20年度 法改正トピックス(健康保険法に関する主要改正点)

 改正の趣旨
 65歳以上の高齢者の医療に対する給付と負担のあり方を見直す。
(1)後期高齢者医療制度
 趣旨:従来の老人保健制度(健康保険等の被用者医療保険と国民健康保健からの財政調整のための仕組み)を改め、新たに独立した医療保険制度を作った。
 よって、対象者(被保険者、被扶養者)は健康保険等から除外され、新制度の被保険者となるとともに、自らも保険料を負担する。
対象者  75歳以上の者、ならびに65歳以上の寝たきりの者
保険者  各都道府県単位で結成された、全市区町村からなる広域連合
自己負担  原則として1割負担、現役並み所得のある者は3割負担。その他に生活療養標準負担額
費用  公費約5割、後期高齢者支援金等(健康保険等の被保険者による保険料)4割、被保険者保険料1割
保険料  各都道府県単位で決定

(2)前期高齢者医療制度
 趣旨:前期高齢者に該当する世代が多い医療保険ほど財政的に苦しくなる状況を緩和するために、該当者数の実態に応じて負担の均衡化を図ることを目的として、従来の老人保健制度と同じような財政調整の仕組みを作った。
 よって、対象者は従来の保険制度の被保険者のまで、保険者も変わらない。

対象者  65歳以上75歳未満の者で、後期高齢者医療の被保険者でない者
保険者  従来とかわらず。たとえば、政府(管掌健康保険)、健康保険組合、市区町村(国民健康保険)など
自己負担  70歳未満は3割負担。70歳以上75歳未満は原則年として2割、役並み所得のある者は3割負担。その他に生活療養標準負担額
 
(3) 退職者医療制度
 廃止。ただし平成26年度までの間、65歳未満の退職者のみを対象とした制度を経過措置として残す。
  改正後 改正ポイント
基本理念等  基本理念(2条)(20年4月1日施行)
 「健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない」
 老人保健制度を廃止し、75歳以上の者を対象とする後期高齢者医療制度を新設した。
 これにより、老人保健制度を後期高齢者医療制度に変更。
 70条2項


 過去問学習はこちら
 定義(適用除外者(3条1項)(20年4月1日施行)に7号として追加
 「後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律50条の規定による被保険者をいう)及び同条各号のいずれかに該当する者で同法51条の規定により後期高齢者医療の被保険者とならないもの(以下「後期高齢者医療の被保険者等」という)
 定義(日雇特例被保険者(3条2項)(20年4月1日施行) 
 「この法律において「日雇特例被保険者」とは、適用事業所に使用される日雇労働者をいう。
 ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者又は次の各号のいずれかに該当する者として社会保険庁長官の承認を受けたものは、この限りでない」
 75歳以上の者を対象とする後期高齢者医療の被保険者等は、健康保健法の被保険者、被扶養者ならびに、健康保健法の日雇特例被保険者 、被扶養者から排除された。
 
 一般被保険者に関する過去問学習はこちら

 日雇特例被保険者に関する過去問学習はこちら

 保健事業・福祉事業(150条) 法改正(20.4.1施行)
 「保険者は、高齢者医療確保法の規定による特定健康診査及び特定保健指導(特定健康診査等)を行うものとするほか、特定健康診査等以外の事業であって、健康教育、健康相談、健康診査その他の被保険者及びその被扶養者の健康の保持増進のために必要な事業を行うように努めなければならない」
 保健事業・福祉事業として、高齢者医療確保法の規定による特定健康診査及び特定保健指導(特定健康診査等)を追加した。
 過去問学習はこちら
任意継続被保険者  任意継続被保険者の資格喪失 (38条) (20年4月1日施行)
 「任意継続被保険者は、次のように、その資格を喪失する」
 「6号  後期高齢者医療の被保険者等となったとき 当日」 
 
⇒なお、後期高齢者医療の被保険者になったときとは、75歳の誕生日の前日又は65歳以上で一定の障害認定を受けた日

 
特例退職被保険者についても同様
 6号を新設
 75歳以上の者を対象とする後期高齢者医療の被保険者等は、健康保健法の被保険者、被扶養者(含む、任意継続被保険者)から排除された。
 任意継続被保険者の資格喪失に関する過去問学習はこちら
 特例退職続被保険者の資格喪失に関する過去問学習はこちら
保険給付  保険給付の種類(52条)(20年4月1日施行) 
 「被保険者に係るこの法律による保険給付は、次のとおりとする」
 「9号 高額療養費及び高額介護合算療養費
 9号に、高額介護合算療養費を追加  過去問学習はこちら
 
 日雇特例被保険者に対する給付(127条)も同じ
 療養の給付(63条)(20年4月1日施行) 
 「被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う]
 
 老人保健法の廃止により、条文から「老人保健法の規定による医療」という言葉を削除。
 ⇒老人保健法にかわる後期高齢者医療制度の導入により、75歳以上の者は健康保険法の適用除外者となり、健康保険法から排除。
 98条110条も同様
 旧63条
 「被保険者(老人保健法の規定による医療を受けることができる者を除く)の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う」
 過去問学習はこちら
 63条2項の1号改定 (20年4月1日施行) 
 「食事の提供である療養であって入院時の療養と併せて行うもの(65歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者(特定長期入院被保険者)に係るものを除く)。以下 「食事療養]という」
 特定長期入院被保険者は70歳から65歳へ。
 
 過去問学習はこちら






自己負担率 
 一部負担金(74条) (20年4月1日施行) 
 「2号 70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合(次号に掲げる場合を除く) 100分の20(21年3月までは1割負担で据置き)
  注 21年度も継続
 70歳以上で所得が一定額未満の者の一部負担金は、100分の10から100分の20に増額 。ただし、この分の施行は21年4月1日からに変更された。
 その後、22年4月1に延長。
 過去問学習はこちら
 自己負担率(110条2項) (20年4月1日施行) 
 被扶養者が6歳に達する日以後の最初の3月31日の翌日以後であって70歳に達する日の属する月以前である場合:100分の30
 被扶養者が6歳に達する日以後の最初の3月31日以前である場合:100分の20
 被扶養者(ニに規定する被扶養者を除く)が70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合:100分の20(22年3月までは1割負担で据置き)
 被扶養者が70歳に達する日の属する月の翌月以後であって、その者を扶養する被保険者が70歳以上でかつ、標準報酬月額が政令で定める額(28万円)以上である場合(70歳以上の被保険者と被扶養者の合計年収入額が520万円未満の者は除く):100分の30
 自己負担率=1-給付率
 
(1)ロは「3歳に達する日の属する月以前」から
 「6歳に達する日以後の最初の3月31日以前」に。
(2)上記により、イも6歳到達年度末後から70歳到達月までに
(3)ハは「100分の10」から「100分の20」へ(ただし、実際には経過措置により、22年4月1日から  ⇒その後25年3月まで延長)
 




 過去問学習はこちら
高額療養費

高額介護合算療養費

 70歳以上高額療養費算定基準額(自己負担限度額) 法改正(H20.4.1施行)
 所得区分  70歳以上各自外来療養合算額について  入院を含む70歳以上世帯全員合算額について
 一定所得者(一部負担金が3割の者)  44、400円  80,100円+(医療費合算額‐267,000円)×0.01
 一般  24,600円  62,100円
 市町村民税非課税者等   8,000円  24,600円
 基準所得が0円の者等   8,000円  15,000円
 70歳以上75歳未満の一般の者の一部負担金が2割になったことに伴って、高額療養費算定基準額も
  12,000円が24,600円に
  44,400円が62,100円に

⇒ただし、実際には経過措置により、21年4月1日か実施
 
 高額介護合算療養費(115条の2) (H20.4.1新設) 
 「一部負担金等の額(高額療養費が支給される場合にあっては、当該支給額に相当する額を控除して得た額)並びに介護保険法に規定する介護サービス利用者負担額(高額介護サービス費が支給される場合にあっては、当該支給額を控除して得た額)及び介護予防サービス利用者負担額(高額介護予防サービス費が支給される場合にあっては、当該支給額を控除して得た額)の合計額が著しく高額であるときは、当該一部負担金等の額に係る療養の給付又は保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額介護合算療養費を支給する」 
 高額療養費を算定する際に、世帯内に介護保険のサービスを受けた者がいる場合、
 健康保険の一部負担金、自己負担額+介護保険の利用者負担額の年間合計額が自己負担限度額を超過
 ⇒高額介護合算療養費を支給
 過去問学習はこちら

 国庫負担(151条)(H20.4.1施行)
 「国庫は、毎年度、予算の範囲内において、健康保険事業の事務(高齢者医療確保法による前期高齢者納付金等、後期高齢者支援金等及び173条による日雇拠出金並びに介護保険法による介護納付金の納付に関する事務を含む)の執行に要する費用を負担する」
 退職者給付拠出金の経過措置(附則4条の3)(H20.4.1新設)
 「国民健康保険法の規定により社会保険診療報酬支払基金が退職者給付拠出金を徴収する間、151条中「及び173条の規定による拠出金」とあるのは、 「173条の規定による拠出金及び退職者給付拠出金と、155条及び160条2項中「及び後期高齢者支援金等」とあるのは「、後期高齢者支援金等及び退職者給付拠出金」と、同条6項中「若しくは後期高齢者支援金等」とあるのは「、後期高齢者支援金等若しくは退職者給付拠出金」と、同条11項中「国庫補助額を控除した額)」とあるのは「国庫補助額を控除した額)並びに退職者給付拠出金の額」と、附則第2条第1項中「日雇拠出金」とあるのは「日雇拠出金、退職者給付拠出金」とする」
 病床転換支援金の経過措置(附則4条の4)(H20.4.1新設)
 
「高齢者医療確保法に規定する政令で定める日までの間、前条の規定により読み替えられた151条中「173条」とあるのは「病床転換支援金等、173条」と、153条2項中「及び後期高齢者支援金」とあるのは「後期高齢者支援金及び病床転換支援金」と、154条2項中「及び後期高齢者支援金」とあるのは「後期高齢者支援金及び病床転換支援金」と、前条の規定により読み替えられた155条及び160条2項中「及び退職者給付拠出金」とあるのは「、病床転換支援金等及び退職者給付拠出金」と、前条の規定により読み替えられた160条6項中「若しくは」とあるのは「、病床転換支援金等若しくは」と、前条の規定により読み替えられた160条11項中「及び後期高齢者支援金等」とあるのは「、後期高齢者支援金等の額及び病床転換支援金等」と、173条1項及び176条中「及び後期高齢者支援金等」とあるのは「、後期高齢者支援金等及び病床転換支援金等」と、前条の規定により読み替えられた附則第2条第1項中「後期高齢者支援金等」とあるのは「後期高齢者支援金等、病床転換支援金等」とする」 
 老人保健事務費拠出金、老人保健医療費拠出金の納付事務は高齢者医療確保法による後期高齢者支援金等の納付事務に変更。
 退職者給付拠出金の廃止(経過措置はあり)によりその納付事務は対象から外し、新たに前期高齢者納付金等の納付事務を追加。
 
 過去問学習はこちら
 国庫補助(153条)(H20.4.1施行)
 「国庫は、国庫負担のほか、政府が管掌する健康保険事業の執行に要する費用のうち、被保険者に係る療養の給付(一部負担金の相当する額を控除)並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、出産手当金、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費、高額療養費及び高額介護合算療養費の支給に要する費用の額
 並びに前期高齢者納付金の納付に要する費用の額に給付費割合を乗じた額の合算額(前期高齢者交付金がある場合には、合算額から前期高齢者交付金の額に給付費割合を乗じた額を控除)に1,000分の164から1,000分の200までの範囲内において政令で定める割合(当分の間、1,000分の130)を乗じて得た額を補助する。
 ここで、給付費割合とは、高齢者医療確保法の34条1項1号及び2号に掲げる額の合計額に対する1号に掲げる額の割合)をいう」
 「同2項 国庫は、国庫負担及び前項に規定する費用のほか、健康保険の保険者である政府が拠出すべき前期高齢者納付金及び高齢者医療確保法による後期高齢者支援金並びに介護納付金(いずれも、日雇特例被保険者に係るものを除く)の納付に要する費用の額の合算額(前期高齢者納付金の額に給付費割合を乗じて得た額を除き、前期高齢者交付金がある場合には、前期高齢者交付金の額から給付費割合を乗じて得た額を控除して得た額を当該合算額から控除した額)に政令で定める割合(1,000分の164)を乗じて得た額を補助する」
 特定健康診査等への補助(154条の2)(H20.4.1新設)
 「国庫は、151条(国庫負担)及び前2条(国庫補助、日雇特例被保険者への保険給付)に規定する費用のほか、予算の範囲内において、健康保険事業の執行に要する費用のうち、特定健康診査等の実施に要する費用の一部を補助することができる」
(1)高額療養費が、高額療養費+高額介護合算療養費に。
(2)その他の保険給付は従来通り。
(3)(前期高齢者納付金の納付に要する費用−前期高齢者交付金)×給付費割合を新たに追加。

 ⇒これらに対して13%を補助
(1)介護納付金は従来通り。
(2)(前期高齢者納付金の納付に要する費用−前期高齢者交付金)×(1−給付費割合)を新たに追加。
(3)老人保健法による医療費拠出金に代って、後期高齢者支援金に。
(4)特定健康診査等の実施に要する費用の一部を補助できるようにした。

 ⇒これらに対して16.4%を補助
 過去問学習はこちら
保険料  保険料(155条)(H20.4.1施行)
 「保険者は、健康保険事業に要する費用(前期高齢者納付金等及び後期高齢者支援金等並びに介護納付金並びに健康保険組合においては、173条の規定による拠出金(日雇拠出金)の納付に要する費用を含む)に充てるため、保険料を徴収する」 
 老人保健拠出金及び退職者給付拠出金が、前期高齢者納付金等及び後期高齢者支援金等に。
 160条1項も同じ。
 過去問学習はこちら
 保険料額(156条1項) (H20.4.1施行)
 「被保険者に関する保険料額は、各月につき、次の各号に掲げる被保険者の区分に応じ、当該各号に定める額とする」 ここで、各月とは、「資格を取得した月から、喪失した月の前月分まで」である。
1  介護保険2号被保険者である被保険者  一般保険料額((標準報酬月額+標準賞与額)×一般保険料率)と
 介護保険料額((標準報酬月額+標準賞与額)×介護保険料率)
 ここで、一般保険料率は基本保険料率特定保険料率とする。
2  上記以外の被保険者  一般保険料額

 ここで、

基本保険料  被保険者に対する医療給付、保険事業等、事務に要する費用に充てるための保険料、
特定保険料  後期高齢者支援金等(等とはその事務費拠出金のこと)、前期高齢者納付金等(等とは事務費拠出金のこと)、経過措置としての退職者給付拠出金等に充てるための保険料
 ねらいは、いずれも現役被保険者が納付する保険料であるが、現役被保険者の給付に応じた負担分と、前期高齢者に対する費用調整分+後期高齢者に対する支援、のための負担分が明確にわかるようにした。
・一般保険料を基本保険料と特定保険料率に区分した。
・いずれも現役被保険者が納付する保険料であるが、現役被保険者の給付に応じた負担分と、前期高齢者に対する費用調整分+後期高齢者に対する支援のための負担分が明確にわかるようにした。

 過去問学習はこちら 

 



 

 


 

 
 特定保険料率(160条14項) (H20.4.1新設)
 「特定保険料率は、各年度において保険者が納付すべき前期高齢者納付金等の額及び後期高齢者支援金等の額(政府が管掌する健康保険及び日雇特例被保険者の保険においては、その額から153条及び154条の規定による国庫補助額を控除した額)の合算額(前期高齢者交付金がある場合には、これを控除した額)を当該年度における当該保険者が管掌する被保険者の 総報酬額の総額の見込額で除して得た率を基準として、保険者が定める」
 基本保険料率(160条15項) (H20.4.1新設)
 「基本保険料率は、一般保険料率から特定保険料率を控除した率を基準として、保険者が定める。

 






 過去問学習はこちら 

 

 健康保険組合の一般保険料率(160条9項)(H20.4.1施行)
 「健康保険組合が管掌する健康保険の一般保険料率は、1,000分の30から1,000分の100までの範囲内において、決定するものとする」  
 1,000分の30から1,000分の95が、
  1,000分の30から1,000分の100
 過去問学習はこちら
 財政調整と調整保険料(附則2条)
 「健康保険組合が管掌する健康保険の医療に関する給付、保健事業及び福祉事業の実施又は健康保険組合に係る前期高齢者納付金等後期高齢者支援金等、日雇拠出金若しくは介護納付金の納付に要する費用の財源の不均衡を調整するため、連合会は、政令で定めるところにより、会員である健康保険組合に対する交付金の交付の事業を行うものとする」
 太字分を追加。
 

 過去問学習はこちら

秘密保持  秘密保持義務(199条の2)(H20.4.1新設)
 「保険者の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、健康保険事業に関して職務上知り得た秘密を正当な理由がなく漏らしてはならない」 
 秘密保持違反(207条の2)
 「199条の2の規定に違反して秘密を漏らした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」
 保険者の役員、職員などに退職後も含めて、罰則付きの秘密保持義務を課した。

 21年度改正により、
 旧199条の2は7条の37へ。
 それに伴い新199条の2が制定された。