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R18

災害補償

 
KeyWords  共通重要事項災害補償打切補償
 業務上負傷したり病気にかかり、その結果として療養を受ける、会社を休む、障害が残る、死亡するなど、労働者やその家族には大変な災難が降りかかってくることがあるが、それらに対して、使用者は一定の補償をしなければならない義務がある。
 この使用者による補償義務を労基法では「災害補償」という章を起こして規定している。
 場合によっては、使用者の補償能力をはるかに超える多額なお金を必要とすることがあるので、労災保険の適用事業の使用者は「労災保険法」に加入することが強制されて おり、通常の場合は、具体的な補償は「労災保険」により行われる。
 補償の各論は労災保険法にゆずり、ここでは「災害補償」に関して、労基法と労災保険法の接点に当たる部分を解説する。
 ここで、ちょっと注意を
労働基準法  使用者
労災保険法  事業主
安全衛生法  事業者
1 共通重要事項
1.1 補償を受ける権利(83条)
 「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない
 「2項 補償を受ける権利は、これを譲渡し、又は差し押えてはならない
 
 使用者による災害補償義務は 「労働者の負傷、疾病が業務上によるものに限られる」が、一度この義務が発生すると、当該労働者が退職しても(解雇、会社の倒産、契約期間満了、本人の意思による任意退職など理由のいかんを問わず)、影響されるものではない。
 ただし、2年の消滅時効があるので、権利あるもので請求すべきものは、それが消滅する前までに請求しないといけない。
 労災保険法との関係
 1項は同文。
 2項は、労災保険法では
 「保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」

1.2 労災保険法等との関係(84条)
 「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる
 「2項 使用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる
 
 労災保険法との関係(1項)
 このことがまさに、労基法と労災保険法の強いつながりを示しているのだ。
 当初は、労基法による災害補償と労災保険法による給付内容が同一であったので特に問題はなかったが、昭和35年から、労災保険法による保険給付に年金制度が導入され、その後、労災では年金制度が主体に変わってきたこと (たとえば、休業補償の一環としての傷病補償年金の導入など)から、つながりが若干わかりにくくなったきた。
 しかし本質論はかわっておらず、労災保険法は使用者の災害補償義務を肩代わりするものなのである。  
 厚生労働省令で指定する法令とは、
 @国家公務員災害補償法、A公立学校の学校医等の公務災害補償法、B地方公務員災害補償法であり、これらによって災害補償が行われるべきものである場合 も、使用者の補償義務は免責される。
 民事賠償責任との関係(2項)
 業務上の負傷、疾病の発生について使用者に過失(会社の機械の点検をせず、欠陥があるまま使用させて、事故を起こしたなど)があり、民事賠償責任が発生した場合、使用者は労基法による災害補償(あるいは労災保険法による 肩代わり給付)のほか、民法による賠償金の支払義務が発生する。
 これにより、労働者は2重の補償が受けられるかといえば、実際にはこれはできないことになっている。
 たとえば、労働者が傷害補償年金あるいは遺族補償年金を受ける場合は、その年金の積算値が労基法による災害補償費(=前払い一時金の最高限度額)になるまでは、使用者は民事賠償金の支払いを延期でき、実際に労災からその額まで給付されたときは、その金額(実際には利息分を割引いた額)は民事賠償金として支払われたものとみなされ、免除される。
 逆に、使用者が先に民事賠償金を支払った場合は、労災保険側(政府)はその額を限度として、保険給付をしないこともできる。
⇒ 労働者が2重に補償を受けることはない。
⇒ 使用者は労災保険料を支払っている限り、労災保険が補償義務を肩代わりしてくれる。
⇒ ただし、逸失利益(被災労働者が災害にあわなければ獲得できたであろう利益)であって休業補償などの給付では賄うことのできない不足部分や、物損、慰謝料その他労災保険給付の対象でないものは、民法に基づく損害賠償請求が認められている。
 
1.3 審査・仲裁(85条)
 「業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁(労働基準監督署長)に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる」
 「2項 行政官庁は、必要があると認める場合においては、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる」
 「3項 1項の規定により審査若しくは仲裁の申立てがあつた事件又は前項の規定により行政官庁が審査若しくは仲裁を開始した事件について民事訴訟が提起されたときは、行政官庁は、当該事件については、審査又は仲裁をしない」
 「4項 行政官庁は、審査又は仲裁のために必要があると認める場合においては、医師に診断又は検案をさせることができる」
 「5項 法改正(R02.04.01) 1項の規定による審査又は仲裁の申立て及び2項の規定による審査又は仲裁の開始は、時効の完成及び更新に関しては、これを裁判上の請求とみなす」
1.3' 不服、二次審査・仲裁(86条)
 「前条の規定による審査及び仲裁の結果に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官の審査又は仲裁を申し立てることができる」
 「2項 1項の規定により審査又は仲裁の申立てがあつたときは、行政官庁は、当該事件については、審査又は仲裁をしない」

 審査・仲裁
 負傷、疾病、死亡が業務上のものであると認定され、使用者による災害補償義務の履行や労災保険の給付が行われるまでには、さまざまな「壁」があるといわれている。
 ここでいう「業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額(平均賃金の計算、障害等級の認定を含む)の決定」とは、いずれも使用者の行った認定や決定(いわば使用者の壁)のことである。
 これらに異議があるときは、労働基準監督署長に「審査または仲裁」を申し立てる。
⇒ これらの「審査または仲裁」の結果は、行政処分ではなく勧告的性質のものであるとされている。
 二次審査・仲裁
 労働基準監督署長による「審査または仲裁」に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官による「審査または仲裁」を求めることができる。 
 参考 労災保険法の場合(労災保険法38条)
 「保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる」
 つまり、こちらの方は「行政官庁」の行った保険給付の決定(行政処分)に対して、「審査請求」、「再審査請求」を行うものである。
 ただし、「保険給付の決定」に対してのみ可能であるから、「業務上、業務外の認定」に関わる不服は含まないとされている。(訴訟などのよることになる)
 
1.4 分割補償(82条)
 「使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、傷害補償又は遺族補償の規定による補償に替え、平均賃金に別表第3に定める日数を乗じて得た金額を、6年にわたり毎年補償することができる」
 
 労基法による補償は、原則として一時金である (かっての労災保険もそうであった)があるが、使用者の支払能力の証明と補償を受ける者の同意があれば、6年間の定期年金とすることができる。(途中で、残りの部分を一時金で清算することも可能)
(1)障害補償の場合(例えば1級のとき)
 @一時金:平均賃金×1,340日、すなわち1年365日の2/3である243日分の賃金をの6年分 (ただし、実際には年利3%の複利で割引くことにより1,340日となる)を一括支払う。
 A6年間の定期年金:240日分/年を6年間支払う。(6年間合計では1,440日となる)
(2)遺族補償の場合
 @一時金:平均賃金×1,000日
 A6年間の定期年金:180日分/年を6年間支払う。(6年間合計では1,080日となる)
 労災保険法との関係
 労基法による障害補償と遺族補償を肩代わりする労災保険法が適用される場合、支払能力の証明や補償を受ける者の同意 とは関係なく、(無期の)年金で給付される。
 ただし、
@希望する場合は、労基法による一時金の支給日数までの範囲で、年金を前払いで受けることができる。
A年金の受給権者が早々と死亡した場合でも、労基法による補償額に満たない場合は、一定の範囲の遺族がその不足分を差額一時金として 受けることができる。

2 災害補償
2.1療養補償(75条)
 「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」
 「同2項 前項に規定する業務上の疾病、療養の範囲は、厚生労働省令で定める」  
 
 診断(施行規則37条)
 「業務上負傷・労働者が就業中又は事業場若しくは事業の附属建設物内負傷し、疾病にかゝり又は死亡した場合には、使用者は、遅滞なく医師に診断させなければならない」
 労働者死傷病報告(安全衛生規則97条)
 「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」
 「2項 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、1月から3月、4月から6月、7月から9月、10月から12月までの期間における当該事実について、様式24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」
 療養の範囲(施行規則36条)
 「療養の範囲は、次に掲げるものにして、療養上相当と認められるものとする」
 @診察 A薬剤又は治療材料の支給 B処置、手術その他の治療、C居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、D病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護、E移送
⇒ 労災保険法13条はこれに一致させているのだ。
 療養に費用の負担
⇒ 必要な療養の範囲における全額で、1か月に1回以上
 「療養補償及び休業補償は、毎月1回以上、これを行わなければならない」(施行規則39条) 
 労災保険法との関係
 通常の場合は労災保険法により給付されるので、使用者に過失責任がある場合を除き、使用者の負担はない。

 
2.2 休業補償(76条) 
 「労働者が前条の規定(業務上の負傷又は疾病)による療養のため労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中、平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない」
 「同2項 使用者は、前項の規定により休業補償を行つている労働者と同一の事業場における同種の労働者に対して所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの各区分による期間(四半期)ごとの一月一人当り平均額(常時百人未満の労働者を使用する事業場については、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における当該事業場の属する産業に係る毎月きまつて支給する給与の四半期の労働者一人当りの一月平均額。以下平均給与額)が、当該労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた日の属する四半期における平均給与額の百分の百二十をこえ、又は百分の八十を下るに至つた場合においては、使用者は、その上昇し又は低下した比率に応じて、その上昇し又は低下するに至つた四半期の次の次の四半期において、前項の規定により当該労働者に対して行つている休業補償の額を改訂し、その改訂をした四半期に属する最初の月から改訂された額により休業補償を行わなければならない。
 改訂後の休業補償の額の改訂についてもこれに準ずる」 
 
 労働することができない
⇒ 退職後も含み、療養のために労働することができない状態
 労働することができないため賃金を受けない場合
⇒ 
 労働の状況  受取賃金との比較  休業補償給付
 労働を全くしない  受取賃金<平均賃金の60%  平均賃金の60%
 受取賃金≧平均賃金の60%       0
 労働を一部行った  受取賃金<(平均賃金−一部労働時間に対する賃金)の60%  (平均賃金−一部労働時間に対する賃金)の60% 
 受取賃金≧(平均賃金−一部労働時間に対する賃金)の60%       0
 休業補償を行わなくてもよい場合(施行規則37条の2) 法改正(R04.04.01)
 「使用者は、労働者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、休業補償を行わなくてもよい」
1  懲役、禁錮若しく は拘留の刑の執行のため若しくは死刑の言渡しを受けて刑事施設(少年院において刑を執行する場合における当該少年院を含む)に拘置されている場合若しくは留置施設に留置されて、懲役、禁錮若しくは拘留の刑の執行を受けている場合、労役場留置の言渡しを受けて労役場に留置されている場合又は監置の裁判の執行のため監置場に留置されている場合
2  少年法24条の規定による保護処分として少年院若しくは児童自立支援施設に送致され、収容されている場合、同法64条の規定による保護処分として少年院に送致され、収容されている場合、同法66条の規定による決定により少年院に収容されている場合又は売春防止法の規定による補導処分として婦人補導院に収容されている場合
 労災保険法との関係
最初の3日間  事業主負担。ただし、「事業主が平均賃金の60%以上の賃金を支払った場合は、休業補償はなされたものとして取扱われる」(S40.7.31.基発901)
 4日目以降   通常の場合は労災保険法により給付されるので、使用者の負担はない。

労災保険法による休業補償給付は、最初の3日間は支給されない。
労働者死傷病報告が休業3日以内と4日以上とで、様式と提出期限が違うのはこのことによる。
労災保険法による休業給付(通勤災害による)も、最初の3日間は支給されない。しかし、この場合は、最初の3日間については、事業主からの休業補償の義務もない。


 
2-3 障害補償(77条)
 「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第2に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない」

 
 障害補償の意義(S50.09.30基発565)
 「労働基準法における障害補償並びに労働者災害補償保険法における障害補償給付及び障害給付は、労働者が業務上(又は通勤により)負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合に、その障害の程度に応じて行うこととされており、
 障害補償の対象となる障害の程度は、労働基準法施行規則別表第2身体障害等級表及び労働者災害補償保険法施行規則別表障害等級表に定められている。
 ところで、障害補償は、障害による労働能力のそう失に対する損失てん補を目的とするものである。
 したがって、負傷又は疾病がなおったときに残存する、当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態(廃疾)であって、その存在が医学的に認められ、労働能力のそう失を伴うものを障害補償の対象としているものである。
 ここにいう「なおったとき」とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。
 したがって、障害程度の評価は、原則として療養効果が期待し得ない状態となり、症状が固定したときにこれを行うこととなる。
 ただし、療養効果が期待し得ない状態であっても、症状の固定に至るまでにかなりの期間を要すると見込まれるものもあるので、この場合は、医学上妥当と認められる期間を待って、障害程度を評価することとし、症状の固定の見込みが6か月以内の期間において認められないものにあっては、療養の終了時において、将来固定すると認められる症状によって等級を認定することとする。
 また、「労働能力」とは、一般的な平均的労働能力をいうものであって、被災労働者の年令、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的諸条件については、障害の程度を決定する要素とはなっていない」
 治った場合とは
⇒ 全治した場合だけでなく、傷病の症状が安定(固定)した状態であって、それ以上の医療効果が期待できない状態をいう。
 支給日数(別表第2、別表3)
 「障害の程度に応じて、1級1,340日分、2級1,190日分、3級1,050日分から14級50日分まで」
 「6年間分割補償の場合は、障害の程度に応じて、1級240日分、2級213日分、3級188日分から14級9日分まで」
 支給日(施行規則47条)
 「障害補償は、労働者の負傷又は疾病がなおった後身体障害の等級が決定した日から7日以内にこれを行わなければならない」
 遺族補償給付 ⇒ 受給権者が決定した日から7日以内
 葬祭料    ⇒ 葬祭を行う者が決定した日から7日以内
 労災保険法との関係
⇒ 通常の場合は労災保険法により給付されるので、使用者に過失責任がある場合を除き、使用者の負担はない。
 障害等級1級から7級まで(通常)  労災保険法から障害補償年金(1級313日分、2級277日分、3級245日分から7級131日分)が支給される
⇒ 年金の前払いとして、労基法による補償義務日数分を上限とする「傷害補償年金前払一時金」を請求することもできる。
 1級から7級まで(早期死亡の場合)  受給権者が早期死亡した場合、「既支給年金+前払一時金」が労基法による補償義務日数に満たないとまずい
⇒ 未達分日数分が「障害補償年金差額一時金」として労災より支給される
 障害等級8級から14級まで  労災保険法から障害補償一金が支給される(労基法による一時金額を上回っている)
 

2-3' 休業補償及び障害補償の例外(78条)
 「労働者が重大な過失によって業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい」
 
 重大な過失
 「重大な過失とは、通常の注意を持ってすれば結果発生にはいたらなかったであろうのに、著しい不注意でのそのような結果を発生させたという、非難されるべき人の精神作用である」(図解による法律用語辞典、自由国民社)
 過失相殺(民法722条2項)
 「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」
⇒ 被害者にも落ち度があれば、その分だけ、賠償額が少なくなる、あるいは無くなるということ。
労働者側に重大な過失であっても、療養補償、遺族補償、葬祭料は免責されない。

 
2-4 遺族補償(79条)
 「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならない」
⇒ 6年間分割補償の場合は180日分/年
 
 遺族補償を受けるべき者(施行規則42条)
 「遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ)とする」
 「同2項 配偶者がない場合には、遺族補償を受けるべき者は、労働者の子、父母、孫及び祖父母で、労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していた者又は労働者の死亡当時これと生計を一にしていた者とし、その順位は、前段に掲げる順序による。この場合において、父母については、養父母を先にし実父母を後にする」
 「施行規則43条 前条の規定に該当する者がない場合においては、遺族補償を受けるべき者は、労働者の子、父母、孫及び祖父母で前条2項の規定に該当しないもの並びに労働者の兄弟姉妹とし、その順位は、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順序により、兄弟姉妹については、労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していた者又は労働者の死亡当時その者と生計を一にしていた者を先にする」
 「同2項 労働者が遺言又は使用者に対してした予告で前項に規定する者のうち特定の者を指定した場合においては、前項の規定にかかわらず、遺族補償を受けるべき者は、その指定した者とする」 
 労災保険法との関係
 通常の場合は労災保険法により給付されるので、使用者に過失責任がある場合を除き、使用者の負担はない。
 ただし、労災保険法による給付は年金主体であるので、具体的な給付形態はやや込み入っている。 
 遺族補償年金の受給権者がいる場合 遺族補償年金(受給権者と生計を同じくしている受給資格者の人数に応じて、153日から245日分)が支給される
⇒ 年金の前払いとして、労基法による補償義務日数分(1000日分)を上限とする「遺族補償年金前払一時金」を請求することもできる。
・受給権者が死亡あるいは失権したときは、同順位者、いないときは次順位者に転給される 
 遺族補償年金の受給権者が、誰もいなくなった場合 「既支給年金+前払一時金」が労基法による補償義務日数(1000日分)に満たないとまずい
⇒未達分日数分が「遺族補償一時金」として労災より支給される
 遺族補償年金の受給権者がはじめからいない場合  1,000日分が「遺族補償一時金」として支給される

 
2-5 葬祭料(80条) 
 「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならない」
 
 労災保険法との関係
⇒ 通常の場合は労災保険法により給付されるので、使用者に過失責任がある場合を除き、使用者の負担はない。
労基法  平均賃金×60日
労災保険法  315,000円+給付基礎日額×30日と、給付基礎日額×60日のうち大きい額 (サイゴ)

 
2-6 打切補償(81条)
 「75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」
 
 労災保険法との関係
 @療養開始後3年を経過した日において、傷病補償年金を受けている場合 ⇒ 3年経過日
 A療養開始後3年を経過した日後において、傷病補償年金を受けることとなった場合 ⇒ 受けることとなった日に、
 打切補償は支払われたものとみなされる。
 なお、労働者が傷病補償年金を受けている間は、使用者は療養補償のための費用の支払い義務は猶予されており、上記から、たとえば療養開始後3年を経過した日に傷病年金を受けている場合は、打切補償は支払われたものとみなされるので、それ以降は使用者による支払い義務も消滅する。
3. 請負事業に関する例外(87条)
 「厚生労働省令で定める事業が数次の請負によつて行われる場合においては、災害補償については、その元請負人を使用者とみなす」
 「2項 前項の場合、元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合においては、その下請負人もまた使用者とする。
 但し、2以上の下請負人に、同一の事業について重複して補償を引き受けさせてはならない」
 「3項 前項の場合、元請負人が補償の請求を受けた場合においては、補償を引き受けた下請負人に対して、まず催告すべきことを請求することができる。
 ただし、その下請負人が破産手続開始の決定を受け、又は行方が知れない場合においては、この限りでない」

 
4. 補償に関する細目(88条)
 「この章に定めるものの外、補償に関する細目は、厚生労働省令で定める」