日当日又はその前日に行われる移動を、原則として保護の対象とする。
ウ 経路の途中で数時間にわたり飲食するなどといった行為があった場合には、経路の逸脱・中断の問題が生じる可能性がある。
2.事業主からの費用徴収(31条関連)
 条文の変更ではないが、「未手続事業主に対する費用徴収制度の運用の見直しについて」(通達H17/9/22 基発0922001)が出された。その主旨は
 「現在、労災保険の適用事業であるにもかかわらず、加入手続を行わない未手続事業の数は約54万件に上ると推定され、労災保険制度の運営を行う上で、また、適正に手続を行い保険料を納付している事業主との間の費用負担の公平性を確保するためにも、これを早急に解消することが大きな課題となっている。このような中、平成16年3月、「規制改革・民間開放推進3か年計画」において、未手続事業主の一掃に向けた措置として、より積極的な運用を図ることが閣議決定され、これを踏まえて、費用徴収制度の運用の見直しを行うことととした」
徴収要件
と徴収の率
改正後  行政機関から保険関係成立届の提出について指導等を受けたにもかかわらず、提出を行っていない事業主について
 ⇒ 故意に提出を行っていないものと認定し、対象となる保険給付の100%を徴収
 行政機関から指導等を受けた事実はないものの、保険関係成立日以降1年経過してもなお保険関係成立届を提出を行っていない事業主
 ⇒ 重大な過失により提出を行っていないものと認定し、対象となる保険給付額の40%を徴収
改正前  行政機関から保険関係成立届の提出について指導等を受けたにもかかわらず、提出を行っていない事業主
 ⇒故意又は重大な過失により提出を行っていないものと認定し、対象となる保険給付額の40%を徴収
対象保険給付 改正後  当該事故に関し支給する休業(補償)給付、障害(補償)給付、傷病(補償)年金、遺族(補償(給付及び葬祭料(葬祭給付)。ただし、療養開始日の翌日から起算して3年以内の期間において支給事由が生じたものに限る(年金給付については、この期間に支給事由が生じ、かつ、この期間に支給すべき保険給付に限る)
 (注1)療養(補償)給付、介護(補償)給付、B二次健康診断等給付は対象外
(注2)保険関係成立届の提出があった日以後に支給事由が生じた保険給付も費用徴収の対象となった。
改正前  上記の内、事故発生日から保険関係成立届提出日の前日(又は認定決定の前日)までに支給事由が生じたもの。

 注
 故意の認定
1  事業主が、 行政官庁(所轄都道府県労働局、所轄労働基準監督署、所轄公共職業安定所)の職員から直接、保険手続きに関する指導を受けたにもかかわらず、10日以内に届出しなかった場合
2  事業主が、労働保険事務組合等から、加入勧奨を受けたにもかかわらず、10日以内に届出をしなかった場合

 重大な過失の認定

1  事業主が上記1,2の指導又は勧奨を受けた事実はないものの、保険関係成立日以降1年経過してもなお保険関係成立届を提出を行っていない事業主
2  ただし、次のいずれかの事情が認められる場合は、重大な過失とは認定しない
a  事業主が、労働者に該当しないと誤認した場合(取締役の地位にある等労働者性の判断が容易ではなく、誤認がやむを得ないと認められる場合に限る)
b  事業主が、本来独立した事業として取り扱うべき出張所等について、独立した事業には該当しないと誤認して、直近上位の事業等に包括した場合
 徴収の特例
 算出された額が、1,000円未満の場合には、費用徴収を差し控えること。
3.障害等級表の一部改正(18年4月1日施行)
 「ひ臓又は−側の腎臓を失ったものは、8級から削除し、13級に。また、胸腹部臓器の機能障害については、11級に満たない程度の障害であっても13級を新たに設け、補償の対象とする場合がある」(H18.1.25基発0125001)
 いずれも現在の医学的知見に基づくものとしている。