基礎講座 労働基準法   Tome塾Homeへ

R10

時間外労働・休日労働

 
KeyWords  時間外および休日の労働時間外の限度割増賃金割増賃金の基礎となる賃金
 ここでは、労基法1条2項「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」を改めて思い起こそう。
 このページで述べられている(他のページももちろんそうである)のは、あくまでも最低基準である。皆さんの会社等では時間外労働の限度や割増賃金についてこの基準を上回る取り決めがなされていると思うが、実はこの最低基準さえ危うい事業所が非常に多いのも現実である。
1.時間外および休日の労働(36条)
 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところにより、これを行政官庁に届け出た場合においては、32条(法定労働時間)から32条の5(1週間単位の非定型的変形労働時間制)まで若しくは40条(労働時間及び休憩の特例)の労働時間又は前条の休日(法定休日以下単に休日という)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」
 「2項 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする」
@この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
A対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、1年間に限るものとする。C及び6項Bにおいて同じ)
B労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
C対象期間における1日1箇月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
D労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
 厚生労働省令で定める事項(施行規則17条)法改正(1項、2項、3項ともH31.04.01)
 「法36条2項Dの厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。ただし、C号からFまでの事第については、同条1項の協定に同条5項(臨時的な限度時間)に規定する事項に関する定めをしない場合においては、この限りでない」
@法36条1項の協定(労働協約による場合を除く)の有効期間の定め
A法36条2項Cの1年の起算日
B法36条6項A及びBに定める要件を満たすこと
C36条3項(通常予見される時間外労働)の限度時間を超えて労働させることができる場合
D限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
E限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率
F限度時間を超えて労働させる場合における手続
⇒C以降は、特別条項(臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合)に定めるべき事項」
 趣旨H11.3.31基発168(趣旨))
 「基準法は1週40時間、1日8時間労働制、週休制を原則としているが、36条1項の協定により時間外・休日労働協定を締結し、労働基準監督署長に届けることを要件として法定労働時間を超える時間外労働法定休日における労働を認めている。
 しかし、36条1項は時間外労働・休日労働を無制限に認める趣旨ではなく、時間外・休日労働は本来臨時的なものとして必要最小限にとどめられるべきものであり、36条1項は労使がこのことを十分意識した上で協定を締結することを期待しているものである」
 所定労働時間との関係 
@会社の就業規則等で定める労働時間を所定労働時間という。所定労働時間を超えて労働を行わせる場合であっても、法定労働時間を超えなければ協定は不要である。(H11.3.31基発168(趣旨))
 この場合、延長時間に相当する賃金は支払わなければならないが、割増賃金は不要である。
A4週4日以上の休日における労働
 休日に労働をさせても4週間に4日の休日を確保できる(例えば週休2日制)場合は、休日労働に関する協定の締結の義務はない。(S23.12.18基収3970) 
 この場合、休日の労働時間に相当する賃金は支払わなければならないが、休日割増賃金は不要である。ただし、週40時間を超える場合は時間外割増賃金を払わなければならない。
 遅刻 通達(S29.12.1基収6143)
 「例えば労働者が遅刻をした場合その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、1日の実労働時間が法定労働時間を超えないときは、36協定及び割増賃金支払いの必要はない」
 協定当事者
@事業場に複数の労働組合がある場合、当該事業場の過半数で組織されている労働組合と協定すれば足りる。(S23.4.5基発535)
A過半数組織労働組合がない場合は、当該事業場に使用されるすべての労働者の過半数を代表するものと協定する。(S46基収6206)
B事業場に日雇労働者と常雇労働者とがいる場合、常雇労働者の代表者との協定で日雇労働者の時間延長、休日廃止をすることは、その常雇労働者の代表が当該事業場の労働者の過半数を代表している場合には有効である。(S23.3.17基発461)
 過半数代表者
 
施行規則6条の2の1号(管理・監督者でない者)かつ2号(民主的な手続きで選出され、使用者の意向に基づき選出されたものでない者)
 過半数代表者を選ぶ労働者の範囲(S46.1.18基収6206)
 一般の労働者のほか、管理・監督者、労働組合から除外されている非組合員、長期欠勤者、休職中の者、時間外労働の対象外者(年少者等)、派遣中の労働者(派遣元が協定締結者であって受入先は関係ない)、パートタイマー、アルバイトなどすべての労働者が含まれる。
 労使協定の効力(免罰効果) (S63.1.1基発1)
 「労働基準法上の労使協定の効力は、その協定に定めるところにより労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものであり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要である」
⇒「労働基準法に違反しないという免罰効果」
 つまり、たとえば36条協定を結んでその範囲内で労働させれば、休日労働・時間外労働であっても、32条違反により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という、刑事罰の責任は免れるという意味であって、
 実際に、労働者にそのような労働をさせるには、協定さえあればよいというものではなく、個々の労働契約あるいは、労働協約。就業規則などの根拠が必要である。
 たとえば、就業規則等により、「業務の都合により、所定労働時間を超え、又は所定休日に労働させることがある」などという規定を設けておく必要がある。
 健康上特に有害な業務(H11.3.31基発168)
@坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務に従事する労働時間(坑内労働等の労働時間)が、法定労働時間(通常の場合は8時間)+2時間(合計10時間)を超えてはならないが、それ以外の労働時間を含めた全労働時間については36協定により、10時間を超えることがある。
A変形労働時間制の場合は、坑内労働等の労働時間が当該日の所定労時間+2時間を超えてはならない。よって、特定日においては、坑内労働等の労働時間が10時間を超えることもありうる。
B坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務に従事する労働時間は、1日について2時間を超えてはならないと規定されているが、休日においては、10時間を超えて休日労働をさせることを禁止する法意であると解されている。
 
2.労働時間の上限規制(36条のつづき) 
 「36条3項 前項Cの労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る」
 「36条4項 前項の限度時間は、1か月について45時間及び1年について360時間(32条の4(1年単位の変形労働時間制)の1項Aの対象期間として3か月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1か月について42時間及び1年について320時間)とする」
⇒原則の(通常予見される)時間外労労働の限度時間は
・1箇月について45時間、1年について360時間
1年単位の変形労働時間制において、対象期間が3箇月を超える場合は、1箇月について42時間、1年について320時間
 「36条5項 1項の協定においては、2項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(2項Cに関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内に限る)並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る)を定めることができる。
 この場合において、1項の協定に、併せて2項Aの対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1か月について45時間(32条の4(1年単位の変形労働時間制)の1項Aの対象期間として3か月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1か月について42時間)を超えることができる月数((1年について6か月以内に限る)を定めなければならない」
⇒臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合における限度時間(特別条項)
45時間(1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月超の場合は42時間)を超える月数は年間6か月以内であって、全協定時間(2項Cで協定した時間を含め)
・1か月について、時間外労働+休日労働が100時間未満(100時間はだめ)
・1年間について、時間外労働が720時間以内
 「36条6項 使用者は、1項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
@坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日について労働時間を延長して労働させた時間:2時間を超えないこと。
A1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間:100時間未満であること。
B対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の1か月当たりの平均時間:80時間を超えないこと

・坑内労働等は2時間超過(従来通り)
・1か月について、休日労働を含め100時間以上(100時間はだめ)
直前5か月複数月平均の1か月あたり時間外労働時間+休日労働時間が80時間超過
 直近5か月複数月平均
とは、たとえば、9月についてチエックするときは、8月から9月までのの2か月平均、7月から9月までの3か月平均、6月から9月までの4か月平均、5月から9月までの5か月平均、4月から9月までの6か月平均を求め、いずれも80時間を超えないこと
・なお、1年間について、時間外労働が720時間超過違反については、罰則はない。
・上記の36条6項違反は、労使協定があっても罰則の対象となる。
・「労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、その使用者が当該労働者の他社での労働時間も適正に把握する責務を有しており、上記@,A、Bの要件については、労働基準法38条に基づき通算した労働時間により判断する必要があること」(通達H30.09.07基発0907-1)
 協定の限度を超える延長
 「業務上必要ある場合でも33条による場合を除き、36協定で定めた限度を超えて労働時間を延長してはならない」(H11.3.31基発168)
 有効期間
 @時間外協定の有効期間は「1年間の延長時間」を定めた協定については最短で1年間である。
 ただし、「1日及び1日を超え3か月以内の期間についての延長時間」を別個の協定で定める場合は、その協定の有効期間は1年未満としてもよい」(H11.3.31基発169)
 A有効期間の定めのない協定は受理されない。ただし、労働協約による協定の場合は、労働組合法15条の適用(期間を定めるときは3年以内、定めをしないことも可能であるがこの場合は90日前に通告すれば破棄できる)を受ける。
 B有効期間内に一方的に破棄を申し入れても他方がこれに応じないときは、協定はなお有効である。(H11.3.31基発168) ⇒ 労働協約の場合は労働組合法15条による。

 時間外の限度
 「厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる」
⇒ 労働時間の延長の限度等に関する基準
 「同3項 1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない」
 「同4項 行政官庁は、2項の基準に関し、1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる」


3.時間外、休日および深夜の割増賃金(37条) 
 「使用者が、33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)又は36条1項時間外及び休日の労働)の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない 。
 ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」
 「3項 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により 、
 1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(代替休暇、39条の規定による有給休暇を除く)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、
 当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、
同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない」
 「4項 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」
 割増率(S22基発366、他) 
時間外労働または深夜労働  2割5分以上
 休日労働  3割5分以上
 時間外労働かつ深夜労働  5割以上
 休日労働かつ深夜労働  6割以上
 1月60時間を超えた時間外労働  5割以上(当面、中小事業主を除く)
 1月60時間を超えた時間外労働でかつ深夜労働の場合  7割5分以上(当面、中小事業主を除く)

 通常の賃金
 「37条が割増賃金の支払いを定めているのは当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、月給又は日給の場合であっても、時間外労働についてその労働時間に対する通常の賃金を支払わなければならないことはいうまでもない」(S23.3.17基発461)
⇒ 所定外を超えた時間外労働時間×(通常の労働時間の賃金)+法定外を超えた時間外労働時間×割増率×(割増率算定基礎賃金)を支払う。
 (  )内については一定の枠内であれば、労働協約、就業規則等によって定めることもできる。
 時間外の危険作業を行った場合、その作業を所定内に行えば支払うべき賃金のひとつとして危険作業手当があれば、危険作業手当を割増賃金の基礎に含めないといけない。
 「法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。ただし、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合には、その賃金額で差し支えない」(S23.11.4基発1592)
 強行法規
 「37条は強行法規であり、たとえ労使合意の上で割増賃金を支払わない申し合わせをしても、37条に抵触するから無効である」(S24.1.20基収68)
 休日労働
 「休日の所定労働時間を36協定により8時間と定めた場合、割増賃金については8時間を超えても深夜業に該当しない限り3割5分増で差し支えない」(H11.3.31基発168)
⇒ 休日労働は何時間やっても休日労働であって、その時間外労働など存在しない。
⇒ 元旦の日に労働しても、その日が1週間に1回の休日でない限り、休日労働ではない。元旦の労働時間を含めても1週40時間(特例事業では44時間)以内であれば、時間外労働でもない。

3' 基礎となる賃金(37条5項)
 「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」
 「法37条5項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同第1項及び4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない」(施行規則21条)

0 

 家族手当、通勤手当
1  別居手当
2  子女教育手当
3  住宅手当
4  臨時に支払われた賃金
5  1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(3か月を超えるではない)

 家族手当(S22.11.5基発231)
 「扶養家族数又はこれを基礎とする手当ならびに、この手当額を基準として算出したその他の手当は名称のいかんを問わず家族手当として取扱う。独身者に対していくばくかが支払われているときは、その手当は家族手当とは関連のないものであり、又扶養家族ある者に対し、その家族数に関係なく一律に支給されている手当は家族手当とはみなされないから、割増賃金の基礎にいれるべきである」
 住宅手当(H11.3.31基発170)
 「割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて(たとえば定率をかけるや段階に区分して)算定される手当をいい、名称のいかんは問わない。たとえば、住宅の形態ごとに一律定額で支給されるものなどはこれに該当しない」
 通勤手当(S23.02.20基発297)
 「実際距離に応じて通勤手当が支給されるが、最低300円は距離にかかわらず支給されるような場合においては、実際距離によらない300円は割増賃金の基礎に算入するものと解してよい。
 ただし、通勤手当、家族手当等、割増賃金の基礎より除外し得るものを算入することは使用者の自由である」