S04

発展講座 労働者災害補償保険法

 通勤災害の認定(その1)

KeyWords   通勤とは、通勤災害の認定(通勤による就業に関し) 続きはこちらをrousai4A.htm

 通勤災害は昭和48年の労災保険法改正(12月1日施行)により実現した。もともと、労基法にいう事業主の災害補償義務には該当しないが、「通勤災害の発生状況及び通勤と業務との密接な関係等にかんがみ、業務災害の場合に準じた保護を与えることが適切である」との考え方に基づく。
 平成18年度からは、法改正により、通勤災害の対象範囲が広がった。要注意である。
 
1.通勤とは(7条2項)
 「通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」
@  住居と就業の場所との間の往復
A  厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
B  第1号に掲げる往復に先行し又は後続する、住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)
  
 厚生労働省令で定める就業の場所
@  労災保険関係が成立している適用事業所、暫定任意適用事業に係る就業の場所
A  特別加入により労働者とみなされる者にかかる就業の場所
B  その他、前2号に類する就業の場所
 注 第1の事業場から第2の事業場への移動中の災害については、第2の事業場の賃金に基づいて給付基礎日額を計算し、第2の事業場の保険関係により処理される。
 つまり、第2の事業場について労災の保険関係が成立していないといけないのは当然であるが、この条項は、第1の事業場についても保険関係が成立していないといけないことを意味する。
 厚生労働省令で定める要件(施行規則7条)
(1) 転任に伴い、転任直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、配偶者と別居することとなつたもの。
@  配偶者が、要介護状態*1にある労働者又は配偶者の父母又は親族*2を介護すること。
A  配偶者が、学校等に在学し、保育所若しくは幼保連携型認定こども園に通い、又は職業訓練を受けている同居の子(18歳到達年度末までの子)を養育すること。
B  配偶者が、引き続き就業すること。
C  配偶者が、労働者又は配偶者の所有する住宅を管理するため、引き続き当該住宅に居住すること。
D  その他、配偶者が労働者と同居できないと認められる@からCまでに類する事情

(2) 転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している子と別居することとなつたもの(配偶者がないものに限る)
@  当該子が要介護状態にあり、引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。
A  当該子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子に限る)が学校等に在学し、保育所若しくは幼保連携型認定こども園に通い、又は職業訓練を受けていること。
B  当該子が労働者と同居できないと認められる@又はAに類する事情

(3) 転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している当該労働者の父母又は親族(要介護状態にあり、かつ、当該労働者が介護していた父母又は親族に限る)と別居することとなつたもの(配偶者及び子がないものに限る)
@  当該父母又は親族が、引き続き当該転任直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。 
A  父母又は親族が、労働者と同居できないと認められる@に類する事情

(4)その他前3号に類する労働者
*1:「要介護状態とは負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」
*2:「親族とは、祖父母、孫、兄弟姉妹」
2. 通勤
(1)
通勤による」の意義: 通達(S48.11.22基収644号)の1、H18.03.31基発0331042)の1)
 「通勤による」とは、通勤と相当因果関係のあること、つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう」
@具体的には、通勤の途中において、自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合等、一般に通勤中に発生した災害は通勤によるものと認められる。
Aしかし、自殺の場合、その他被災者の故意によって生じた災害、通勤の途中で怨恨をもってけんかをしかけて負傷した場合などは、通勤をしていることが原因となって災害が発生したものではないので、通勤災害とは認められない。
(2)就業に関し」の意義:(通達(S48.11.22基収644号)の2H18.03.31基発0331042)の2)
「「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行なわれるものであることを要する。つまり、通勤と認められるには、移動行為が業務と密接な関連を持って行なわれることを要することを示すものである。
@まず、労働者が、業務に従事することになっていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが、問題となる。
・この場合に所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うことが業務であることはいうまでもない。また、事業主の命によって物品を届けに行く場合にも、これが業務となる。
・また、このような本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる。さらに、事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる。
・逆に、このような事情のない場合、例えば、休日に会社の運動施設を利用しに行く場合はもとより会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない。ただし、そのような会社のレクリエーション行事であっても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となる。また、事業主の命によって労働者が拘束されないような同僚との懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない。
A出勤の就業との関連性についてであるが、所定の就業日に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業場所へ向かう場合は、寝過ごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても、就業との関連性があることはもちろんである。他方、
・午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合や 
・第2の就業場所にその所定の就業開始時刻と著しくかけ離れた時刻に出勤する場合には、
 当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられるので、就業との関連性はないと認められる。
・なお、日々雇用される労働者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際のいわゆる出勤は、就業との関連性が認められるし、また公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に、紹介先へ向かう場合で、その事業で就業することが見込まれるときも、就業との関連性を認めることができる。
 しかし、公共職業安定所等へ行く行為は、未だ就業できるかどうか確実でない段階にあり、職業紹介を受けるための行為であって、就業のための出勤行為であるとはいえない」
B退勤の場合においても、終業後直ちに住居へ向かう場合は問題がない。
・また、所定の就業時間終了前に早退をするような場合であっても、その日の業務を終了して帰るものと考えられるので、就業との関連性を認められる。
Cなお、通勤は1日について1回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があって帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連を認められる。
Dまた、業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的な関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めても差し支えない。
E7条2項3号の住居間移動における赴任先住居から帰省先住居への移動の場合であるが、実態等を踏まえて、業務に従事した当日又はその翌日に行われた場合は、就業との関連性を認めて差し支えない。ただし、翌々日以後に行われた場合は、交通機関の状況等の合理的理由があるときに限り、就業との関連性が認められる」

(3) 業務の性質を有するもの」の意義通達(S48.11.22基収644号)の3H18.03.31基発0331042)の3)
 
「「業務の性質を有するもの」とは、当該移動による災害が業務災害と解されるものをいう。
 具体例としては、事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤、突発的事故等による緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する場合がこれにあたる」
(4) 住居」の意義通達(S48.11.22基収644号)の4H18.03.31基発0331042)の4)
@7条2項1号の「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところを指すものである。
・したがって、就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居である。
・さらに通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる。
・また、長時間の残業や、早出出勤及び新規赴任、転勤のため等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めて差し支えない。
・逆に、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっているものではないので、住居とは認められない。
・なお、転任等のやむを得ない事情のために同居していた配偶者と別居して単身で生活する者や家庭生活の維持という観点から自宅を本人の生活の本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者にとっての家族の住む家屋については、当該家屋と就業の場所との間を往復する行為に反復・継続性が認められるときは住居と認めて差し支えない。
A7条2項3号の通勤における赴任先住居とは、@の住居の考え方と同様に、労働者が日常生活の用に供している家族等の場所で本人の就業のための拠点となるところを指すものである。
・また、同号の通勤における帰省先住居についても、当該帰省先住居への移動に反復・継続性が認められることが必要である。
・さらに、施行規則第7条1号イにおける労働者又は配偶者の父母の居住している場所についても、反復・継続性が認められる場合は「住居」と認められる。
⇒別の部屋を借りて早出や深夜帰宅時には利用する、単身赴任先にも住居を借りる場合などは、自宅と含めて両方が住居。ストや台風時などで一時的にホテル等に泊まる場合は、そのホテル等が住居。  
(5) 合理的な経路及び方法」の意義 通達(S48.11.22基収644号)の5H18.03.31基発0331042)の5)
 「「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。
(5-1)経路については、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。
タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。
・経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。
・他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。
・逆に、上に述べたところから明らかなように、特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことはいうまでもない。また、経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない。
(5-2)方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。
・しかし、例えば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められない。
・なお、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。 
⇒「鉄道、バスなどの公共交通機関の利用、自動車、自転車等の使用、徒歩など、通常用いられる交通方法は、当該労働が平常用いているか否かにかかわらず、一般に合理的な方法と認められる」
(6) 就業の場所」の意義通達(S48.11.22基収644号)の6H18.03.31基発0331042)の6)
 「「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいう。
・具体的な就業の場所には、本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたることとなる。
・なお、外勤業務に従事する労働者で、特定地域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる」
 通勤災害の範囲についての改正に係る留意事項(H18.03.31基労管0331001、基労補発0331003)
(1)就業に関し」の意義における「就業開始時刻との関係」:
 「「所定就業開始時刻とかけ離れた時刻」とは、従来どうりの概ね2時間を超えたものとするが、
 第2の就業場所に「所定の就業開始時刻と著しくかけ離れた時刻」に出勤する場合には、第1の事業場における就業終了時刻等によりやむを得ない事情によることがあるから、概ね2時間よりも長時間であっても差支えないものとする。。
(2)「住居」の意義における「反復・継続性」
 「「反復・継続性」とは、おおむね毎月1回以上の往復行為又は移動がある場合に認められるものであること。ここで、おおむね毎月1回以上とは、原則として被災日を含む月以前3か月間について、毎月1回以上行っている場合をいうものとする」
(3)出張の機会を利用して、その前後に自宅に立ち寄る行為
 「出張の機会を利用して出張期間内において、出張先に赴く前後に自宅に立ち寄る行為については、従来どうり、当該立ち寄る行為が、出張経路を著しく逸脱していないと認められる限り、原則として、通常の出張の場合と同様、業務として取り扱うこと」

(7) 逸脱・中断」等の意義 通達(S48.11.22基収644号)の7H18.03.31基発0331042)の7他)
(7-1)「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、
 「中断」とは通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。
 具体的には、途中で麻雀を行う場合、映画館に入いる場合、バー、キャバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたってベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合がこれに該当する。
(7-2)ささいな行為  通達(S48.11.22基収644号)の7-2
・経路の近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジュースの立飲みをする場合、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合、経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄って極く短時間手相や人相をみてもらう場合等のように通常経路の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱、中断に該当しない。
・ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合や、経路からはずれ又は門戸を構えた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合等は、逸脱、中断に該当する。
(7-3)日用品の購入等をやむを得ない事由により最少限度の範囲で行う場合 通達(S48.11.22基収644号)の7-3) (施行規則8条参照のこと)
 逸脱、中断の間及びその後の移動は原則として通勤とは認められないが、当該逸脱・中断が日用品の購入その他これに準ずる行為等をやむを得ない事由により最少限度の範囲で行う場合には、当該逸脱、中断の後、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされている。
・「やむを得ない事由により」とは、日常生活の必要のあることをいい、「最少限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間、距離等をいう。
・「日用品の購入その他これに準ずる行為」(施行規則8条@)とは、具体的には、帰途で惣菜等を購入する場合、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合等がこれに該当する。
 また、7条2項2号の通勤(事業所間の移動)では、これらに加え、次の就業場所の始業時間との関係から食事に立ち寄る場合、図書館等における業務に必要な情報収集等を行う場合等も含み、
 同項3号の通勤(住居と就業場所間の往復に先行あるいは後続する移動)では、長距離を移動するために食事に立ち寄る場合やマイカー通勤のための仮眠を取る場合等も該当するものとする。
 これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」(施行規則8条Aとは、専修学校における教育がこれに該当する。
 なお、労働法コンメンタール「労働者災害補償保険法8訂新版P208-209)によると、「職業訓練とは、国・都道府県及び市町村ならびに独立行政法人雇用・能力開発機構が設置する職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発促進センター及び障害者職業能力開発校において、行われる職業訓練」
 また、「これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するもの」としては、専修学校における教育がこれに該当する。
 各種学校における教育については、就業期間が1年以上であって、課程の内容が一般的に職業に必要な技術、例えば、工業、医療、栄養士、調理師、理容師、美容師、保育士、商業経理、和洋裁等に必要な技術を教授するもの(茶道、華道等の課程又は自動車教習所若しくはいわゆる予備校の課程はこれに該当しないものとして取り扱う)は、これに該当するものとして取り扱うこと」とある。
・「選挙権の行使その他これに準ずる行為」(施行規則8条B」とは、具体的には、選挙権の行使、最高裁判所裁判官の国民審査権の行使、住民の直接請求権の行使等がこれに該当する。
・「病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為」(施行規則8条C)とは、病院又は診療所において通常の医療を受ける行為に限らず、人工透析など比較的長時間を要する医療を受けることも含んでいる。また、施術所において、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける行為もこれに該当する。
・「要介護状態にある配偶者等の介護」(施行規則8条Dとは、例えば、定期的に、帰宅途中一定時間父の介護を行うため父と同居している兄宅を立ち寄る場合等が該当する。
 「継続的に又は反復して」とは、例えば毎日あるいは1週間に数回など労働者が日常的に介護を行う場合をいい、初めて介護を行った場合は、客観的にみてその後も継続的に行うことが予定されていればこれに該当する。
 念のため、*1:「要介護状態とは負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」
  日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定める行為は次の通りとする」(施行規則8条)
@  日用品の購入その他これに準ずる行為
A  職業能力開発促進法に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校含む)、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
B  選挙権の行使その他これに準ずる行為
C  病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
D   要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る)
 

 
3.通勤災害の認定
3.1 通勤による
3.1.1 ひったくり(S49.3.4基収69)
 「被災労働者は、当日午後6時5分ごろ業務を終え、午後6時10分頃退社し、地下鉄、私鉄を乗り継ぎ、自宅最寄りの駅で下車して徒歩で帰宅する途中、駅から400メートル程の道路上にさしかかったところ、 後方から進行してきた自動車(道路の左側に停車していて、被災労働者が通り過ぎた直後に発進したもの)により、ハンドバックと革袋をひったくられ、その際、当該自動車に接触、転倒して負傷した。被災現場は、駅から徒歩で約5分の地点の道路上で、5メートル位手前に水銀灯が一本立っているが、周りはホウレン草畑であり、左側の奥に農家が一軒あるだけで夜は非常に寂しい場所であった」
 「回答 通勤災害である。その理由は、本件のごとく、当該被災労働者が女性であって、大都市周辺の寂しいところに住居を有し、かつ午後8時30分頃という時簡に退勤する場合、その途上で「ひったくり」にあうことは、一般に発生しうる危険である。
 また、「ひったくり」の場合に、自動車による接触、転倒負傷することも一般にあり得ること。すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる」
3.1.1’帰宅途中暴漢に襲われ(S49.06.19基収1276)
 「キャバレーに勤務する被災労働者は、午後11時40分頃、業務を終えて帰宅する途中、地下街入口の階段付近の暗いところで、突然暴漢におそわれ、後頭部を棒のようなもので殴打され負傷し、その際ポケットから財布を抜きとられたものである。襲われた場所は、大阪市にある地下商店街で商店が閉店した後は人通りもほとんどなく、わずかに地下鉄駅へ向かう人が通るだけのところであった」
 これに対する回答は、「通勤災害と認められる。その理由は、本件については、いわゆる粗暴犯の発生が多いため、警察の街頭活動強化地区として指定されている場所で災害が発生しており、かかる地域を深夜退勤する途上において、強盗や恐喝等に出会い、その結果負傷することも通常考え得ることである。しかも、当該災害が被災労働者の挑発行為等、恣意的行為により生じたものではなく、また、当事者間に怨恨関係があるとする特別な事情なども見いだせないことから、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる」
3.1.2 美容院立ち寄り時に山崩れ(S50.1.17基収3680)
 「被災当日、K地方は集中豪雨があり、被災労働者は道路が崩壊の恐れがあること、姉Sが経営するK美容室の裏のがけ崩れの危険もあるので、いっしょに早く帰ろうと思い、上司の許可を得て、午後4時30分早退し、自家用自動車を運転し帰途についた。
 勤務先から1.4km離れた通勤経路上にあるK美容室に、午後4時35分頃到着、美容室前の通路が駐車禁止になっているため、前の空地に停車、そこから歩いて美容室に入って間もなく(約4,5分)、裏の地山の一部が崩壊し、美容室の建物は全壊し、その際姉とともに建物の下敷きとなって即死した」
 「回答 通勤災害。
 マイカー通勤者が、通常、退勤途中において通勤経路上にある美容院に立ち寄り、姉を同乗させ帰宅するために待つ行為は、通勤の中断に該当する(自分の美容のためではないため)。よってその後は、通勤とは認められない。しかし、被災当日についてだけいえば、集中豪雨のため道路が崩壊する恐れがあったこと、美容院の裏のがけ崩れの危険性から姉を同乗させて帰宅しようと早退していること、災害が美容室に入った直後(約4,5分)に発生していることなどを考慮すると、一般に労働者が通勤の途中で行なう「ささいな行為」として取り扱うのが相当である。
 次に、本件災害が「通勤」によるかどうかであるが、この通勤経路及び美容院は「シラス」と呼ばれる、雨に対しては極めて軟弱な土質の上に盛り土をした崖下にあり、一般にこのような場所を通勤する労働者にとっては、雨が降れば常に土砂崩壊による災害を蒙る危険が内在しているといえる。よって、本件は通勤に伴う危険が具体化したものと認められる」
3.1.3 大雨のため浸水した道路を徒歩で帰る途中(S50.4.7基収3086)
 「被災労働者Fは、所定の勤務を終了後、バス・電車でS駅に着き、駅の自転車預かり所に立ち寄ったが、集中豪雨のため近くの河川が氾濫して道路に浸水しているため、自転車での退勤が不可能と判断したのか、徒歩で帰ることにした。Fの災害は、水深50センチメートルの道路を通るのに周辺は田んぼばかりで建物がないため、道路沿いに立っている電柱を頼りに進み、路肩のくぼみに足をとられて溺死したものと推定された」
 「回答 通勤災害。
 通勤災害とは、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる場合をいい、天災地変による災害の場合には、たとえ通勤途上発生したものであっても、一般には「通勤による」とは認められない。
 しかしながら、本件の場合、被災した道路は通常の通勤経路であり、その浸水も50センチメートル程度で歩行不能というほどではなかった、他の経路はさらに浸水の程度が大きいと推定されたこと、同僚もFとは少し遅れて同じ道路を通行していることなどから、その経路を通行したことには合理性が認められる。
 また、当該道路は農道を改良したもので、その路肩は浸水する以前から約5メートルにわたって崩れており、特に危険標識もなかったことから、この道路を通るものにとっては、崩れた路肩から足をすべらせて災害を蒙る危険があったと考えられること、被災当日は浸水のため道路の状況がはっきりわからなかったこと、などから通勤に通常伴う危険が、たまたま発生した大雨を契機として具体化したものと認められる」
⇒ 天災地変ではなく、普段から危険な状態にあったものが、たまたまの大雨によりその危険性を増したと認定された。
3.1.4 クラクションが原因で射殺(S51.12.13基収1032)
 「被災者は業務終了後、車で退勤の途中、午後5時25分頃自宅を目前にしたところで、前に自動車が停滞していたので、その発進を促すようにクラクションを2回鳴らしたところ、被災者の車の1台おいた前に停車していた乗用車を運転していた男に文句をつけられ、男が所持していたピストルで射殺された」
 「回答 通勤災害。
 自動車通勤に通常付随する行為(クラクションを鳴らす行為)が原因となって発生したものと認められる」

3.1.5 通勤の途中で、野犬にかまれて負傷 (S53.05.30基収1172)
 「被災労働者は、災害発生当日、午前の勤務を終了し、平常通り、会社から約300メートルの距離にある自宅で昼食を済ませたのち12時50分頃、午後の勤務に就くために自宅を出て徒歩で会社に向かったが、自宅横の路地から県道へ出たとき、突然県道脇に駐車中のトラックの陰から飛び出した野犬に右下腿部をかみつかれ、負傷したものである」
 この事案に対する回答は、「通勤災害と認められる。その理由は、通勤による災害とは、通勤との相当因果関係が認められる災害、すなわち経験則上通勤に内在すると認められる危険の具体化をいうが、ここで、通勤に内在する危険とは、単に具体的な通勤行為(歩行、自動車の運転等)それ自体に内在する危険だけをいうものではなく、住居と就業の場所との間、つまり通勤経路に内在し、通勤行為に伴って具体化する危険も含まれる。
 本件災害は、その発生原因に関し、被災労働者の積極的な恣意行動が認められず、また、その原因が機会原因であるとはいえないことから、経験則上通勤経路に内在すると認められる危険(野犬にかまれる危険)が具体化したものであり、通勤との間に相当因果関係が認められる」とある。
 ここで、「機会原因」とは、偶発的な原因、(通勤とは)全く無関係な原因ということ。
 通勤中に野犬にかまれることは当然あり得る。ただし、野犬をあおって怒らせたり、野犬がたむろしているところにわざわざ近づいていったりしてはいけない。
3.2 就業に関し
3.2.0  就業開始前に労働組合の集会に参加するため(S51.03.304基収2606要旨)
 「被災労働者らK観光タクシー鰍フ従業員で組織する労働組合は賃上げ要求に関し、ストを決行し、午後3時から午後4時30分まで、全組合員参加による決起集会を本社構内駐車場で開くことになっていた。
 被災労働者Tは、本社勤務であるが、スト終了直後の午後4時30分からの勤務となっていたため、決起集会終了後直ちに勤務に就く心づもりをして、決起集会に出席するため、いつもより1時間30分位早い午後2時25分頃イクを運転して自宅を出発し、通常の通勤経路を会社へ向かって時速15km位で走行中、路上において横風を受け身体のバランスを失い、バイクもろとも転倒し負傷した。なお、当日は朝から風速12mくらいの風が吹いていて、家並みの間からの強風を受けたものである」
 これに対する回答は、「通勤災害と認められる。その理由は、労働者が住居から就業の場所へ向かう行為が通勤と認められるためには、当該行為が業務と密接な関連をもって行なわれたものであることを要する。
 本件の場合、被災労働者が当日業務に従事することになっていたことは客観的に明らかであり、しかも被災労働者が、労働組合の集会に参加する目的で、通常の出勤時刻より1時間30分早く住居を出た行為は、社会通念上就業との関連性を失わせると認められるほど所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に行なわれたものとはいえないので、当該行為は通勤と認められる」
 参考までに、通勤災害の範囲についての改正に係る留意事項(H18.03.31基労管0331001、基労補発0331003)によれば、「所定就業開始時刻とかけ離れた時刻」とは、従来どうりの概ね2時間を超えたものとする
3.2.1 労働組合用務後の帰宅(S49.3.4基収317)
 「被災労働者は、所定労働時間終了後、残業を2時間した後、引き続き労働組合の会計の仕事を一人で会社内の自分の机で午後8時10分頃まで約1時間25分行なった後、自分の通勤用バイクで帰宅途中、道路上に飛び出してきた野犬と接触し、転倒して負傷した。帰宅の際にとった経路は通常通勤に利用している経路であった」
 「回答 通勤災害。本件の組合用務に要した時間は、就業との関連性を失わせると認められるほど長時間とはいえない」
⇒ 組合用務は就業とは関係ない。しかしおおむね2時間程度の会社内での私用なら認められるようだ。
3.2.1’業務終了後、事業場施設内で長時間(S49.11.15基収1881)
 「被災労働者は、被災当日の所定勤務が終了した後、引続き自分の机上で労働組合の用務を青年婦人部長ととともに、午後5時5分から午後7時10分までの2時間5分行なった後、会社を出て通常の通勤経路を自宅に向かって歩行中、対向車に接触され負傷した」
 「回答 通勤災害。
 業務終了後、当該事業場施設内に滞留した時間(2時間5分)から判断した場合、一般的には、その後の帰宅行為には就業関連性が失われたものといえるのであるが、本件のように就業との関連性が失われたといえる時間(2時間程度か?)を超えている時間がきわめてわずかであり、かつ、滞留事由に拘束性、緊急性及び必要性があり、また、事業主が事業場施設内において組合用務を行なうことを許可しているなどの要件を考慮すれば、帰宅行為に就業関連性を認めるのが妥当である」
3.2.2 昼休みに帰宅する途中(S49.5.27基収1371)
 「マイカー通勤をしている被災労働者が、昼休み時間(50分間)を利用して勤務先で食事を取った後、近くの歯科医院へ治療にきていた妻子を自宅まで送ろうとして、勤務先の駐車場から妻子の待っている場所に赴く途中、鉄道の踏み切りにて急行電車と衝突し、即死した。なお、経路はいつも利用している通勤経路であり、所要時間は約15分程度であった」
 「回答 通勤災害ではない。
 被災労働者が自宅へ向かった行為は、その目的から見て、就業との関連性のないまったく個人的な行為である」(
⇒ 昼食を食べに自宅に帰るのならOKであったはず。本件は、食事とは関係なく単なる送り迎えをしたものである。
3.2.3 ライトの消し忘れに気づいて駐車場に引き返す途中」(S49.6.19基収1739)
 「被災労働者は、出勤のためマイカーで自宅を出発し、会社の北側にある駐車場に車を置き、徒歩で100メートル先にある会社に出勤し、所属職場で備え付けのカードラックにより出勤の表示をした後で、出勤してきた同僚から、車のフォグライト(前照灯)が点灯したままになっているのを知らされたので、直ちに同僚の自転車を借りて駐車場に引き返す途中、門を出て市道を横断する際、左側から走行してきた軽自動車にはねられ負傷した」
 「回答 通勤災害と認められる。その理由は、
 通勤は、一般には事業主の支配管理下にあると認めれる事業場構内(会社の門など)に到達した時点で終了するもの(よって、以降は業務災害の可能性あり)であるが、本件のようにマイカー通勤者が車のライト消し忘れなどに気づき、駐車場に引き返すことは一般にありうることであって、通勤とかけ離れた行為でなく、この場合、いったん事業場構内に入った後であっても、まだ時間の経過もほとんどないことなどから、通勤による災害として取り扱うことが妥当である」
3.2.4 業務終了後、会社施設で慰安会を行なった後(S49.8.28基収2533)
 「被災労働者たち(Eを除く)は夜勤で、夜勤明けの当日、職場のリクリエーション行事(出勤扱いではない)でK海岸へ潮干狩りにいくこととなっていたが、雨のため中止となり、当該行事のために用意した弁当の処分会を会社の食堂で行なうことになった。
 被災労働者たちは、午前6時終業後、入浴・着替えを済ませ、午前6時50分から開催された処分会に参加したが、処分会は開始後55分(午前7時45分)で閉会となった。
 K駅方面を経由して帰宅する被災労働者たちは、Eのマイカーに同乗して、市道を進行中、対向車と衝突して負傷した。経路は、通常の通勤経路であった。なお、Eは当日、休暇でリクリエーション行事に参加するため出社したが、就労はしていない」
 「回答 Eを除いて、通勤災害である。
 Eを除く被災労働者:当該帰宅行為は業務を終えたことにより行なわれたものである。時業務終了後、事業場内施設(食堂)で」行なわれた処分会に参加した時間も約1時間程度であり、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間ではない。
 Eについて:処分会は、会社主催ではあるが、参加することが労働者の任意とされているために、業務とはいえないリクリエーション行事に参加するため出社したものであり、休暇であり就業事実もないことから、当該往復行為に就業との関連性は認められない」
3.2.5 業務終了後会社でお茶の稽古をしたのち帰宅 (S49.9.26基収2023)
 「被災労働者は、当日午後5時10分に業務を終えてから会社内の茶道室においてお茶の稽古に参加した。茶の稽古は午後7時30分頃に終了したので、更衣室で着替えをした後、午後8時頃退社し、通常の通勤経路を徒歩で帰宅する途中、会社から400メートルほどのところで暴漢に襲われて付近のブドウ畑にひきずりこまれたうえ、暴行殺害(死亡推定時刻午後8時頃)されたと推測され、翌々日死体となって発見された」
 「回答 通勤災害ではない。
 業務終了後事業場施設内においてサークル活動等に要した時間(稽古時間約2時間、着替え等の時間約30分)は、社会通念上就業と帰宅との直接関連性を失わせるほど長時間であって、その後の帰宅については通勤に該当しない」
⇒サークル活動等に要した時間のトータルが2時間程度が限界か。(着替えを要する場合は、その分を考慮しなければなるまい)
3.2.6 業務終了後、労使協議会に出席したのち帰宅 通達(S50.11.04基収2043)
  「被災労働者はS.Kは当日午後5時20分に所定の業務を終え,午後6時より事業場内で開催された労使協議会に出席し,同協議会終了(午後11時20分ごろ)後、通勤に使用している50t原動機付自転車により通常の経路を帰宅途上,道路のくぼみに前輪を落とし,転倒し全治4週間の負傷をした。
 なお,災害発生当日の協議事項は,賃金引上げを含め,経営全般に関することが協議されたので,相当の長時間を要したものであることが認められる」
 これに対する回答は,「通勤災害とは認められない。その理由は,本件被災労働者は労働組合の執行委員として労使協議会に出席したことは、使用者との雇用契約の本旨に基づいて行う行為、すなわち「業務」であるとはいえず、むしろ労働組合の役員としての職務で出席したものと解される。
 また、業務終了後、当該労使協議会等のために事業場施設内に滞留した時間(約6時間)も、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間であることから、当該帰宅行為が労災保険法にいう通勤とは認められない」
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