20年度  法改正トピックス (労働契約法)

 新設の経緯 
○労働条件等の最低基準は労働基準法で規定されているが、就業形態の多様化、労働組合の影響力の低下などにより、個別労働関係紛争が非常に増えてきている。
○個別労働関係紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、従来は、民法において部分的に規定されているのみであり、多くの判例が蓄積されてきてはいるが、体系的な成文法は存在していなかった。
○そのため、個別労働関係紛争の解決のための法的手続きに関して、平成13年10月から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年4月から労働審判制度が施行されるようになった。
○このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、
 ・労働契約の基本的な理念、労働契約に共通する原則
 ・判例に基づく労働契約の内容の決定と変更に関する民事的なルール
 等を一つの法体系としてまとめるたねに、労働契約法が新設された。
 労基法・個別労働紛争解決法との関係
○労基法は、これに違反するものに対して、労働基準監督官による監督・指導、さらには罰則を課して、最低労働基準を守らせるものである。
○労働契約法は、労基法を前提として労働条件を定める労働契約について、合意の原則その他労働契約に関する民事的なルールを定めたものであり、労働者と使用者の 自主的・合理的な意思や判断をベースにしたものである。
 よって、行政官による監督・指導や罰則はない。
○問題が発生した場合は、個別労働紛争解決法による総合労働相談コーナーでの相談、都道府県労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会によるあっせん等により解決することを期待している。
  新設(平成20年3月1日) 新設のポイント
  .1 目的(1条)
 「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」
1.2 定義(2条)
 「この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」
 「この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう」
1.3 労働契約の原則(3条)
 「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」
 「2項 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」  「3項 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」
 「4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」
 「5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」
1.4 労働契約の内容の理解の促進(4条)
 「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする」
 「2項 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む)について、できる限り書面により確認するものとする」
1.5 安全への配慮(5条)
 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする 」






 労働者
 ⇒ 労基法9条の「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と同じ概念であり、 
  使用従属関係と報酬の労務対償性から判定。
  民法の請負、委任など契約の形式にはとらわれずに、実態で判断する。

 

使用者
  ⇒労基法10条の「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」よりは狭い概念であり、
 個人企業の場合は企業主個人、会社等法人の場合は法人そのもの。

 

 

⇒「労働契約に伴い」とあるが、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負う。

  2.1  労働契約の成立(6条)
 「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」
2.1' 就業規則との関係(7条)
 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については12条に該当する場合を除き、この限りでない」
2.2 労働契約内容の変更(8条)
  「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」
2.3 就業規則による労働契約の不利益変更(9条)
 「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」
2.3-1 不利益変更が許される場合(10条)
 「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
 ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、12条に該当する場合を除き、この限りでない」
2.3-2 就業規則の変更手続き(11条)
 「就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法89条及び90条の定めるところによる」
2.4 就業規則違反の労働契約(12条)
 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」
2.4.' 法令及び労働協約と就業規則との関係(13条)
 「就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、7条、10条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない 」 
労働契約
 ⇒双方の合意のみよって成立するものである。
  必ずしも書面でなくても、あるいは労働条件を詳細に定めていなかった場合でも、労働契約そのものは成立しうる。
 

就業規則との関係
 労働契約において労働条件を詳細に定めない場合であっても、
 「合理的な労働条件を定めている就業規則を、労働者に周知させていた」場合は、
 「労働契約の内容は、就業規則で定める労働条件による」
 という法的効果が生じる。
 ただし、労働契約が締結されたときには就業規則が存在せず、その後新たに就業規則を制定した場合には、7条は適用されない。
 

 「周知」とは、
⇒ 常時見やすい場所に掲示又は備え付ける、交付する、パソコン等を常時設置するなどして、労働者が知ろうと思えばいちでも内容を知り得るようにすること。

  .31 出向(14条)
 「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」
3.2 懲戒(15条)
 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」
3.3 解雇(16条)
 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
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  4.1 期間の定めのある労働契約(17条)
 「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」
 「同2項 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」
 
  5.1 船員に関する特例(18条)
 「12条及び前条の規定は、船員法の適用を受ける船員に関しては、適用しない」  ⇒そのほかに、船員法への読み替え規定もある。
5.2 適用除外(19条)
 「この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない」
 「同2項 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない」