歴史的経緯:
大正5年施工の「工場法」では、15歳未満の児童および女子について、1日の労働時間を休憩時間を含めた拘束で12時間に制限するもののそれら以外の者には原則として、制限がなかった。その後、昭和14年に1日最長で12時間となり、戦後の昭和22年、労基法の制定によって、ようやく1日8時間、1週48時間が実現された(法的にという意味である。なお、1日8時間かつ1週48時間は、大正8年の国際労働機関第1回総会で採択されており、
当時から一つの目標になっていた)
その後、昭和62年から段階的に週40時間労働制へ移行することが規定され、平成6年4月からは、「原則、週40時間労働制」が確立された。その後、猶予措置はなくなり、現在では一部特例の事業場を除いて全面適用となっている」(労働法コンメンタール労働基準法上巻387から388ページ) |
1.1 1週間とは、1日とは(S63.1.1基発1号)
「1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までとする。 また、1日とは、原則として午前0時から午後12時までをいう。ただし、継続勤務が2暦日にわたる場合には1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする」)
日本では不思議なことに、週は日曜日から始まる。外国人に「今週の日曜日、先週の日曜日」というときは、注意しないと1週間ずれることがある。(Tomeさんの経験談) |
1.2 1週40時間とは
いずれの7日間をとっても40時間という意味ではなく、就業規則等で定めた1週間、そうでない場合は日曜日から土曜日までの1週間で40時間である。 |
1.3 労働させるとは
労働法コンメンタール労働基準法上巻
「一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはせず、従って、貨物取扱いの事業場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が2名乗り込んで交代で運転に当たる場合において運転しないものが助手席で休息し、又は仮眠しているときであってもそれは労働であり、その状態にある時間(手待時間)は労働時間である」
来客当番 (S23.4.7基収1196)
「休憩時間に来客当番として待機させていれば、それは労働時間である」
「昼食休憩時間中に来客当番で待機させていたならば、別途休憩を与えることを要する。また、来客当番としての労働時間と他の労働時間とを通算し、1日8時間または週の法定時間を超える場合は、割増賃金支払いの義務が生じる」
黙示の指示 (S25.9.14基収2983)
「教員が使用者の明白な超過勤務の指示により、又は使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合のごとく、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる」 ⇒ 教員は例であって、他の労働者にも適用される。
⇒ 現実に作業を行う時間のほか、作業前に行う準備や作業後の跡片付け、掃除等であっても、使用者の明示又は黙示の指揮命令下に行われている限り、労働時間である。
教育・研修 就業期間外の教育訓練 通達(S26,1.20基収2875)
「使用者が自由意志によって行う労働者の技術水準向上のための技術教育を、所定就業時間外に実施した時間は労働時間とみなされるか」というお伺いに対し、
「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」とある。
⇒いわゆる研修も同じ。
すなわち、研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給などの不利益処分の対象とされたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育であっても、労働時間に該当する。(法定労働時間を超えれば時間外労働となる)
厚生労働省・都道府県労働基準監督署ホームページ「労働時間の考え方:研修・教育訓練」等の取扱い」によると、
@労働時間に該当しない事例
・就業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの、参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取扱いもしない。
・労働者が、会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練
・会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習。なお、英会話は業務とは関連性がない。
A労働時間に該当しない事例(下線に注意) ・使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど
実質的な業務指示で参加する研修 ・自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ、実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学
労働安全衛生関係 詳細は通達(S47.9.18基発602)を
@安全衛生教育
・雇入れ時・作業内容変更時等の教育、新任職長等の教育は、事業者の責任において実施されなければならないものであり、所定労働時間内に行うのを原則とすること。また、その実施に要する時間は労働時間と解されるので、法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならない。
A安全衛生委員会
・会議に要する時間は労働時間と解されること。従って、法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならない。
B一般健康診断
・事業者にその実施義務を課したもので、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間・賃金は、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、事業者が支払うことが望ましい。
C特別項目の健康診断(特殊健康診断)
・事業の遂行に絡んで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、実施に要する時間は労働時間と解されるので、時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならない。 |
任意に出勤して行った消火作業時間 (S23.10.23基収3141)
「事業場に火災が発生した場合、既に帰宅している所属労働者が任意に事業場に出勤し消火作業に従事した時間は、労働時間と解してよいか」というお伺いに対し、回答は、「一般に貴見の通り」とある。
⇒自分の所属する事業場で発生した火災に対する消化作業であるから、業務上必要な行為でもあり、使用者の指揮命令下に置かれた状態ではないが、使用者に賃金支払い義務が発生するという意味で、労働時間とすることが相当と思われる。) |
深夜労働(H11.3.31基発168(41条関連))
「41条は労働時間、休憩及び休日の規定を適用除外としているものであり、深夜業の関係規定は適用が除外されるものでない。従って、本条により労働時間等の適用除外を受ける者であっても、37条4項に定める深夜時間帯に労働させる場合は、深夜業の割増賃金を支払わなければならない。
ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には、別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない」 |
年次有給休暇(S22.11.26 基発389)
「法41条該当者にも法39条(年次有給休暇)の適用がある」 |
妊産婦の時間外労働の制限と管理監督者(S61.03.20基発151)
「妊産婦のうち、法41条に該当する者については、労働時間に関する規定が適用されないため、法66条1項と2項(時間外労働、休日労働の制限)の規定は適用の余地がないが、3項(深夜業の制限)の規定は適用され、これらの者が請求したした場合には、その範囲で深夜業が制限されるものであること」 |
監督・管理者(S63.3.14基発150)
「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。
具体的な判断に当たっては、下記の考え方によられたい。
(1)原則
職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取り扱いが認められるものでないこと。
(2)適用除外の趣旨
労働時間、休憩、休日等の規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として、41条による適用の除外が認められる趣旨であること。
(3)実態に基づく判断
一般に、企業においては、職の内容と権限等に応じた地位(職位)と経験、能力等に基づく格付(資格)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
(4)待遇に対する留意
管理監督者であるか否かの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視しえないものであること。
この場合、定期給与である基本給、役付手当などにおいて、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意すること。
なお、一般労働者に比し優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものでないこと。
(5)スタッフ職の取扱い
スタッフ職については、企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠ける恐れがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、適用除外者として取扱うことが妥当と考えられる」
日本マクドナルド事件
(H20.01.28東京地裁) @経緯:
ハンバーガー販売会社であるY社は、就業規則において店長以上の職位の従業員を労基法41条2号の管理監督者として扱っているところ、直営店の店長であるXが、同条の管理監督者には該当しないとしてY社に対して過去2年分の割増賃金の支払等を求め、提訴した。
A判決文の主要部分 「管理監督者については,
労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが, これは, 管理監督者は, 企業経営上の必要から,
経営者との一体的な立場において,
同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、
また、 賃金等の待遇やその動務態樣において、 他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、
労働時間等に関する規定の適用を除外されても, 上記の基本原則に反するような事態が避けられ,
当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
原告が管理監督者に当たるといえるためには,
実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められなければならない」 B結果
東京地裁は、管理監督者に当たるとは認められず、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである。その理由は、
・店長は、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、その職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
・
店長は、店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないというY社の勤務態勢上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされ、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
・
店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては十分であるといい難い。 |
機密の事務を取扱う者(S22.9.13発基17)
「秘書その他職務が経営者又は監督・管理者の活動と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまないものであること」
秘書は、料亭における重要な打合せ?に同席
したり、待機していなければならないことが多いが、これらは時間外労働ではないのだ。必ずしも会社の人事の秘密を知っているからではない。(これは監督・管理者) |
監視又は断続的労働
監視に従事する者の許可基準 通達(S23.3.17基発464監視)
「監視に従事する者は、原則として、一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないものについて許可する。
したがって、次のようなものは許可しないこと。 ・交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等精神的緊張の高い業務
・プラント等における計器類を常態として監視する業務 ・危険又は有毒な場所での業務
断続的労働に従事する者の許可基準 通達(S22.9.13発基17断続)
「断続的労働に従事する者とは、休憩時間は少ないが手待時間が多い者の意であり、その許可は概ね次の基準によって取り扱うこと。
・修繕係等通常は業務閑散であるが、事故発生に備えて待機するものは許可すること。 ・寄宿舎の賄人等については、その者の勤務時間を基礎として作業時間と手待時間折半の程度まで許可すること。ただし、実労働時間の合計が8時間を超えるときは許可すべき限りではない。
・鉄道踏切番等については、1日交通量10往復程度まで許可すること。
・その他特に危険な業務に従事する者については許可しないこと。 寮母や役員専属の自動車運転手なども許可になるであろうが、タクシー運転手は認められない。 |
断続的な宿直・日直 断続的な宿直又は日直勤務(施行規則23条)
「使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、32条の規定にかかわらず、使用することができる」
施行規則23条の根拠 通達(S23.3.17基発464(施行規則23条関連))
「施行規則23条は法41条3号の規定に基づくものである」
断続的な宿直又は日直勤務の許可基準 通達(S22.9.13発基17(許可基準))
「施行規則23条に基づき、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないこととしたものであるから、その許可は、労働者保護の観点から、厳格な判断のもとに行われるべきものである。宿直又は日直の許可にあたっての基準は概ね次のとおりである。
(@常態としてほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機などを目的とするものに限って許可するものであること。
A原則として、通常の労働からの継続は許可しないこと。
B宿直(日直)勤務1回についての宿直(日直)手当の最低額は、当該事業場において宿直(日直)の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金(37条の割増賃金の基礎となる賃金に限る)の1人1日の平均額の3分の1を下回らないこと
C宿直は週1回、日直は月1回を限度とすること。(例外もある)
医師、看護師等の宿直 通達(S24.03.22基発352、H11.03.31基発168)を参照のこと。
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多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について 通達(H20.09,09基発0909001)
「小売業、飲食業等において、いわゆるチェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗においては、店長等の少数の正社員と多数のアルバイト・パート等により運営されている実態がみられるが、この店舗の店長等については、十分な権限、相応の待遇等が与えられていないにもかかわらず労働基準法41条2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)として取り扱われるなど不適切な事案も見られるとろである。
店舗の店長等が管理監督者に該当するか否かについては、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断することとなるが、今般、店舗の店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素について、店舗における実態を踏まえ、最近の裁判例も参考として、下記のとおり整理したところである。
ついては、これらの要素も踏まえて判断することにより、店舗における管理監督者の範囲の適正化を図られたい。
なお、下記に整理した内容は、いずれも管理監督者性を否定する要素に係るものであるが、これらの否定要素が認められない場合であっても、直ちに管理監督者性が肯定されることになるものではないことに留意されたい。(以下要旨)
(1)職務内容、責任と権限についての判断要素
・店舗に所属するアルバイト・パート等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
・店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
・人事考課の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
・店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。 (2)勤務態様についての判断要素
・遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
・営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
・管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3)賃金等の待遇についての判断要素
・基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
・一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
・実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。 |