発展講座 労働者災害補償保険法

S03A

業務上災害の認定(続き) (その前はこちらを)

 
KeyWords  業務上災害の認定(休憩時間中事業場施設の利用中出張中通勤途上行事中療養中その他の災害)、解雇後の再発
 参考文献 「労災保険法 解釈総覧」 厚生労働省労働基準局
 参考文献 「労災認定 早わかり」  厚生労働省労働基準局
3.5 休憩時間中
 事業場施設内で休憩を取っている限り事業主の支配下にあるので、一般に業務遂行性は認められる。しかし、行動そのものは私的行為であるので、施設の不備など業務との何らかのかかわりがないと業務起因性が難しい。なお、トイレとか水を飲むなどの生理的行為は、休憩中であっても業務上の行為のひとつである。
 
3.5.1 (S24.12.28基災収4173) 
 「被災者Nは、石切り場の職人の手伝いとして働いていた。石切り場は断崖絶壁で、作業場は海面から約25メートルの高さのところにある。Nは同僚中で一番若かったので、夏の暑いときは朝ヤカン1杯1の飲料水を持って現場に上がり、昼食時には下りて休憩し、仕事にかかるときは再び飲料水をヤカンで持って上がっていた。暑い時などは途中で汲みに下りることもあった。当日(9月19日)は曇っていたので昼まで飲料水は不用だろうと思って発破用の塩水だけを持って上がっていたが、9時10分から20分頃休憩になったとき、誰かが「のどが渇いたな」といいだしたので、Nはヤカンを持って下へ下りて行き、山の方へ帰りかけた瞬間転落し、後頭部を粉砕して死亡した」
 「回答 業務上である」
⇒ 休憩時間中ではあるが、水を飲むとかトイレに行くとかは業務に付随する行為である、本件の場合、同僚の水を汲みにいくのもNの普段の業務の実態からして、個人的な行為ではなく、業務に付随する行為として認められた。
3.5.2 (S54.5.31S52労182,188) 
  「大工見習いとしてO建築に勤務していたAは、B市C町の工事現場から約10キロメートル離れた同市D町の食堂に昼食をとるため自家用自動車で向かう途中、運転を誤り、衝突して死亡した」
 「回答 現場付近にいくつかの食堂があったにもかかわらず、現場から約10キロメートルも離れた食堂に昼食をとりに行こうとした行為は、事業主の指示によるものではなく、恣意的な行為であるからして、その行為中に生じた交通事故は業務上の事由によるものではない」
3.5.3 (福岡地裁S61.1.30判決) 
 「Kは、会社の玄関前の広場でソフトボールの練習中に、同僚がノックしたボールを目に受け、片目を負傷した。Kは、ソフトボールの練習が会社主催のソフトボール大会に備えてのものであり、上司の指示に基づく練習中の災害であるから、業務上の災害であると主張した」
 「判決 会社主催のソフトボール大会に備え、会社敷地内で練習中に負傷したものであるが、練習そのものは、一部の従業員が昼の休憩時間を利用して行なった私的な練習であって、会社の業務遂行に付随して行なわれたものではない。また、上司が練習を呼びかけたのは、上司が率先して練習を始めたことによるものであって、会社の積極的特命によるものでないことから、業務上の災害とは認められない」
3.5.4 道路の傍らで休憩していたところ自動車事故に(通達(S25.06.08基災収1252)
 「道路清掃工事の日雇い労働者である被災者は同僚16名と作業に従事し、正午から全員休憩した。各作業員は、道路に面した柵にもたれ、あるいは座して昼食休憩していたが、12時30分の作業開始時間になっても、作業監督者が現場に到着して作業開始を命ずるのは午後1時近くになるのが常態であった。当日も、所定の休憩時間を過ぎており、責任者がくればすぐ作業にかかる態勢にあった。
 当日も、所定の休憩時間を過ぎており、責任者が来ればすぐ作業にかかる態勢にあったところ、曲がり角を疾走してきた乗用車が運転を誤って労働者の休憩していた場所に突入して柵に激突、被災者は逃げ遅れて柵と自動車に挟まれて胸骨骨折の負傷を受けた」
 これに対する回答は「業務上である」とあるだけ。 
 道路清掃工事に従事している日雇い労働者が昼食休憩をとる場所としては、作業していた道路沿いの柵付近であれば、休憩時間中であっても「業務遂行性」は認められるであろう。(実際には、休憩時間を過ぎていたが、いつでも作業に取り掛かれる状態で待機していたとあるから、恣意性は認められない)
 次に、「業務起因性」についても、屋外作業に隣接した場所で昼食休憩中あるいは待機中という状態において、自動車事故に見舞われたのであるから、これも問題なかろう。
 本来ならば、事業主はもっと安全な休憩場所を確保すべきであったといえる。
3.5.5 拾った不発雷管をもてあそんで通達(S27.12.01基災収3907)
 「被災者はK炭鉱で採炭夫として「ボタ選り」作業に従事していたところ、石炭やボタに混じって 泥の付着した不発雷管らしいものが流れてきたので、係員に届けようと思い、それをポケットに入れて作業を継続したが、その後休憩時間中に、さきに拾った不発雷管を取り出し、ワーヤーロープの切れ端の針金で導火線取付け口をつつき、逆にして中から火薬を出したりしているうちに爆発し、手指を負傷した」   
 同通達によれば、「業務外」であると回答がなされた。
 休憩時間中であっても、指定の場所で通常の休憩をとっている場合であれば、事業主の支配下にあり、業務遂行性は認められるであろう。
 しかしながら、本事案では、休憩行動から離れて「遊んでいた」とあるから、業務遂行性に疑問があるだけでなく、「針金で(不発雷管を)つついて遊んでいる(実際には、中から火薬を出したりもしている)うちに爆発」とあるから、業務遂行に伴う危険が具体化したものとは到底考えられず、「業務起因性」は認められない。
3.5.6 昼食中の岩石落下 (S27.10.13基災収3552)
 「被災者は、海岸道路の開設工事において、海岸に接した山を切り崩し海岸側に胴込石積を行う作業に従事していたが、12時に監督のIから昼食休憩の指示があったので、作業場のすぐ近くの崖下の少し平らになっているところで昼食の弁当を食べ始めた。
 そのとき、崖の上部にあった重量約50貫の岩石が落下し、岩石とともに約1メートル下の積石上に下向きに転落死亡したものである。
 作業場には休憩所及び事務所の設備があるが、事務所は約180メートルはなれており、また休憩所は小高くなっているところにあるため、被災者たちは休憩所まで行くのに歩きにくい坂道を登って行かねばならないため、たいてい現場の日陰になっている崖下等を利用して休憩昼食を行っていたものである」
 この件に対する回答は「業務上である」
 休憩中の場合、事業場施設内で休憩を取っている限り事業主の支配下にある。本件の場合は事業場外であるが、「監督の昼食休憩の指示があった」とあるから、業務遂行性は認められる。
 業務起因性については、休憩所があるにも関わらずこれを利用していないところが気になるであろうが、しかし休憩所が遠距離で立地の悪いところにあるという事業場施設の不備ともいえることが原因であり、しかも普段から近くの崖下を利用していることに注意しないという監督上の問題もあり、そこに潜んでいた危険が実際の形になってしまったということで、業務起因性も認められる。
3.6 事業場施設の利用中
 就業時間外であっても、事業場施設を利用しているなら、事業主の指揮・監督の及ぶ余地があるから支配下にあるともいえ、一般的には業務遂行性は認められる。しかし、就業時間外であるから、施設の不備など業務との何らかのかかわりがないと業務起因性が難しい。

3.6.1 給食で出されたフグを食べて(S26.2.16基災発111)
 「乗組員6名の漁船T丸は、作業を終え帰港についたが、船内で夕食をとる用意をし、副食物としてフグ汁を出した。乗組員のうち1名は船酔いで食べなかったが、他の5名の者が食後40分くらいで中毒症状を呈した。海上のため手当てすることができず、そのまま帰港、直ちに医師の手当てを受けたが重症の者1名が死亡した。船中での食事は、労働契約で明示されているものではないが、会社の給食として慣習的に行なわれている。なお、フグの給食は、すべて乗組員の合意で決定したものであり、当地方においては、フグの給食が慣習になっている」
 「回答 業務上である」
⇒ 帰港中の船内は事業場内でありかつ、作業終了直後の船内での食事は会社の給食としての慣習でもあることから、業務との結びつきが認められる。一人だけがフグを食べたわけではないし、フグの給食はその地方では慣習にもなっているので、恣意的な行為であるとして業務外とする特段の理由もない。
3.6.2 飲酒後寝込んでいたところ火事が(S36.6.27基収4205)
 「H市のC演劇鰍ヘ、H歌舞伎座を賃借し、Y興業者のOショー(座員17名)によるショーを行なっていた。OショーはC演劇側からH歌舞伎座内の楽屋、2部屋に宿泊するよう指定されていた。災害発生当日、ショーの終演後O座員はそれぞれの部屋で就寝したが、C演劇従業員も終演後劇場内の後片付けを行い、その後通勤のT等4名は酒を呑み、Tはそのまま寝てしまった。その直後、舞台の下手の袖から出火したが、火のまわり方が早く、C演劇のT及びOショー一座中、踊り子1名を含む5名は、逃げ送れ死亡した」
 「回答 Y興業所属労働者(Oショー)については業務上災害、C演劇所属労働者については業務外とする」
⇒ Y興業所属労働者については、業務に付随して指定された施設を利用中の災害であるから、業務上。C演劇所属労働者Tについては、後片付け作業までは業務に付随しているが、その後の飲酒ならびに泊り込みは私的行為であるので、業務上とは認められない。
3.6.3 作業開始前の焚火による火傷 通達(S23.06.01基発1485)
 「負傷労働者は、当日午前6時45分出勤、作業が午前7時に開始するので、作業開始までの間、休憩室に使用者が冬期、特に設けてある暖房装置(ドラム缶を高さ約30センチに切り、周囲下部に穴をあけ上部から薪を投ずる)をかこんで、他の労働者とともにいつものように暖をとっていた。
 あまり薪が燃えないので、機械掃除用として作業場においてあった石油を他の労働者が持ってきて薪に撒きかけて燃やしたが、モンペに燃え移って火傷したものである」
 この事案に対し、回答は「業務上である」
 本事案は、作業開始前ではあるが、事業場内の施設(休憩室に使用者が冬期、特に設けてある暖房装置)を利用中であるので、業務遂行性は認められる。
 次に、「薪に石油を掛けて燃やした」とある点は、もし石油を掛けた本人が火傷した場合、業務外の可能性もあるが、本事案では同僚がそれを行ったとあり、しかも石油がすぐそばに放置してあったと思われることから、普段から「災害の恐れがあった」と認められる(事業主は事業場にある施設、物品等を適正に設置・管理して災害防止を図る義務があった)
3.6.4 事業場内で休憩中、喫煙しようとしたところガソリンのついてる作業衣に 通達(S30.5.12基発298)
 「被災者は、山から原木をトラックに積んで午後3時過ぎに帰社し、トラックの整備に取りかかった。ガソリンの出が悪いのでトラックの下にもぐり、ガソリンタンクのコックを開いて石油缶にガソリンを出してタンクの掃除をしたが、午後4時すぎ作業が終わったので煙草を吸うため、事務所の前の休憩所でマッチに点火した瞬間、ガソリンのしみこんでいる被服に引火し、火傷を負った」
 本件は業務上と認定された。
 事業場施設内で休憩を取っている限り事業主の支配下にあるので、業務遂行性は認められる。
 喫煙は私的行為ではあるが、引火した作業衣にはガソリンが染込んでいたとあり、その原因が、自分に与えられた業務である自動車整備によるものであることからして、明らかに業務との関わりがあり、業務起因性も認められる。
3.6.5  事業場の火災により住込み労働者が死亡(S41.5.23基収3520)
 「Fクシー会社において、当直運転転手が、石油ストーブを事務所から仮眠室へ運ぶ途中、ストーブの下部が外れたため、こぼれた油に引火し同営業所は全焼し、その際二階に住み込んでいた同所の管理責任者Aと雑役婦の妻Bが焼死した。
 発生現場付近にボール箱及び自動車専用モービルオイルが置いてあったこと並びに居合わせた労働者が消火器の操作方法を知らなかったことが大事にいたらせたものである」
 この件に対する回答は「業務上である」
 「夫妻は会社の業務上の必要により会社の2階に住み込んでいたものであり、事業場施設の状況(火災が起きやすく、それに対する対策も不十分である)に起因して発生した火災であるから、業務上の災害である」
3.7 出張中
 事業主の管理下を離れているようにみえるが、業務命令を達成しないといけないという責任を事業主に対して負っていることから、出張の全行程(移動、食事、宿泊など)について事業主の支配下にあるということができる。ただし、通常の経路を著しく外れたり、業務とはまったく関係ない私的な行為については、業務遂行性が中断したとみなされる。逸脱から復帰すれば、再び業務遂行性が認められるので、この点は通勤災害とは少し異なる。
 
3.7.1 早出のため自転車で移動中(S24.12.15基収3001)
 「被災者Fは、所属課長の命により同課従業員中の無届欠勤者の事情を調査するため、通常より約30分早く自宅を出発、自転車で欠勤者宅に向かう途中、電車にはねられ死亡した。従来の慣習として、各課長は課内の従業員の欠勤状況を同僚従業員に調査させており、特に同工場の人員整理を行なうため、本社名義で調査を指導した。なお、自宅から用務地に行くことは「自宅公用外出」として、所定始業時刻後1時間以内のものは定時出勤扱いされている」
 「回答 業務上である」
⇒業務命令によるものであるからして、業務上災害であり、 通勤災害ではない。
3.7.2 出張のため自宅から駅へ向かう途中(S34.7.15基収2980)
 「F電力概営業所の計画係長Tは、明日午前8時から午後1時までの間に、下請業者の実施するH町の高圧耐塩用CF遮断器取替作業を指導・監督するため部下1名とともに出発するようにとの命令を受けたので、明日は部下と直接用務地に赴くことを打ち合わせた。翌日、午前7時過ぎ、自転車で自宅を出発し、列車に乗車すべく進行中踏切で列車に衝突し死亡した。なお、同係長は通常の通勤の場合にも、その列車を使用しているものである」
 「回答 業務上である」
⇒自宅を出たとき、業務としての出張が始まっている。よって、通勤と同じ経路をたどっていても、通勤災害ではなく業務上災害である。
3.7.3 待ち時間中に海水浴を(S52.3.31 S50労158)
 「A運輸鰍フ運転手Bは、M市まで厨房用具を運搬し、作業終了後、帰途につくまでの間、手待ち時間があるため、近くの海水浴場において海水浴をしたところ、溺死した」
 「裁決 出張中ではあるが、手待ち時間に自らの意思で海水浴をしたもので、業務を逸脱した私的行為中の災害である。よって業務上死亡ではない」
3.7.4 出張先で飲酒のために外出」(S54.7.31S53労159)
 「K鰍フ販売員Mは、同僚のNとともにセールス業務のため出張し、宿泊先のA旅館に午後8時ごろ到着した。しかし、A旅館には食事の用意がなかったため、同僚とともに外出して近くの食堂で飲酒し、その後、Mは同僚と別れた後行方不明となり、20日ほど経過した後に、海上で水死体となって発見された」
 「裁決 旅館を出て近くの食堂にいき飲酒したことを 旅館に食事の支度がないための行為(業務に付随する行為)として有利に解したとしても、それより後の行動は、同僚も得意先も誰も同道しておらず、事由時間中の私的行為と解される。よって、業務上の死亡ではない
3.7.5 出張先で浮気?(S61.4.18、S59労126)
 「I鰍フ労働者Mは、出張命令を受け、会社の支持に基づく旅館A荘に宿泊していたが、被災当日の勤務終了後、同僚とともに飲食した。その後、Mは女性を同伴してホテルHに投宿し、その夜に発生した同ホテルの火災により焼死した」
 「裁決 会社から指定された旅館がありそこに泊まることになっていたにもかかわらず、街で知り合った女性と、別の場所に宿泊した際に被災したものであり、出張から逸脱した恣意的行為であって、業務上とは認められない」
3.7' 通勤途上
 通勤途上は事業主の支配下にはない。しかし、事業主が提供する専用の交通機関を利用した場合は、一般的には業務遂行性が認められ、業務起因性も認められる。また、通勤の途上で業務を行なった場合も同様である。これらは、通勤災害ではなく、業務上災害ということになる。
 
3.7‛.1 休日呼び出しで現場に行く途中(S24.1.19基収3375)
 「休日に、鉄道の保線工夫が、自己の担当する鉄道沿線に突発事故があったため、自宅から使用者の呼び出しを受けて現場にかけつける途上は、業務遂行中と解すべきか」
 「回答 業務遂行中である」
⇒事業主の休日労働業務命令に基づくものである。また、突発業務であるから通勤途上とはいえない。
3.7‛.2 夕食後、会社の渡し舟で宿舎に向かう途中(S26.10.19基収3782)
 「土木建築工事の現場労働者が、毎日、第2宿舎から渡し舟で川をわたって第1宿舎へ行って朝食をし、それから現場へいき、昼は第1宿舎で食べ、夕食も第1宿舎で食べてから渡船で川を渡って第2宿舎へ帰って泊まるという方法をとっていた。第1、第2宿舎とも事業主が設置したもので、渡船は民家の船を、そのときにより民家の主人がこいだり、労働者がこいだりしていた。
 当日、作業も終わり、T組の23名が一緒に第2宿舎に帰るため、そのうちの6名が渡舟に乗船して川を横断しているとき、川の中で漕ぎさおを水にとられて転覆し、労働者2名が溺死した。労働者の夕食後の行動は、原則としては各人の自由であるが、一般村民に対する会社としての秩序維持と労働力の保全との必要から、事業主は、宿舎へ一緒に帰るよう指示していた」
 「回答 業務上である」
⇒ 事業主の労務管理上、特定の宿舎の提供と渡舟の便宜を与えたものであり、業務上である。
3.7‛.3 通勤バスに乗り遅れたため自分のバイクで出勤中(最高裁S54.12.7S54(行ツ)24) 
 「Uは発電所ダムの保守管理業務に従事する土木係員である。発電所は山間僻地にあるため社宅から発電所まで社有車とバスを利用して通勤していた。被災日は、労働組合の時間外・休日労働拒否闘争が予定されていたため、代わりの当直として出勤することになっていたが、通勤バスに乗り遅れたため、自己所有の原動機付自転車で発電所に向かう途中、道路わきに転落し、死亡した」
 「判決 Uが原付自転車に乗って通勤したことは他に合理的な交通手段がないためのやむをえない代替方法である。本件災害は出勤途中の災害であるが、Uが使用者の支配管理下におかれているとみられる特別の事情のもとに生じたのであるから、業務上災害である」
3.8 行事中
 一般的に、単なる行事(宴会、運動競技会など)については、業務遂行性も業務起因性も認められない。しかし、その行事が、事業運営上どうしても必要なもので、事業主の命令で参加した場合は業務とみなされることがある。また、その行事の世話役や幹事が職務の一部である者については、業務遂行性が、またその職務に基づく行動に起因するときは、業務起因性も認められる。
 
3.8.1 会社の慰安旅行中に(S22.12.19基発516)
 「H製粉鰍ナは、毎年恒例の従業員慰安旅行を1泊の予定で行い、会社常務取締役が引率していたが、たまたまN港においてK丸よりはしけに乗り換える際、定員を超えていたためはしけが沈没し、従業員が溺死した」
 「回答 業務外である」
⇒ たとえば、慰安旅行の幹事役を職務とする労働者が被災するなどの場合は業務遂行性が認められる可能性もあるが、そうでない通常の労働者の場合、特別の事情がない限り業務遂行性はない。
3.8.2 町のソフトボール大会に会社チームの一員として参加中(S55.11.21、S54労64)
 「外の労働者Wは、会社のチームの一員としてK町等主催のソフトボール大会に出場し、試合中に負傷した。会社は当ソフトボール大会の趣旨に賛同し、積極的に参加を勧奨したところ、大半の従業員がこの大会に参加したものである」
 「裁決 会社は参加者に対し、一律1,000円を支給し、弁当や飲み物を配るなどの援助を行なった。しかし、この参加勧奨は強制的なものではなく、また、大会の主旨あるいは大多数の従業員の参加等からみても、これらの会社の援助は従業員に対する福利厚生による援助と解されるところから、業務上の事由による負傷とは認められない」
3.8.3 元請会社チームの一員に請われて野球大会に出場中(S51.12.27 S49労176)
 「I鰍フ労働者Mは、野球の技術が優秀であることから、元請会社であるK社の野球部に勧誘され入部していたが、D市において野球大会が開催されることに伴い、K者野球部も参加することになった。そこで、K社野球部監督であるAは、K社管理課長を通じ、Mの同大会への参加をI社社長に要請したところ、受諾され、MはK社野球部の一員として野球大会に出場した。ところが、試合中スライディングで足首を負傷した」
 「裁決 下請事業場であるI社が元請であるK社の要請により、MをI社の操業日にもかかわらず野球大会に出場せしめ、出勤扱いとしたことは、元請・下請との友好・信頼関係を確保する上において拒否することが困難な事情にあったと思われる。また、会社の業務運営上やむをえないものと思われることから、Mに対する野球大会への出場命令は、業務上の特命行為である」
3.8.4  落成祝賀会から帰宅途中(S51.11.30S50労124)
 「O建設鰍フ工事課長Kは、同会社の下請業者の社長宅の落成祝賀会に招かれ、祝賀会終了後、会社から貸与されている自動車で帰宅する途中において、対向車と衝突し死亡した。この祝賀会には被災者が代表となり、4名が参加したものであった」
 「裁決 祝賀会の出席に際しては、祝金として2万円を会社の交際費から支出していること、当該下請業者は会社にとって重要な取引先で、会社の経営方針においては、下請業者の育成が重視されていること、さらにKに対して格別の業務命令は出されていないが、営業所長から出席を要望されていることなどを考慮すると、業務として祝賀会に出席したものと認められる」
3.8.5 企業に所属して運動競技会出場や運動競技の練習を行う場合の業務上外の認定について(H12.05.18基発366)
 「判断要件 他の災害と同様に、運動競技が労働者の業務行為又はそれに伴う行為として行われ、かつ、労働者の被った災害が運動競技に起因するものである場合に業務上と認められるものであり、運動競技に伴い発生した災害であっても、それが恣意的な行為や業務を逸脱した行為等に起因する場合には、業務上とは認められない。
 ここでいう「業務行為又はそれに伴う行為」とは、運動競技会において競技を行う等それ自体が労働契約の内容をなす業務行為はもとより、業務行為に付^随して行われる準備行為及びその他出張に通常伴う行為等労働契約の本旨に則ったと認められる行為を含むものであること。
 またここでいう「業務行為」とは以下の要件を満たすものであること。
(1)運動競技出場に伴う災害
イ:対外的な運動競技会の場合 出場が出張又は出勤として取り扱われるものであり、必要な旅行費用等の負担が事業主により行われ(競技団体等が全部又は一部を負担する場合を含む)、労働者が負担するものでないこと。
ロ:事業場内の運動競技会の場合 同一事業場又は同一企業に所属する労働者全員の出場を意図して行われるものであって、当日は勤務を要する日とされ、出場しない場合には欠勤したものと取り扱われること。
(2)運動競技の練習に伴う災害
 上記(1)のイの要件に加え、事業主が予め定めた練習計画に従って行われるものであること。
3.9 療養中
3.9.1 業務災害による精神異常者の療養中における自殺(S23.05.11基収1391)
 「業務上の災害により、負傷又は疾病を蒙り療養中精神障害によって自殺をした場合は、業務上の死亡として取り扱ってよいか」というお伺いに対して、
 回答は、「自殺が 業務上の負傷又は疾病より発した精神異常のため、かつ、心神喪失の状態において行われ、しかもその状態が該負傷又疾病に原因しているときのみを業務上の死亡として取り扱われたい」とある。
3.9.2 業務上左脛骨横骨折をした者が通院転倒して再骨折した場合(S34.05.11基収2213)
 「被災者は、ミキサープラントでコンクリート練作業に従事中、ウインチマンが誤ってウインチを逆に巻いたため、枕木とトロ台との間に左下腿をはさまれて左脛骨横骨折をした。
 直ちに入院して加療を受け、5カ月後に退院したが主治医の指示により通院加療を続けていたところ、通院の帰途道路上ですべって転び、左脛骨を再骨折した。病院までは片道2.5キロメートルあり、しかも積雪60センチメートルに及んでいたが、当人はギプスなしで歩行していたものである。
 医師の意見では再骨折の骨折線は当初のそれと同一であること、当初の骨折はまだ治ゆしておらず、ゆ合不完全の状態にあったこと、このような状態においてギプスもつけず長距離を歩行すれば一寸した拍子で再骨折しかねないことを認めている」
 これに対する回答は、「業務上である」
3.9.3  業務上右大腿骨を骨折した者が入浴に行く途中で転倒して再骨折した場合(S27.06.05基災収1241)
 「被災者は、抗内で採炭作業中に炭壁が崩れ落ち、右大腿骨を骨折した。その後いったん治ゆしたのであるが、転位ゆ合があって変形治ゆしたものであるため、K病院に転医して入院し手術を受けた。
 退院後、再び転医して通院加療を続けていたが、会社施設の浴場へ行く途中で実弟Bの社宅に立ち寄り雑談したのち、浴場へ行くため玄関から土間へ降りようとして右足を下駄に乗せたところ、下駄がひっくりかえったため転倒し再び右大腿骨を骨折した。
 再骨折部は前回の骨折部のやや上部に当るが、すでに手術後は右下肢の短縮と右膝関節の硬直を残していたため、通常の者より転倒しやすく、また骨が幾分細くなっているため骨折しやすい状態にあった」
 これに対する回答は、「業務外である」
3.9.4 業務上右腓骨を骨折した者が用便後転倒して再骨折した場合(S34.10.15基収5040)
 「被災労働者は、土木工事現場で作業中、岩が倒れてきて右腓骨を不完全骨折し、病院で湿布処置を受けたが、副木固定は必要ないとして、していなかった。
 その後、被災労働者は、自宅において用便のため松葉杖を使用して土間を隔てた便所へ行き、用便後便所内から石台の上に降り、さらにコンクリート土間へ降りる際、松葉杖が滑ったため転倒し、コンクリート舗装の角で前回の受傷と同一部の右下腿を強打したため、当初の骨折を完全骨折したものである」
 これに対する回答は、「当初の不完全骨折がなければ転倒打撲を受けて再骨折することもなかったはずであり、かつ、療養中に生じうべき転倒事故によって当初の不完全骨折部を打撲したため再骨折したものであって、本件再骨折は当初の負傷と相当因果関係があるものと認められるもので、業務上である」
3.9.5 労災病院に療養中の患者が機能回復訓練中第三者の行為により被った災害(S42.01,24基収7808
 「被災者Nは業務上の災害を被り、T労災病院に入院療養中の脊髄損傷患者であるが同病院の機能回復訓練計画に基づき脊髄損傷患者10名と共に手動式自転車に乗車して野外集団回復訓練に参加し、道路右側を一列縦隊の隊伍を組み、先頭に訓練士後尾に看護婦が付添い時速約10粁にて進行し、事故発生場所に差しかかったところ、普通貨物自動車を運転していた第三者(A)が、訓練隊伍の先頭部左側付近を第三者(B)が低速度で運転していた軽四輪貨物自動車を追い越そうとしてこれに衝突し、その反動により(B)は隊列に突っこみ被災者及び他の1名の乗車していた手動式自転車をひっかけ転倒せしめたが、被災者のみ負傷を被ったものである」
 これに対する回答は、「本件は、入院療養中の労働者が、医師の指示にもとづき療養の一環としての機能回復訓練中に発生したもので、当初の業務上の負傷との間に相当因果関係が認められるので、業務上の災害として取り扱うのが相当である」とした。
3.9.6 大腿骨骨折ゆ合後の療養中モーターバイクに乗車し同一部位を再骨折した場合(S32.12.25基収6636
 「O炭鉱K工業所の坑内掘進夫であるSは、坑内で発破後の積込み作業中落盤により右大腿骨骨折等の負傷を受け入院治療を続けて骨折部のゆ合はほぼ完全となったが、なおマッサージを行なっていた。
 たまたま見舞に来た友人のモーターバイクに乗って運転中、車とともに転倒、右大腿部を再度骨折した。なお再骨折した部位は、当初の骨折部位と骨折線に多少のズレはあるが同一部位である」
 これに対する回答は、「事業主の支配下にない労働者の私的行為に基づくものであるから、業務外である」
3.10 その他の災害
 災害の原因はその他にも数多くある。中でもよくあるのは自然災害であるが、これは誰でもが被災する可能性があるので、事業場施設の不備とか作業環境上被災しやすい状況にあったとか、業務遂が必要になってくる。
3.10.その1 天災地変
3.10.1 作業をやめて避難するため移動中に落雷(S36.3.13基収1844)
 「山頂100メートル下方において植生盤の植付作業の指揮監督をしていたH鰍フ現場監督員Kは、夕立のような異様な天候になったので、作業を中止して、山頂の休憩小屋に退避しようとしたが、同小屋より約15メートル近くまできたとき、落雷の直撃を受け電撃死した 。
 当山岳地区は、A測候所の調査によれば、地理的条件より見ても山岳地帯であって天候の変化もはげしく、雷の発生頻度が高いこと、さらにA銅山の煙害により草木としては、イタドリなどしか生茂しておらず、ほとんど禿山ばかりであって、今回の事故も、このため退避するに適当な場所がなかったことから直撃を受けたものとみられる」
 「回答 業務上である」
3.10.2  道路工事中に、地震で民家のブロック塀が倒壊して下敷きに(S49.10.25 基収2950)
 「T子さんは、同僚3名とともに道路工事に従事中、発生した地震により、工事現場脇の民家のブロック塀が倒壊したため下敷きとなって死亡した。なお、この塀は石積みとコンクリート土台間の鉄筋による補強がなかったため、他の塀が倒壊しなかったのに、この塀だけが倒壊した」
 「回答 屋外労働者にとっては、自らの作業現場を取りまく四囲の状況が事業施設の状況といえるので、本件の場合は、塀に補強の鉄筋が入っていなかったという施設の状況が、地震とあいまって災害を発生させたといえる。よって業務上である」
⇒ 地震はそれ自体業務とは関係なくおきるものであるから、業務起因性は認められにくい。しかし、業務の性質とか事業場施設の状況などから、災害が起きやすい事情がある場合は、業務起因性が認められる場合もある。
3.10.追1 火山爆発による死亡 (S33.8.4基収4633)
 「K産業鰍ェ設置しているA山上ロープウエイの補強工事を、K産業鰹]業員と部品製作を請負ったY索道概製作所の従業員と共同で行っていたところ、突如A山第1火口が爆発し、噴石落下によりロープウエイ作業中の労働者10名が死亡した。
 なお、A山は活火山であって、大正12年ごろから約150回の爆発があり、昭和8年、同28年には、溶岩の流出、飛来により付近の民家、旅行者に被災を及ぼしたことがあり、今回もY駅周辺のA町料金徴収所、H茶屋等が被害を受けている」
 これに対する回答は、「業務上である」
3.10.追2 台風による宿舎倒壊(S29.11.24基収5564)
 「T建設工業所S出張所では、ケーブルクレーンテールタワー建設中のI重工業鰍フ下請けとしてクレーン製作に当たっていたが、昭和29年台風14号接近のため風雨甚だしく、リベット作業ができないため作業を中断した。暴風雨のおさまるのを待ってコンプレッサーの手当とノックピンを打っておかないと倒壊する恐れがあるので、監督者の命令により宿舎に待機していたところ、風で宿舎が倒壊して労働者16名が死傷した。
 宿舎はN川左岸の標高約300メートルの山腹谷あいの狭地に雛段式に3段に建築され、地理的、地勢等の環境から、立地条件の悪い場所である。
 当日の気象条件は、風速・気圧とも最悪の状態であった」
 これに対する回答は「業務上である」
3.10その2 その他の災害
3.10.3 業務終了後、ロッカー室でけんかになり(S57.5.31S56労83)
 「BはF自動車工場に季節工として勤務していた。ある日、同僚であるCと作業時間中に口論になり、一旦はおさまったが、業務終了後、会社のロッカー室において再び激しい口論が始まり、左胸部を蹴られ負傷した」
 「裁決 BがCから受けた障害は、作業時間中の口論がきっかけとなっているものの、両者は同僚であって指揮命令の関係は存在せず、従って業務を遂行するために必要な行為から発生したものではない。また、この暴行の潜在的危険は就業場所であると否とにかかわらず存在するものと認められることから、業務上の災害ではない」
⇒ 要するに、単に個人的な感情やうらみに基づくものであるということ。
3.10.4 現場監督者が手抜き工事を指摘したところ、怒りだして・・・・(S23.9.28基災167)
 「K炭鉱鉱業所の建設部長Bは、鉱員住宅の建設作業の指揮監督の責任者で、建築現場の巡回中に、大工Aが作業に手抜きをしていることを発見したので、これを指摘し、Aにやり直しを要求した。この工事の手抜きについては、すでに以前にも一度注意を促したことがあり、今回が二度目であったので、厳重に戒告した。しかるに、Aはその非を改めようとしないで反抗的態度で抗弁したので口論になり、Aは不意に手近の建築用の角材を手にしてBに打ってかかった。Bはこれに対し、何ら抵抗しないでその場を逃げたが、あまりひどく打たれたので遂に昏倒した」
 「回答 業務上である」
⇒手抜き工事に注意を促すのは、作業の現場監督責任者たるBの業務である。私的なうらみをかった結果おきた災害ではない。
3.10.5 てんかんの発作のためか?海に転落(S38.5.15基収1056)
 「漁夫のGは、底引き網漁船に乗り込み、1日の仕事を終えて帰港し、接岸準備のため船尾で待機中、突然海中に転落し、死亡した。当日の海は静かで船の動揺はなく、またGは水泳は上手であったのに浮き上がりもしなかった。Gには、てんかんの持病があり、事故当日の早朝も発作を起こしたという事実もあった」
 「回答 本事故は、Gが誤って海中に転落したものか、てんかんによるものか定かでないが、いずれにしても、海上勤務者の場合、海中に転落するという危険は当然考えられ、この危険が現実化したものとして、業務起因性が認められる。よって、業務上死亡である」
3.10.6 なぜだかわからないが、高い煙突から落下して(S57.8.12 S56労26)
 「M社に電気動力職として勤務していたSは、勤務時間中である午前11時30分頃、外部の者からボイラー用の煙突から墜落したのを目撃され、同社の保安係員が連絡を受けて現場に直行したところ、既に死亡していた」
 「裁決 被災者は煙突上の地上20メートル以上の場所から墜落したと認められるが、被災者の通常の業務内容、当日の業務行動及び業務予定などから、被災者が業務の関連で煙突に登らなければならないようなものがあり得たとは認めがたく、また、そのような災害に遭遇すべき特別の事情も認められない。よって、業務上の事由による死亡ではない」
3.10.7 休憩時間中キャッチボールをしていた時・・・(S24.05.31基収1410)
 「H酪農協同(株)皮革工場従業員Uは、昼食時の休憩時間に構内で同僚労働者とキャッチボールをしているとき、突然左上膊外側面に疼痛を感じたので、直ちに被服を脱いでしらべたところ、左上膊面に穴があき出血して銃丸の盲貫しているのを知った」
 これに対する回答は、「業務外の災害である」
 昼の休憩時間中であっても、事業場内施設で行動していたのだから業務遂行性は認められる。しかしながら、銃の流れ弾に当たったのは、その事業場における環境条件や施設などとの関連性がないので、業務起因性は認めらない。
 
4.解雇後の再発(S31.1.9基災発13)
  「業務上の負傷又は疾病が解雇後において再発した場合の取扱いについては、
@再発は、原因である業務上の負傷又は疾病の連続であって、独立した別個の負傷又は疾病ではないから、引続き災害補償は行なわれるべきである。
A解雇後といえども再発と認定される限り、災害補償は行なわれるべきである。
B解雇後における再発の場合の休業補償費はその原因たる業務上の負傷又は疾病を事由として労基法12条により算定した平均賃金をもって算定する」