基礎講座 労働者災害補償保険法

S05

給付基礎日額

 
KeyWords  給付基礎日額、最低保障額(自動変更対象額)、自動変更対象額の変更、休業補償給付

 
 
1.給付基礎日額(8条)
 「給付基礎日額は、労働基準法12条の平均賃金に相当する額とする。この場合において、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、
 @業務災害及び通勤災害に規定する負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日、又は
 A診断によって業務災害及び通勤災害に規定する疾病の発生が確定した日とする」
 
 いわゆる「休業給付基礎日額」、「年金給付基礎日額」、「一時金給付基礎日額」いずれもこの給付基礎日額をベースに計算されたものである。
平均賃金(労基法12条)
 「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」
 この給付基礎日額は基本的には、労基法で定める「平均賃金」と同じと考えてよい。よって、賃金の定義最低保障の規定も適用される。

 
1' 政府が算定する給付基礎日額(8条2項)
 「労働基準法12条の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは、前項の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額を給付基礎日額とする」

 平均賃金が適当でない
⇒ 「平均賃金がこれ自体として不適当であるということでなく、もっぱら保険給付算定の基礎という見地からのみ不適当であるということ」
 政府による算定方法(施行規則9条1項)
 「8条の2項の規定による給付基礎日額の算定は、所轄労働基準監督署長が、次の各号に定めるところによって行う」
1   業務外の事由による負傷又は疾病(私傷病)の療養のために休業した労働者について、
 労基法12条による平均賃金計算額が、業務上休業とみなして算定した平均賃金額((3か月間の賃金総額−休業期間中に受けた賃金額)/(3か月間の総日数−休業した日数))に満たない場合には、 後者の額
⇒ 私傷病を業務上の傷病と見なして算定するということ
2  じん肺にかかった労働者について、労基法12条による平均賃金計算額が、じん肺にかかったため粉じん作業以外の作業に常時従事することとなった日を算定事由発生日とみなして算定した平均賃金に相当する額に満たない場合には、 後者の額
⇒ 通常は、粉じん作業時代の賃金の方が高いため
3  前2号に定めるほか、平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合は、労働局長が定める基準に従って算定する額
4  平均賃金に相当する額又は前3号に定めるところによって算定された額(平均賃金相当額)が自動変更対象額(3,970円)に満たない場合には、自動変更対象額(最低保障額)
 休業給付基礎日額の算定において、10%足きりの物価スライド制が適用されるときは、物価スライドが適用された後の額について、最低保障される。
 よって、スライド適用後額が最低保障額未満の場合は、スライド適用前の額=最低保障額/スライド率とみなす。
自動変更対象額の変更(施行規則9条のつづき)
 「2項 厚生労働大臣は、年度平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における労働者1人当たりの毎月きまって支給する給与の額(平均定期給与額)の4月分から翌年3月分までの各月分の合計額を12で除して得た額)が、平成6年4月1日から始まる年度(自動変更対象額が変更されたときは、直近の当該変更がされた年度の前年度)の平均給与額を超え、又は下るに至った場合においては、その上昇し、又は低下した比率に応じて、その翌年度の8月1日以後の自動変更対象額を変更しなければならない」  
端数処理
 「同3項 自動変更対象額に5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする」
給付基礎日額そのものの端数処理は「1円未満切り上げ」である。(唯一の切り上げ)
2.休業給付基礎日額(8条の2)
 「休業補償給付又は休業給付(休業補償給付等)の額の算定の基礎として用いる給付基礎日額(休業給付基礎日額)については、次に定めるところによる」
1  次号に規定する以外の休業補償給付等については、給付基礎日額として算定した額を休業給付基礎日額とする。(すなわち、原則として休業給付基礎日額は給付基礎日額に等しい)
2  四半期ごとの平均給与額が、算定事由発生日の属する四半期(スライド制により改定された場合にあっては、当該改定日額を用いるべき最初の四半期の前々四半期)の平均給与額の100分の110を超え又は100分の90を下るに至った場合において、その上昇し、又は低下するに至った四半期の翌々四半期に属する最初の日以後は、その上昇し、又は低下した比率を基準として厚生労働大臣が定める率を乗じて得た額を休業給付基礎日額とする。
⇒ 10%足切りスライド制の適用
2' 1年6か月後の休業給付基礎日額(8条の2の2項)
 「休業補償給付を支給すべき事由が生じた日が、休業補償給付等に係る療養を開始した日から起算して1年6箇月を経過した日以後の日である場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を休業給付基礎日額とする」
1  休業給付基礎日額として算定した額が、支給日の属する四半期の初日(基準日)における年齢の、年齢階層最低限度額に満たない場合  当該年齢階層の最低限度額
2  休業給付基礎日額として算定した額が、基準日における年齢の、年齢階層最高限度額を超える場合  当該年齢階層の最高限度額
3.年金給付基礎日額(8条の3)
 「年金たる保険給付の額の算定の基礎として用いる給付基礎日額(年金給付基礎日額)については、次に定めるところによる」
1  算定事由発生日の属する年度(4月1日から翌年3月31日まで)の翌々年度の7月以前の分として支給する年金給付については、給付基礎日額として算定した額を年金給付基礎日額とする。(すなわち、原則として年金給付基礎日額は給付基礎日額に等しい)
2  算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以後の分として支給する年金給付については、給付基礎日額として算定した額に、年金支給月の属する年度の前年度(4月から7月までの場合は、前々年度)の平均給与額を算定事由発生日の属する年度の平均給与額で除して得た率を基準として厚生労働大臣が定める率を乗じて得た額を年金給付基礎日額とする。(完全自動賃金スライド制の適用)
3’年金給付基礎日額への年齢別最低限度額・最高限度額の適用(8条の3の2項)
 「年金たる保険給付を支給すべき月が、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を 年金給付基礎日額とする」 該当するときは、当該各号に定める額を休業給付基礎日額とする」
1  年金給付基礎日額として算定した額が、支給月の属する年度の8月1日(当該月が4月から7月までの場合は前年度の8月1日)(基準日)における年齢(遺族(補償)年金の 場合は、被災労働者が死亡しなかったものとしたときの年齢)の年齢階層最低限度額に満たない場合  当該年齢階層の最低限度額
2  年金給付基礎日額として算定した額が、基準日における年齢の、年齢階層最高限度額を超える場合  当該年齢階層の最高限度額
3' 年齢階層別最低限度額及び最高限度額の算定方法等(施行規則9条の4)
 「1項と3項 厚生労働大臣が定める額(最高限度額及び最低限度額)は、厚生労働省において作成する賃金構造基本統計の常用労働者について、年齢階層ごとに求めた現金給与額とその年度における被災労働者の数に基づき算定した額とする」
 「2項 前項の規定により算定して得た額が、自動変更対象額に満たない場合は、自動変更対象額を当該年齢階層に係る最低限度額とする」
 「7項 厚生労働大臣は、毎年、8月1日から翌年の7月31日までの間に支給すべき休業(補償)給付若しくは、8月から翌年の7月分の年金給付のための給付基礎日額に係る最低限度額及び最高限度額を、当該8月の属する年の前年の賃金構造基本統計の調査の結果に基づき算定し、当該8月の属する年の7月31日までに告示するものとする」