基礎講座 労働基準法   Tome塾Homeへ

R07

賃金をめぐる問題(平常時)

 
KeyWords  賃金平均賃金賃金の支払5原則出来高払制の保障給
 生産手段を持たない労働者は労働力を提供し、その対償である賃金を得て生活するしかありません。
  賃金とは何であるかということについては誰もがわかっていると思いますが、労働者にとっては極めて重要な事項ですから、必然的に、細かい部分まで規定することが必要になってきます。
 ここでは、労働者保護の観点から賃金に関する取決めを学びます。
 
1.賃金(11条)
 「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」

 
趣旨 
 労基法で賃金を定義しているのは、
@最低賃金の保障を明確にすること、
A賃金の支払5原則の適用対象を明確にすること
B災害補償や解雇予告手当の支払い等において必要な平均賃金の計算ベースを明確にすること、
 などによって労働者を保護するためである。
 すなわち、賃金の範囲を明確にすることによって初めて、賃金の額が最低限度以上であるか否かがはっきりするし、賃金であるからこそ、使用者に支払義務が発生し、労働者も請求できる根拠でできることになるのです。
 逆にいえば、賃金でないものは、使用者が支払う支払わないも自由であるし、不払いがあっても労働者が請求する法的な根拠はないということになります。

1.1 賃金の意義(S22.9.13発基17)
1  労働者に支給される又は利益にして、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなすこと。
@所定貨幣賃金の代わりに支給するもの、即ち、その支給により貨幣賃金の減額を伴うもの
A労働契約において、予め貨幣賃金の外にその支給が約束されているもの
2  1に掲げるものであっても、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなさないこと。
@代金を徴収するもの。ただし、代金が甚だしく低額なものはこの限りではない。
A労働者の厚生福利施設とみなされるもの
3  労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給要件が明確である場合の退職手当は賃金である。また、24条2項の「臨時の賃金等」に当たる。
4  結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさない。
 ただし、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給要件が明確なものはこの限りでないこと。
1.2 賃金であるか否かまぎらわしい例
(1) 名称等とは関係ない。実質で判断する。
 「原則的には、労働の対償として支払われているものが賃金」
 「労働の対償」 
⇒ 労働者が使用従属の関係において(あるいは指揮命令を受けて)労働したときのその対価
 たとえば、旅館・ホテル等の従業員が客から貰うチップは心づけであるからして賃金ではない。しかし、旅館等が客から一定額の支払いをうけたものを従業員に分配する場合は賃金である。
(2) 任意的・恩恵的なもの
 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等恩恵的な給付は賃金ではない。しかし、労働協約・就業規則等によって、支給要件 に該当する者には誰でもがその定めによって支給される場合は賃金である。
(3) 衣食住について
(3-1)食事(S30.10.10基発644)
 「食事の供与(労働者が使用者の定める施設に住み込み1日に2食以上支給を受けるような特殊の場合のものを除く) は、その支給のための代金を徴収すると否とを問わず、
 @食事の供与のために賃金の減額を伴わないこと、
 A食事の供与が就業規則、労働協約等に定められ、明確な労働条件の内容となっている場合でないこと、
 B食事の供与による利益の客観的評価額が、社会通念上、僅少なものと認められるものであること・
 の3つの条件を満たす限り、これを賃金として取り扱わず、福利厚生として取り扱うこと」
 なお、「賃金の減額を伴わないこと」については、こちらも参照のこと。
(3-2)制服
 仕事着として常識的な程度のものであれば、福利厚生とみて賃金とはしない。
(3-3)住宅
 補助については、住宅貸与者以外には給付がない場合は、福利厚生とみて賃金とはしない。(こちらを参照のこと)
(4) 労働者より代金を徴収するもの(S22.12.9基発452)
 「労働者より代金を徴収するものは、原則として賃金ではないが、その徴収金額が実際費用の3分の1以下であるときは、徴収金額と実際費用の3分の1との差額部分については、これを賃金とみなすこと」
(5) 住宅手当の例
 住宅貸与者以外には給付がない場合  福利厚生とみて、賃金とはしない。
 住宅貸与者以外にも均衡給付がある場合(たとえば月額6万円の給付)
・貸与者以外の者については、6万円は賃金
・貸与者については表の通り。
 貸与者からは利用料を徴収しない   6万円が賃金
 1万円を徴収  2万円(3分の1)からの不足額1万円が賃金
 2万円(3分の1)以上を徴収  賃金額はゼロ

(6) 実費弁済的なもの
 出張費(含む宿泊費)、接待交際費など労働者が立て替え払いしたとしても、本来的には使用者が支払うべきものであり、賃金ではない。
(7) 通勤旅費について
 通勤旅費については、労働基準法では、使用者には支払義務がない。
 しかし、就業規則等の定めにより通貨で支払われている場合は賃金である。また、労働協約の定めにより、通貨のかわりに通勤定期券が支給された場合であっても、賃金である。
 (一定の通勤費を賃金とみなすことは、使用者の支払義務を明確にするためである。通勤旅費を所得税法上課税対象としないこととは別の趣旨である)
(8) 退職手当
 退職手当(退職金)については、労働基準法では、使用者には支払義務がない。
 しかし、労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給要件が明確である場合は賃金である。
(9) 休業手当と休業補償
 休業手当(使用者の責に帰すべき事由により休業する期間中に支払う、平均賃金の100分の60以上の手当)は賃金である 」(S25.4.6基収207、S63.3.14基発150)
 ⇒実際には労働していないが、労働の機会が使用者の責任によって一時的に失 われただけであるから。
 「休業補償(業務上の負傷、疾病等による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合に、療養中に支払う平均賃金の100分の60の休業補償)は、賃金ではない。
 100分の60を超えて支給された場合であっても、その全額は休業補償であって賃金ではない」(S25.12.27基収3432)
2.平均賃金(12条)
 「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」
 
 趣旨
 平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇中の賃金や、休業補償、傷害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償、減給制裁の制限などの算定基礎となるもので、これらに該当したときの労働者の生活を保障するためにある。
 要は、通常の状態における平均的な賃金を決めればよいのであるが、実際にはさまざまなことが起きるので、計算額が高すぎたり、低すぎたりしないようにするための算定ルールが複雑になっており、実務的にも結構難しい。
2.1 算定すべき事由の発生した日以前3か月間
 発生日以前?
 
「算定すべき事由の発生した日以前3か月間」とあるが、発生日は賃金が支給されないか、支給されても低額のことが多いので、実際には発生日前(発生日は含まず)3か月(暦日)とする。 
 じん肺患者の場合
 「じん肺にかかったことによる災害補償等に係る平均賃金は、疾病の確定した日を発生日として算定した金額が、じん肺等にかかったため作業転換した日を算定事由発生日として算定した金額に満たない場合は、後者とする」(S39.11.25基発1305)
⇒ つまり、作業転換により給料がダウンした場合は、作業転換前(じん肺作業に従事していた時)の賃金をベースに算定する。
 ベースアップ分が遡って支払われた場合
 「平均賃金は、事由発生時において労働者が現実に受けとった、又は受けることが確定した賃金について算定する。よって、算定事由発生後にベースアップ分が支給されたとしても、遡って算定する必要はない」(S23.8.2基収2934) 
 ただし、たとえば8月1日に4月から7月までの昇給分が支給され、8月2日に算定事由が発生した場合は、昇給分は各月に配分して算定する必要がある。
 賃金締切日
 「2項 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する」
⇒賃金締切日が月末 で、算定事由発生日(たとえば、解雇日)が月末である場合は、直前の締切日は前月の月末となる 
 「直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの締切日である」(S26.12.27基収5926)  
⇒基本給等は20日締めで当月25日払い、時間外手当等は末日締めで翌月10日払いにおいて、算定事由発生日が23日である場合、平均賃金は以下による計算結果の合計値とする。
・基本給等はその月20日から起算(当月締め分はまだ支払われていないが額は確定しているので、当月締め分も含めて計算)
・時間外手当等は、先月末日から起算(当月分はまだ確定していないので、先月末日締め分から計算)。
2.2 期間、賃金総額からの控除
 「3項 前2項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する」
1  業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
2  産前産後の女性が65条の規定によって休業した期間
3  使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
4  育児・介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
⇒ 子の看護休暇は対象外である。
5  試みの使用期間

 「3項 1号から4号までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月以上にわたる場合は、これらの期間の最初の日を持って、算定すべき事由発生日とする(つまり、休業前の賃金をベースとする) 
 なお、この期間中に賃金水準の変動が あった場合には、当該事業場において同一業務に従事した労働者の平均賃金額の変動により、これを推算すること」(S22.9.13発基17)
2.3 賃金総額
 「4項 賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない」
 「5項 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める」
 通貨以外で支払われた賃金(施行規則2条)
 「賃金の総額に算入すべきものは、法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする」
 「同2項 通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない」
 「3項 労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合、又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は通貨以外のものの評価額を定めることができる」
2.4 最低保障(1項但し書き)
 「12条1項において、ただし、その金額は次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない」
1  賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
2  賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

 趣旨
 賃金が日給、時間給、出来高払制、請負制などの場合、3か月間中に欠勤が多かったり、業績が非常に悪かったりすると、平均賃金 害が異常に低額になって生活費の保障の意味をなさなく恐れがある。 但し書きは、このような場合を想定して最低保障額を定めたものである。
 注:2号は、例えば月給(固定給)と日給あるいは時間給の併用である場合などをいい、いわゆる日給・月給制(賃金を月単位で払うが、欠勤、遅刻、早退等があった場合はその時間や日数に応じて減額する賃金制度)に対しては適用されない。 
2.5 その他の条項
 「6項 雇入後3か月に満たない者については、1項の期間は、雇入後の期間とする」
 「7項 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする」
⇒「原則的には、平均賃金を算定すべき理由の発生した日以前1か月間に当該日雇労働者が当該事業場において使用された期間がある場合には、その期間中に当該日雇労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間中に当該日雇労働者が当該事業場において労働した日数で除した金額の100分の73とする」

 「8項 1項から6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる」

3.賃金の支払5原則(24条)
 「賃金は、
 
@通貨で、A直接労働者に、Bその全額を支払わなければならない。
 ただし、

通貨払いの例外 法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合(実物給与)、
・厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合:通貨以外のもので支払うことができる。 
⇒ 労働者の同意を得た場合の
 a.振込みによる賃金の支払い、
 b.小切手やいわゆる郵便為替(郵便貯金銀行が為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書)による退職手当の支払いなど
全額払いの例外 ・法令に別段の定めがある場合、
・過半数組織の労働組合(ないときは労働者過半数代表者)との書面による協定がある場合 :賃金の一部を控除して支払うことができる。
⇒ 法令で定めるものとは、所得税、住民税、労働保険料、社会保険料など
 注意
 通貨払いの例外:法令で定めるものはない。 
 「同2項 賃金は、
 
C毎月1回以上、D一定の期日を定めて支払わなければならない。
 ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、この限りでない」
 
3.1 通貨払い
 「労働者の同意を得た場合は指定する金融機関へ振込み払いをすることができるが、
 「同意」については、労働者の意思に基づくものである限りその形式は問わないものあり、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関における口座を指定すれば、特段の事情がない限り同意が得られているものとする」(S63.1.1基発1)
3.2 直接払い
 「労働者本人以外のものに賃金を支払うことを禁止するものであるから、労働者の親権者その他の法定代理人に支払うこと、労働者の委任を受けた任意代理人に支払うことは、いずれも本条違反となり、労働者が第三者に賃金受領権限を与えようとする委任、代理等の法律行為は無効である。ただし、使者に対して賃金を支払うことは差し支えない」(S63.3.14基発150)
使者とは、給料袋の封を切ることなく、そのまま労働者本人に渡す人である。奥さんが、果たしてこのような「使者」になりうるか否か、会社としても奥さんに給料を渡してよいかどうかは、各家庭内における普段の力関係によっても異なる。
 まじめな話として、「夫婦が生計を一にしないとの特別の事情でもない限り、配偶者に支払われても、直接払いの違反にはならない」という判例もある。
3.3 全額払い
 「第1項但し書き後段は、購買代金 、社宅・寮その他の福利・厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ36条の時間外労働と同様の労使の協定によって、賃金から控除することを認める趣旨である」(H11.3.31基発168)
3.4 毎月一定期日払い
 「賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいうこと。定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと。
 従ってかかるもので、施行規則8条に該当しないものは、毎月支払わなければならない」(S22.9.13発基17)
 毎月は支払わなくてもよいものは、
 @臨時に支払われる賃金 (結婚手当等支給条件は確定しているがいつもらえるかは不明なものなど)
 A賞与
 B賞与に順ずるもの:
   a 1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
   b 1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
   c 1箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当  
4.出来高払制の保障給(27条)
 「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」 

 
 趣旨(S63.3.14基発150)
 「労働者の責に基づかない事由によって、実収賃金が低下することを防ぐ趣旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるよう指導すること。
 なお、本条の趣旨は全額請負給に対しての保障給のみならず、一部請負給についても基本給を別として、その請負給について保障すべきものであるが、賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、「請負制で使用する」場合には該当しない」
⇒ 平均賃金の60%保障がひとつの目安とも考えられる。
 労働者の責によらないで賃金低下 ⇒ 労働時間に応じた保障給。(時間給として設定すべき)
 労働者の責による休業      ⇒ 賃金支払いの義務がない。よって、保障給もない。
 使用者の責による休業      ⇒ 休業手当 
 27条違反(つまり、保障給の定めがない、あるいは定めがあるがこれを支払わない場合)については、「30万円以下の罰金」に処せられる。
 ただし、27条には保障給の額については規定されていないので、保障給の定めがないとしても、使用者が罰せられるだけであって、労働者側から保障給を請求することはできない、とされている。