基礎講座 労働基準法   Tome塾Homeへ

R13

見なし労働時間制とまとめ

KeyWords  事業場外労働専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制みなし労働時間制のまとめ
 事業場外労働は外回り専門で会社に顔を見せない営業屋さんや新聞記者、専門業務型はしょっちゅう考え込んでいる研究開発屋とかデザイナー、企画業務型は調べもの、議論、会議に時間をつぶしている放送番組企画マン、いずれも仕事をしているのか休んでいるのかサボっているのかわからない。
 そんな人のために見なし労働時間制がある。

1.事業場外労働(38条の2)
 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす
 「2項 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を、同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする」
 「3項 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない」
⇒ 「ただし、協定で定める時間が法定労働時間以下である場合には、届け出ることを要しない」(施行規則24条の2の3項)
 
 趣旨(S63.1.1基発1)
 「事業場外で労働する場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務が増加していることに対応して、当該業務における労働時間の算定が適切に行われるように法制度を整備したものである」
⇒ 外回り営業で、鉄砲玉が飛んだように出ていったきり電話もよこさず帰ってこない。仕事をしているのか、サボっているのか、時間が把握できないので、このままでは時間外もつけようがない。
⇒ 労使協定によって定めた時間、労働したものとみなすことにする。
⇒ 労使協定によって定めた時間が法定労働時間を超えるときは、労働基準監督署長に届出るとともに、超過分について割増賃金を支払う。
 事業外労働の範囲(S63.1.1基発1)
 「事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること。従って、次の場合は適用しない。
 @グループで事業場外労働に従事する場合で、メンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
 A事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等(今風にいえば携帯電話)によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
 B事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示通りに業務に従事し、その後事業場にもどる場合」
 ITを活用した在宅勤務の場合(H16.3.5基発0305001)
 「次のいずれの要件をも満たす形態で行われるIT機器を用いた在宅勤務については、事業場外労働に関するみなし労働時間制適用される。
 @当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われており、
 A当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされておらず、
 B当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない」
 事業場内と事業場外労働が混在するとき(S63.3.14基発150)
 「みなし労働時間制による労働時間の算定の対象となるのは、事業場外で業務に従事した部分であり、労使協定についても、この部分について協定する。事業場内で労働した時間については別途把握しなければならない。そして、労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、みなし労働時間制によって算定される事業場外で業務に従事した(とみなされる)時間と、別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる」  

2.専門業務型裁量労働制(38条の3)
 「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第1号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第2号に掲げる時間労働したものとみなす」
1  業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(対象業務)
2  対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
3  対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
4  対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
5  対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること
6  前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
1  協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む)の有効期間の定め 
⇒ 3年以内とすることが望ましい。
2  次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存すること。
 労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置
 労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置

 「2項 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない」 
 
 対象業務
 専門業務型裁量労働制の対象となるのは、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務である。
 「各事業場における業務の実態、その遂行方法等は千差万別であるので、厚生労働省令で定めた業務のうち具体的にどのようなものについて本制度を適用するかについては、各事業場における業務の実態等について熟知している労使間で協議し、労使協定で定めること」(H12.1.1基発1)
 健康及び福祉を確保するための措置・苦情処理に関する措置
 「専門業務型裁量労働制の適用を受けている労働者について、健康上の不安を感じている労働者が多いなどの現状があることから、裁量労働制が働きすぎにつながることのないよう、専門業務型裁量労働制についても、企画業務型裁量労働制と同様に、労使協定により、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の導入を必要とすることにした」(H15.10.22基発1022001)
 プロジェクトチーム
 「数人でプロジェクトチームを組んで開発業務を行っている場合、実際上、そのチーフの管理の下に業務遂行、時間配分が行なわれている者は、専門業務型裁量労働制に該当しない」(S12.1.1基発1)

3.企画業務型裁量労働制(38条の4)
 「@賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする労使委員会が設置された事業場において、
 A当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により、次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、
 B使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、
 C第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における1号に掲げる業務に就かせたときは、
 当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、3号に掲げる時間労働したものとみなす」
 5分の4とは、労使委員会に出席した委員の5分の4である。
1  対象業務:事業の運営に関する事項についての企画立案調査及び分析の業務であって、業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務
2  労働者の範囲:対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であって、対象業務に就かせたときは、決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
3  労働時間:対象業務に従事する労働者の、労働時間として算定される時間
4  健康・福祉:対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた、労働者の健康及び福祉を確保するための措置を、決議で定めるところにより使用者が講ずること。
5  苦情処理:対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を、決議で定めるところにより使用者が講ずること。
6  同意:使用者は、労働者を対象業務に就かせたときは、3号に掲げる時間労働したものとみなすことについて、労働者の同意を得なければならないこと、及び同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
7  その他:前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項(@決議の有効期間(3年以内が望ましい)、A労働者ごとの労働時間状況、健康及び福祉の確保措置、苦情処理の措置に関する記録を、決議の有効期間+3年間保存)
 
 
 趣旨 通達(H11.1.29基発45(裁量労働制の趣旨))
 「経済社会の構造変化や労働者の就業意識の変化等が進む中で、活力ある経済社会を実現していくためには、事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮し得る環境づくりをすることが必要である。また、労働者の側にも、自らの知識、技術や創造的な能力をいかし、仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働きたいという意識が高まっており、こうした状況に対応した新たな働き方のルールを設定することが重要である。
 このような考え方から、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社等の中枢部門において、企画、立案、調査及び分析を行う事務系労働者であって、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、使用者から具体的な指示を受けない者を対象とする新たな裁量労働制を設けることとした」
労働条件の最低基準を定め、労働者を保護するという労基法の原点からすると違和感もあるが、企画部門等で働く労働者の過労や健康不安も結構深刻化しつつあるのである。
 対象事業場
  当初は本社など「事業運営上の重要な決定がが行われる事業場」に限られていたが、平成15年の改正で「労使委員会が設置された事業場」となり、 対象事業場が非常にわかりにくくなった。
 「労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(厚生労働省告示353号(H15.1.22)によると、
 「対象事業場とは対象業務が存在する事業場であり、具体的に次に掲げる事業場である。
 (1)本社・本店である事業場
 (2)その他にあっては次に掲げる事業場
 イ 全社台での事業運営に大きな影響をを及ぼす決定が行われる事業場(例えば、主要製品・サービスについての事業計画の決定を行う事業本部、主要地域における生産、販売等の事業計画・営業計画の決定を行う地域本社・支社、本社・本店の具体的な指示を受けることなく独自に事業計画の決定を行う主要工場など)
 ロ 本社・本店の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場の事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行う支社・支店等」(抜粋)
 対象業務
 
「次のいずれにも該当するものであること。
 @事業の運営に関する事項についての業務であること、
 A企画、立案、調査及び分析の業務であること、
 Bその性質上、適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること(H15.12.26基発1226002)
 適用期間
 「通常は非対象業務に従事している労働者が、特定の期間(例えばプロジェクトを組む場合)に限り対象業務に常態として従事することとなる場合、決議の有効期間内であれば、短期間であろうと長期間であろうと適用可能である」(H12.3.28基発180)
 派遣労働者への適用
 「労働者派遣法44条(労働基準法の適用に関する特例)に38条の4に関する規定がない以上、派遣労働者に企画業務型裁量労働制を適用することはできない」(H12.3.28基発180) 
 労働時間
 「1日についての対象労働者の労働時間数を具体的に定めること」(H15.12.26基発1226002)
⇒ フレックスタイム制においては、清算期間内における総労働時間数
 健康及び福祉を確保するための措置
 企画業務型裁量労働制で一番問題になるのは、自らの意思とはいいながらも働きすぎになったり、あるいは間接的に長時間労働を強いられることになりはせぬかということである。
 よって、次のいずれにも該当する措置を講ずることと、その結果を報告することが要求されている。
1  対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法として、対象事業場の実態に応じて適当なものを具体的に明らかにしていること。
 その方法としては、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供しうる状態にあったか等をあきらかにしうる出退勤時刻または入退室時刻の記録等によるものであること。
2  上記により把握した勤務状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること。
 対象労働者からの苦情処理に関する措置
 苦情の申出の窓口及び担当者、取扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにするものであることが必要である。

 
3' 労使委員会(38条の4のつづき)
 「2項 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない」
1  当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に任期を定めて指名されていること
⇒ 監督・管理の地位にある者はだめ
⇒ 代理出席はだめ。
2  当該委員会の議事について、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること
⇒ 決議に係る書面の完結の日から起算して3年間保存
3

 前2号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件 


 「3項 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、1項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする」
 「4項 1の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項4号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない」
⇒ 決議が行われた日から起算して6か月以内に1回及びその後1年以内ごとに1回(ただし当面は、6か月以内毎に1回)、労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況について労働基準監督署長に報告
 「5項 労使委員会においてその委員の5分の4以上の多数により決議されたときは、その決議は、以下のものについての労使協定と同等の効果を有する」
⇒ 「労使委員会と、労使協定の締結当事者となり得る労働組合又は過半数代表者との関係を明らかにしておくため、これらと協議の上、労使委員会が特定条項のうち労使協定に代えて決議を行うこととする規定の範囲を運営規程で定めておくことが適当であることに留意することが必要である」(指針より抜粋)
⇒ 「労使協定と労使委員会の決議が競合した場合、時間的に後で締結または決議されたものが優先される」(H12.3.28基発180)
 
 労使委員会と労働時間等設定改善委員会の関係
 「適正な手続きを踏んだ上で労働時間等設定改善委員会の委員全員が労使委員会の委員となって両委員会の委員を兼ねることにより、実質上労働時間等設定改善委員会が労使委員会を兼ねることは可能である。両委員会はそれぞれ異なった法律に基づくものであって、目的、構成も異なる全く別個のものである」(H12.1.1基発1)
⇒ 全く別個のものであるから、調整の余地はないし、調整する必要もない。

 見なし労働時間制のまとめ(共通事項)
 
 みなし労働時間制の適用範囲
 「みなし労働時間制に関する規定は、6章の年少者及び6章の2の妊産婦等の労働時間に関する規定に係る労働時間の算定については適用されない」
⇒ 年少者及び妊産婦については、きちんと労働時間を把握し、年少者は原則、妊産婦は請求した場合には法定労働時間を超えることがないようにする。
 「みなし労働時間制に関する規定が適用される場合であっても、休憩、深夜業、休日に関する規定の適用は排除されない」(以上S63.1.1基発1など)
 労使協定の締結当事者
 「労働者側の当事者は、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ないときは労働者の過半数を代表するものであるが、この労使協定は業務の実態に即して労働時間の算定が行われるようにするものであるから、当該業務に従事している者の意見を聞いたうえで、労使間で協議されることが望ましい」(労働基準法上、労働法コンメンタールP527)