発展講座 労働者災害補償保険法

S03

 労災保険給付の概要と認定 (続きはこちらを)  
KeyWords  保険給付の種類業務遂行性業務起因性、業務上災害の認定( 作業中作業の中断中作業に伴う行為中作業に伴う準備あるいは後始末中緊急業務中)
  業務上災害あるいは通勤災害として認定されるのとそうでないのとでは、金銭的にいっても補償に大きな差が生じるので、被災労働者や遺族にとっては大問題である。
 これらの認定は行政官庁が行うものであり、それを不服として裁判で争うことも多いが、受験の際は基本的事項さえ抑えておれば、個々の事例が出題されることはないであろう。(ただし、通勤災害については油断ならない)
 ここでは、参考までにいくつかの事例をあげてみたが、いずれも過去に実際にあった話であり、被災関係者には申し訳ないが、読み物としてもなかなか面白いところがある。
 「事実は小説よりも奇なり」
1. 保険給付の種類等(7条1項)
 「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする」 
1  労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(業務災害)に関する保険給付
2  労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(通勤災害)に関する保険給付
3  二次健康診断等給付
 
1' 業務上災害補償に関する使用者の義務(労基法75条))
 「労働者が業務上負傷し又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」
 これは、療養補償の義務であるが、休業補償(労基法76条)、障害補償(同77条)、遺族補償(同79条)、葬祭料(同80条)も同様に規定されており、労災保険給付の根拠はここにある。
 
2.業務災害の認定
 業務災害として認定されるためには、@業務起因性とA業務遂行性の二つを満足する必要がある。
2.1 業務遂行性と業務起因性
 業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態、すなわち、事業主の指揮命令に基づいて労働を提供している状態」をいい、この過程で生じた災害は業務遂行性があると認められる。
 具体的には、次の3つにパターン分類できるとされている。
パターン  事業主との関係  具体的な時間帯
1  事業主の支配・管理下で業務に従事している場合  日常担当業務もしくは特命業務に従事中。
 準備中、後片づけ中およびこれらの間におけるトイレ休憩等も含む。
2  事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合。  休憩時間中でかつ事業場構内(運動場、休憩室、社員食堂など)にいる間。会社の通勤専用バス等を利用している間など。
3  事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合。  出張中。社用での外出中。運送、配達、営業など事業場外労働中、移動中及びこれらの間における食事、トイレ休憩等も含む。
 
上記のパターン  業務遂行性の認定(原則)  業務遂行性が認められない例
1  業務上の行為、事業場施設の管理不備などが原因となって発生すると考えられるので、特別な事情がない限り認められる。 @個人的な行為、恣意的行為、故意による行為
A個人的な恨みなど他人の故意による被害
B地震、台風、火災など業務に関係ない天災地変(ただし、あえて作業をやらせていたり、事業場の立地条件などによって被災し易い事情があるときは認められる)
2  事業主の施設管理下にあるという意味で通常は認められる。  行為そのものは個人的行為であるので、その内容いかんによっては、認められない例もある。
3  出張や事業場施設外で業務に従事する場合は事業主の施設管理下を離れてはいるが、事業主の命令を受けて業務を行っているので、通常は認められる。  1の@、A、Bに同じ。

 業務起因性
 「業務起因性とは、業務遂行性があり、かつ労務の遂行に伴う危険が現実化したものをいう」 すなわち、業務と 災害との間に一定の因果関係があることをいう。
 従って、たとえ業務中であっても、結果的にはどこにいようと関係なく誰もが被災するような天災地変によるものは業務起因性があるとは認められない。
 事故による負傷や死亡の場合はまだしも、疾病となると、この因果関係の認定はさらに複雑になる。
 つまり、事業主に補償責任がある業務上の疾病なのか、業務以外の原因(個人の不摂生、不養生、体質、遺伝・・・・)によるものかを 区別しなければならないが、これが容易でない。
⇒ 業務上の疾病についてはこちらを  
 
3.業務上災害として認定された例、あるいは認定されなかった例
3.1 作業中
 就業中であるから、業務遂行性は認められるが、その作業が担当業務、業務に付随する行為、特別の業務命令などであるか 否かが問われる。これらの場合は、一般的には業務起因性も認められるが、業務を逸脱した行為や単なる天災などの場合はだめである。
3.1.1 飛び乗り禁止(S23.5.11基収1391) 
  「A電鉄鰍フ車掌は、早朝の通勤電車勤務に従事し、駅を発車する際、車両連結機に飛び乗ろうとして足を滑らして転落し轢死した。車両連結器に乗ることは車掌といえども禁止されており、そのために車掌室が設けられている。本件は、車掌の過失により発生したものであるが、乗客満員のためやむをえず連結器に乗ったもので、電車発車の際駅長又は駅員が連結器に飛び乗るのを黙認していた事実もある」
 「回答 業務上である」
⇒ 禁止行為ではあるが、とっさのやむをえない行為であった。
3.1.2 落成式で飲み過ぎ(S24.7.15基災収3845)
 「S農業協同組合T支部事務所落成式に、トラックで荷物運搬のためにきていた同車の助手は、午後4時から落成式の祝賀宴に列席して相当の焼酎を飲み、前後不覚の状態にあったが、翌日の作業の都合もあるので、同僚が7時過ぎトラックの積荷の上に誘い、乗せて帰路に着いた。途中車上で暴れるので同乗した他の5名が極力制止したが、A坂で徐行中のトラックから遮二無二降りようとして荷台の枠にぶら下がった際、胸部を打ち、転落したのでただちに車をとめ、本人を車上に抱き上げて再び帰路についた。その途中顔色が悪かったが別に苦痛も訴えなかったので自宅まで送り届けた。ところがその夜11時ごろから苦痛を訴え、吐血し、翌朝8時ごろ死亡した。
 なお、落成式列席は事業主の命によるものではない。積荷台に乗せたのは最初助手台に乗せたが、あんまり乱暴したためである。A坂で本人が降りようとした理由は不明である」
 「回答 業務外である」
⇒ 落成式出席は業務外であり、そこで飲みすぎたための事故は個人的行為によるものである。
3.1.2’酒気帯びのタクシー運転手(S35.01.27東京地裁判決3094号)
 「タクシー運転手のTは、タクシー運転中、衝突事故により死亡した。会社は、運転手は必ず午前1時までに会社に帰るべき、と就業規則に規定していたにもかかわらずこれに違反し、そのうえ酒気を帯びて運転している際に事故を起こしたものであるから、業務上の行為には該当しないと主張した」
 「判決 業務上とは、正規の執務時間中執務場所において使用者の指揮命令下にある場合を指すのが一般であるが、貸切旅客運送の特質上その帰社時限なるものは、他の一般企業における勤務時間とは自らその性質を異にするものである。
 いわゆる時間外稼働による収益もすべて会社の所得となる事実を認め得るので、無断で帰社時限に遅れた場合に懲戒を与えることがあるとしても、これは単に使用者の企業経営の必要上、社内統制の問題に外ならず、無断時間外の運転行為を以て業務外の行為と即断することは許されない。また、飲酒運転は被災者の重大な過失ではあるが、遺族補償と葬祭料は遺族に支給するものであって、過失の有無は問われない」
⇒ 帰社時刻を守らなかったのは就業規則違反であるが、タクシー運転手という業務の特質から、これを私的行為と断じるのは無理がある。その証拠に、懲戒処分に該当したとしても、会社はそれによる売り上げの恩恵を得てきた。よって、業務上災害と認定された。
 なお、労災と認定されれば、労働者に重大な過失があっても、遺族補償と葬祭料についてだけは減額されない。
3.1.3 顔見知りの者に運転交代(S26.4.13基収1497)
 「D貨物外支店の運転手MはN川から道路補修工事場に砂利を運搬するよう命ぜられ、約1キロメートルのところを運搬していた。1ヵ所の砂利を敷き終わり、Mが道路上で立話をしていたところ、顔見知りのUがきてちょっと運転をやらせてくれと頼んで運転台にのり、運転をつづけたが、Mは黙認していた。
 Uが運転をしている際、Mは車のステップ台に乗っていたが、不安定な運行状態で、若干スロープがついている関係とUの不熟練のため電柱に衝突しそうになったので、とっさにMは飛び降りようとしたが、速度が早かったため電柱と積荷台の端角とに下腹部を挟撃され、そのまま道路の外側にはねとばされて負傷した」
 「回答 業務外である」
⇒ 顔見見知りであっても業務に関係ない者に運転させたのは職務を逸脱した、恣意行為である。
3.1.3’助手に運転させる(S39.10.06長野地裁判決3号)
 「材木の運搬に従事するトラック運転手のMさんは、被災当時、伐木運搬作業に従事していたが、トラックの運転を助手に行なわせて荷台で休養していたところ、助手の運転ミスで、荷台から転落して車に轢かれ死亡した」
 「判決 本来の職務の一部を抛棄したとしてもなお、そのほかの職務を遂行しているものと認められる限り、業務遂行性を失わないものと解するのが相当である。本件の場合、限定された範囲で助手が空車を運転することは当時日常の状態として行われていたことであり、しかも事故発生当時、同人は運転業務を離れながらも、本来の業務の一部を遂行中であったということができ、それさえも抛棄していたと認めることは困難である」
3.1.4 煙突工事中に突風(S26.10.19基収4423)
 「鳶職A、Bの2名は、ボイラー用の煙突取付け工事に従事し、魯上(約14メートル)において作業を行い、その日の予定工事をほぼ終了したところ、雷雲の発生に伴い突然強風が吹き始めたので、現場責任者の指示で降りる途中、突風にあおられて魯が倒れ、Aは即死、Bは右大腿骨を骨折した」
 「回答 業務上である」
⇒ 自然災害ではあるが、業務に付随した責任者の指示に従って降りる途中の災害である。 
3.1.5 毒蛇にかまれる(S27.9.6基災収3026)
 「O建設慨営業所の配管工である被災者Nは、朝6時ごろから資材係、倉庫番等と協力し、前夜運搬されてきた小型パイプが同営業所資材置場に乱雑に荷下ろしされているのを整理していたが、材料が小型のため、付近のくさむらに投げ込まれていないかとくさむらに探し入ったところ、この地に多く生息するハブに左足部を咬まれて負傷した」
 「回答 業務上である」
⇒ 事業主はその地にハブが多く生息することを承知して、注意を呼びかけるべき義務があった。つまり、労務の遂行に伴う危険が現実化して発生した災害である。
3.1.6 社長に頼まれた私用(S35.1.25基収9641)
 「被災者Nは、M工業所の雑役夫であるが、被害前日事業主宅付近の区会の申合わせにより、同地区内の台風被害対策のため、樹木の枝下ろし作業を各戸一人ずつ奉仕労働にあたることとなった。事業主は、事業経営上の都合と家庭に代わりの者もいない等の理由から、Nに代人として作業に出てくれるよう依頼し、Nはこれに従事した。翌日、当地区代表から前日に引き続き作業を行なう旨事業主に連絡があったので、事業主は前日と同様Nに右作業に従事するよう依頼した。
 当日9時から枝下ろし作業に総勢9名で当たり、うち1名が木上に登り、枝のつるし切りをすべくロープをかけ、これをNほか3名で引っ張っていたところ、ロープが木の下を通っていた電線4本を切断してしまったので、うち1名がT電力外営業所に電話連絡にでかけ、この間、Nは切り枝の整理をしようとして切れた電線に触れ、感電ショックを受けて、傍の小川の中に転落死した」
 「回答 業務上と解される」
⇒ 事業主の私用ではあるが、雑役夫であるNにとっては特命業務に準ずるものであったと考えられる。
3.1.7 脳貧血でストーブを蹴飛ばす(S38.9.30基収2868)
 「被災者Nは、A社K工場において、就業時間中、暖をとるためストーブに寄ったところ、脳貧血を起こしストーブに倒れ、火傷3度の負傷を負い、被災した日の翌日死亡した。Nは、被災直前には、3℃〜2℃前後の場所で作業をし、急にストーブに寄ったため、貧血を起こしたものと考えられる。なお、Nは、以前にも退勤時こん睡状態に倒れ、約10分間意識を失った事実がある」
 「回答 業務上である」
⇒ Nが貧血を起こしやすい体質であることは認められるが、この場合、脳貧血の直接的原因は作業中の環境温度変化であるとみられること、何らかの原因でストーブが倒れることはありうることすなわち労務の遂行に伴う危険が現実化したものであること、事業所施設に関連していることなどから、業務上災害である。
3.1.7' 脳貧血で倒れ後頭部を(S41.10.3基災収86)
 「当社N病院皮膚泌尿器科看護婦(いまなら看護師)Hは外来診察室において患者の膀胱鏡検査を検査台脇で介添え中、突然脳貧血様症状を起こして後方に転倒し、約80センチ後方においてあった鉄製の上肢手術台で後頭部を打ち負傷(脳震盪)した。被災者Hは、6年5か月の経験年数を有しており、「患者が悪臭を放ったために貧血を起こして倒れた」と本人はいっているが、医師・同僚看護婦の言によれば、その程度の臭いでは普通の場合倒れることはなく、又他に患者の異常な出血ショックを受ける原因となるようなものはなかった」
 「回答 負傷事故の間接的原因である脳貧血様症状は私病であると思われるが、業務遂行中、その作業環境条件により特に業務危険が伴うものであるとはいえない場合であっても、その負傷事故に事業所の施設が介在している以上、業務上の災害である」
3.1.8 蜂にさされてショック死(S25.10.27基収2693)
 「労働者Fは、同僚とともにS川右岸護岸築堤工事現場で築堤用土砂をモッコに入れ運搬中、土蜂に左大腿部を刺され、そのショックで死亡した。蜂の巣は、労働者も使用者も事故が発生するまではどこにあるのか全然知らなかったが、当該土砂の切り取り面先約30センチメートル程度の土砂中にあり、巣のある個所も切り取ることになっていた。当日は数匹の蜂が作業場付近を飛び回っており、労働者も使用者もどこかに巣があるのだろうと思っていた」
 「回答 業務上の死亡である」
⇒ 当日は数匹の蜂が飛び回っており、使用者は前もって適切な防護策を講ずべき義務があった。
3.2 作業の中断中
 作業を中断していても、事業主の支配・管理下にある限り、業務遂行性は認められる。トイレ休憩やとっさの行為などもそうである。私的行為がだめなのは当然である。
 
3.2.1 立入り禁止の場所から謎の転落死(S23.9.28基収2997)
 「本件災害は、目撃者もないので、その詳細は不明であるが、転落の場所及び周囲の状況からして、災害者Aは水を飲みに行こうとして転落したものと推定される。Aに水汲みを命じた者はなく、現場に水汲み器具もないのであるが、当日の気温は32度でAの作業場所である鉄船内部は室温35度ないし37度であった。作業場所には、給水設備として湯沸し器及びバケツが備え付けてあるが、通常、午前中数時間の需要を満たすのみで、災害発生当時、右給水設備には水がなかった。
 Aの作業場所と死亡場所の間隔は約20メートルで、死亡場所の真上のドック内側壁に消火水栓があり、立入り禁止となっているが、禁止標札、棚壁等は設置してない。なお、死亡場所付近で作業中の労働者が物の落下音を聞いてAの転落を発見したものである。
 これらの事情によって、Aは、作業中に1時作業場を離れ、水を飲みに行き、その消火水栓の水を飲もうとして、ドック内に転落したものと推定される」
 「回答 業務上の死亡である」
⇒ 作業中に勝手に離脱して立入り禁止区域に入ったことはとがめられるが、水を飲むことは生理的行為であり、やむを得ない。また、給水設備や立入り禁止の標札などについて も不備な点がある。
3.2.2 風で飛んだ帽子を追いかけ中に死亡(S25.5.8基収1006)
 「トラック助手Tは、運転手Mと引越し荷物を積載して疾走中、国道上で故障修理中の他のトラックの乗務員が、Tの車の荷覆いシートがめくれている旨、手真似で知らせたので、ただちに停車し、Mとともにシートをかけなおした。その時Y川堤防上から強風が吹き、Tの防寒帽が国道中央に吹き飛ばされたので、とっさにその帽子を追って走り出た際前方より疾走してきた乗用車に跳ね飛ばされ、死亡した」
 「回答 業務上である」
⇒ シートのかけなおしは、作業の中断とはいいがたいと思われる。また、帽子を追いかけたとっさの行動に個人的、恣意的な部分は認められない。
3.2.3 食堂の前で交通事故死(S32.7.19基収4390)
 「T貨物自動車鰍ヘ、設立時からA-T間の路線定期貨物便の取扱いを主として営業しており、T定期便の作業内容は、都内行き貨物を方面別に積み、午前10時ごろ会社を出発し、指定路線を経由、都内に入ると貨物を荷受人に個別配達し、夕刻O営業所に至り、同所に集荷されているT行の荷物を積み、帰路に着き、会社に帰ることになっていた。
 帰社するのは、おおむね午後11〜12時である。そのため会社では、午後7時以後にO営業所を出発する者に夕食券を渡し、翌日本社でその夕食券引き換えに1回50円の食費を支給している。運転手Kと助手Nは、配車計画により貨物自動車を運転し、午後6時30分頃O営業所に至り、貨物を積み、午後7時ごろT市に向け出発した。午後7時40分ころ、A-T間定期便運転に従事する際常に利用しているK食堂前に至ったので、夕食のため、停車し道路を横断してK食堂に行こうとしたとき、運転手Kは折から進行してきた自転車と衝突転倒し、死亡した」
 「回答 業務上である」
⇒ 事業主の管理下を離れた事業場外であっても、作業中およびこれに関連した食事休憩中の事故であり、しかもこの場合は食事をとることが会社から認められていたこと、いつも利用している食堂であったことから、その行動の中に個人的、恣意的な部分は認められない。
3.3 作業に伴う行為中 
本来担当すべき作業(業務)そのものでなくても、その業務をするためには誰でもしなければならない作業もある。これらは、事業主の支配・管理下にある限りにおいて、業務遂行性は認められる。また、その作業が、担当業務を行なうために必要で合理的なものであれば、業務起因性も認められる。
3.3.1 修理後の車を無免許運転で点検(S23.1.15基発51)
 「自動車修理工である被災労働者Aは、日直勤務にあたっていたため、事業所の定休日にもかかわらず定時出勤し、先月来修理せずにあった車の修理に着手した。故障個所(変速機及びラジエーター)の修理を完了したが、定休日のため運転手が不在で試運転ができないため、日直職員の許可を得て無免許にもかかわらず車を運転し、途中道路下に転落死亡した」
 「回答 業務上である」
⇒ 修理後の試運転は、修理という与えられた業務に伴って発生する必要な行為である。無免許運転は労働者の重大な過失ではあるが、だからといって、業務災害の認定を取り消すまでにはいたらない。 死亡事故は絶対的なものであり、被災者に過失があったとしても、遺族にはしかるべく補償すべきである。
3.3.2 私物の眼鏡を取りにいこうとして(S32.7.20基収3615)
 「AガラスM工場のきず見廻り工であるIは、眼鏡を家に忘れてきた。作業前半の見廻り方の場合は眼鏡はなくてもよいが、後半に従事する瑕見の仕事は眼鏡がないとできないので、係員にその旨をいい、早退させて欲しい申し出たところ、ちょうど妻が眼鏡を門まで持参してきているとの連絡があり、本人は早速係員の許可を得て自転車(会社所有の連絡用)に乗り、製板工場を出たが、工事中のバラスに乗り上げてハンドルが狂い、傍の深さ3メートルの原料置場に自転車もろとも転落負傷したものである」
「回答 業務上である」
⇒ 眼鏡は私物であるが、作業場必要なものである。それを受け取るにあたって、係員に許可を得ている、会社の連絡用自転車を使用しているなど、個人的、恣意的な行動は認められない。
3.3.3 煙突掃除を手伝ってあげていたとき(S32.9.17基収4722)
 「N通運外支店の車両整備事務員Kは当日、貨物自動車の車体検査受検のためみずから同車を運転して車体検査場に赴いたところ、車体検査場では丁度昼の休憩時を利用して、新築されたG市Nの新車体検査場に移転準備のため、ストーブの煙突取り外し作業を車体検査官3名で行なっていたが、作業が難渋している様子が見受けられたので、Kは事務所の南側の約2メートルの箇所にあるプラタナスの木に登り、煙突を固定してある部分をゆるめる作業を手伝った。取り外しを終わり、Kは木から下りようとしたところ、枝が折れたため転落、負傷し死亡した」
 「回答 業務外である」
⇒ 業務の合間に行なった煙突取り外し作業は、好意で行なったものであるとしても、誰に頼まれたわけでもなく自分勝手にやったものとされた。よって、業務上とは認定されなかった。親切で手伝う場合でも、結果は自分で責任を負えということ。
3.3.4 代わりに車をバックさせようとして(S31.3.31基収5597)
 「当日、K鉱山鰍フ大型トラックを運転しているNは、黒鉛をいれる空俵120枚、縄75キロを積載して助手Sほか1名と3名でI選鉱場を出発し、災害現場においてFの運転するD興業鰍フトラックと出会ったが、道路の幅は2メートル60センチで、とうてい自動車のすれ違いは不可能のため、D興業鰍フトラックはその後方の待避所へ後退するため約20メートルバックし、いったん停車したが、徐行に相当困難な様子であった。これ見かねたNは、Fに代わって運転台に乗りハンドルに手を掛けギヤーをバックに入れ替え、サイドブレーキを引いて後退しようとしたとき、ギヤーの入れ替えを間違えたものか、そのまま前進し、アッという間に道路から200メートルの断崖を墜落即死したものである」
 「回答 業務上と解すべきである」
⇒ 他の会社の運転手に替わってまで、トラックを回避させる作業は誰からも頼まれたものでもない。しかし、回避させないと自社のトラックが進行できない、すなわち業務遂行に支障をきたすのであるから、この運転を代わって行なった行為を、個人的、恣意的であるとつっぱねることはできない。また、ギヤーの入れ間違いは故意にやったものとは認められない。
3.4 作業に伴う準備あるいは後始末中
 事業場施設内あるいはそれは作業場内であれば、事業主との支配・従属関係は失われていないので、業務遂行性は認められる。また、その行為が、業務に関連して必要性、合理性があるものであれば、業務起因性も認められる。
3.4.1 出勤のため守衛所からオートバイ置場に移動中(S37.8.3基収4070)
 「N樹脂鰍フ労働者Mはオートバイで出勤し、工場の中門守衛所でタイムカードに記入の上、再びオートバイにて自転車置場に向かう途中、同工場構内の市道において、同工場の製品を積載した台車をけん引中のフォークリフトと側面衝突をし、左前額部挫創等の災害を受けたものである。市道は、同工場が既設の工場施設を順次拡張していった結果、工場構内を市道が通ずることとなったもので、市道の管理(一般市民の通行の用には供しているが、自転車・オートバイ等の通行については、守衛が制限している)は、N事業場が行なっている」
 「回答 業務上である」
⇒ 守衛所から自転車置場に移動するのは、まだ就業時間前であり作業を行なってはないとはいっても、作業の前に必ず行なわなければならない行為すなわち作業に通常付随する行為である。また。この場合、市道と入っても事業場内に入ってタイムカードをすでに押しており、通勤災害ではない。
3.4.2 近道しようとして線路上を歩行中(S28.11.14基収5088)
 「日雇い労働者Aは、道路整理工事に雇われ、土砂運搬等の仕事に従事していたが、1日の作業が終了したので、器具の返還及び賃金受領のため現場責任者から帰所を命ぜられ、人員点呼、器具の点検を受けた後、誰を指導者と定めることなく、Aを含めた男女労働者17名が一団となって事業場事務所に向かって歩きだしたが、当日は酷暑であり、村道を歩くより山蔭になった鉄道線路上を歩いた方が涼しくもあり、距離的にも近いので、全員が線路上を歩いていたが、途中鉄橋にさしかかった際、最後部を歩行中のAは誤って川に転落溺死した。順路としては、現場から村道を経て国道を行くのが通常であるが、作業の現場自体が線路の一部をはさんでおり、また付近の住民も常時線路上を通行していた」
 「回答 業務上である」
⇒ 作業は終了しているが、現場から事務所に移動することは、作業に付随してどうしても必要な行為である。帰り道として、より危険な線路、鉄橋を利用したことには問題があるが、おそらく、列車が通過する頻度も極めて少なく、付近の住民も常時線路上を通行していることについて黙認されていた事情もあり、業務上とは認めがたいというまでにはいかないと判断されたと思われる。
 現代でしかもAさんが単独あるいは少数行動をとった場合は、違った判断になった可能性もある。
3.4.3 清掃後のプールに飛び込んで(S56.10.23神戸地裁19号)
 「Tは管工事業者Oに雑役として雇用され、S中学校飲料用水槽内部洗浄、錆止め工事に従事していたが、同工事終了後、身体が汗と錆止剤で汚れていたので、同学校のプールで身体を洗おうとしてプールへ頭から飛び込んだところ、プールの底面で頭を打って負傷した」
 「判決 Tがプールに飛び込んだことは、作業の結果身体が汚れ、これを洗い落とすために行った、すなわち作業に付随する行為であるが、事業主がプールに飛び込んで汚れを落とせと指示したものでもなく、ほかの手段が取れなかったわけでもない。
 同僚と二人で衝動的に飛び込んだもので、この時点において作業終了に伴う後始末行為から逸脱して、遊戯の1種、私的行為へと転化したものと認められる。よって、業務上の災害ではない」
3.5 緊急業務中
 突発的な事故などの場合に担当業務以外の緊急業務に従事した場合、それがその事業の労働者として期待される行為であれば、就業時間内、時間外を問わず、また事業主の命令の有無を問わず、業務遂行性が認められ、それに起因しておきた災害には業務起因性が認められる。
3.5.1 救助しょうとして自分も(S34.12.26基収9335)
 「O鉱油鰍フ従業員DとBは、O港岸壁で、会社が請負ったT丸積荷の重油を送油パイプを通してタンクローリー車に送り込む作業をしていたが、共同で作業をしていたT丸船主が重油タンク内のタラップを降り、サンプルを汲み取ろうとしてそのまま重油の中に墜落したため、Dがこれを救うためタラップを降りたところ、自分もタラップの途中から墜落、さらにこれを救おうとして入ったBも重油の中に落ちて死亡した」
 「回答 この重油陸揚げ作業は、T丸の乗組員とO鉱油との共同作業であり、その作業員の一人であるT丸の船主を救おうとしたDの行為は、この陸揚げ作業に従事する労働者として当然期待される緊急の行為である。Bについても同様であり、二人とも業務上の死亡である」
3.5.2 保安要員ではないが、ガス充満中の坑内にはいって(S31.11.28基収6806)
 「T合同炭鉱の労働者Yは、休日、社宅にいたところ、たまたま近くのI町に住んでいるHが、Hの親戚の者3名といっしょにT合同炭鉱の廃坑に入り、滞留ガスで倒れたという連絡があったため、直ちに近所のS炭鉱労働者Aとともに入坑、救助におもむいたが、坑内で滞留ガスにより死亡した。
 当日は会社所定の休日であり、加えるに期末手当の交渉の決裂による組合のストライキ実施中であって、保安要員以外は一般に就業は停止されていた。また、被災者Yは保安要員ではなかったという事情があった」
 「回答 会社の所定休日で、しかもストライキ中に発生したものであり、またYは保安要員でもなかったということから、会社の事業にかかわるものではなく、業務としての緊急行為とは認められない。よって、業務上の死亡とはしない」