趣旨(解雇制限) 労働法コンメンタール「労働基準法上P271」
「労働基準法は、いわゆる解雇自由の原則については直接修正を加えることなく、ただ、19条において、労働者が解雇後の就業活動に困難を来すような場合に一定の期間について解雇を一時制限し、労働者が生活の脅威を被ることの内容保護している。
すなわち、その解雇制限期間として、労働者が業務上の傷病又は産前産後のため、労働能力を喪失している期間及び労働能力の回復に必要なその後の30日間を掲げている」
⇒使用者が解雇権を有していることを前提とし、労働者がやむなく解雇された場合で、再就職活動に支障をきたす場合(業務上疾病等による休業と産前産後の休業の場合に限る)は、休業期間中とその後の30日間、解雇してはならない。 |
解雇とは
解雇 | 労働契約を解約するという使用者側からの一方的な意思表示による。 |
任意退職 |
労働契約を解約するという労働者側からの一方的な意思表示による。
辞職願を提出したとしても、使用者の有形、無形の圧力によるものであれば、解雇となる場合もある。 |
期間満了 |
契約期間に定めがある場合の期間満了による退職は、解雇ではない。 |
定年 |
就業規則等により、定めた日を以ってその雇用契約は自動的に終了することが明らかであり、かつ、従来からこの規定に基づいて定年に達した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっている場合は解雇の問題は生じない。 ただし、定年制があっても、その通りに実施されない例があって、労働者が引き続き雇用されるものと期待するような状況の場合は、定年であっても解雇とみなされることがある。 |
派遣労働者の場合 通達(S61.6.6基発333(19条関連))
「労働契約と派遣契約は別個のものであり、派遣先による労働者派遣契約の解除について、労基法の解雇に関する規制が適用されることはない。
従って、派遣先が、派遣中の労働者の解雇制限期間中に予告期間なく派遣契約を解除することは労基法上の問題はないが、派遣元の使用者がこの労働者を解雇しようとする場合には、労基法が適用される。つまり、解雇制限中は解雇できず、解雇制限に該当しない場合でも解雇予告あるいは解雇予告手当ての支給が必要である」
育児休業期間中の解雇 通達(H3.12.20基発712)
「現育児・介護休業法10条(及び16条)は、労働者が育児休業(介護休業)申出等をし、若しくは育児休業(介護休業)をしたことを理由とする解雇を制限したものであり、育児休業(介護休業)期間中の解雇を一般的に制限したものではなく、育児休業(介護休業)期間中の労働者を解雇しようとする場合には20条(解雇予告)に規定する手続きが必要である」 |
各種事例 他に就職せしめた場合の解雇手続 通達(S23.5.14基発769(19条関連))
「事業場が赤字のため閉鎖して、労働者を使用者の責任において他の事業場へあっせん就職させた場合でも、任意に退職を申し出ない限り、解雇である」
反復更新された臨時工の事例(S27.2.2基収503)
臨時工について1か月ごとの期限付契約を更新した事例について、「形式的には雇用期間を定めて契約が反復更新されても実質においては期間の定めのない労働関係と認められる場合は、解雇であり、予告を必要とする」
労働契約期間の満了と解雇制限 通達(S63.3.14基発150(19条関係))
「一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引き続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限り、その期間満了とともに終了する。
したがって業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業する期間中の者の労働契約も、その期間満了とともに労働契約は終了する」
定年退職と19条の関係 通達(S26.8.9基収3388)
「就業規則に定めた定年制が労働者の定年に達した翌日を以ってその雇用契約は自動的に終了する旨を定めたことが明らかであり、かつ、従来この規定に基づいて定年に達した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっていて、それが従業員に徹底している限り、解雇の問題は生じない」
定年解雇制 最高裁判例(秋田秋北バス事件(S43.12.25)
・事件のあらすじ;就業規則の変更によって主任以上の従業員にも55歳定年が設けられ(一般従業員は従来より50歳定年)、55歳を過ぎていたある主任従業員が解雇通知を受けた。
これを不服として、本人が同意していない就業規則の変更には拘束されないとして、解雇の無効を訴えた。 ・就業規則に関する判決:「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知つていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである」」
「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労
働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきである」。 ・定年制に関する判決:「およそ停年制は、一般に、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであつて、一般的にいつて、不合理な制度ということはできず、本件就業規則についても、新たに設けられた55歳という停年は、わが国産業界の実情に照らし、かつ、被上告会社の一般職種の労働の停年が50歳と定められているのとの比較権衡からいつても、低きに失するものとはいえない」
・解雇に関する判決:「本件就業規則は、停年に達したことによつて自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる
「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、これに基づく解雇は、労働基準法20条所定の解雇の制限に服すべきものである」
最低年齢に満たない労働者の解雇 通達(S23.10.18基収3102)
「未就学児童が禁止されている労働に従事しているのを発見した場合、これに配置転換その他の措置を講ずるが、その事業場をやめさせねばならない時は、20条1項本文の規定により30日分以上の平均賃金を支払い、即時解雇しなければならない」 |
2.1 業務上負傷・疾病の療養のために休業する期間及びその後30日間の解雇制限 ・業務外の私傷病による休業期間については、解雇制限なし。
・「休業」とは全く就労していないことをいうので、就労しながら通院している場合は休業ではない。
よって、治療中であっても全く休業していない場合は、解雇制限はない。
⇒たとえば、1日だけ休業した場合は、31日後に解雇制限が解除される。
業務上の休業後、完治してはいないが復職した場合(S24.4.12基収1134)
「業務上負傷し又は疾病にかかり療養していた労働者が完全に治癒したのではないが、稼働し得る程度に回復したので出勤し、元の職場で平常通り稼働していたところ、使用者が就業後30日を経過してこの労働者を法20条に定める解雇予告手当を支給して即時解雇した場合、法19条に違反するか」というお伺いに対して、
「設問の場合は、法19条に抵触しない」と回答された。 .⇒無理をして会社に出てくると、ろくなことはない。
ただし、休んでいてもずる休みなどであって、療養のためでない場合はだめである。
解雇予告期間期間中に業務上負傷し又は疾病にかかった場合の解雇(S26.06.25基収2609)
「解雇予告期間満了の直前にその労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業を要する以上は、たとえ1日ないし2日の軽度の負傷又は疾病であっても、法19条の適用がある。
負傷し又は疾病にかかり休業したことによって、前の解雇予告の効力の発生自体は中止されるだけであるから、その休業期間が長期にわたり解雇予告として効力を失うものと認められる場合を除き、治癒した日に改めて解雇予告をする必要はない」 |
2.2 産前産後の期間中に休業する期間及びその後30日間の解雇制限
・産前の休業は請求があった場合に初めて使用者に付与義務が発生する者であるから、労働者が休業せずに就労している場合には、解雇が制限されない。
・産後の休業は、出産日の翌日から8週間が法定の休業期間であるから、これを超えて休業している期間は、19条にいう「休業する期間」には該当しない。
また、産後6週間を経過すれば、請求により就業させることができるが、これにより就業している期間も19条にいう「休業する期間」には該当しない。
従って、その後30日間の起算日は、産後8週間が経過した日、又は産後6週間経過後に請求により就労させている場合は、その就労を開始した日となる。
産前産後休業と解雇制限の関係 通達(S25.06.16基収1526)
「@6週間内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就労している場合は、19条の解雇制限の期間となるか。A女性労働者が私病により所定の手続きの上長期欠勤中解雇しようとしたところ産前の解雇制限期間に入っていたが、65条による休業請求の意思表示が全くなされていなかった場合、解雇できるか」というお伺いに対する回答は、 @6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就業している場合は、19条の解雇制限期間にはならないが、その期間中は女性労働者を解雇することのないよう指導されたい。
A見解のとおりであるが、@と同様に指導されたい。 |
2.3 打切補償による解雇制限の除外 療養補償(75条)
「労働者が業務上負傷し又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」
打切補償(81条) 「75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」
すなわち、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合は、3年以後いつでも、打切補償を行えば、その時から、費用の支払義務はなくなり、解雇制限も解除となる。
労災保険法による代替 ただし、労災保険法の適用がある事業所であれば、
・労働者が傷病補償年金を受けている間は、使用者は療養補償のための費用の支払い義務は猶予される。 ・労災保険法19条「業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合は3年を経過した日に、3年経過日以後において傷病補償年金を受けることとなった場合は受けることとなった日に、
労働基準法19条1項の規定(解雇制限)の適用については、使用者は、81条(打切補償)の規定により打切補償を支払ったものとみなす」ことから、
たとえば療養開始後3年を経過した日に傷病年金を受けている場合は、打切補償は支払われたものとみなされるので、その時から、費用の支払義務はなくなり、解雇制限も解除となる。
打切補償に関する判例 最高裁判例[地位確認等請求反訴事件(H27.06.08)]。 その原審の東京高等裁判所の判決では、
「労働基準法81条(打切補償)は,同法75条(使用者による療養補償)の規定によって補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において,打切補償を行うことができる旨を定めており,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていないこと等からすると,労働基準法の文言上,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に該当するものと解することは困難である」とし、
使用者による療養補償がなされていない場合は、打切補償により解雇は無効とした。
これに対して、最高裁は、 「労働基準法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合には、それによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合とで、労働基準法19条1項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い」として、原判決を破棄し、差し戻しにした。 |
2.4 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったの場合の解雇制限の非適用
・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったの場合」は事業主が勝手に判断してはならず、「解雇予告・解雇制限除外認定申請書」を提出して、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。
やむを得ない事由とは(S63.3.14基発150(やむを得ない事由))
「やむを得ない事由とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意味であり、経営者として、社会通念上採るべき必要な措置をもってしても通常いかんともなし難いような状況をいう」
(1) 次のごとき場合は、これに該当する。
イ:事業場が火災により焼失した場合(ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合を除く)
ロ:震災に伴う工場、事業場等の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合
(2) 次のごとき場合は、これに該当しない。
イ:事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械、資材等を没収された場合
ロ:税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合 ハ:事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合。個人企業で別途に個人財産を有するか否かは本条の認定には直接関係がない。
ニ:従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がないために事業が金融難に陥った場合。 |
法令による解雇の禁止(「不利益な取扱い(解雇を含む)をしないようにしなければならない」という努力義務も含む)
労基法(3条) |
「国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件(解雇を含む)について、差別的取扱解雇してはならない」 |
労基法(19条) |
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間、並びに、産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない。ただし、使用者が、81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない」 |
労基法(104条) |
「労基法又はこれに基づいて発する命令に違反する事実がある場合に、その事実を行政官庁に申告することができるが、この申告をしたことを理由として、解雇してはならない」 |
労基法(施行規則6条の2) |
「3項 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」 |
労基法(38条の4、施行規則24条の2の4) |
「使用者は、労働者を企画型裁量労働制の対象業務に就かせたときは、協定で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと」
「施行規則24条の2の4の6項 使用者は、労働者が労使委員会の委員であること若しくは労使委員会の委員になろうとしたこと又は労使委員会の委員として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」 |
育児介護休業法(10条、16条) |
「事業主は、労働者が育児(介護)休業申出をし、又は育児(介護)休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」 |
男女雇用機会均等法(8条) |
「2項 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない」
「3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労基法による産前・産後の休業の請求し、又は休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
「4項 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」 |
労働組合法(7条) |
「不当労働行為によって解雇してはならない。また、不当労働行為が行われたとして申立てを行ったこと等を理由として、解雇してはならない」 |
個別労働紛争解決法(4条、5条) |
「4条3項 事業主は、労働者が労働局長の助言・指導の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
「5条2項 紛争調整委員会へのあっせんの申請をした場合も同様とする」 |
労働者派遣法(施行規則33条の4) |
「3項 派遣先は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない」 |
雇用保険法(73条) |
「事業主は、労働者が被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認を請求をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」 |
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