19年度 改正トピックス( 男女雇用機会均等法に関する主要改正点)

歴史的経緯
1.均等法成立(昭和60年)
 @募集・採用、配置・昇進について均等に取扱う努力義務
 A教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇について、女性であることを理由した差別の禁止
2.均等法改正(平成9年)
 @募集・採用、配置・昇進など均等取扱い努力義務が差別禁止に
 Aポジティブ・アクション、セクシュアルハラスメントの規定の新設
 B母性健康管理措置の義務化 
 
 その時の付帯決議で指摘された事項 
  : 女性差別から性差別の禁止へ、間接差別の導入
 その後、人口減少社会において、労働者に対する性差別の撤廃と母性尊重の重要性の高まり   
  今回の改正(平成19年4月1日施行)にいたった。
改正のポイント
1.性別による差別禁止範囲の拡大
 男性に対する差別も禁止
 禁止される差別の追加、明確化(降格、パートへの変更、退職勧奨など)
 間接差別(一見、性別以外の事由のようにみえる差別)の禁止
2.妊娠・出産・産前産後休業の取得等を理由とする不利益取扱い禁止の厳格化
 母性保護措置、母性健康管理措置を受けたことになどによる不利益取扱い禁止
 事業主の証明がない限り、妊娠・出産・産前産後休業の取得等による解雇の無効
3.セクシュアルハラスメント対策
 男性に対するセクシュアルハラスメントも対策を
 是正指導に応じない場合の企業名の公表、調停など個別紛争解決援助の対象に追加
4.母性健康管理措置
 是正指導に応じない場合の企業名の公表、調停など個別紛争解決援助の対象に追加
5.ポジティブ・アクション(取組み状況の外部開示について国が援助)
6.過料の創設 
 厚生労働大臣(都道府県労働局長)への報告の不実施、虚偽の報告に対しては過料を
  改正後 改正ポイント
理念

方針
・指針
 基本的理念(2条)
 「この法律においては、労働者が性別により差別されることなくまた、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする」
 「同2項 事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない」
 「女性労働者」から「労働者]へ。
 ⇒ 男性労働者も差別してはならないということ。
 男性差別の例
・看護師資格を取得しても敬遠される。
・派遣先は女性を希望しているという。
・一般事務は女性に限るという。
 基本方針(4条2項)
 「男女雇用機会均等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
 
@男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向に関する事項
 A 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項 」
 「女性労働者」から
  「男性労働者及び女性労働者のそれぞれ」へ
 指針(10条)
 「厚生労働大臣は、5条・6条(性別を理由とする差別の禁止)、7条(性別以外の事由を要件とする措置)及び9条1項から3項まで(婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止)に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針を定めるものとする」
 太字項目についても指針で示すことにした。
[労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針]
性別を理由とする差別の禁止
 性別を理由とする差別の禁止
 
5条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」
 「6条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない」
1  労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む)、昇進、降格及び教育訓練
2  住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
3  労働者の職種及び雇用形態の変更
4  退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
  太字部分は新たに追加された項目

 

タイトルと構成の変更
・1節(女性労働者に対する差別の禁止等)から(性別を理由とする差別の禁止等)へ
・5条(募集及び採用)から(性別を理由とする差別の禁止等)へ
・6条(配置昇進及び教育訓練)、7条(福利厚生)、8条(定年、退職及び解雇)が、6条に一括記載され、
 「女性であることを理由」から「性別を理由」へ。
 新たに明確にされた差別の例
業務の配分男性は外勤、女性は内勤
権限の付与:自分の責任で買い付けできる金額の上限に男女差をつける。
降格:リストラにあたり、女性ポストを優先
雇用形態の変更女性正社員からパートへ
退職の勧奨男性又は女性いずれかのみを肩たたき
契約の更新女性のみ契約更新せず。
 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(9条) 
 
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない」
 「2項 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない」
 「3項(新設)事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労基法による産前・産後の休業の請求し、又は休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
 「4項(新設) 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」
 厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由(施行規則2条の2、新設)
1  妊娠、出産、産前産後の休業
2  労基法関連では、坑内業務・危険有害業務の拒否、残業・休日労働・深夜業の拒否、育児時間の取得、軽易な業務に転換したこと。
3  均等法関連では、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置をうけたこと
4  妊娠・出産に起因する症状により労務の提供ができないこと、できなかつたこと又は労働能率が低下したこと
 婚姻、妊娠、出産、産前産後の休業を理由とする解雇の禁止から、以下を追加。
@解雇以外の不利益取扱いも禁止
A省令で定める新たな事由による解雇、その他の不利益な取扱いの禁止
B妊産婦(妊婦及び産後1年以内の産婦)の解雇は、妊娠等が理由でないことを証明しない限り無効。
 不利益な取扱いの例
・賃金について、妊娠・出産等に係る不就労期間分を超えて不支給とすること。
・賞与又は退職金の支給額の算定にあたり、不就労期間や労働能力の低下を考慮する場合に、同じ期間休業した疾病等や同程度労働能率が低下した疾病等と比較して、不利に取扱うこと。
・妊娠・出産等に伴って業務を遂行することが困難で配置変更する必要がある場合、従事させることのできる適当な職務があるにもかかわらず、特別な理由もなく、その職務より賃金その他の労働条件、通勤事情等が劣るような配置変更を行なうこと。
詳細は、
 婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

間接差別
措置
 性別以外の事由を要件とする措置(7条)新設
 「事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない」
 施行規則2条(実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置) 
1 労働者の募集又は採用に関する措置であつて、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの
2  労働者の募集又は採用に関する措置(事業主が、その雇用する労働者について、労働者の職種、資格等に基づき複数のコースを設定し、コースごとに異なる雇用管理を行う場合において、当該複数のコースのうち当該事業主の事業の運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う労働者が属するコースについて行うものに限る)であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの
3  労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの
 合理性がない間接差別措置は禁止
禁止となる間接差別措置とは、
@性差以外の事由を要件とする措置であって、
A他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、
B合理的な理由なく講ずる措置。
 (例)
1.荷物を運搬する業務について、それに必要な筋力よりも強い筋力があることを要件とする場合、
2.広域に展開する支店、支社等がないあるいは計画もないのに、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする場合、
3.広域に展開する支店、支社がある企業で、本社の課長に昇進するにあたり、ほかの地域での勤務経験が特に必要であるとは認められず、かつ転居を伴う転勤ローテーションも特に必要とは認められないのに、転居を伴う転勤の経験があることを要件とする場合。
業務遂行に必要な合理的な理由がある場合には、身長・体重要件や全国転勤要件などを課すことも認められる。
 詳細は、間接差別
セクシャルハラスメント  セクシャルハラスメントに関する雇用管理上の措置(11条)
 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」
 「同2項 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする」
 「女性労働者」から「労働者」へ
 「雇用管理上必要な配慮を講じる」から「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる」へ
 「配慮すべき事項についての指針」から「講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」へ。
1.男性に対するセクシャルハラスメントも対象とする。
2・[事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針](平成18年厚生労働省告示615号)  
紛争解決  苦情の自主的解決(15条)
 「事業主は、6条(性別を理由とする差別)、7条(性別以外の事由)、9条(婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い)、12条及び13条1項(健康管理措置)までの規定に定める事項(労働者の募集・採用に係るものを除く)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関)に対し、当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない」
 6条の中の新規部分及び太字部分も、苦情処理の対象に追加された。
 また、女性労働者だけでなく、男性労働者も苦情の申出ができるようになった。

 

 紛争の解決の促進に関する特例(16条) 
 「5条と6条(性別を理由とする差別の禁止)、7条(性別以外の事由を要件とする措置)、9条(婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止)、11条1項(セクシャルハラスメントに関する措置)、12条と13条1項(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の規定は適用せず、17条 から27条までに定めるところによる」
 黒字部分追加
 以下の条項を新設 「20条 調停委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる」
 「同2項 調停委員会 11条1項(セクシャルハラスメント に関する措置)に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる」
 「24条 調停が打ち切られた場合において、調停の申請をした者が打切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となつた請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があつたものとみなす」
 「25条 紛争調整委員会調停を行わせている紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる」
 @当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。  
 A前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
@性別以外の事由を要件とする措置、➁婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
Bセクシャルハラスメントに関する措置
C妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
調停など個別紛争解決援助の対象に追加された。


24条(時効の中断)
⇒ 個別労働関係紛争解決促進法と同じ扱い

25条
 ⇒調停が順調な場合は、当事者の共同の申立てにより、訴訟手続きを一時的に中止して、和解を図る。

その他  ポジティブ・アクションに対する国の援助(14条)
 「国は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されることを促進するため、事業主が男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とする次に掲げる措置を講じ、又は講じようとする場合には、当該事業主に対し、相談その他の援助を行うことができる」
 D(追加)措置の実施状況の開示
 事業主がポジティブ・アクションに対する取組状況を外部に開示する際、国がこれを援助(具体的には、ポジティブ・アクションに関するポータルサイトを設け、個別企業から寄せられた取組状況をインターネットで紹介する等を予定)
 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とする措置(ポジティブ・アクション)
 公表(30条)
 「厚生労働大臣は、5条と6条(性別を理由とする差別の禁止)、7条(性別以外の事由を要件とする措置)、9条(婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止)、11条1項(セクシャルハラスメント に関する措置)、12条と13条1項(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)の規定に違反している事業主に対し、29条1項による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる」  
 厚生労働大臣(都道府県労働局長)が必要あると認めたときは、事業主に対して勧告し、これに従わないときは公表できる。
 新たに太字の事項についても公表できることになった。 
 罰則(33条) 新規
 「29条1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する」
 「29条1項 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる」
 報告を拒否したり虚偽の報告をする事業主がいる一方、報告を行なったため違反であるとわかり、叱られる場合もある。
 ⇒報告の拒否、虚偽の報告には罰金を。(肝心の違反に対しては、企業名公表など以外は罰則がない?)