基礎講座 労働基準法   Tome塾Homeへ

R05

労働契約時のトラブル防止

 
KeyWords  法律違反の契約労働条件の明示労働契約の解除と帰郷旅費
 労働条件の明示は重要項目である。絶対的明示事項ならびに相対的明示事項については、就業規則における絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項を対比させながら、過去問講座においてマスターすること。
 
1 法律違反の契約(13条)
 「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
 この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による」
 
 労基法の定めは最低基準であるからして、これを下回る労働契約は法律違反である。
 しかしながら、法律違反の部分があったとしても、その労働契約全体を否定してしまうと、雇入れそのものが無効になるため労働者保護にはならない。
 そこで、部分無効・自動引上げという労基法独特の考え方に基づき、本規定ができたのである。

1' 参考 労働契約法12条
 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
  この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による」
2 労働条件の明示(15条)
 「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
 この場合において、絶対的明示事項(厚生労働省令で定める事項)については、書面により明示しなければならない」
 
2.1 明示義務の発生 
 明示する義務があるのは、労働契約を締結する際(契約更新や出向する場合も含む)であって、労基法においては募集時点では必要ない。
 ただし、職業安定法5条の3において、
 「公共職業安定所及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」とある。
2.2 労働契約の際、賃金に関する事項以外に書面の交付により明示すべき事項 通達(H11.01.29基発45:15条関係)
@労働契約の期間に関する事項:期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間がない労働契約の場合はその旨を明示しなければならないこと。
A就業の場所及び従事すべき業務に関する事項:雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えないこと。
B始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項:当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならないこと。
 なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。
C退職に関する事項:退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないこと。
 なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。
2.2 書面により明示すべき賃金に関する事項 通達(H11.03.31基発168号)
 「書面によって明示すべき事項は、賃金に関する事項のうち、労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期であること。
 具体的には、基本賃金の額(出来高払制による賃金にあっては、仕事の量(出来高)に対する基本単価の額及び労働時間に応じた保障給の額)、手当(24条2項本文の規定が適用されるものに限る、すなわち毎月1回以上、一定の期日を決めて支払うべきもの)の額又は支給条件、時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその率並びに賃金の締切日及び支払日であること。
 また、交付すべき書面の内容としては、就業規則等の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないこと。この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいうまでもないこと」
2.3 書面の形式(H11.1.29基発45)
 「書面の様式は自由である。なお、明示すべき事項については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない」 
 参考までに、中小規模の事業場等(特に就業規則の作成が義務づけられていない事業場等)においても、書面の交付が適切かつ確実に行われるよう、労働条件通知書(一般用、短時間労働者用、派遣労働者用など6通りのモデル様式)が設けられている。 
 派遣労働者に対して(S61.06.06基発333) ⇒
 「イ.派遣元の使用者は、労働者派遣法による労働基準法の適用に関する特例により、自己が労働基準法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等 を含めて、労働基準法15条による労働条件の明示をする必要があること。
 ロ.労働者派遣法34条は、派遣元事業主は、労働者派遣をする場合にはあらかじめ労働者派遣契約で定める就業条件等を当該派遣される労働者に明示しなければならないと規定している。
 労働契約の締結時点と派遣する時点が同時である場合には、労働基準法15条により労働条件の明示義務と労働者派遣法34条により派遣先における就業条件の明示義務を併せて行って差し支えないこと」
 短時間労働者の場合 ⇒ 
 労基法は労働時間の長短に関係なくすべての労働者に適用されるものであって、15条についても当然に適用される。さらに加えて、
 「事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、労働時間その他の労働条件に関する事項(労基法による絶対的明示事項以外のもの)を明らかにした文書を交付するように努めるものとする」(パートタイム労働法)
 とあり、このためにも政府では労働条件通知書の普及に努めている。
3 労働契約の解除と帰郷旅費(15条のつづき)
 「2項 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」
 「3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない」
 
 「前項の規定(労働条件の明示)は、労働者が自己の労働条件の具体的内容を承知せずして雇い入れられることのないよう使用者に対し労働条件を明示することを義務づけたものである」(S23.11.27基収3514) 
 よって、他人の労働条件に関することでは、2項に基づく契約解除はできない。
 また、入社したら社宅を供与するとことを約して労働契約を締結したが、実際には供与がなかった場合でも、社宅が労基法にいう賃金(労働協約、就業規則等によって支給条件が明確になっているものなど)ではなく、単なる福利厚生施設とみなされる場合は、労働条件には該当しないことになり、2項に基づく契約解除はできない。
 2項に基づく契約解除ができない場合であっても、民法541条による契約解除はできる。すなわち、
 「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」
 ただし、この場合は3項に基づく帰郷旅費の請求はできない。
 必要な旅費とは 通達(S22.9.13発基17)
 「労働者本人のみならず、就業のために移転した家族の旅費をも含むこと」