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R06

解雇をめぐるトラブルの防止 

KeyWords  解雇解雇制限解雇予告解雇予告の除外退職時等の証明打切補償
 解雇は労働者にとって死活問題であり、極力避けるべきことです。
 しかしながら一方では、事業活動を法律でしばらずに、自由な競争や経営者の創意工夫に委ねるとするのが、自由主義社会のよいところでもあります。経営者は、会社を持続可能(Going Concern)にするために、時にはやむを得ず、不採算部門や余剰人員の整理をすることがあります。
 ここで、労働者と使用者の利害が大きく食い違うわけです。
 労基法では解雇を禁止することろまではいっていませんが、労働者保護の観点から、解雇にさまざまな制約を課しているのです。
1.解雇(18条の2) (現労働契約法16条)
 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」  
 
 趣旨(18条の2)  労働法コンメンタール「労働基準法上P257」
 「本条は、解雇に係る民事的効力を定めたものである。
 平成15年の法改正において、解雇が労働者に与える影響の重大性や、解雇に関する紛争が増大している現状(かんがみ、解雇に関するルールをあらかじめ明確にすることにより、解雇に際して発生するトラブルを防止し、その解決を図ることを目的として、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を法律に明記することとしたものである」
⇒ 使用者は解雇権を持っているが、これを濫用し(みだりにも用い)てはならない。
 解雇についての民法上の位置づけは、契約自由の原則に則った雇用契約の解約であり、使用者であろうと労働者であろうと契約の当事者はいつでも解約の申入れができ、原則として2週間の告知期間を経て、雇用契約は終了となる。
 しかしながら、労基法などいわゆる労働法においては、労働者保護の立場から、解雇に特別な規制を課しているのである。
 解雇(通達(H30.12.28、基発1228-17(16条関係))
@労働契約法16条は、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにしたものであること。
 なお、この16条は、旧労働基準法18条の2と同内容であること。
A旧労働基準法18条の2については、「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされており、これについては本法16条においても同様であること」 
  解雇とは:こちらを参照のこと
 趣旨 通達(H15.10.22基発1022001号)
 「労基法旧18条の2(現労働契約法16条)の規定は、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」という要件にあたる場合は、無効となることを定めたものであり、同条の規定に基づき解雇の効力を争う事案については、労基法104条1項に定める申告の対象とはならない
 なお、解雇をめぐる紛争について解決を求められた場合は、個別労働紛争の簡易迅速な解決を図ることを目的とする「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」により解決を図ることができる紛争の対象となる」
   有効・無効の判断 労働法コンメンタール「労働基準法上P270」
 「解雇に係る有効・無効の判断については、最終的には引き続き裁判所が行うものであって、本条の規定に基づき解雇の効力を争う事案については、104条1項に定める申告の対象とはならないものである」 
 解雇権濫用に関する最高裁判例の一例(高知放送事件、S52.01.31最高裁第2小法廷)
 「午前6時からの10分間のニュース担当の宿直のアナウンサーが2週間に2回寝過ごして番組に穴を空けたために、勤務成績・勤務態度不良で解雇された」
 これに対する判決は、
 「就業規則の普通解雇事由に該当するが、その場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、解雇権の濫用というべきである。
 本件の場合、悪意や故意ではないこと、アナウンサーを起こすべき記者も寝過ごしたこと、本人のこれまでの無事故暦等から、解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみがあり、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないとして、解雇を無効とした」
 会社側の経営事情等から一定人数の従業員を削減しようとする整理解雇の場合、これが解雇権の濫用になるのかどうかの ひとつの基準として、裁判所の判例により次の4条件が確立されているといわれている。
 @ 人員削減の必要性が明確であること。
 A 解雇回避の努力がなされていること。
 B 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること。
 C 事前の説明・協議義務が適切であること。 

2.解雇制限(19条)
 「使用者は、
 @労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間、並びに、
 A産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、
解雇してはならない。ただし、使用者が、
 @81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は、
 A天災事変その他むを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、
この限りでない」
 趣旨(解雇制限) 労働法コンメンタール「労働基準法上P271」
 「労働基準法は、いわゆる解雇自由の原則については直接修正を加えることなく、ただ、19条において、労働者が解雇後の就業活動に困難を来すような場合に一定の期間について解雇を一時制限し、労働者が生活の脅威を被ることの内容保護している。
 すなわち、その解雇制限期間として、労働者が業務上の傷病又は産前産後のため、労働能力を喪失している期間及び労働能力の回復に必要なその後の30日間を掲げている」
⇒使用者が解雇権を有していることを前提とし、労働者がやむなく解雇された場合で、再就職活動に支障をきたす場合(業務上疾病等による休業と産前産後の休業の場合に限る)は、休業期間中とその後の30日間、解雇してはならない。
 解雇とは 
解雇 労働契約を解約するという使用者側からの一方的な意思表示による。
任意退職  労働契約を解約するという労働者側からの一方的な意思表示による。
 辞職願を提出したとしても、使用者の有形、無形の圧力によるものであれば、解雇となる場合もある。
期間満了  契約期間に定めがある場合の期間満了による退職は、解雇ではない。 
定年  就業規則等により、定めた日を以ってその雇用契約は自動的に終了することが明らかであり、かつ、従来からこの規定に基づいて定年に達した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっている場合は解雇の問題は生じない。
 ただし、定年制があっても、その通りに実施されない例があって、労働者が引き続き雇用されるものと期待するような状況の場合は、定年であっても解雇とみなされることがある。

 派遣労働者の場合 通達(S61.6.6基発333(19条関連))
 「労働契約と派遣契約は別個のものであり、派遣先による労働者派遣契約の解除について、労基法の解雇に関する規制が適用されることはない。
 従って、派遣先が、派遣中の労働者の解雇制限期間中に予告期間なく派遣契約を解除することは労基法上の問題はないが、派遣元の使用者がこの労働者を解雇しようとする場合には、労基法が適用される。つまり、解雇制限中は解雇できず、解雇制限に該当しない場合でも解雇予告あるいは解雇予告手当ての支給が必要である」 
 育児休業期間中の解雇 通達(H3.12.20基発712)
 「現育児・介護休業法10条(及び16条)は、労働者が育児休業(介護休業)申出等をし、若しくは育児休業(介護休業)をしたことを理由とする解雇を制限したものであり、育児休業(介護休業)期間中の解雇を一般的に制限したものではなく、育児休業(介護休業)期間中の労働者を解雇しようとする場合には20条(解雇予告)に規定する手続きが必要である」
 各種事例
 他に就職せしめた場合の解雇手続 通達(S23.5.14基発769(19条関連)
 「事業場が赤字のため閉鎖して、労働者を使用者の責任において他の事業場へあっせん就職させた場合でも、任意に退職を申し出ない限り、解雇である」
 反復更新された臨時工の事例(S27.2.2基収503)
 臨時工について1か月ごとの期限付契約を更新した事例について、「形式的には雇用期間を定めて契約が反復更新されても実質においては期間の定めのない労働関係と認められる場合は、解雇であり、予告を必要とする」
 労働契約期間の満了と解雇制限 通達(S63.3.14基発150(19条関係))
 「一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引き続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限り、その期間満了とともに終了する。
 したがって業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業する期間中の者の労働契約も、その期間満了とともに労働契約は終了する」
 定年退職と19条の関係 通達(S26.8.9基収3388)
 「就業規則に定めた定年制が労働者の定年に達した翌日を以ってその雇用契約は自動的に終了する旨を定めたことが明らかであり、かつ、従来この規定に基づいて定年に達した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっていて、それが従業員に徹底している限り、解雇の問題は生じない」
 定年解雇制 最高裁判例(秋田秋北バス事件(S43.12.25)
・事件のあらすじ;就業規則の変更によって主任以上の従業員にも55歳定年が設けられ(一般従業員は従来より50歳定年)、55歳を過ぎていたある主任従業員が解雇通知を受けた。
 これを不服として、本人が同意していない就業規則の変更には拘束されないとして、解雇の無効を訴えた。
就業規則に関する判決:「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知つていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである」」
 「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労
働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきである」。
定年制に関する判決:「およそ停年制は、一般に、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであつて、一般的にいつて、不合理な制度ということはできず、本件就業規則についても、新たに設けられた55歳という停年は、わが国産業界の実情に照らし、かつ、被上告会社の一般職種の労働の停年が50歳と定められているのとの比較権衡からいつても、低きに失するものとはいえない」
解雇に関する判決:「本件就業規則は、停年に達したことによつて自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる 「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、これに基づく解雇は、労働基準法20条所定の解雇の制限に服すべきものである」
 最低年齢に満たない労働者の解雇 通達(S23.10.18基収3102) 
 「未就学児童が禁止されている労働に従事しているのを発見した場合、これに配置転換その他の措置を講ずるが、その事業場をやめさせねばならない時は、20条1項本文の規定により30日分以上の平均賃金を支払い、即時解雇しなければならない」
2.1 業務上負傷・疾病の療養のために休業する期間及びその後30日間の解雇制限
・業務外の私傷病による休業期間については、解雇制限なし。
・「休業」とは全く就労していないことをいうので、就労しながら通院している場合は休業ではない。
 よって、治療中であっても全く休業していない場合は、解雇制限はない。
⇒たとえば、1日だけ休業した場合は、31日後に解雇制限が解除される。
 業務上の休業後、完治してはいないが復職した場合(S24.4.12基収1134)
 「業務上負傷し又は疾病にかかり療養していた労働者が完全に治癒したのではないが、稼働し得る程度に回復したので出勤し、元の職場で平常通り稼働していたところ、使用者が就業後30日を経過してこの労働者を法20条に定める解雇予告手当を支給して即時解雇した場合、法19条に違反するか」というお伺いに対して、
 「設問の場合は、法19条に抵触しない」と回答された。
.⇒無理をして会社に出てくると、ろくなことはない。
  ただし、休んでいてもずる休みなどであって、療養のためでない場合はだめである。
 解雇予告期間期間中に業務上負傷し又は疾病にかかった場合の解雇(S26.06.25基収2609)
 「解雇予告期間満了の直前にその労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業を要する以上は、たとえ1日ないし2日の軽度の負傷又は疾病であっても、法19条の適用がある。
 
負傷し又は疾病にかかり休業したことによって、前の解雇予告の効力の発生自体は中止されるだけであるから、その休業期間が長期にわたり解雇予告として効力を失うものと認められる場合を除き、治癒した日に改めて解雇予告をする必要はない
2.2 産前産後の期間中に休業する期間及びその後30日間の解雇制限
・産前の休業は請求があった場合に初めて使用者に付与義務が発生する者であるから、労働者が休業せずに就労している場合には、解雇が制限されない。
・産後の休業は、出産日の翌日から8週間が法定の休業期間であるから、これを超えて休業している期間は、19条にいう「休業する期間」には該当しない。
 また、産後6週間を経過すれば、請求により就業させることができるが、これにより就業している期間も19条にいう「休業する期間」には該当しない。
 従って、その後30日間の起算日は、産後8週間が経過した日、又は産後6週間経過後に請求により就労させている場合は、その就労を開始した日となる。
 産前産後休業と解雇制限の関係 通達(S25.06.16基収1526
 「@6週間内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就労している場合は、19条の解雇制限の期間となるか。A女性労働者が私病により所定の手続きの上長期欠勤中解雇しようとしたところ産前の解雇制限期間に入っていたが、65条による休業請求の意思表示が全くなされていなかった場合、解雇できるか」というお伺いに対する回答は、
 @6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就業している場合は、19条の解雇制限期間にはならないが、その期間中は女性労働者を解雇することのないよう指導されたい。
A見解のとおりであるが、@と同様に指導されたい。
2.3 打切補償による解雇制限の除外
  
療養補償(75条)
 「労働者が業務上負傷し又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」
 打切補償(81条)
  「75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」
 すなわち、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合は、3年以後いつでも、打切補償を行えば、その時から、費用の支払義務はなくなり、解雇制限も解除となる。
 労災保険法による代替
 ただし、労災保険法の適用がある事業所であれば、
・労働者が傷病補償年金を受けている間は、使用者は療養補償のための費用の支払い義務は猶予される。
労災保険法19条「業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合は3年を経過した日に、3年経過日以後において傷病補償年金を受けることとなった場合は受けることとなった日に、
 労働基準法19条1項の規定(解雇制限)の適用については、使用者は、81条(打切補償)の規定により打切補償を支払ったものとみなす」ことから、
 たとえば療養開始後3年を経過した日に傷病年金を受けている場合は、打切補償は支払われたものとみなされるので、その時から、費用の支払義務はなくなり、解雇制限も解除となる。  
 打切補償に関する判例 最高裁判例[地位確認等請求反訴事件(H27.06.08)]。
 その原審の東京高等裁判所の判決では、
 「労働基準法81条(打切補償)は,同法75条(使用者による療養補償)の規定によって補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において,打切補償を行うことができる旨を定めており,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていないこと等からすると,労働基準法の文言上,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に該当するものと解することは困難である」とし、
 使用者による療養補償がなされていない場合は、打切補償により解雇は無効とした。
 これに対して、最高裁は、
 「労働基準法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合には、それによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合とで、労働基準法19条1項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い」として、原判決を破棄し、差し戻しにした。
2.4 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったの場合の解雇制限の非適用
・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったの場合」は事業主が勝手に判断してはならず、「解雇予告・解雇制限除外認定申請書」を提出して、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。
  やむを得ない事由とは(S63.3.14基発150(やむを得ない事由))
 「やむを得ない事由とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意味であり、経営者として、社会通念上採るべき必要な措置をもってしても通常いかんともなし難いような状況をいう」
(1) 次のごとき場合は、これに該当する。
イ:事業場が火災により焼失した場合(ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合を除く)
ロ:震災に伴う工場、事業場等の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合
(2) 次のごとき場合は、これに該当しない。
イ:事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械、資材等を没収された場合
ロ:税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
ハ:事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合。個人企業で別途に個人財産を有するか否かは本条の認定には直接関係がない。
ニ:従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がないために事業が金融難に陥った場合。
 法令による解雇の禁止(「不利益な取扱い(解雇を含む)をしないようにしなければならない」という努力義務も含む)
 労基法(3条)  「国籍信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件(解雇を含む)について、差別的取扱解雇してはならない」
 労基法(19条)  「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間、並びに、産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない。ただし、使用者が、81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない」
 労基法(104条)  「労基法又はこれに基づいて発する命令に違反する事実がある場合に、その事実を行政官庁に申告することができるが、この申告をしたことを理由として、解雇してはならない」
 労基法(施行規則6条の2)  「3項 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」
 労基法(38条の4、施行規則24条の2の4)  「使用者は、労働者を企画型裁量労働制の対象業務に就かせたときは、協定で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと」
 「施行規則24条の2の4の6項 使用者は、労働者が労使委員会の委員であること若しくは労使委員会の委員になろうとしたこと又は労使委員会の委員として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」
 育児介護休業法(10条、16条)  「事業主は、労働者が育児(介護)休業申出をし、又は育児(介護)休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
 男女雇用機会均等法(8条)  「2項 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない」
 「3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労基法による産前・産後の休業の請求し、又は休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
 「4項 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」
 労働組合法(7条)  「不当労働行為によって解雇してはならない。また、不当労働行為が行われたとして申立てを行ったこと等を理由として、解雇してはならない」
 個別労働紛争解決法(4条、5条)  「4条3項 事業主は、労働者が労働局長の助言・指導の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
 「5条2項 紛争調整委員会へのあっせんの申請をした場合も同様とする」
 労働者派遣法(施行規則33条の4)  「3項 派遣先は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」
 雇用保険法(73条)  「事業主は、労働者が被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認を請求をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」

3.解雇予告(20条)
 「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
 但し、
@天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は、
A労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない」
 「2項 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる」
 「3項 1項の但書は、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」
 
趣旨:
 解雇が適法かどうかは別として、突然の解雇により労働者が被る経済的困窮を少しでも緩和するために、少なくとも30日前の予告(その間は、労働者は労働する義務が、使用者には賃金の支払義務がある)か、少なくとも30日分の平均賃金の支払い義務、あるいはこれらの組み合わせを、使用者に課した。
 即時解雇をめぐる事項
 予告期間及び予告手当の支払いなき解雇 通達(S24.5.13基収1483)
 「法定の予告期間を設けず、また法定の予告に代わる平均賃金を支払わないで行った即時解雇の通知は即時解雇としては無効であるが、使用者が解雇する意思があり、かつその解雇が必ずしも即時解雇であることを要件としていないと認められる場合には、その即時解雇の通知は法定の最短期間である30日経過後において解雇する旨の予告として効力を有する」


・解雇予告もせず、予告手当も支給せず、「すぐ首だ」といっても、即時解雇は認められないが、使用者が即時解雇に固執しなければ、30日後に解雇するという解雇予告をしたことになる。
・30日間は解雇は無効であるから、就業すれば賃金を、有給休暇を取得すれば就業規則や労使協定による金額を、休業を命ずれば休業手当を支払う義務がある。
 最高裁判例 細谷服装事件(最高裁第二小判昭35.3.11)
@事件のあらまし
 ある洋服製造会社の労働者が、昭和24年8月に解雇の通知を受けた。このとき、使用者は20条による解雇予告期間を置かず、予告手当も支払わなかった。
 そこで、労働者は8月分の未払い賃金及び退職金の支払いを求めて提訴したところ、一審の口頭弁論終結日に、未払賃金と予告手当が支払われたが、裁判では敗訴した。
 労働者は、未払賃金と予告手当を支払った時点(昭和26年3月)まで解雇の効力が発生していないと主張してこの間の賃金支払いと、未払賃金と予告手当不払いに対する付加金の請求について争った。
A解雇の時期についての判決
 「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇も通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきである。
 本件解雇の通知は30日の時間経過と共に解雇の効力を生じたとする原判決の判断は正当である」
B附加金の支払義務についての判決
 「労働基準法114条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法20条の違反があっても、既に(後日において)予告手当に相当する金額の支払を完了し、使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立をすることができないものと解すべきである。
 これと同一趣旨の原判決は正当である」
 予告手当の支払時期(即時解雇) 通達(S23.3.17基発464(20条関連)
 「20条1項の即時解雇の場合における30日の平均賃金の支払期間については、解雇と同時に即時に支払うべきものと解されるが、これについても23条1項(金品の返還)の期間(請求後7日間)の適用があるか」という問い合わせに対して、回答は、
 「20条による解雇の予告にかわる30日分以上の平均賃金は、解雇の申渡しと同時に支払うべきものである」
 なお、解雇予告と解雇予告手当の支払いを併用する場合の解雇予告手当の支払いは、解雇の日までに行われれば足りるものと解されている。
 予告なしに解雇した場合の休業手当 通達(S24.7.27基収1701)
 「使用者の法に対する無関心のため、予告することなく労働者を解雇した。労働者は解雇が有効であると思い,他事業場に勤務市、相当日数経過後、事実が判明した。
 この場合、20条の取扱いについて、休業手当を支払わなければならないか」という問い合わせに対して、回答は、
 「使用者の行った解雇の意思表示が解雇の予告として有効と認められ、かつ、その解雇の意思表示があったために予告期間中労働者が休業した場合は、使用者は解雇が有効に成立するまで日までの期間、休業手当を支払えばよい」
 予告期間 労働法コンメンタール「労働基準法上P287(予告期間)」
 「予告は、少なくとも30日前にしなければならない。
 予告期間の計算については、労働基準法に特別規定がないから民法の一般原則によることになり、解雇予告がなされた日は算入されず、その翌日から計算され、期間の末日の終了をもって期間の満了となるので、予告の日と、解雇の効力発生の日との間に、中30日間の期間を置く必要がある。
 また、30日間は労働日ではなく、暦日で計算されるので、その間に休日または休業日があっても延長されない。
 従って、例えば、6月30日に解雇(その日の終了をもって解雇の効力発生)するためには遅くとも5月31日には解雇の予告をしておかなければならない」
 解雇日の繰上げと算定事由発生日 通達(S39.6.12基収2316)
 「20条の規定により、解雇の予告に代えて支払われる平均賃金を算定する場合における、算定すべき事由の発生した日は、労働者に解雇の通告をした日である。
 解雇の通告をした後において、当該労働者の同意を得て解雇日を変更した場合においても、同様(当初の解雇を予告した日)である」
 予告手当の支払方法 通達(S23.8.18基収2520)
 「法20条1項後段の解雇予告手当は、退職手当とその内容は類似するものの、過去の労働と関連が薄く、むしろ労働者の予測しない収入の中絶を保護するもので、労働の対償となる賃金とは考えられないから、必ずしも通貨支払、直接支払いの要件を具備しなくても差し支えないものと解されるが如何。ただ、指導方針としては、法24条に準じて通貨で直接支払うよう取り計るべきものと思われるが如何」というお伺いに対する回答は
 「解雇予告手当が賃金でないこと見解の通りであるが、これの支払について見解のとおり指導すること。
 予告手当の支払の時効 通達(S27.05.17基収1906)
 「法20条に定める解雇予告手当は、解雇の意思表示に際して支払わなければ解雇の効力を生じないものと解されているから、一般には解雇予告手当については、時効の問題は生じない」
  解雇予告とその取消し 通達(S33.2.13 基発90号(20条関連))
 その1 「解雇の予告を受けた労働者が解雇予告期間中に他の使用者と雇用契約を結ぶことはできるが、自ら契約を解除した場合を除き、予告期間満了までは、従来の使用者のもとで勤務する義務がある」
 その2 「労働者が解雇予告期間中に他の使用者と雇用契約を結び、その契約に基づく勤務の開始を申出た時は、一般には、使用者は予告期間を満了するまでの期間、勤務するよう要求することができるものと考えられる。
 ただし、労働者の当該申出が自らの意思により雇用関係を終了させようとする自己退職の意思票と認められる場合、及び使用者の要求に従わないで、他の使用者との新しい契約に基づいて現実に勤務を開始した場合には、労働者より退職の意思表示があったものと考えられるので、それまでの期間に限り、使用者は労働者の勤務を要求できる」
 その3 「使用者が行った解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことを得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができるものと解すべきである。
 解雇予告の意思表示の取り消しに対して、労働者の同意がない場合は、(取り消すことができないのだから)自己退職の問題は生じない」
 解雇予告除外認定の性格 通達(S63.3.14基発150(除外認定))
 「19条及び20条による認定は、原則として解雇の意思表示をなす前に受けるべきものであるが、認定はただし書きに該当する事実があるか否かを確認する処分であって、認定されるべき事実がある場合には使用者は有効に即時解雇をなし得るものと解されるので、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得た場合はその解雇の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生すると解される。なお、使用者が認定申請を遅らせることは19条又は20条違反である」
 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能の場合
・「解雇予告・解雇制限除外認定申請書」を提出して、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。 ただし、19条と20条について2度提出する必要はない。
・具体的には、19条の場合と同様である。  
 労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合
・「解雇予告除外認定申請書」を提出して、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければない」
 労働者の責に帰すべき事由 通達(S31.3.1基発111)
 「労働者の責に帰すべき事由とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当たっては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責に帰すべき事由」が20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又、使用者をしてかかる労働者に30日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。
 「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例を挙げれば、
(1)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、 また一般的に見て「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、障害等刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、
 あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、労使間の信頼関係を喪失しるものと認められる場合、
(2)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。
 また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、労使間の信頼関係を喪失しるものと認目られる場合。
(3)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合、
(4)他の事業場へ転職した場合、
(5)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合、
(6)出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意をうけても改めない場合
 のごとくであるが、認定に当たっては、必ずしも上記の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
 なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘泥されることはないこと。

4.解雇予告の除外(21条)
 「前条(20条)の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない」
1  日日雇い入れられる者  1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合
はこの限りでない。
2  2か月以内の期間を定めて使用される者  所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
はこの限りでない。
3  季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
4  試の使用期間中の者  14日を超えて引き続き使用されるに至った場合
はこの限りでない。
 21条の補足
@「日日雇い入れられる者」とは 労働法コンメンタール「労働基準法上P316−317(日日雇い入れられる者)」
 1日単位の契約期間で雇われ、その日の終了によって労働契約を終了する契約形式の労働者である。理論的には解雇の問題は発生する余地がないので予告制度も適用がない。
 このような性質の契約形式についても、ただし書きにより、1カ月を超えて引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告制度の適用がある。
A「1か月を超えて引き続き使用される」とは 通達(S24.0205基収408)
 「1か月とは労働日のみならず休日を含む暦による1か月をいう。
 また、「引き続き使用される」とは、もっぱら同一事業場で業務に従事しておれば、休日以外に当該事業場の業務に従事しない日が多少あっても、1か月間継続して労働したという事実を中断するものではない。(労働しない日数が何日あればだめかということは、具体的な事情により判断される)」
⇒健康保険法についてはこちらを
B「試の使用期間中の者」とは 労働法コンメンタール「労働基準法上P322」
  「本採用決定前の試験的使用期間中(いわゆる試用期間中)の労働者であって、その期間中に勤務態度、能力、技能、性格等を見て正式に採用するか否かが決定されるものである。
 一般には、本採用に適しないと判断されたときは、その期間中といえども解雇し得るように、解約権が本採用者に比して広範に留保されている。
 試みの使用期間は、労働契約上の一態様であるから、就業規則又は労働契約において明確に定められている必要がある。
 補足
 「この試用期間については、その上限が厳密に規定されているわけではないが、労働能力や態度などから本採用にふさわしいか否かを判断するに必要は期間である、という趣旨を逸脱するような長期の期間は無効とされている。
 一般的には、3か月から6か月程度以内が一つのめやすといわれている」」
 事例
チョッと補足
@ここに認められている臨時的性質の労働者に対しては、解雇予告をさせることが困難又は不適当であると、又、労働者としても臨時的な就労と考えていることが多いのであえて予告させる必要はないと、判断されたものである。
A21条は、適用除外してもよいように見える労働者であっても、解雇予告義務が発生する場合があるとする、上表の右の欄の方が重要である。2
 よって、21条は少し複雑な問題を含んでいると思われる。
 例えば、所定の期間を終了したため労働契約が解除になった場合は当然、解雇には該当しない。ということは、21条、特に2号、3号の意味するところは、「契約期間内に解雇する場合に解雇予告は必要ない」ことにお墨つきを与えているのである。
そのような解雇がどのような場合に可能であるかについては何も述べていない。
B民法との関係
 民法628条)「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」(あり、民法では、「やむを得ない事由があるとき」に期間前における契約の解除(使用者側から行う場合は解雇)を認めているが、損害賠償責任が発生することもありうる。
 労基法21条は特別な条件下で解雇が成立した場合に限り、解雇予告が不要と読む必要がある。   

5.退職時等の証明(22条)
 「1項 労働者が、退職の場合において、使用期間業務の種類その事業における地位賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」
⇒退職時証明書の発行
 「同2項 労働者が、20条1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない 。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない」
⇒解雇予告期間中証明書の発行
 「同3項 前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない」
⇒通達(H15.12.26基発1226002)のA解雇の理由を参照のこと。
 「同4項 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第1項及び第2項の証明書に秘密の記号を記入してはならない」
⇒以前は、「組合活動に熱心な労働者の就職を妨害するためにブラックリストを作成し、#などの秘密の記号で互いに知らせる」などの事例がよく見られた。こちらを参照のこと。
 
 趣旨 :労働法コンメンタール「労働基準法上P324」など
 「解雇等退職をめぐる紛争を防止し、労働者の再就職活動に資するため、退職時の証明書の交付義務を定めるととのみ、労働者の就職を妨害するためのいわゆるブラックリストを禁止(4項)したものである。
 また、平成15年の改正(2項)により、解雇をめぐる紛争を未然に防止し、その迅速な解決を図ることを目的として、1項の退職時証明に加えて、解雇を予告された労働者について、当該解雇の予告がなされた日から当該退職の日までの間においても、使用者に対して当該解雇の理由を記載した証明書の交付を請求できることとし、当該請求があった場合には、使用者は、遅滞なく、当該解雇の理由を記載した証明書の交付をしなければならないこととしたものである」
 22条2項(解雇予告期間中証明書)と22条1項(退職時証明書)との関係 (H15.10.22基発1022001)
@解雇予告期間中に請求した場合は、その日以後解雇以外の事由で退職した場合を除いて、使用者は、解雇予告期間が経過した場合であっても、解雇予告期間中証明書の交付義務を負う。(実際の交付が予告期間中には間に合わない場合であっても、改めて退職時証明書の請求をする必要はない)
A22条2項の解雇予告期間中証明書の規定は、解雇予告の期間中に解雇を予告された労働者から請求があった場合に、使用者は遅滞なく、当該解雇の理由を記載した証明書を交付しなければならないものであるから、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には、適用されないものであること。
 この場合、即時解雇の通知後に労働者が解雇の理由についての証明書を請求した場合には、使用者は22条1項の退職時証明書の規定に基づいて解雇の理由についての証明書の交付義務を負うものと解すべきものであること。
⇒解雇予告の義務がない即時解雇の場合には、1項が適用され、2項は適用されない。
 退職時証明書の請求権発生要件(退職の場合) 労働法コンメンタール「労働基準法上P325」
 「退職の場合とは、労働者の自己退職の場合に限らず、使用者より解雇された場合や契約期間の満了により自動的に契約が終了する場合も含まれ、退職原因の如何を問わない。また、請求の時期は、必ずしも退職と同時に請求しなけれければならないものではない」 
 就業妨害 通達(S22.09.13発基17(ブラックリスト))
 「22条4項は、いわゆるブラックリストの回覧のごとき、予め計画的に就業を妨げることを禁止する趣旨である」
 記載すべき内容
 使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由(解雇の場合はの理由)
 ただし、労働者の請求しない事項は記載してはならない。

 記載すべき内容(補足) 通達(H15.12.26基発1226002)
@退職の事由:自己都合退職、勧奨退職、解雇(解雇の理由も含む)、定年退職、契約期間満了等労働者が身分を失った事由を記入すること。
A解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由とする場合には、就業規則の当該条項の内容および当該条項に該当するに至った事実関係を記入しなければならない。
 なお、解雇された労働者が解雇の事実のみについて使用者に証明書を請求した場合、使用者は。22条3項の規定により、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務があること。
 退職証明の記載禁止事項 通達(22.12.25基発502(禁止事項))
 「22条4項の「国籍、信条云々」は例示であるか。例示であるとすれば例示以外の事項についても、予め第3者とはかり、就業を妨げることを目的としておれば、通信は不可能となるが、例示でないとすれば通信が可能になると解せられる」という問に対し、回答は、
 「22条4項の、「国籍、信条云々は制限列記事項であって例示ではない」
 つまり、列記事項(労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する事項)は禁止である、列記事項以外のものは禁止されていない。
 使用者の交付義務(見解の相違) 通達(H11.3.31基発169( 22条関連)
 「退職時の証明は、労働者が請求した事項についての事実を記載した証明書を遅滞なく交付してはじめて22条1項の義務を履行したものと認められる。
 また、労働者と使用者との間で退職の事由について見解の相違がある場合、使用者が自らの見解を証明書に記載し労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、基本的には労働基準法22条1項違反とはならないものであるが、それが虚偽であった場合(使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合等)には、同項の義務を果たしたことにはならないものと解する」
 使用者の交付義務(回数) 通達(H11.3.31基発169(回数関連))
 「退職時の証明を求める回数については制限はない」
 使用者の交付義務(離職票との関係) 通達(H11.3.31基発169(離職票関連)
 「退職時の証明書は、労働者が次の就職に役立たせる等その用途は労働者に委ねられているが、離職票は公共職業安定所に提出する書類であるため、離職票の交付をもって、退職時の証明書に代えることはできない」
 請求権の時効 通達(H11.3.31基発169(時効関連))
 「退職時の証明を請求できる権利の時効は、115条により、請求できる時から2年間である」