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R21

有期契約労働者をめぐる問題

 
KeyWords  有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準
 実質的には期間の定めのない契約と認められる例
 
  有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準 (H15厚生労働省告示357、最新R05厚生労働省告示114) (R05に現在のように改称)
 趣 旨  
 有期契約労働者について適切な労働条件を確保するとともに、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにするためには、有期労働契約の締結、更新、雇止めに際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決が図られるようにすることが必要であることから、厚生労働大臣が「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」を定めることとし、当該基準に関し、行政官庁が必要な助言及び指導を行うことができることとしたものであること。
 契約締結時の明示事項等(法改正旧1条はH25.04.01削除)
 「旧1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を係る更新の有無を明示しなければならない」
 有期労働契約の変更等に際して更新上限を定める場合等の理由の説明(1条) 法改正(R06.04.01新規、以下は1条繰下げ)
 「使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の締結後、当該有期労働契約の変更又は更新に際して、通算契約期間(労働契約法18条1項に規定する通算契約期間)又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとするときは、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならない」
 補足(通達R05.10.12基発1012−2)
・「理由」とは、例えば、「プロジェクトが終了することになったため」、「事業を縮小することになったため」等が考えられるものであること。
・「説明」とは、労働者が内容を理解することができるよう、文書を交付し、個々の有期契約労働者ごとに面談等により説明を行うことが基本であるが、説明の方法は、特定の方法に限られるものではなく、説明すべき事項を全て記載した労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、当該資料を交付して行う等の方法でも差し支えないものであること。
 また、説明会等において複数の有期契約労働者に同時に行う等の方法によっても差し支えないこと。
 雇止めの予告(2条)
 「使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない」
 雇止めの理由の明示(3条
 「前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない」
 「同2項 有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない」
 契約期間についての配慮(4条)
 「使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない」
 無期転換後の労働条件に関する説明(5条) 法改正(R06.04.01新規)
 「使用者は、労働基準法15条1項(労働条件の明示)の規定により、労働者に対して労働基準法施行規則5条5項に規定する事項(同条1項に規定するもののほか、無期転換申込みに関する事項並びに(無期転換後の)期間の定めのない労働契約の内容である労働条件を明示する場合においては、当該事項(同条1項各号に掲げるものを除く)に関する定めをするに当たって、労働契約法3条2項(均衡考慮の原則)の規定の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、当該労働者に説明するよう努めなければならない」
 補足(通達R05.10.12基発1012−2)
・「説明」については、1条に同じ。
・「就業の実態に応じて均衡を考慮した事項」とは、例えば、業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲等が考えられるものであること。
 実質的には期間の定めのない契約と認められる例
 反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのない契約と異ならないものと認められるケースもあり、その場合は解雇に関する規定の適用によって雇止めが認められなかった判例も少なくない。
 以下は、月刊「社会保険労務士」(2006年6月号、「有期労働契約の雇止めと労働者の退職」)と「労働判例集」 
 http://www.ne.jp/asahi/morioka/masato/roudou.htm
を参考に記述したものである。
1.期間の定めのない契約と実質的に変わらないと判断された事例:
 契約の更新に際して、当事者間ではっきりした手続きがとられずにずるずると機械的に更新がくり返されていた場合は、実質的には期間の定めのない労働契約が存在していたと判断され、雇止め(契約更新せず)にあたってそれが解雇とみなされた事例。(東芝柳町工場事件 最一小判昭49.7.22)
事件:
 労働者Xらは、ある会社に契約期間2ヵ月の臨時従業員として雇用され、最も少ない者で5回、最も多いもので23回の更新を経て1年ないし3年8ヵ月の間雇用が継続された後、契約更新を拒絶された。Xらは、この更新拒絶は実質的に解雇に他ならないと主張して提訴した。
判決要旨:
 Xらの労働契約は期間満了ごとに更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものであり、その雇い止めには解雇権濫用法理が類推適用される。
 そして、就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行われるものであるが、たとえ形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。
 ところで本件の場合、臨時社員就業規則8条では契約期間の満了を解雇事由として掲げているが、、期間の満了毎に更新を重ねて実質上期間の定めのない契約と異ならない状態にあったこと等にかんがみると、従来の取扱いを変更してもやむをえないと認められる特段の事情が存しないかぎり、期間満了を理由に雇い止めをすることはも許されない。
 この結果、労働者側の勝訴(雇止めは無効)となった。
2.雇用関係がある程度の継続を期待されていた場合の事例:(日立メディコ事件 最一小判昭61.12.4)
事件:
 労働者Xは、昭和45年12月1日に、雇用期間を同月20日までと定めて臨時工として雇用され、同月21日以降は、期間2ヵ月の労働契約を5回にわたって更新されてきた。しかるに、昭和46年10月21日以降、不況に伴う「業務上の都合」を理由としてこの契約の更新を拒否された。
 そこでXは、更新拒否は解雇であり、解雇権の濫用として無効であると提訴した。
判決要旨:
 季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業ではなく、その雇用期間がある程度継続することが期待される作業に従事し、2ヵ月雇用を5回更新した臨時員につき、更新拒否をするに当っては解雇法理が類推適用される。
 しかし本件の場合、期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたというまでにはいたっていないので、更新拒否の効力を判断すべき基準は、終身雇用下のいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異がある。
 従って、独立採算の工場の人員を削減する必要があり、余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もない場合に、当該工場の全労働者につき希望退職者募集の方法をとらず、まず臨時員全員の更新拒否を行ったことは、不当・不合理な措置とはいえない。
 この結果、労働者側の敗訴(雇止めは有効)となった。
⇒ 本件は労働者側の敗訴となったが、「期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じた」というまでではなくても、「雇用関係がある程度の継続を期待された場合」は解雇権濫用の類推適用がある(正社員と全く同じ取り扱いではないとしても)とした点で、注目された判決であった。
3.その他の事例
 その他に、更新の限度がたとえば5年と定められていた事例(コンチネンタル・ミクロネシア・インク事件)、
 雇用の臨時性が明白な事例(丸島アクアシステム事件)などでは、
 雇用継続の期待に合理性がないとして、解雇法理の類推適用が否定されている。
 また、有期労働契約が反復して更新されてきても、更新時に「明示的に不更新条項を提示していた場合」には、この条項に基づき最後に更新された契約の期間満了をもって契約は終了とする(近畿コカ・コーラボトリング事件)といった判例もある。 
4.雇用期間が試用目的であった場合
 労働契約に期間を設けたとしてもそれが試用の目的である場合は、当事者が明示的に異なる合意をしているなどのことがない限り、その期間が終了すれば直ちに労働契約は終了とするわけにはいかない。(神戸弘陵学園事件 最高裁第3小法廷H2.6.5)
事件: 
 ある私立高校で教員(常勤講師)として採用された者が、契約期間は1年であったとして、期間満了の時点で雇用契約終了とされたことは無効であると提訴した。
判決要旨:
 この雇用契約は、教員経験のない者を新規に採用するに当たって、その適性について吟味する必要があることから、1年間の判断期間を設ける趣旨であったと判断される。
 このように、労働者の適性を評価・判断するために期間を設けたときは、この期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立した等の特段の事情が認められる場合を除き、その期間は契約の存続期間ではなく試用期間と解するのが相当である。
 本件の場合は、特段の事情がないと認められるので、これを解約権留保付雇用契約と解するのが相当である。
⇒ 解約権留保付雇用契約であるから、「正規従業員としての適格性がない」など、試用期間の主旨にあった、客観的でかつ社会通念上相当として是認されうる理由による解約権が行使できないまま試用期間をすぎれば、本採用を拒否することはできない。