1 労働基準法 解答の解説 Tome塾Homeへ
1A  10-7D11-1D11-1E13-1D14-1C14-7C16-1A16-1B20-7D23-1D29-1イ29-2ウ令4-1C
1B  10-1E11-1B12-1D13-1C14-2A15-1D19-1A19-1B19-1C24-4D26-1D26-1E、27-1E27-3C29-2ア29-2エ29-2オ29-5オ30-4エ令元ー3エ令2-1A令2-1B令2-1C令2-1D令4-1A令4-1B令4-1D令4-1E令4-4E 令5-4E令6-1D
令6-2A,B,C,D,E(令6-2ア令6-2イ令6-2ウ)
 21-1選択令2-選択
1C  10-1D10-2C10-2E11-5C12-2A12-2E13-1A13-1B13-1E13-4C14-1D14-2D14-2E14-7A15-1C15-3D16-1C17-7A18-1C18-2D20-1A20-1B20-1C20-1D20-7A20-7B20-7C20-7E21-1D22-1A22-1B22-3C23-1B23-2C23-2D23-2E24-1E25-6D25-6E26-1A26-1B27-1D27-3D28-1エ28-2C28-2D28-2E29-5イ29-5ウ30-5B令元ー3イ令元ー4B令2-2C令2−4B令3-1C令3-2C令3-2D令4-4D令4-5C令4-5D令5-4C令5-4D令5-5C令6-3C令6-3D
 11-選択11-2選択令3-1選択令5-1選択
1D  12-1B14-1E16-1D21-1E23-1C24-4C26-1C29-5エ令元ー3ウ令2ー4D令3-1D
20-2選択
1E  09-2D10-1C11-1A11-2C11-2D12-1A12-1C12-2C12-2D13-5C14-1A14-2C14-2B14-6C15-2A15-2C15-2E16-1E18-1A18-3C19-1E20-1E21-1A、21-1B21-1C21-2B21-3C23-1A23-2B23-5A23-5B23-6C24-2D24-2E24-3オ24-4A24-4B24-7A24-7E25-1B25-1D25-5A25-5B25-5C25-5D25-5E25-6C26-7エ27-1A27-1B27-1C28-1ア28-1イ28-1ウ28-2B28-5B28-5C29-3B29-3E29-5ア30-4ア30-4イ30-4ウ30-7B30-7C,、令元ー3ア令元ー4A令元ー7E令2-4A令2-5イ令2-7A、令3-1A令3-1B令3-2B令3-7B令4-4A令4-4B令4-4C令4-5B 令5-4A令5-4B令5-5B令6-1A令6-1B令6-1C令6-3B
 一般15-5E19-1選択19-2選択
10
7D
 労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用されない。
 それ以外には、ごく一部の例外(一般職の国家公務員)を除いて、事業に使用されるすべての労働者に適用される。
 通達(S43.10.9基収4194)によると、
 「わが国で行われる事業については、事業主又は労働者が外国人であると否とを問わず、法令又は条約に特別の定めがある場合を除き、法の適用がある。
 ただし、外国政府及び国際法によっていわゆる外交特権を有する外交官等については、原則としてわが国の裁判権は及ばない」
 よって、労基法の適用に当たっては、それが日本人であるか外国人であるか、その外国人の就労が不法であるか否かには左右されない。
14
1C
 116条2項により、労基法は、同居の親族のみを使用する事業を除き、労働者を使用するすべての事業に適用される。
 別表1に掲げる事業以外の事業であっても、原則として、労働者を使用する事業又は事務所はすべて、労働基準法の適用を受けることになる。
11
1D
 116条2項により、労基法は、同居の親族のみを使用する事業を除き、労働者を使用するすべての事業に適用される。
 別表1に掲げる事業以外の事業であっても、原則として、労働者を使用する事業又は事務所はすべて、労働基準法の適用を受けることになる。
20
7D
 116条2項に、
 「労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」とある。
 前段については、「同居の親族のみを使用する事業」とある点が重要で、その事業には労基法は適用されない。
 一方、同居の親族のほか、それ以外の者(同居していない親族、あるいは親族ではない者)を(一時的にではあっても)を使用している場合は、その事業は労基法が適用されることになり、それ以外の者は労基法上の労働者となる。
 場合によっては、同居の親族についても、労基法上の労働者になりうる可能性もある。詳細についてはこちらを
 後段については、「家事使用人」は労基法の適用事業に使用されるものであっても、その者は労基法上の労働者ではないということ。
 ただし、これにも例外はあり、詳細はこちらを
令4
1C
 「同居の親族のみを使用する事業」については、116条2項により、「労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業については、適用しない」。
 問題文では続いて、「一時的に親族以外の者が使用されている場合」とある。
 一時的ではあれ、「親族以外の者が使用されている場合は、「同居の親族のみを使用する事業」の前提が崩れることになり、この事業には労働基準法が適用される」ことになる。
 後は、この事業に使用される者について、個々に労働者性を判定することになるが、
・使用されている親族以外の者(親族ではあるが同居していない、いわゆる通いの親族者も同じ)は、特別な事情がない限り、労働基準法の労働者に該当することになる。
 なお、参考までに、通達(S54.4.2基発153)によると
@この場合であっても、 同居の親族については、原則として労働基準法上の労働者に該当しない。
Aただし、同居の親族の中に、一般事務又は現場作業等に従事し、かつ次の要件いずれも満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の労働者として取扱う、とされている。
・業務を行なうにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
・就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
29
2ウ
 「同居の親族」に対する労働基準法の適用可能性については、116条2項に、
 「同居の親族のみを使用する事業については、適用しない」とある。
 通達(S54.4.2基発153)によれば、
 「同居の親族は、事業主と居住及び生計を一にするものであり、原則として、その就労の実態にかかわらず労働基準法上の労働者に該当しない」とある。
 ただし、同通達によりと、「同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ次の@及びAの条件を満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の労働者として取扱うものとする」
@業務を行なうにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
A就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること」とある。
 つまり、同居の親族以外のもの(通いの親族あるいは他人)を一人でも使用している場合は、その事業には労働基準法が適用され、同居の親族以外の者は労働者、同居の親族は労働者でない、ということになるが、
 「一般事務又は現場作業等に従事し、かつ上記@及びAの条件を満たす同居の親族に限っては、労働基準法が適用される」
⇒「同居の親族」とあるから、いわゆる通いの親族については、親族以外の一般の者と同様の判定基準に従うということでもある。
16
1B
 16条2項により、「家事使用人には労働基準法は適用されない」とあるから、労働基準法が適用される労働契約とはならない」
 ここでいう「家事使用人」とは、家事一般に使用される者をいっている。
 本肢の場合、「家事一般に従事するための契約」とあるから、労働基準法が適用されない文字通りの「家事使用人」としての雇用契約である。
 ただし実際問題としては、ここでいう「家事使用人」に該当するかどうかは、「従事する作業の種類、性質など具体的な実態を見て判断しないといけない」とされている
 また、家事が専業でない場合は、どちらが本来業務であるかを見極めないといけない。
 たとえば、個人事業の見習い雇い人などであって、家事の手伝いが主で空いた時間に見習いを行なっている場合は、労基法の適用がない雇用契約であるが、仕事の見習い修業が主であって、その合間に家事も手伝わせている場合は、労基法の適用がある労働契約である。(ただし、これも契約のタイトルだけで判断してはいけない)。
13
1D
 116条2項により、
 「労働基準法は、家事使用人については、適用しない」
 これが原則であるが、実際問題として、ここでいう「家事使用人」に該当するかどうかの判定が容易でないこともある。通達(S54.4.2基発153)によれば、
 「法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で、家事一般に従事している者も家事使用人であるが、個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は、家事使用人に該当しない」
⇒本肢は後者の場合で、家事使用人ではない。
 「個人家庭における家事を事業として請け負う者にやとわれている者」であるから、家事請負事業の労働者として、労基法が適用される。
23
1D
 前段にある労働者の定義については、9条
 「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」の通り。
 ただし、家事使用人については、116条2項により、
 「労働基準法は、家事使用人については、適用しない」とある。
 つまり、9条の定義に該当する場合は、原則は労働者であるが、家事使用人であれば、労働者とは認められず、労働基準法が適用されないことになる。
 しかしながら、「いかなる形態の家事使用人も労働者でない」かということになると、これもそうとは言い難い問題点をはらんでいる。
 結論からいうと、一つの条文だけで、「労働者か否かの区別を明確にすることなどできはしない」ということ。。
 実際問題としては、116条2項にいう「家事使用人」に該当するかどうかの判定が難しく、その形態等によることになる。
 たとえば、通達(S54.4.2基発153)によれば、
・法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で、家事一般に従事している者も家事使用人であるが、
・個人家庭における家事を事業として請け負う者(たとえば家政婦の派遣業者)に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は、家事使用人に該当しない。とある。
 後者の場合は、「個人家庭における家事を事業として請け負う者にやとわれている者」であるから、家事請負事業の労働者として、労働基準法が適用される。
29
2イ
 「法人に雇われ」とあり、賃金もその法人から支払われていると想定できることから、労働者の定義9条の「事業に使用され、賃金を支払われる者」に該当し、労働者のように思える。
 一方、「家事一般に従事している者」とあるから、116条2項の「家事使用人については、労働基準法は適用されない」とある。
 よって、これらの知識だけでは、解決できない。
 本肢の場合、重要なことは「法人の役職員の家族の指揮命令の下で家事一般に従事している」とある点。つまり、その者の労働を指揮命令しているのは家族ということになる。
 この点、通達(S54.4.2基発153)によれば、
 「法人に雇われてその役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で、家事一般に従事している者は家事使用人である。すなわち、労基法上の労働者にはならない」とされている。
 この場合は、その家事一般を行う家庭が事業所、指揮命令権をもつ家族が使用者ということになってしまうが、家族に労働基準法における使用者責任を負わせるのは適当でないということ。
 また、家政婦紹介所の紹介などにより、個人家庭に雇用されて、家事、育児などの作業に従事する者は、家事使用人であって、この者も労働者にはならない。
16
1A
 船員法に規定する船員に対する労基法の適用については、116条の通りで、「労働条件の原則、労働条件の決定、均等待遇、男女同一賃金の原則、強制労働の禁止、中間搾取の排除、公民権行使の保障、定義(平均賃金を除く)、罰則の一部は、船員であっても適用され、それ以外の部分は適用されない」
11
1E
 116条の通りで、「労働条件の原則、労働条件の決定、均等待遇、男女同一賃金の原則、強制労働の禁止、中間搾取の排除、公民権行使の保障、定義(平均賃金を除く)、罰則の一部は、船員であっても適用される」
14
7C
 地方公務員法58条5項によると(抜粋)、
 「労働基準法、労働安全衛生法の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定中3項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定中、職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、労働基準法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとする」 
すなわち11号(郵便、信書便、電気通信事業)と12号(教育、研究、調査の事業)に従事する職員は人事委員会等が、それ以外は労働基準監督機関が、職権を行使する。 「すべての」という表現があるときは疑うべし
10
1E
 労働基準法による労働者の定義は9条の通りであり、
 「事業又は事務所に使用される者」でないといけない。
 より具体的には、「事業又は事務所に使用される者で、他人から指揮命令を受けて労働を提供し、その対償として賃金を得る者をいう」
 ⇒賃金という名称にまどわされず、その賃金なるものをどうやって得たかというプロセス(使用者からの指揮命令により労働を提供した)も考えること。
 問題文は、労働組合法にいう労働者である。
29
2ア
 労働基準法による労働者の定義は9条の通りであり、「事業又は事務所に使用される者」でないといけない。ここで、「事業」とは、通達(S22.9.13発基17)によれば、「工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において、相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいう」とあり、場所的観念とならんで継続性が重要である。
 本肢の場合、「何ら事業を営むことのない大学生が自身の引っ越しの作業を友人に手伝ってもらい」とあり、その大学生は継続的な事業を行っているわけではないから、その大学生から報酬を受けた友人は労働者には該当しない。
令4
1A
 労働基準法による労働者の定義は9条の通りであり、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とあり、
 問題文にある「失業しても、その後継続して求職活動をしている間」であれば、「事業又は事務所に使用される者」でもなく、「賃金を支払われる者」でもないので、労働基準法による労働者ではない。
 求職活動をしていようがいまいが、失業中の者は、労働基準法による労働者には該当しない。
 参考までに、労働組合法による労働者とは、同法3条により、「労働者とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」とあり、会社や店を経営したり、家・土地その他の財産で生活する者などではなく、人に雇われて収入を得ることを生活の糧とする(身分、階級)の者がこれに該当するから、「現に失業している者も労働者である」
13
1C
 労働者の定義は9条の通り。さらに、通達(S23.3.17基発461号)によると、
 「法人の重役(工場長、部長)であっても、業務執行権又は代表権を持たないで、賃金を受けている場合には、その限りにおいて労基法9条に規定する労働者である」

4
1D
 労働者の定義は9条の通りで、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とあるが、実務的には、「他人の指揮命令を受けて労働を提供し、その対償として賃金を受けとる者」が労働者である。
 よって、通達」(S23.1.9基発14)にあるように、「法人、団体、組合等の代表者又は執行機関たる者のごとく、事業主体との関係において使用従属の関係に立たない者は労働者でない
 一方、法人の重役で業務執行権又は代表権を持たない者については、通達(S23.3.17基発461号)に、
 「その者が工場長、部長などの職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて9条に規定する労働者である」
 結論として、「株式会社の代表取締役は、労働基準法の労働者にはなれない」
 なお、問題文にある「株式会社の代表取締役は、法人である会社に使用される者であり」とするのは、健康保険法、厚生年金保険法において採用されている考え方であり、通達(S24.7.28 保発74)により、業務執行権又は代表権を持つものであっても、これらの法の被保険者となる。
19
1B
 労働者の定義は9条の通り。さらに通達(S23.3.17基発461号)によると、
 「法人の重役(工場長、部長)であっても、業務執行権又は代表権を持たないで、賃金を受けている場合には、その限りにおいて労基法9条に規定する労働者である」
⇒工場長、部長などの職務を遂行し、その対償として賃金を受けとるという労働者的側面に関する限りにおいて労働者であって、本来の取締役としての業務を行なっている時は労働者ではない。つまり、他の一般の労働者と全く同じ権利・保護があるわけではない。
 雇用保険法の被保険者にもなりうる。
29
2エ
  労働者の定義9条に照らした場合、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」では判定し難いかもしれないが、労働者とは、「指揮命令を受けて労働(労務)を提供し、その対象として賃金を受け取る者」からすると、取締役は労働者に該当するとは考えにくいであろう。
 しかしながら、取締役と一口にいっても様々であり、社外取締役は論外としても、「工場長や総務部長などが同時に取締役」といったこともありうる。
 もちろんこれらの者は管理監督者ではあるが、工場長、部長などの職務を遂行し、その対償として賃金を受けとるという労働者的側面が完全に否定されるともいえない(報酬についても、いわゆる取締役に対する報酬と、工場長や部長としての賃金からなる場合がありうる。また、より端的にいえば、取締役は解任されても工場長ななどを続けることもありうる)
 このようなことから、通達(S23.3.17基発461号)によると、
 「法人の重役(工場長、部長)であっても、業務執行権又は代表権を持たないで、賃金を受けている場合には、その限りにおいて労基法9条に規定する労働者である」としている。
 ただし、「業務執行権(会社の全体又は一部の部門に対して指揮命令権を有して業務を行う権利)を持たないで賃金を受ける」の判定は、意外のほか難しく、取締役非設置会社(取締役が1人でもよい会社)においては、取締役は原則的には業務執行権を有していると考えてよいが、取締役設置会社(取締役が3人以上の会社)においては、業務執行取締役に選定されたものだけが、業務執行権を有する」 
⇒よって、業務執行権を有する取締役から指揮命令を受けて労働を提供する場面がある取締役は、その場面に限って、労働者ということになる。
29
5オ
 本肢における事案は、「労働基準法9条所定の労働者であり,最低賃金法2条所定の労働者に該当するのに,病院側は奨学金等として最低賃金額に達しない金員しか支払っていなかったとして,最低賃金額と支払われていた奨学金等との差額に相当する賃金の支払を求めた」のを不服として、病院側が上告したものである。
 これに対する最高裁判例[未払賃金請求事件(H17.06.03)]によれば、
 「研修医は,医師国家試験に合格し,医籍に登録されて,厚生大臣の免許を受けた医師であって、医療行為を業として行う資格を有しているものであるところ,医師は,免許を受けた後も,2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとすると定めている。
 この臨床研修は,医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している。
 そして,研修医が医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たるものというべきである。
 これに加えて,病院側は、被上告人に対して奨学金等として金員を支払い,これらの金員につき給与等に当たるものとして源泉徴収まで行っていたというのである。
 そうすると,被上告人は,最低賃金法2条所定の労働者に当たるから、同法により,最低賃金と同額の賃金を支払うべき義務を負っていたものというべきである」とした。
⇒教育的な側面を強く有してはいるが、病院開設者の指揮監督の下で労務の提供をしているという実態から判断すれば、この研修医は9条にいう労働者に当たる。
30
4エ
 労働者の定義は9条から、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」であるが、その実態をより特徴的に捉えると、「使用される者」とは、「他人の指揮命令を受けて(使用従属して)労働を提供する者」であり、「賃金を支払われる者」とは、「従属労働の対償として賃金を受けとる者」ということができる。
 いわゆるインターンシップにおける学生の労働者性については、通達(H9.09.18基発636)において、「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられ、また、この判断は、個々の実態に即して行う必要がある」とある。
 本肢の場合は、「使用従属関係が認められない場合」とあるから、9条にいう労働者ではない
 なお、問題文の最後の部分に、「使用従属関係が認められない場合でも、不測の事態における学生の生命、身体等の安全を確保する限りにおいて、労働者に該当する」とあるが、このようなルールはない。
 労基法に規定される労働者でない場合は、安全衛生法や労災保険法の適用はない。
 ただし、「安全配慮義務」は特別な法律によって定義されている概念ではないが、「労働者でない場合であっても、会社はこのような学生に対して安全配慮義務を負っており、企業内での事故に対して過失があれば、損害賠償責任が発生する」ものとされている。
 参考までに、文部科学省の定義によれば「学生インターシップとは、学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」である。
令4
1E
 労働者の定義は9条から、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」である。
 しかしながら、本肢の場合、この者に明確な契約関係がないとある。
 民法でいう雇用契約は、「あなたを雇いたい」、「よろしい。それに応じましょう」という当時者双方の意思標示が合致したときに成立する「諾成契約」であり、労基法においても、この法理が適用されると考えてよい。
 しかし、一般には、当事者がだれで、契約内容はどのようなものであり、双方の意思表示はどのようにして確認したかなどにおいて、あいまいさが残ることが多い。
 民法上の雇用契約は文書によることが要求されていないが、後々での紛争ができるだけ起こさないようにするために、労基法では、契約書そのものでないが、15条により、「労働契約締結時に、賃金、労働時間その他の一定の労働条件を書面で明示する義務を負わせている」。
 いずれにしても、厚生労働省労働基準局編の労働法コンメンタール「労働基準法」上のページ132「労働契約なき労働関係において、「明確な契約関係がなくても、事業に「使用」され、その対償として「賃金」が支払われる者であれば、労働基準法9条の労働者であり、労働基準法の適用があることは明らかである」とある。
27
1E
 労働者の定義は9条から、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」である。
 しかしながら、その実態をより特徴的に捉えると、「使用される者」とは、「他人の指揮命令を受けて(従属して)労働を提供する者」であり、「賃金を支払われる者」とは、「従属労働の対償として賃金を受けとる者」ということができる。
 問題文にある「使用従属関係」とは、「指揮命令を受けて労働を提供する」関係を端的に言い表したものである。
 いずれにしても、「労働者であるか否かは、契約の名称等には捉われずに、実体で判断しなければならない」とされている。
 労働法コンメンタール「労働基準法」上のページ115「請負と労働関係」によれば、
 「請負契約における下請負人は、当該業務を自己の業務として注文主から独立して処理するものである限り、たとえ本人が労務に従事することがあっても、本条(9条)の労働者となることはない。
 たとえば工場がその事業経営上必要な建物その他の施設を大工に修理させる場合は、一般には請負契約によるので、大工は本条の労働者にはならない。
 しかし、形式上は請負のようなかたちをとっていても、その実体において使用従属関係が認められるときは、当該関係は労働関係であり、当該請負人は本条の「労働者」であることになる」としている。
29
2オ
 「工場が建物修理の為に大工を雇う場合」とある。「雇う」とあるから、一見、雇用契約に基づく労働者かとも思える。
 しかし続いて、「そのような工事は一般に請負契約によることが多く、また当該工事における労働は工場の事業本来の目的の為のものでもない」とあるから、請負すなわち、労働者ではないとも思える。
 つまり、「雇用」とか「請負」などという形式上の言葉からのみ判断するのではなく、実態から判断することが必要である。
 この点については、労働法コンメンタール「労働基準法」上のページ115「請負と労働関係」において、
 「請負契約における下請負人は、当該業務を自己の業務として注文主から独立して処理するものである限り、たとえ本人が労務に従事することがあっても、本条(9条)の労働者となることはない。
 たとえば工場がその事業経営上必要な建物その他の施設を大工に修理させる場合は、一般には請負契約によるので、大工は本条の労働者にはならない」としながらも、
 続いて、「形式上は請負のようなかたちをとっていても、その実体において使用従属関係が認められるときは、当該関係は労働関係であり、当該請負人は本条の「労働者」であることになる」としている。
 つまり、本肢の場合、「当該大工が労働基準法第9条の労働者に該当することはなく、労働基準法が適用されることはない」と言い切ることはできず、労働者性すなわち使用従属関係の有無について、実態に即した判断が必要なのである。
令4
1B
 労働基準法の労働者とは、9条から「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」である。
 しかしながら、その関係をより本質的に捉えると、「使用される者」とは、「他人の指揮命令を受けて(使用従属して)労働を提供する者」であり、「賃金を支払われる者」とは、「使用従属下での労働の対償として賃金を受けとる者」ということができるといわれている。
 そして何よりも、「労働基準法の労働者」とは、労働基準法で定められた様々な権利と保護の利益を受けることでできる者という意味である。
 問題文の前段では、「労働基準法の労働者は、民法第623条に定める雇用契約により労働に従事する者がこれに該当する」とある。
 民法623条は、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」としており、厳密にいえば、使用従属関係があるか否かは、双方の契約者による意志の合致した内容によるといえる。
 また、雇い主が事業とは全く関係のない1個人であって、労基法の事業主という立場にない場合もある。
 もともと民法によるこの契約は、雇用する者、雇用される者が対等の立場で、契約自由の原則によって締結するものである。この点において、623条による関係は単に雇用関係と呼ばれるに対し、使用従属の立場を明確にした労働基準法による雇用の関係は、特に「労働関係」と呼ばれている。
 ただし、一般的には、雇用関係か労働関係かという区別は余りされていないので、労働者側にたてば、雇用関係(請負や委任などではない関係)があれば、雇い主が事業とは全く関係にない1個人でない限り、一応、労働者としての保護は受けられると解される。
 次に、問題文の後段であるが、「請負契約」とは、民法632条によるもので、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」とある。
 よって、一般的には、使用従属の関係になく、また報酬も「労働の対償ではなく、仕事の結果」に対して支払われるので、労働基準法による労働者には該当しないといえる。
 ただし、物事には例外もあり、たとえば、労働法コンメンタール「労働基準法(令和3年版)」上123-124P)「請負と労働関係」に「請負契約における下請負人は、当該業務を自己の業務として注文主から独立して処理するものである限り、たとえ本人が労務に従事することがあっても、本条(9条)の労働者となることはない。
 しかし、形式上は請負のようなかたちをとっていても、その実体において使用従属関係が認められるときは、当該関係は労働関係であり、当該請負人は本条の「労働者」であることになる」としている。
 別の例として、新聞配達員の場合、通達(S22.11.27基発400)によれば、「配達部数に応じて報酬を与えている場合は、単なる請負関係であって、労働関係はなく従って労働者でないと見るを適当と考えるが如何」というお伺いに対して、回答は、「配達部数に応じて報酬を与えているのは、単に賃金の支払形態が請負制になっているだけであって、一般に販売店と配達人との間には、使用従属関係が存在し、配達員も本法の労働者である場合が通例である」

6
2ウ
  労働契約の根幹については、「労働契約」とは(労働法コンメンタール「労働基準法(令和3年版)」上214P)によれば、
 「労働契約とは、一定の対価(賃金)と一定の労働条件のもとに、自己の労働力の処分を使用者に委ねることを約する契約である。
 本質的には民法第623条に規定する雇用契約や労働契約法第6条に規定する労働契約と基本的に異なるものではないが、労働契約なる概念は、資本主義社会における労使間の著しい経済的優劣関係とこれによる労働者の資本への隷属状態に着目して、これに規制を加えんとする労働者保護法規の発展とともに確立された契約概念であり、自由対等な人間間を規制する市民法上の契約概念たる雇用契約とは異なる角度から、労使間の契約を把握する特殊な契約類型である。
 したがって、民法上の雇用契約にのみ限定して解されるべきものではなく、委任契約、請負契約等、労務の提供を内容とする契約も労働契約として把握される可能性をもっている」とある通り。
 参考までに、最終段にある「請負契約等も労働契約として把握される可能性をもっている」とある部分については、「請負と労働関係」(労働法コンメンタール「労働基準法(令和3年版)」上123-124P)によれば、「例えば、農家又は工場がその事業経営上必要な建物その他の施設を大工に修理させる場合は、一般に請負契約によるので、大工は9条の労働者にはならない。
 しかし、形式上は請負のようなかたちをとっていても、その実体において使用従属関係が認められるときは、当該関係は労働関係であり、当該請負人は9条の労働者であることになる
令元
3エ
 9条の労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」であるが、より具体的にいえば、「他人の指揮命令を受けて労働を提供し、その対償として賃金を受けとる者をいい名称等には捉われずに、実体で判断すべきもの」とされている。
 芸能タレントについては、いろんな立場の人がいるので、労働者性の判定がさらに難しいことになるが、通達(S63.7.30基収355)によると、
 「当局管内には劇団あるいはいわゆる芸能プロダクション等が多く、それら事業場から労働基準法第56条に基づく児童の使用許可申請がなされることが少なくないところである。
 当局においては、これら申請に係る子役あるいはタレントについては、一般にその所属する劇団あるいは事務所との間に労働契約関係があるものと考えるが、なかには、その人気の程度、就業の実態、収入の形態等からみて、労働契約関係ありとみるには疑問なしとしない事例が散見されるところである。
 そこで、これらの事例については、下記のとおり取り扱ってよろしいか、お伺いする。
 次のいずれにも該当する場合には、労働基準法第9条の労働者ではない。
@当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。
A当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。
Bリハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。
C契約形態が雇用契約ではないこと」
 という問いに対して、回答は、「貴見のとおり」
 こちらの「芸能タレント」にあるように、所属劇団、事務所との間の労働契約関係の有無による。
 しかし、何人にも替えられないほど当人の個性が大きい、報酬が稼働時間には左右されない、事務所等に時間的に拘束されていないなどいずれにも該当する場合は、労働者ではない」
 有名になれば労働者ではないということ。
19
1C
 通達(S24.6.13基収1073)によると、
 「会社からは給料を受けず、その所属する組合より給料を受ける組合専従職員の労働関係は、会社との間にはなくて組合との間にあり、法の適用を受けると思われるが如何」という問に対する回答は、「組合専従職員と使用者との基本的な法律関係は、労働協約その他により労使の自由に定めるところによるが、使用者が専従職員に対し在籍のまま労働提供の義務を免除し、労働組合の事務に専従することを認める場合には、労働基準法上当該会社との労働関係は存続するものと解される」とある。
 つまり、会社に在籍したまま専ら労働組合で働いている者についても、会社がそのことを認めている場合は、会社との労働関係があるとした。
 よって、その限りにおいては、会社の労働者となりうる。
 ただし、最初から組合が雇用している者は、もちろんその組合の労働者である。
令2
選択
 最高裁判所は、自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業務に従事していた運転手が、労働基準法上、労災保険上の労働者に当たるか否かが問題となった事件において、次のように判示した。
 「上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、F紙業は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、(B)時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人がF紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。
 そして、(C)報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。
 そうであれば、上告人は、専属的にF紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも1割5分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである」
 本肢は、最高裁判例[療養補償給付等不支給処分取消](H08.11.28)の判決文からの出題で、トラックをみずから所有してもっぱらF紙業の運送業務を行う者の労働者性に関して判断を下したものである。
 結論は、この者は労基法、労災保険法にいう労働者でないとしたが、その根拠としたのが
・F紙業は、運送業務の性質上当然必要とされるもの以外は、業務の遂行に関して特段の指揮監督を行っていたとはいえない。
 (判決文では、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかったともある)
・(B)時間的、場所的な拘束の程度も一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、F紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りない。
(判決文では、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は、出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていたともある)
・(C)報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。
 (判決文では、報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われ、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされてはおらず、報酬は事業所得として確定申告をしていた。
 また、所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理-費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人本人が負担していたともある) 
26
1D
 9条に「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とある。
 この場合の事業とは、通達(S22.9.13発基17)によると、
 「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において、相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいう。
 一つの事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として、別個の事業とする」とある。
 ただしこれは原則論であって、実際には、主として場所的観念で決定されるものの、さらに、従業員規模、労働者及び労務管理の区分の有無、組織的関連ないし事務能力等を総合して、個々の事業の適用単位が決定されることになる。
 なお、事務所についてはその意味を深く考える必要はなく、「事業又は事務所」をひっくるめて「事業」と考えればよい。

6
2ア
 問題文前段に、「一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定する」とあるのは、通達(S22.9.13発基17)によると、
 「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において、相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいう。
 一つの事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として、別個の事業とする」とあることによるもので、原則的には「正しい」
 ただし、これは原則論であって、問題文後段に、「例えば工場内の診療所、食堂等の如く同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合は・・・・」とある。
 このような場合は、労働法コンメンタール「労働基準法(令和3年版)」上の116Pによれば、
 「しかし、場所的観念だけで適用単位を決定してしまうことは、実情に合わない場合も生じる。そこで、「同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に区別され、かつ、主たる部門と切り離して適用を定めることによって労働基準法がより適切に運用できる場合には、その部門を一の独立の事業とすること。例えば工場内の診療所、食堂等の如きはこれに該当する」としている。

21
1
選択

 労働基準法において「使用者」とは、「事業主又は事業の経営担当者その他のその事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする(A:すべての者)をいう」 
 使用者の定義に10条
 「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とある。
 ここで、事業主とは、「その事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその企業主個人、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいう」
 要するに使用者とは、以下の者全員をいう。
@事業主(法人であれば法人そのもの、個人事業であれば事業主(オーナー))
A事業の経営担当者(代表取締役、取締役、理事など)
B労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者(人事、労務などで実質的権限のある者。人事部長、労務課長などの名称ではなく実態で判断する)
  なお、労働時間などの規定が適用されない「管理・監督者」は労働者であるので、これと混同しないように。
 一方、たとえ担当者であって通常は労働者であるが、事業主に代わって業務命令を発するような業務についているときは、その限りにおいて使用者となることもありうる。
24
4D
 使用者の定義は10条
 「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とあり、管理監督者以上の者とは規定されていない。
 ここで、「労働者に関する事項」とは、人事、給与、厚生等の労働条件の決定や労務管理を行いこと、あるいは業務命令を出したり指揮監督を行うなどのすべてが含まれる。
 要するに、労基法は労働者保護を基礎においていることから、労基法遵守について義務を持っている者(使用者責任を追及されるべき者)は事業主以外の者であってもすべて使用者としてとらえている。
 適用する労基法の規定あるいは場面において、同一人が使用者になったり、労働者になったりすることがあり得るのである。
 なお、問題文にある「管理監督者」がどのような者のことをいうのか書いてないので、これ以上の解説は不要であろう。(出題者もこの点はどうでもよく、勝手に解釈してくれという立場であると思われる)
 念のため、41条にある労働時間等の規定の適用除外者とされている管理監督者のことであるとした場合、「労働時間、休憩、休日等の規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」のことをいうが、 その場合のその者は労働時間等については保護されないとしても労働者である。
 実務上でいうと、使用者と41条にいう管理監督者は重なる場合が多いが、(ある場面で)使用者であっても41条の管理監督者ではない者もいるし、逆に41条の管理監督者であっても、部下のいないスタッフ管理職などのように、いかなる場面でも使用者には該当しない者もいる。
26
1E
 労働基準法にいう使用者の定義は10条
 「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とある。
 すなわち、賃金を支払う事業主(法人であれば法人そのもの、個人事業であれば事業主(オーナー)だけでなく、
・事業の経営担当者(代表取締役、取締役、理事など)
・労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者(人事、労務などで実質的権限のある者(ただし人事部長、労務課長などの名称ではなく実態で判断する)すべてをいう。

6
2イ
 労働基準法において「使用者」とは、10条に、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とある。
 問題文にある、「「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう」は、労働契約法による定義(2条2項)であり、労働契約法における「使用者」は労基法に較べて狭い概念でとらえており、労基法では「事業主」(個人企業の場合は事業主個人、会社等法人の場合は法人そのもの)に該当する。
 これに較べて、労基法では、
・賃金を支払う事業主だけでなく、
・事業の経営担当者(代表取締役、取締役、理事など)
・労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者(人事、労務などで実質的権限のある者(ただし人事部長、労務課長などの名称ではなく実態で判断する)すべてをいう。
 なお、「「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とある部分は、11条の通りで正しい。
11
1B
 使用者の定義は10条の通りであり、さらに、通達(S22.9.13発基17、10条関係)において、
 「使用者とは本法各条の義務についての履行の責任者をいう。その認定は、部長や課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者に過ぎぬ場合は使用者とはみなされない」

5
4E
 10条にいう「使用者」とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とある。
 そして、通達(S22.9.13発基17、10条関係)において、
 「使用者とは本法各条の義務についての履行の責任者をいう。その認定は、部長や課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによる」とされている。
 それでは、労基法9条にいう「労働者」との関係についてであるが、労働法コンメンタール「労働基準法(上)P153」(厚生労働省労働基準局編)において、
 「本条の使用者は個々の具体的事実においてその実質的責任が何人にあるかによって決まるものであるから、使用者という概念は相対的なものである。
 従って、9条にいう労働者であっても、その人が同時にある事項について権限と責任をもっていれば、その事項については、その者が本条の使用者となる場合がある。
 したがって、本条の使用者は、企業内で比較的地位の高い取締役、工場長、部長、課長等の者から、作業現場監督員、職場責任者等といわれる比較的地位の低い者に至るまで、その権限と責任に応じて、あるいは特定の者のみが、あるいは並列的に複数の者が該当することとなる。
 単に地位の高低のみでは一概に使用者となるかどうかは結論づけられるものではない」としている。

2
1B
 業務を行うための体制がいわゆる課・係制となっており、課長とび係長が配置されている場合にあっては、組織系列においては係長は課長の配下となる。
 それをいえば、通常の企業では、課長は部長の配下であり、その部長は社長等の配下ということになる。
 労働基準法における「使用者」とは、労働者を雇う者だけでもないし、組織のトップだけでもない。
 通達(S22.9.13発基17、10条関係)にあるように、
 「使用者とは労働基準法各条の義務についての履行の責任者をいう。その認定は、部長や課長等の形式にとらわれることなく各事業(場)において、労働基準法各条(における個々)の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによる」のである。
 よって、人事係のヒラの一員であっても、与えられた権限や果たすべき責任の中身によっては、その「場面」においての「使用者」になりうる。
 逆に、大部長であっても、「単に社長等の命令の伝達者に過ぎぬ場合は使用者とはみなされない」
令2
1C
 「事業における業務を行うための体制としていくつかの課が設置され、課が所掌する日常業務の大半が課長権限で行われて」とある。
 これだけでは、課長が使用者ではないのか、あるいはどの場面(労基法何条の規定に関して)使用者なのかはわからない。
 問題文では続いて、「課長がたまたま事業主等の上位者から権限外の事項について命令を受けて単にその命令を部下に伝達しただけ」とある。
 このように、権限がない事項について、上位者からの命令で部下(労働者)に伝達したに過ぎない場合は、通達(S22.9.13発基17、10条関係)にあるように、
 「使用者とは労働基準法各条の義務についての履行の責任者をいう。その認定は、部長や課長等の形式にとらわれることなく各事業(場)において、労働基準法各条(における個々)の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによる。
 かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者に過ぎぬ場合は使用者とはみなされない」とある。
 しつこいようであるが、部下に命令や指示を行う場合、「命令や指示を行う権限が与えられており、その内容によっては、労基法○○条の規定によって責任が問われたり、罰則が課せられたりする者なのか」によって、その者がその場面での使用者であるか、使用者でないかが決まるのである。

2
1A
 10条には「使用者」とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義されているが、それでは、「事業主」とは、となると労基法上、どこにも定義されてはいない。
 つまり、一般社会の通念によるものである。
 念のため、「事業主」とは、こちらにもあるように、その事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその企業主個人、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいう」
 株式会社の場合は、代表取締役という自然人ではなく、株式会社という法人そのものをいうのである。

2
1D
 「下請負人がその雇用する労働者の労働力を自ら直接利用する」とある。
 つまり、この下請人は、自らの責任において、雇用している労働者を指揮命令しているようだ。
 次に、「当該業務を自己の業務として相手方(注文主)から独立して処理する」とある。
 つまり、請負った業務を下請負人自身の業務として、その有する能力に基づき、自己の責任のもとに処理しているようだ。
 以上の2点から、この下請負は(見かけ上の、偽りの)労働者派遣ではなく、真正な請負による事業と判断される。
 従って、通達(S23.01.09基発14号(10条関係)、S63.03.14基発150号婦発47号)によれば、
 「下請負人がその雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するとともに、当該業務を自己の業務として相手方(注文主)から独立して処理するものである限り、注文主と請負関係にあると認められるから、自然人である下請負人が、たとえ作業に従事することかあっても、法9条の労働者ではなく、10条にいう事業主である」
 「10条にいう事業主」であれば、10条にいう使用者でもある。
 (下請負人が個人企業の場合は、その企業主個人である自然人が事業主であり、たまには(あるいはかなりの部分において)自ら作業を行うことがあったとしても労働者とはいえず、それ以外の場面においては、「使用者」である)
 参考ながら、よく問題になるのは、これとは逆の「偽装請負」で、見かけ上は請負としながらも、発注者に指揮命令権があり、請負側労働者に対して、直接、業務の指示や命令を与える。
 その一方、請負人は(発注者にとっても)実際は労働者派遣でありながらこれを認めず、派遣元事業主(発注者は派遣先事業主)としての使用者責任を果たさない。
15
1D
 使用者の定義は10条の通りであり、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」
 社会保険労務士に関しては、通達(62.3.26基発169号10条関係)によると、
 「法令の規定により事業主等に申請等が義務づけられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保険労務士は、10条にいう「使用者」及び、各法令の両罰規定にいう「代理人、使用人その他の従業者」に該当するものであるので、当該申請等の義務違反の行為者として、各法令の罰則規定及び両罰規定に基づきその責任を問い得る者である」
 つまり本肢の場合、当該社労士は使用者とみなされるので、行為者として罰則規定の適用を受けることになる。
 参考ながら、同通達の後段にもあるように、この社労士は両罰規定における代理人にも相当するので、業務を委任した事業主にも罰則が適用される可能性がある。
 これについては、同通達の続きに
 「またこの場合、事業主等に対しては、社会保険労務士に必要な情報を与えるなど、申請等をし得る条件を整備していれば、通常は、必要な注意義務を尽くしている者として(両罰規定は)免責されるものと考えられるが、注意義務を尽したものと認められない場合には、両罰規定に基づき事業主等の責任をも問いうるものである」 
 「懈怠(けたい、げたい、けだい):なまけ、怠ること」(広辞苑)

4
4E
 「事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠(なまけ、怠り)により(事業主に義務付けられている)申請等を行わなかった」とある。
 (なお、事務代理とは、社会保険労務士法2条の1の3号にある「事務代理」のこと)
 このような場合には、通達(62.3.26基発169号10条関係)によると、「法令の規定により事業主等に申請等が義務づけられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保険労務士は、10条にいう「使用者」及び、各法令の両罰規定にいう「代理人、使用人その他の従業者」に該当するものであるので、当該申請等の義務違反の行為者として、各法令の罰則規定及び両罰規定に基づきその責任を問い得る者である」としている。
 つまり、
・本肢の社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう「使用者」に該当する。
・「使用者」に該当するということは、労基法上の義務者として責任を持つ者ということであり、法違反があった場合は責任を取り、行為者として罰則が適用される。
・なお、本肢の社会保険労務士は、両罰規定における代理人にも相当するので、業務を委任した事業主にも罰則が適用される可能性もある。(ただし、社会保険労務士に必要な情報を与えるなど、申請等をし得る条件を整備していれば、免責となる可能性もある)

6
2
A
B
C
D
E
ア:「労働基準法において一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定するが、例えば工場内の診療所、食堂等の如く同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に区別され、かつ、主たる部門と切り離して適用を定めることによって労働基準法がより適切に運用できる場合には、その部門を一の独立の事業とするとされている」は正しい。(○)
イ:「労働基準法において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいい、「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」は誤りで、正しくは、「「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」(X)
ウ:「労働契約とは、本質的には民法第623条に規定する雇用契約や労働契約法第6条に規定する労働契約と基本的に異なるものではないが、民法上の雇用契約にのみ限定して解されるべきものではなく、委任契約、請負契約等、労務の提供を内容とする契約も労働契約として把握される可能性をもっている」は正しい。(○)
 よって、正しい組合せは、「(○、X、○)
19
1A
  通達(S61.6.6基発333号10条関係)において、在籍型出向については、
 「在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。
 すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について、労働基準法等における使用者としての責任を負うものである」とある。

6
1D
 労働基準法の総則(第1条〜第12条)とは、労働条件の原則、労働条件の決定、均等待遇、男女同一賃金の原則、強制労働の禁止、中間搾取の排除、公民権行使の保障、労働者・使用者・賃金・平均賃金の定義について定めた部分である。
   在籍型出向(出向元及び出向先双方と出向労働者との間に労働契約関係がある場合)の出向労働者について労働基準法等における使用者については、通達(S61.6.6基発333号10条関係)において、「在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。
 すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について、労働基準法等における使用者としての責任を負うものである」とある通り。
14
2A
  通達(S61.6.6基発333号10条関係)において、在籍型出向については、
 「在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。
 すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について、労働基準法等における使用者としての責任を負うものである」とあり、原則的には正しい。
 ただし、「賃金に関する事項については出向元のみが使用者となる」という部分については、出向先が賃金の全部又は一部の支払をするなどの形態もあるので、誤りである。
 参考までに移籍型出向については、同通達の中の「移籍型出向」によると、
 「移籍型出向は、出向先との間にのみ労働契約関係がある形態であり、出向元と出向労働者との労働契約関係は終了している。よって、移籍型出向の労働者については、出向先についてのみ労働基準法等の適用がある」
12
1D
 通達(S61.6.6基発333号10条関係)において、在籍型出向については
 「在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。
 すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について、労働基準法等における使用者としての責任を負うものである」とある。
 よって、出向元が労基法の各条文について全面的に使用者としての責任を負うものではなく、出向元と出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者がそれぞれ、使用者としての責任を負うものである。
20
1A
 5条
 「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」の通り。

2
4B
 5条に、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」とあるが、
 この「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」については、通達(S22.09.13発基17号5条関係、他)において、「「精神又は身体の自由を拘束する手段」とは、精神の作用又は身体の行動が何らかのかたちで妨げられる状態を生じさせる方法をいう。
 「不当」とは、本条の目的に照らし、かつ、個々の場合において、具体的にその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難き程度の手段の意である。
 したがって、必ずしも「不法」なもののみに限られず、たとえ合法的なものであっても不当なものとなることがある。
 例えば賃金との相殺を伴わない前借金が周囲の具体的事情により労働者に明示又は黙示の威圧を及ぼす場合の如きはその例である」とある。
  つまり、たとえば前借金があることが、たとえ賃金との相殺を伴わないものであって17条違反ではないとしても、前借金にいたる経緯や状況によっては、使用者の無理な要求を飲まないといけない、あるいは容易には辞めることができないなど、暗黙のうちに不当な拘束を強いられることもありうるのである。

3
1C
 5条に、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」とあるが、
 この「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」については、通達(S22.09.13発基17号5条関係、他)において、「精神の作用又は身体の行動が何らかのかたちで妨げられる状態を生じさせる方法を言う」とあり、そのうち「脅迫」とは、「刑法第222条に規定する脅迫であり、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人又は本人の親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によって害を加えるべきことを通告することをいうが、必ずしも積極的言動によって示す必要なく、暗示する程度でも足りる」とある通り。

5
4C
 5条に、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」とある。
 精神又は身体の自由を不当に拘束する手段についての通達(S22.09.13発基17号5条関係、他)によると、「監禁とは、刑法第220条に規定する監禁であり、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによって、労働者の身体を拘束することをいい、必ずしも物質的障害を以って手段とする必要はない。暴行、脅迫、欺瞞などにより、労働者を一定の場所に伴い、その身体を抑留し、後難を畏れて逃走できないようにすることはその例である」とある。 
 つまり、物質的障害がない場合であっても、同条の「監禁」に該当することはありうる。
21
1D
 5条とは、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」
 これに違反したときは、 117条に、
 「5条(強制労働の禁止)の規定に違反した者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する」とある。これを罰則一覧でみると分かるように、労基法上もっとも重い罰則であり、ほかの労働保険、社会保険に関してみても、もっとも重いことがわかる。
29
5イ
 労働基準法5条に定める強制労働の禁止に違反した場合の罰則は、117条から「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」の通り。
 これを罰則一覧でみると、労基法上もっとも重い罰則であり、ほかの労働保険、社会保険に関してみても、もっとも重いことがわかる。
 戦前に土木建築業界、鉱山業界、旅館や風俗営業業界などにあった長期間にわたる強制労働の実態への反省から、あるいは刑法だけでは対応が困難であったことなどから、最も重い刑罰が設けられたものと思われる。
 なお、本条と同時に暴行罪、脅迫罪などが成立することもありうるが、その場合は、一般には労基法による本条が適用され、刑法と2重に処罰されることはない。
10
1D
 5条により、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」とある。
 暴行、脅迫、監禁についてはあってはならないことであり、わかりやすいが、その他の手段については、通達(S22.09.13発基17号5条関係、他)の中の「監禁以外の脅迫」において、
 「暴行、脅迫、監禁以外の手段で、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」としては、長期労働契約、労働契約不履行に関する賠償額予定契約、前借金契約、強制貯金のごときものがある」
 ここで、長期労働契約とは、労基法では3年(一定条件の場合は5年)を超えて、期間の定めのある労働契約を結ぶことは禁止されており、これを超える労働契約のことをさす。
27
1D
 出だしに、「強制労働を禁止する労働基準法第5条の構成要件に該当する行為」とある。
 5条では、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制することを禁止している」
 5条の構成要件とは、強制労働の禁止に該当する要件のことであり、たとえば暴行、脅迫、監禁などの手段によって意思に反した労働をさせたことがこれに該当する。
 問題文では続いて、「同時に刑法の暴行罪、脅迫罪又は監禁罪の構成要件にも該当する場合がある」のは問題なかろう。
 最後に、「労働基準法第5条違反と暴行罪等とは、法条競合の関係(吸収関係)にあると解される」とある。
 ここで気になる「法条競合の関係」とは、一つの犯罪行為が外観上は数個の刑罰法規に当てはまるが、実質的には一つだけが適用される関係にあることをいう。
 つまり、本肢の場合、たとえば脅迫によって強制労働をさせた場合、労基法5条違反と刑法による脅迫罪の両方で罰せられるのではなく、一つ(労基法)だけが適用されるとしてよいかというのが論点。
 これに関しては、厚生労働省編「労働基準法(上)」の89ページに、
 「本条(5条)の構成要件に該当する行為が、同時に刑法の暴行罪、脅迫罪又は監禁罪の構成要件にも該当する場合があるが、このことは、本条が暴行罪等の構成要件をもその構成要件中に含んでいることの当然の結果であって、この場合における本条違反と暴行罪等との関係は、・・・・、法条競合の関係(吸収関係)にあると解すべきである。すなわち、暴行罪等の罪は、本条違反の罪に吸収されているとみるべきである」としている。

4
4D
 5条に「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」とあり、これに違反したものには、117条により「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」と、労基法では最も重い罰則が課せられている。
 本肢の論点は「労働者の意思に反した労働の強制」についてであり、「労働法コンメンタール労働基準法上P87」によれば、
 「本条において禁止されているのは、精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制させることである。
 すなわち、「不当に拘束する手段」が「労働の強制」の目的と結びついており、かつ「不当に拘束する手段」によって、「労働の強制」に至らしめたのでなければならない。
 したがって、(仙台高裁判決(S24.10.12)の例を引用する形で)、暴行があっても、労働の強制の目的がなく、単に「怠けたから」又は「態度が悪いから」殴ったというだけでは本条の違反は構成せず、単に刑法の暴行罪を構成するにとどまる」としている。
 さらに続けて、「「意志に反して」とは、労働者の自由意志に基づかないで、という意味である。労働者は、使用者の指揮命令に従って労働を提供すべき義務を労働契約上負っているが、その労働の提供は、義務の履行という労働者の自由な意思に基づいて行われるべきものである。
 その労働の提供が労働者の自由な意思に基づかないで行われることとなった場合に、本条違反が問題になる」と補足している。
13
1A
 5条(強制労働の禁止)の出だしは「使用者」となっており、中間搾取の排除(6条)の「何人も」とは大きく異なることに注目すると、5条は「使用者が労働者に強制労働をさせることを禁止する規定であって、労働を強制する使用者と強制される労働者との間に労働関係のあることが前提となることがよくわかるはず。
 5条における労働関係(補足)(労働法コンメンタール労働基準法上」P83から)において、「この場合の労働関係は必ずしも形式的な労働契約により成立していることを要求するものではなく、当該具体例において事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りる」としている。 
26
1A
 5条における労働関係(補足)(労働法コンメンタール労働基準法上」P83から)によれば、「5条は、使用者が労働者に強制労働をさせることを禁止する。すなわち、労働を強制する使用者と強制される労働者の間に労働関係があることが前提となる。
 しかしながら、この場合の労働関係は必ずしも形式的な労働契約により成立していることを要求するものではなく、当該具体例において事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りる」とある通り。
 たとえば、共栄亭事件(水戸地裁S25.05.29)(労働者の所持金や外出着等をとりあげて逃亡を防止した強制労働事件)における契約は、名目上は客席に侍り得た収入を配分する契約の下に被告人と同居していたが、その実質は従来のいわゆる酌婦と異ることなく同被告人の接客事業に使用され歩合による賃金を支払われていたという例などがある。
令元
3イ
 過去問解説(26ー1A )の通りで、「5条は、労働を強制する使用者と強制される労働者の間に労働関係があることが前提となるが、この場合の労働関係は、形式的に労働契約によって成立していることを要求するものではなく、事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りる」
 ここで、労働関係とは、「指揮命令により労働をさせる側と、それに従って労務を提供し見返りとして賃金を受ける側との関係」のことである。
 労働契約は民法では雇用契約と称せられ、使用する側の使用しようとする意志と使用される側の使用されて賃金を得たいとする双方の意思の合致があれば成立するもので、必ずしも契約書を必要とするわけではない。
 しかしながら、労働基準法はこのような双方の意思の合致による労働関係(適法な労働契約に基づくもの)だけに適用されるものではなく、使用者側の一方的・強制的な意思のみによる事実上の労働関係が成立(無効の労働契約に基づくもの)している場合にも適用されるのである。
 特に、5条では、このことの理解が重要である。
20
1C
 中間搾取の禁止を規定する6条
 「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」の通りである。
23
1B
 中間搾取の禁止を規定する6条によれば
 「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」
 「他の法律の定め如何にかかわらず」ではなく、「法律に基いて許される場合の外」である。
 ここで、「法律に基づいて許される場合」の例としては、
 @職業安定法による「有料職業紹介」、「被用者以外の者による労働者募集」
 A船員職業安定法による「被用者以外の者による船員の募集」がある。
令2
4C
 中間搾取の禁止を規定する6条に、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とある。
 この場合の「利益」とは、通達(S23.3.2基発381号その3利益)に、
 「「利益」とは手数料、報奨金、金銭以外の財物等いかなる名称たるとを問わず、又有形無形たるとを問わない。使用者より利益を得る場合のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合をも含む」とある。
 ここで、「無形の財物」とは、特許など知的財産のようなもの、技術や能力など人的資産のようなものがこれに相当する。
26
1B
 6条とは、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とあり、問題文には「法律に基いて許される外」が抜けているが、他人の就業に介入して中間搾取することを禁止している。
 この規定の対象者は「何人も」とあって、「使用者」など一定の者に限定されているわけではない。この点、通達(S23.03..02基発381その2)においても、「「何人も」とは本条の適用を受ける事業主に限定されず、個人、団体又は公人たると私人たるとを問わない。従って、公務員であっても、違反行為の主体となる」とある。
 よって、6条違反の場合の罰則規定118条「1年以下の懲役又は50万円以下の罰則」が適用されるのも、「6条の規定対象者である「何人も」であり、法人、個人などを問わない。
 つまり、個人が会社等とは関係なく、業として他人の就業に介入して利益を得た場合であっても、その者は罰せられる、
 なお、問題文にある、実際の行為者と、業として利益を得た法人との関係については、通達(S34.02.16基収8770)によると、
 「法人が他人の就業に介入して利益を得た場合、利益を得た法人自体は罰せられるが、法人の従業者が違反行為を計画し、かつ実行した場合においては、その者が現実に利益を得ていない場合であっても、法人の従業者たる行為者について法6条違反が成立する。
 法6条において禁止する行為については、他人の就業に介入して得る利益の帰属主体は、必ずしも、当該行為者には限らないからである」
 つまり、行為者が利益を得ていなくても法人が利益を得た場合は6条に該当し、行為者が罰せられる。
 参考までに、その際、法人は「従業員がやったことであって関知しない」と主張しても、法人に対しては両罰規定が適用される。
28
1エ
 前段については、6条に、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とある通り。
 この規定による規制対象者は、出だしに「何人(ナニビト)も」とあることから、文字通りすべての人(団体も含む)である。
 この点、通達(S23.03..02基発381その2)においても、「何人もとは本条の適用を受ける事業主に限定されず、個人、団体又は公人たると私人たるとを問わない。従って、公務員であっても(たとえハローワークの職員であっても)、違反行為の主体となる」とある。
 参考ながら、法人が業として他人の就業に介入して利益を得た場合は、その法人自体ならびにその法人のために実際に介入行為を行った行為者いずれも罰せられる。

5
4D
 「法人が業として他人の就業に介入して利益を得た場合」とある。
 これでは、6条「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」に違反することになる。
 しかし、実際には、法人のためと思ってその従業員が違反行為を計画し、かつ実行したしたのであるが、その従業員は現実には利益を得ていない。そこで、
 「条文に照らすと、この従業員は6条違反とはならないと考えるが、これでよろしいか」と、まさに本肢問題文にあるようなお伺いがなされた。
 この顛末を記載した通達(S34.02.16基収8770号)によれば、それに対する回答は、「設問の場合については、法人の従業者たる行為者について法6条違反が成立する。
 法6条において禁止する行為については、他人の就業に介入して得る利益の帰属主体は、必ずしも、当該行為者には限らないからである」とある。
13
1B
 中間搾取の禁止を規定する6条によれば、
 「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」
 これに関しては、通達(S23.3.2基発381号その3)において、
 「「業として利益を得る」とは、営利を目的として、同種の行為を反復継続することをいう。従って1回の行為であっても、反復継続して利益を得る意思があれば充分である。主業としてなされる副業としてなされるとを問わない。
 また、「利益」とは手数料、報奨金、金銭以外の財物等いかなる名称たるとを問わず、又有形無形たるとを問わない。使用者より利益を得る場合のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合をも含む」とある。
 すなわち、「1回の行為であっても、反復継続して利益を得る意思があれば充分であり、それが主業としてなされる場合と副業としてなされる場合とを問わない」のである。 
29
5ウ
 6条によれば、「法律によって許されている場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とある。
 ここで、「法律によって許される場合」とは職業安定法に基づき厚生労働大臣の許可による職業紹介委託募集、労働組合等による労働者供給などである。
 「業として利益を得る」とは、通達(S23.3.2基発381号その3)にあるように、「営利を目的として、同種の行為を反覆継続することをいい、反覆継続して利益を得る意思があれば、1回の行為であっても規制対象となる」
⇒反復継続する意思があれば、初犯だからといって見逃してはくれない。
14
1D
 他人の就業に介入するとは、通達(S23.3.2基発381その6)において、
 「使用者と労働者の間に、第三者が介入して、その労働関係の開始及び存続について、媒介又はあっせんをなす等その労働関係についてなんらかの因果関係を有する関与をなしていることをいう」
 労働者派遣業については、通達(S61.6.6基発333号他)において、
 「労働者派遣事業においては、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが、その労働関係として扱われる。よって、派遣元による労働者派遣事業は、労働関係の外にある第三者が「他人の労働関係に介入」する労働者供給事業とはならず、労基法6条違反には該当しない」として、労働者派遣業はお墨付きを得ている。 
15
1C
 労働者派遣業については、通達(S61.6.6基発333他)において、
 「労働者派遣事業においては、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが、その労働関係として扱われる。
 よって、派遣元による労働者派遣事業は、労働関係の外にある第三者が「他人の労働関係に介入」する労働者供給事業とはならず、労基法6条違反には該当しない」とされ、お墨付きを得ている。
 問題は、その労働者派遣事業が所定の手続を踏まないで行われている違法なものであった場合、労働者派遣法違反であると思われるが、そのことを持って、労働基準法の6条違反であるか、というのが出題の趣旨である。
 これに対しては、通達(H11.3.31基発168)に、
 「労働者派遣に係る労働関係は、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体としての労働関係となるものであり、派遣元が行う労働者派遣は、そもそも、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものではないため、違法であるか適法であるかを問わず、労基法6条の中間搾取には該当しない」とある。
25
6D
 問題文にもあるように、16条に、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と確かに規定されている。
 この規定の趣旨については、労働法コンメンタール「労働基準法上P232-233」(厚生労働省労働基準局編)の「16条の趣旨」において、
 「労働契約の期間の途中において労働者が転職したり、帰郷する等労働契約の不履行の場合に、一定額の違約金を定めたり、又は労働契約の不履行や労働者の不法行為に対して一定額の損害賠償額を支払うことを労働者本人又はその身元保証人と約束する慣行が従来我が国にみられたが、こうした制度は、ともすると労働の強制にわたり、あるいは労働者の自由意思を不当に拘束し、労働者を使用者に隷属せしめることとなるので、本条は、こうした違約金制度や損害賠償額予定の制度を禁止し、労働者が違約金又は賠償予定額を支払わされることをおそれて心ならずも労働契約の継続を強いられること等を防止しようとするものである」としている。 
23
2C
 16条に、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とある。
 ここで、前段にある違約金については、労働法コンメンタール「労働基準法P233」」の「違約金とは」にあるように、
 「債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うべきものとあらかじめ定められた金銭であって、契約当事者間で契約に付随して定めるものである。
 労働契約における違約金もその性質は右と同様であり、労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に、労働者本人若しくは親権者又は身元保証人の義務として課せられるものであり、労働義務不履行があれば、それによる損害発生の有無にかかわらず、使用者は約定の違約金を取り立てることができる旨を定めたものである。
 民法は、契約自由の原則に基づき、かかる違約金を定めることを認めているが、労働関係においては労働者の足留策に利用され、身分的拘束を伴うこととなるので、これを民法の特別法として(労働基準法により)禁止したものである」
 よって、違約金を定めることはできない。
 続いて、後段の損害賠償額を予定する契約については、労働法コンメンタール労働基準法上P234「損害賠償額を予定する契約とは」にあるように、)
 「債務不履行の場合に賠償すべき損害額を実害の如何にかかわらず一定の金額として定めておくことである。
 労働契約の締結にあたり損害賠償額を約定すると、債務不履行による実損害額の如何にかかわらず予め定められた損害賠償額を支払うべき義務を労働者が負うことになり、労働者の弱みにつけこんだ異常に高い損害賠償額が定められ、労働者の退職の自由が拘束され、労働者の足留策となる等の弊害があるので、契約自由の原則を修正して、これを禁止したものである」
 つまり、不法行為によるものであろうとなかろうと、また、実際には損害額がないか少額であったにもかかわらず、損害賠償額の予定を定めることは、労働者が高額な賠償責任から免れないという不利な状態に追い込まれることになるから、してはならないとした。
 ただし、通達(S22.9.13発基17号16条関係)によれば、「本条は金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」ともある。 

3
1
選択
 賠償予定の禁止を定める労働基準法第16条における「違約金」とは、労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に労働者本人若しくは親権者又は(A)身元保証の義務として課せられるものをいう。
 労働法コンメンタール「労働基準法上P233(違約金)」によれば、「違約金とは,労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に、労働者本人若しくは親権者又は身元保証人の義務として課せられるものであり、労働義務不履行があれば、それによる損害発生の有無にかかわらず、使用者は約定の違約金を取り立てることができる旨を定めたものである。
 民法は、契約自由の原則に基づき、かかる違約金を定めることを認めているが、労働関係においては労働者の足留策に利用され、身分的拘束を伴うこととなるので、これを民法の特別法として(労働基準法により)禁止したものである」としている。

4
5C
 16条のいわゆる「賠償予定の禁止」に違反した場合は、119条1号により、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる。
 問題文では、「(16条違反は)違約金又はあらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収したときにはじめて違反が成立する」とあるが、この点に関しては、労働法コンメンタール「労働基準法上238P(16条違反)に、「16条は、違約金又はあらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収したときに違反が成立するのではなく「労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定」する契約を締結したときに違反が成立する。
 本条に違反した違約金契約又は損害賠償額の予定をする契約は無効となる」とある。
14
2D
 前段については、16条の「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」の通りである。
 本肢の論点は、後段の「使用者が、これら親権者・身元保証人との間で、労働者の行為についての違約金・損害賠償額の支払義務を、親権者・身元保証人が負担する契約を締結」した場合の違反性についてである。
 そこで16条をもう一度よむと、「使用者は」とはあるが、相手方が労働者とは書いてない。つまり、「違約金契約、賠償額予定契約」は相手が誰であろうと契約そのものが16条違反なのである。
 この点については、労働法コンメンタール「労働基準法上P237(契約者の範囲等)」においても、「本条は、その禁止している違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約の締結当事者としての使用者の相手方を、労働者本人に限定していないから、相手方が労働者自身の場合はもちろん、労働者の親権者又は身元保証人が、労働者の行為についての違約金又は損害賠償額の支払義務を負担する場合の契約も含まれ、さらには、労働者が負担義務を負った契約金等の支払いについての保証人契約、又は連帯債務保証契約等も含まれる」とある。
 なお、入社時の身元保証人契約について、違約金や賠償予定額を定めたものではなく、無断欠勤その他で実際に会社に損害を発生させた場合は、連帯して損害賠償に応じなければならないとする内容であれば 、16条違反とはいえない。
28
2C
 違約金や損害賠償額を予定する契約については、16条に「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とある通り、絶対的に禁止である。
 本肢は、労働者本人との契約ではなく、身元保証人との契約であればどうかと念押している。
 これについては、16条をよく読むと、「使用者は」とはあるが、相手方が労働者とは書いてない。つまり、「違約金契約、賠償額予定契約は相手が誰であろうと契約そのものが16条違法なのである」 
 この点については、労働法コンメンタール「労働基準法上P237(契約者の範囲等)」においても、「本条は、その禁止している違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約の締結当事者としての使用者の相手方を、労働者本人に限定していないから、相手方が労働者自身の場合はもちろん、労働者の親権者又は身元保証人が、労働者の行為についての違約金又は損害賠償額の支払義務を負担する場合の契約も含まれ、さらには、労働者が負担義務を負った契約金等の支払いについての保証人契約、又は連帯債務保証契約等も含まれる」とある。
12
2A
 前段については、16条
 「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とある通り。
 後段にある「実際に労働者の債務不履行により被った損害の賠償請求」については、通達(S22.9.13発基17号16条関係)に、「本条は金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」ともある。
 つまり、例えば業務命令や就業規則に決められた債務(義務)の不履行により実際に発生した損害の程度に応じて、賠償を求めることは、禁止されていない。 

6
3C
 16条は、賠償予定の禁止について規定したもので、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とされている。
 この場合の「損害賠償額を予定する契約」とは、労働法コンメンタール労働基準法上P234)によれば、「債務不履行の場合に賠償すべき損害額を実害の如何にかかわらず一定の金額として定めておくことである。労働契約の締結にあたり損害賠償額を約定すると、債務不履行による実損害額の如何にかかわらず予め定められた損害賠償額を支払うべき義務を労働者が負うことになり、労働者の弱みにつけこんだ異常に高い損害賠償額が定められ、労働者の退職の自由が拘束され、労働者の足留策となる等の弊害があるので、契約自由の原則を修正して、これを禁止したものである」としている。
 そして、「使用者が労働者に対して損害賠償の金額をあらかじめ約定せず、現実に生じた損害について賠償を請求すること」については、通達(S22.9.13発基17号16条関係)に、
 「本条は金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」としている。
 よって、例えば業務命令や就業規則に対する違反があった場合、使用者が予め金額を定めておいてこれにより徴収するのは本条違反であるが、実際に発生した損害に応じて賠償を求めることは、16条違反ではない。
 参考までに、労働法コンメンタール労働基準法上238Pの「16条違反」によれば、
 「16条は、違約金又はあらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収したときに違反が成立するのではなく、「労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定」する契約を締結したときに違反が成立する。本条に違反した違約金契約又は損害賠償額の予定をする契約は無効となる」としている。
20
1B
 16条に、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とあるが、通達(S22.9.13発基17号16条関係)によると、
 「16条は、金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない
 よって、「使用者は、労働契約の不履行について、労働者に対し損害賠償を請求してはならない」と、断定することはできない。 
10
2C
 通達(S22.9.13発基17号16条関係)によると、
 「16条は、金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」
 本肢の場合、「現実に会社に損害を与えた場合は賠償を求めることがあるという契約であって、損害の有無、大小にかかわらず損害賠償額をあらかじめ予定する契約ではない」ので、禁止されていない。
30
5B
 まず、16条に「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とある。
 そもそも民法においては、契約違反があった場合には損害賠償を請求することができるが、その賠償金額を決めるにあたっては当事者間でもめることが多いので、420条において、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」として、わざわざ、「賠償額の予定」の規定を設けている。
 しかし労働契約の場合、使用者が労働者よりも優位な立場にたって不当な契約を押し付けないとも限らない。たとえば、「契約期間よりも前に辞める、契約通りに労働しないなどの場合は、1,000万円払う」などの契約は当然だめである。(対等な立場にあれば、契約そのものを拒否できるが、雇ってもらいために目をつむるなどということがあってはならない)
 されば、そのように違約金、賠償金額を予め定めておくような契約は結んではならないが、「債務不履行によって、使用者が損害を被った場合に、実際に生じた損害については賠償請求する旨を労働契約で締結してはいけないか」というのが、本肢の論点。
 これに対しては、通達(S22.9.13発基17号16条関係)において、「金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」とある。
 つまり、「現実に生じた損害について賠償を請求する旨を労働契約で締結しても、16条違反ではない」
 後は、現実に生じた損害額の見積もりが妥当であるか否か、さらには、労働者の責任に帰すべき理由によって不履行が生じたのかなどが争点になる。
12
2E
 一般に、労働契約において、遅刻、無断欠勤などの場合に一定額の違約金を定めてこれを徴収することは16条に抵触する可能性もあるとされるが、本肢の場合、欠勤により労務の提供を行っていないので、使用者は欠勤に相当する賃金については支払義務そのものがない。つまり、1日分の賃金を支払わないことは、違約金でも制裁でもない。
 「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」(民法624条1項)すなわち、実際に労働を行った後に初めて、それに相当する報酬の請求権が発生する。
 いわゆる「ノーワーク・ノーペイ」は法規違反ではない。
 更に進んで就業規則に基づき、遅刻や無断欠勤に対して、その該当時間以上の賃金を減額しようとすることも、91条による減給の制裁の規制の範囲内なら可能である。
  これは不当な労働強制ではなく、職場規律の保持のために必要な制裁措置と考えられるからである。
20
1D
 17条の「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」の通り。
 前借金とは、労働法コンメンタール「労働基準法上」(厚生労働省労働基準局編)239Pに、
 「前借金とは、労働契約の締結の際又はその後に、労働することを条件として使用者から借り入れ将来の賃金により弁済することを約する金銭をいうものである。
 労働者の足留策として行われ、労働者の身体を拘束する作用を伴うのが一般であるから、前借金制度を全面的に禁止すべきとの意見も制定当時にあったが、これを全面的に禁止することは、労働者に対し不時の出資に際しての金融の途を絶つこととなるので、本条では、前借金そのものは禁止せず、単に賃金と前借金を相殺することを禁止するにとどめたものである」とあるとしている。
 17条は、いかなる前借金も全面的に禁止するものではないが、労働することを条件としてお金を前渡して、不当に労働を強制すれば5条(強制労働の禁止)違反となるに対し、「強制はないとしても、賃金と相殺すれば、17条違反である」とした。 
11
選択
 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。  
 「17条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」
 17条は、いかなる前借金も全面的に禁止するものではないが、労働することを条件としてお金を前渡して、不当に労働を強制すれば5条(強制労働の禁止)違反となるに対し、「強制はないとしても、賃金と相殺すれば、17条違反である」
 ただし、労働者が自らの意思により、身分的拘束を伴わないで前借りすることは一般には許される。 
27
3D
 前段の「17条は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金とを相殺することを禁止」については、17条にある通り。
 後段の「金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離することにより金銭貸借に基づく身分的拘束の発生を防止」とあるのは、通達(S22.9.13発基17(17条関係))に、
 「本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨であるから、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上等で、明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働をすることを条件とする債権には含まれない」とある通り。
 つまり、17条は、いかなる前借金も全面的に禁止するものではなく、労働することを条件としてお金を前渡して、不当に労働を強制すれば5条(強制労働の禁止)違反となるに対し、「強制はないとしても、賃金と相殺すれば、17条違反である」とする一方、
 たとえば、労働者が自らの意思により、お金を前借りすることや弁済期の繰上(給料の前払い)を身分的拘束を伴わないで行うことは、許される。
23
2D
 17条に「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とある通り、労働基準法17条で禁止しているのは、「労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺すること」である。
 前借金そのものをいかなる場合も全面的に禁止しているわけではなく、まして「使用者が労働者に金銭を貸すこと」を一律に禁止しているものでもない。
 これについては、通達(S22.9.13発基17(17条関係))に、
 「本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨であるから、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上等で、明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働をすることを条件とする債権には含まれない」とある。
 つまり、17条は、いかなる前借金も全面的に禁止しているのではなく、労働することを条件としてお金を前渡し、その返済額を賃金と相殺すれば、17条違反である」とする一方、
 たとえば、労働者が自らの意思により、お金を前借りすることや弁済期の繰上(給料の前払い)を身分的拘束を伴わないで行うことは、許される。 
令4
5D
 前借金とは、労働法コンメンタール「労働基準法上」(厚生労働省労働基準局編)239Pに、
 「前借金とは、労働契約の締結の際又はその後に、労働することを条件として使用者から借り入れ将来の賃金により弁済することを約する金銭をいうものである。
 労働者の足留策として行われ、労働者の身体を拘束する作用を伴うのが一般であるから、前借金制度を全面的に禁止すべきとの意見も制定当時にあったが、これを全面的に禁止することは、労働者に対し不時の出資に際しての金融の途を絶つこととなるので、本条では、前借金そのものは禁止せず、単に賃金と前借金を相殺することを禁止するにとどめたものである」とある。
17条前借金そのものを全面的に禁止しているわけではないので、少し話がややこしくなるが、「労働することを条件としてお金を前渡して、不当に労働を強制すれば5条(強制労働の禁止)違反となるに対し、「強制はないとしても、賃金と相殺すれば、17条違反である」としている。

3
2C
 17条は、「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金とを相殺することを禁止する」規定である。
 この規定の趣旨については、通達(S22.9.13発基17(17条関係))によれば、
 「本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨であるから、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上等で、明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働をすることを条件とする債権には含まれない」)
 すなわち、労働者が使用者から人的信用に基づく賃金の前払いのような弁済期の繰上げ等であって、明らかに身分的拘束を伴わないものは含まれない。
25
6E
 17条に「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とある通り、労働基準法17条で禁止しているのは、「労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺すること」である。
 すなわち、労働契約を締結する際であろうと、使用者から金を借りることを全面的に禁止しているわけではなく、「その借金と賃金を相殺する」ことを禁止しているのである。
 この点については、労働法コンメンタール「労働基準法上P 239(目的等)」の後段において、
 「本法は、労働者の足留策や強制労働の原因ともなる前借金その他労働をすることを条件とする前貸しの債権に限り、賃金との相殺を一切禁止したものである」と解説している。
 よって、
・使用者からの個人的な信用に基づいて受ける金銭等の恩恵であって、明らかに身分的拘束を伴わないものは、違法ではない。
・使用者が債権と賃金を相殺することは駄目であるが、労働者が強制を伴わない完全な自由意思に基づいて、賃金から引いてくれれと申し出ることは違法でがない。
 ただしこのような場合であっても、後からもめることがありうるので、賃金全額を労働者に渡し、労働者がそこから自主的に借金を弁済するなど、労働することが条件とはなっていないことがわかる方法が、妥当であろう。
 本肢の場合、「労働者の親権者が使用者から多額の金銭を借り受ける」など、トラブルになりやすい事案であるが、「当該労働者の賃金と相殺されない限り」17条違反と断定することはできない。

5
5C
 後段にある17条の規定とは、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」のこと。
 この場合の前貸の債権とは、使用者が労働者にお金を貸すなどして、後刻、これをとりたてる権利のこと。
 本肢問題文にある生活資金の貸付に対する返済金については、通達(S63.3.14基発150(17条関連))によると、
 「この規定は、前借金により身分的拘束を伴い、労働が強制される恐れがあること等を防止するためのものであるから、使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して、労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条は適用されない」とある。
 「労働することが条件となっているかいないか」がキーポイントである。
14
2E
 17条では、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」
 一方、通達(S63.3.14基発150(17条関連))によると、
 「17条の規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制される恐れがあること等を防止するため、「労働することを条件とする前貸の債権」と賃金を相殺することを禁止するものである。
  従って、使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは、労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して、労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない」とある。
 本肢の場合、住宅建設資金の貸付に対する返済金のように融資額が相当高額に上り、その返済期間も相当長期間にわたるものであるが、それも程度問題であって、
 「貸付けの原因が真に労働者の便宜のためのもので、労働者の申出に基づくものであること、貸付期間は必要を満たし得る範囲であり、毎月の賃金又は退職金の充当によって生活を脅威し得ない程度に返済し得るものであること、返済前であっても退職の自由が制約されていないこと等、当該貸付金が身分的拘束をともわないことが明らかなものは、本条に抵触しないと解されよう」(石井照久他「注解労働基準法1」)
 すなわち、返済不能なほどの大金や暴利でなければ、賃金との相殺はすべて禁止と断言することはできない。
 なお、問題文終段に、「24条1項による賃金控除の労使協定がある場合であっても」とあるが、これについては、労働法コンメンタール「労働基準法上P351労使の書面による協定がある場合」に
 「労使の書面による協定がある場合は、24条1項本文の賃金の全額払の原則が、協定で定める限度で適用除外とされるにすぎないのであって、17条の特例を認めるわけではない」とある通り。
28
2D
 前借金と賃金の相殺については、17条に「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とある。
 ここで、「労働することを条件とする前貸の債権」とは、労働法コンメンタール「労働基準法上P240-241」において、「金銭貸借関係と労働関係が密接に関係し、身分的拘束を伴うものと解される」とある。
 すなわち、使用者が賃金から引くつもりでもって労働者にお金を貸付けるというように、金銭の貸し借り関係と労働関係を結びつけて身分を拘束する性質をもつ貸付金のこと。
 このようなお金を貸し付けておいて、賃金から相殺してはならないのだ。
 一方、本肢の場合は、「実質的にみて使用者の強制はなく、労働者が真意から相殺の意思表示をした場合」はどうかと聞いている。
 このような場合は、通達(S63.3.14基発150(17条関連))に、
 「17条の規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制される恐れがあること等を防止するためのものであるから、使用者が、労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して、労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない」とある。
 問題文には、「実質的にみて使用者の強制はなく」とあるのは、労働法コンメンタール「労働基準法上P240-241」において、前貸の債権と賃金の相殺禁止に関し、
 「相殺は、使用者の側で行う場合のみを禁止しているのである。
 一方、労働者が自己の意思によって相殺することは禁止されていない。しかし、労働者からの相殺の意思表示がなされたような形式がとられている場合であっても、実質的にみて使用者強制によるものと認められるときは、やはり本条違反が成立すると解すべきであろう」とあることを念頭に、念押ししたものである。
23
2E
 18条1項に、「使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」とある。
 ここで、「労働契約に付随して」とは、労働契約の締結又は存続の条件とすることをいい、例えば、名称は何であれ、「社内貯蓄をしなければ雇わない」、「貯蓄をやめれば解雇する」というような契約は労働契約と付随した契約でああって、18条違反である。
 なお、問題文に「労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定に基づき」とあるのは、
 18条2項の「使用者が労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合、すなわち任意貯蓄」の話である。
 1項により禁止されている貯蓄金管理と、2項により一定の場合には許される貯蓄金管理の大きな違いは、「その契約が、労働契約に付随したものか否かである」
 たとえ、過半数労働組合若しくは労働者の過半数代表者との協定があったとしても、「労働契約に付随した」貯蓄金の管理契約、たとえば委託管理契約を解約すれば辞めてもらうなどは禁止されている。 
 単に通帳を預かるだけであっても、労働契約に付随して行われることは禁止である。
令元
4B
 労基法18条では、「労働契約に付随して貯蓄の契約をさせる契約、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」として、いわゆる強制貯蓄を禁止している。これは、事業主が労働者に対してなかば強制的に貯蓄させ、かつ簡単には引き出せないようにすることによって足止めに利用したり、経営資金に使い込んで返還不能になったりすることを防止するためである。
 問題文では、「第三者たる商店会又はその連合会等が労働者の毎月受けるべき賃金の一部を積み立てたものと使用者の積み立てたものを、退職積立金の財源とする退職積立金制度において、労働者がその意思に反してこのような退職積立金制度に加入せざるを得ない場合でも・・・・」とある。
 実際に起きた案件は、通達(S25.9.28基収2048その2)の通りであり、これに関して、労働法コンメンタール労働基準法上P247においては、「中小企業等において行われている退職積立金制度のうち、使用者以外の第三者たる商店会又はその連合会等が労働者の毎月受けるべき賃金の一部を積み立てたものと使用者の積み立てたものを財源として行っているものについては、このような退職積立金は、傷病者に対する見舞金や結婚祝金等の特殊の出費について労働者相互が共済しあう共済組合の掛金とは異なり、労働者の金銭をその委託を受けて保管管理する貯蓄金と考えられるので、労働者がその意思に反してもこのような退職積立金制度に加入せざるを得ないようになっている場合は、労働契約に付随する貯蓄の契約となり、本条の禁止する強制貯蓄に該当する」としている。
 問題文は、こちらを参照したものである。

3
2D
 「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見聴取をした上で、就業規則に、労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることができる旨を記載し、当該就業規則を行政官庁に届け出る」とある。
 「労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約」については、18条1項にあるように、禁止されている。
 しかしながら、本肢のごとく、「労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約」については、一定の場合は許される。
 本肢は、そのための条件について問う問題であるが、同条2項によれば、「当該就業規則を行政官庁に届け出る」のではなく、「書面による協定(労使協定)を、行政官庁に届け出なければならない」
 多くの場合、こちらにあるように、各種の委員会決議などが労使協定の代替となりうるが、「貯蓄金管理」は代替できるものがない。

6
3D
  労基法18条では、「労働契約に付随して貯蓄の契約をさせる契約、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」として、いわゆる強制貯蓄を禁止している」
 これに対して、同条2項3項にあるように、「(労働契約に附随することなく)労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理することについては、
・過半数組織する労働組合(ないときはの過半数代表者)との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出、かつ、
・貯蓄金管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置を取る
 ことによって、18条違反ではなくなる。
 この場合、問題文にある「労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるとき」については、18条4項により、「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入(いわゆる社内預金)であるときは、利子をつけなければならない
 この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率(0.5%)による利子をつけたものとみなす(つまり、利率は0.5%以上でなければならない)」とある。
 参考までに、通帳保管(労働者が自分名義で貯蓄し、使用者が通帳等を保管する)の場合は、労働者が契約した金融機関が定めた利率による利子がつく。
10
2E
 18条4項において、
 「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす」とあり、 下限は定められている。
 なお、通達(S63.3.14基発150)によると、
 「利子の附加方法として、日歩によることも労使の自由であるが、利率省令による年利率の最低限度を下まわってはならないものであること」とされている。
 上限については、平成6年に市中金利が完全に自由化されたことと、「賃金の支払確保法」によって保全措置が義務化されたことなどに伴い、指導はないことになった。
28
2E
 18条1項にある「労働契約に付随して貯蓄の契約をさせる、又は貯蓄金を管理する契約」は禁止であるが、基礎講座18条2項にあるように、任意貯蓄による貯蓄金を労働者の委託を受けて管理することは、@労使協定の締結と届出、A貯蓄管理規程の整備と周知(届出は不要)があれば許される。
 この、任意貯蓄には、@労働者が自分名義で貯蓄し、使用者が通帳等を保管する(通帳保管)とAいわゆる社内預金で 使用者が預金を受け入れて管理する(預金受入れ)の2タイプがある。
 いずれのタイプであっても、労働者が貯蓄金の返還を請求したときは、18条5項にあるように、「遅滞なく返還」しなければならない。
 「遅滞なく」であるから、こちらにあるように、「正当な理由、合理的な理由がある場合を除き、事情の許す限りできるだけ早く」である。
⇒定期預金のように据え置き期間が必要な場合であっても、返還要求があれば遅滞なく返還しなければならない(途中解約により利率が下がるのはやむを得ないが、その場合であっても下限利率は確保しなければならない)
11
5C
 旧法105条の3(平成13年10月1日削除)において、
 「都道府県労働局長は、労働条件についての労働者と使用者との間の紛争に関し、紛争当事者からの解決につき援助を求められた場合には、当該当事者に助言又は指導をすることができる」とされていた。
  ⇒労働基準監督署長とあるのは、都道府県労働局長の誤りである。
 現在は、この規定の趣旨は「個別労働関係紛争解決促進法」の4条に移されて、
 「都道府県労働局長は、個別労働関係紛争に関し、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働関係紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができる」となっている。
20
7A
 101条
 「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」とある。
  ただし、これらは「行政上の権限」であるから、刑事訴訟法上の捜索・検証・差押えや国税犯則取締法の「
臨検、捜索又は差押」のように、相手が立ち入りを拒否した場合に有形力(物理的な力)を行使して立ち入る即時強制(あらかじめ義務の履行を命じることなく、直ちに財産などに実力を加える)ことはできず、罰則を背景に間接的に受け入れや協力を強制する間接強制にとどまる
22
1A
 102条に、
 「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」と規定されている。
 なお、労基法にいう「司法警察官」は、措置法により「司法警察員」と読みかえられ、刑事訴訟法190条の
 「森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める」を根拠として、労働基準監督官を司法警察職員の中の司法警察員の職務を行うことができるようにしたものである。
 具体的には、監督指導を通じて覚知した労働基準関係法令違反事件や告訴・告発を受けた事件について、警察等の他の捜査機関と同様に、刑事訴訟法による捜査を行い、事件を検察庁へ送致・送付することができる。
 この場合の刑事訴訟法上の権限は警察法の定める一般の警察と変わるところはなく、証拠物件等の捜索・検証・差押のほか、被疑者を逮捕・勾留することも可能である。
 安全衛生法92条においても同じ規定が設けられている。

2
2C
  前段に、「労働基準監督官は、労働基準法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」とある。
 これは、102条にある通りで、司法警察官の職務とは「犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査する」もので、具体的には、監督指導を通じて覚知した労働基準関係法令違反事件や告訴・告発を受けた事件について、刑事訴訟法による捜査を行い、事件を検察庁へ送致・送付することができる。
 この場合の刑事訴訟法上の権限は警察法の定める一般の警察と変わるところはなく、証拠物件等の捜索・検証・差押のほか、被疑者を逮捕・勾留することも含まれる。
 次に後段には「(司法警察官の職務を行うほか)労働基準法24条に定める賃金並びに同法37条に定める時間外、休日及び深夜の割増賃金の不払については、不払をしている事業主の財産を仮に差し押さえる職務を行う」とあるが、このように賃金等の不払いに対する財産の差押え権限が、102条による司法上の事件とは別途に(たとえば101条に基づいて)、労働基準監督官が行使できるという規定はない。
 問題文にある「賃金、時間外・休日・深夜の割増賃金の不払い」については、101条による「臨検・帳簿等の提出要請、尋問」を行い、是正を行うよう行政指導するケースが非常に多いことから、問題文に取り上げられたものと考えられる。
 そのほか、滞納処分なども、国民の財産権に対する制限を強制的に加えることであるから、これを実行するには、法による個別の規定が必要である
22
1B
 報告について規定した104条の2の2項に、
 「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる」とある。
 なお、1項では「行政官庁は、・・・・・・」とほぼ同文の規定があり、こちらは厚生労働大臣、労働基準局長、都道府県労働局長、労働基準監督署長などのこと。
20
7B
 104条1項、2項から、
 「労働基準法又はこれに基づく命令に違反する事実がある場合に、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができ、使用者は、申告をしたことを理由に、解雇その他不利益な取扱をしてはならない」
 ここで、命令とは施行規則などのことで通達は含まれない。詳しくはこちらを
14
7A
 104条1項、2項の通りであり、この場合の罰則は、119条1号により、
 「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる」
20
7C
 114条に、
 「裁判所は、20条(解雇予告手当)、26条(休業手当)、若しくは37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の規定に違反した使用者、又は39条7項の規定による賃金(年次有給休暇中の賃金)を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる」とある。
 すなわち、「必ず命じなければならない」とまでは規定されていない。
 なお、問題文にある「労働基準法に基づいて支払うべき賃金又は手当」とは、114条から、以下のものに限定されている。
 @解雇予告手当(ただし、この手当を支払わない場合は解雇そのものが無効であるから、予告手当と付加金の支払請求が発生する余地はないという説もある)
 A休業手当
 B時間外労働・休日労働・深夜業の割増賃金
 C年次有給休暇中の賃金 
15
3D
 付加金の支払いの対象は114条により、
 「解雇予告手当、休業手当、時間外・休日及び深夜の割増賃金、年次有給休暇中の賃金である」
 すなわち、114条で限定列挙されたものが対象であって、
 「24条1項に規定する賃金の全額払の義務違反」に対しては適用されない。
24
1E
 付加金は、114条に 限定列挙された、
@解雇予告手当、A休業手当、B割増賃金、C年次有給休暇中の賃金についてのみ適用される。
 なお、付加金はこれらについて、労働者が(当分の間)3年以内に請求し、裁判所が命じた場合に発生するものである。
 
18
1C
 114条において、
 「裁判所は、一定の規定に違反した使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から5年以内にしなければならない」とある。
 ただし、附則143条2項に、「114条(付加金の支払)の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「5年」とあるのは、「年」とする」とあるので、請求期限は、当分の間は3年である。
 つまり、賃金などについて未払いがある場合、労働者が3年以内に訴えを起こし、それが認められると、使用者は未払い分金額の2倍を支払わないといけなくなる。
 賃金その他の請求権について、その消滅時効は、当分の間3年である。
 ただし、付加金の請求期限は時効期間ではなく、時効の完成猶予・更新もなく、援用も必要がない除斥期間である。
18
2D
 付加金とは、114条にあるように、「裁判所は、20条(解雇予告手当)その他の一定の規定に違反した使用者、又は年次有給休暇中の賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる」に基づくものである。
 出題文にあるこの最高裁判所の判例とは、いわゆる細谷服装事件(最高裁第二小判昭35.3.11)のことである。
 附加金の支払義務についての判決によれば、「労働基準法114条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法20条の違反があっても、既に(後日において)予告手当に相当する金額の支払を完了し、使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立をすることができないものと解すべきである」とされた。
 なお、この事件のあらましはこちらにある通りで、ある労働者が、解雇予告期間もおかず予告手当も支払わずに、昭和24年8月に解雇の通知を受けた。そこで、8月分の未払い賃金支払いを求めて提訴したところ、一審の口頭弁論終結日に、未払賃金と予告手当が支払われたが、裁判では解雇通知から30日間経過した日から解雇は有効であるとされた。
 労働者は、未払賃金と予告手当を支払った時点(昭和26年3月)まで解雇の効力が発生していないと主張してこの間の賃金支払いと、未払賃金と予告手当不払いに対する付加金の請求について争ったのである。
 しかし、解雇の時期について覆ることはなく、また付加金についても、後日とはなったが、昭和26年3月に予告手当に相当する額が支払われているので、使用者による付加金の支払義務は消滅したと、これも認められなかった。
13
4C
 時効については、これを規定した115条に法改正があり、「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する」
 ただし、附則143条3項に経過措置として、「当面の間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く)の請求権はこれを行使することができる時から3年間とする」
 つまり退職手当を除く賃金の請求権の消滅時効期間は当面の間、3年であるが、同じ賃金でも退職手当の請求権の消滅時効期間は5年間である。

22
3C

 時効については、115条に、
 「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する」とあるが、附則143条3項に経過措置として、「当面の間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く)の請求権はこれを行使することができる時から3年間とする」ことになった、
 よって、退職手当を除く賃金の請求権の時効は当面の間3年、労基法上の賃金であるとされた退職手当については、その請求権の時効は5年。

11
2
選択

 労働基準法の規定による賃金(退職手当を除く)の請求権は、当面の間、これを行使することができる時から3年間行わない場合においては、時効によって消滅する
 115条によると、「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する」とあるが、附則143条3項に経過措置として、「当面の間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く)の請求権はこれを行使することができる時から3年間とする」ことになった。

5
1
選択
 労働基準法の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅することとされている。
 115条によると 、「この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する」とある。 
 なお、賃金の請求権の時効は退職金も含めて本則では5年であるが、暫定的に、退職手当を除く賃金請求権については、当面の間、3年。
13
1E
 労働条件の決定に関する2条において、
 「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」
 「2項 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」
 と規定されている。これについては、通達(S63.3.14基発150号)により、
 「労基法2条は、労働条件の決定及びこれに伴う労使両当事者の義務に関する一般的原則を宣言した規定である」とあり、労働条件の原則を定めた1条とともに、罰則の対象となっていない。
17
7A
 両罰規定121条2項において、
 「事業主(法人である場合においてはその代表者)が違反の行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合は、事業主も行為者として罰する」とある。
 この場合は、時間外労働や時間外手当の管理を行なう者だけでなく、代表者も行為者としての罰則(この場合は6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科せられることになる。
 なお、「事業主」とは通常は法人にあっては法人そのものであるが、本条の場合は特別に、「事業主(法人である場合においてはその代表者)」と断り書きがあることに注意を。
 これは「是正に必要な措置を講じなかった」のは法人そのものというよりは、社長などの代表者、つまり人(自然人)であるからで、それゆえに、行為者として罰せられるのである。
20
7E
 121条
 「労働基準法の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。
 ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない」とある。
 つまり、社長が違反防止措置を行った(指示した)場合には、違反行為者は別として、会社にまで罰金を科すことはしない。
 よって、社長はしっかりとした違反防止措置をするように、ということ。  
個人事業であれば、事業主とは誰かがはっきりしているが、法人による事業の場合は少しややこしい。
 「事業主のために行為した」とは法人のために行為をした者となり、代理人とは、代表取締役や商法でいう支配人など、またその法人に雇われた弁護士や社労士など、
 使用人とはその法人に雇われている管理監督者など、その他の従業者とは、代表権のない取締役など。
 そして、「事業主に対しても罰金刑を科す」とは、法人そのものに罰金を言い渡すということ。
 後に出てくる「事業主が違反の防止に必要な措置をした場合」の事業主とは、法人の場合は法人の代表者のこと。
16
1C
 労働基準法24条とは、
 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。以下略」 
 「2項 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。以下略」   
 すなわち、24条は賃金支払の5原則について規定したものである。
  これに違反すると120条により、「30万円以下の罰金」となる。 
 ところで、本問題で聞いているのは、これらの知識のありなしよりも、罰則を支払うべきものは誰かということである。
 一般に労基法で罰則の適用を受けるのは使用者であり、使用者の範囲は広いが、本肢の場合、賃金を支払わなかったのは法人の使用者でもある代表者(社長)であるから、当然のことながら社長が違反行為を行った使用者として罰則を受けることになる。 
 なお、参考までに、労基法には両罰規定121条があり、これと通達により、
 直接の行為者である社長(この場合は、法人のために行為をした代理人という位置づけ)とともに、事業主(法人そのものあるいは個人事業主)に対しても罰則(罰金に限る)が適用されることになる。
 要するに、
@通常、罰則を受ける者とは、違反者行為を行った使用者(人事部長や工場長、取締役や社長など)
A違反行使者が使用者でかつ一定の従業者であったときは、その行為者だけでなく、原則として事業主(法人そのものあるいは個人事業主)も罰せられる。
 本肢は、@について全く触れていない点が誤り。

20
2
選択

 労働基準法第7条によれば、
 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は(公の職務を執行するために必要な時間)を請求した場合においては、拒んではならない」とある。
 ここで、公の職務とは、通達(S63基発150)によると、
 衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員など法令に根拠を有するものに限られ、裁判員もこれに該当する。

2
4D
 「選挙権の行使」については、7条に、「労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない」とある。
 しかしながら、本肢では、「労働時間外に実施すべき旨を就業規則に定めており、これに基づいて、労働者が就業時間中に選挙権の行使を請求することを拒否した」とある。
 これに関して、通達(S23.10.30基発1575)によれば、「使用者が特定の選挙における選挙権の行使を原則的に就業時間外に実施すべき旨を指令するのは、法第7条に違反し、第119条罰則の適用あるものと思料するが如何」というお伺いに対して、回答は、「公民権の行使を労働時間外に実施すべき旨定めたことにより、労働者が就業時間内に選挙権の行使を請求することを拒否すれば違法である」とある。
⇒7条違反であれば、119条の1号から、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」である。
21
1E
 労働基準法第7条によれば、
 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」とある。
 ここで、公の職務とは、通達(S63基発150)によると、
 「「公の職務」とは、法令に根拠を有するものに限られるが、法令に基づく公の職務のすべてをいうものではなく、国又は地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務、たとえば、衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員、裁判員、法令に基づいて設置される審議会の委員、その他・・・・」とされている。
 (注:なおこの通達は、平成16年5月12日に労働審判法が、平成16年5月28日に裁判員法が公布されたことに伴ない、H17.9.30基発0930006によって、労働審判員と裁判員が追加された結果である)
 労働審判とは、
 「個別労働紛争の紛争処理のため、民事訴訟手続と連係して、地方裁判所において短期間に実効性のある解決を図ろうとするものであって、当事者から労働審判手続の申立てがあった場合には、相手方の意向にかかわらず手続を進行させ、原則として、調停により解決し、これで解決できない場合は労働審判を行う。
 労働審判に異議申立てがなければ裁判上の和解となり、異議申立てを行なうと自動的に訴訟に移行する」
 詳細についてはこちらを
令3
1D
 「労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合」とある。
 「公民としての権利の行使あるいは公の職務の執行するために必要な時間がほしい(業務から一時的に離脱したい)」という請求があった場合は、7条に、「使用者は、これを拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することはできる」とある。
12
1B
 通達(S63.3.14基発150)による該当しない例の1の通り。
14
1E
 通達(63基発150)による該当しない例の2の通り。
24
4C
 前段については、7条
 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない 。
 但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」とある通り。
 後段の公民権行使時間中の賃金については、通達(S22.11.27基発399)に 
 「本条は、給与に関しては何ら触れていないから、有給たると無給たるとは、当事者の自由にゆだねられた問題である」としている。
 つまり、必ず有給でないといけない、とまでは規定されていない。
26
1C
 7条は、
 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない 。
 但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」とあ る。
 ここで、通達(S63基発150)によると、「裁判員など国の公務に民意を反映してその適正を図る職務」は7条が適用される公の職務として認められている。
 本肢の論点は、「労働時間中に公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合の賃金支払い義務の有無」であるが、これに関しては、通達(S22.11.27基発399)に 
 「本条は、給与に関しては何ら触れていないから、有給たると無給たるとは、当事者の自由にゆだねられた問題である」としている。
 つまり、有給であることまで義務づけているわけではない。 
令元
3ウ
 「労働基準法第7条に基づき、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使した」とある。
 つまり、労働時間中に、公民に認められている、公職の選挙権、被選挙権、最高裁判所裁判官の国民審査。住民投票、憲法改正の国民投票等の権利行使に参加したのであろう。
 使用者は、これらを拒んではならないし、時間外にしてくれということもできない。(ただし、間に合うのなら、少しあとにずらしてくれ(時間内に限る)ということはできる)
 本肢の場合、時間内に行使することまではできたが、その場合の賃金の支払い義務(請求できる権利)はどうなるのか、というのが論点。
 これに対しては、通達(S22.11.27基発399)に、「7条は、給与に関しては何ら触れていないから、有給たると無給たるとは、当事者の自由にゆだねられた問題である」とある。
16
1D
 この事例は、「ある従業員が十和田市議会議員選挙に当選し、会社の承認を得ないで同市議会議員に就任したところ、従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の就業規則に該当するとして、会社側がこの従業員を懲戒解雇にした点についての効力が争われた」ものである。
 最高裁判決(昭和38.06.21十和田観光電鉄事件)によると、
 「懲戒解雇なるものは、普通解雇と異なり譴責、減給、降職、出勤停止等とともに、企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰であると解するのが相当である。
 ところで、本件就業規則の前記条項は、従業員が単に公職に就任したため懲戒解雇するというのではなくして、使用者の承認を得ないで公職に就任したために懲戒解雇するという規定ではあるが、それは、公職の就任を、会社に対する届出事項とするにとどまらず、使用者の承認にかからしめ、しかもそれに違反した者に対しては制裁罰としての懲戒解雇を課するものである。
 しかし、労働基準法7条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民としての権利の行使および公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附する旨の前記条項は、労働基準法の規定の趣旨に反し、無効のものと解すべきである。
 従って、所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合においても、普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないものといわなければならない」
23
1C
 争いの顛末は過去問(16-1D)の解説にある通り。
 これに対する最高裁判例「十和田観光電鉄事件」の判決文の一節に、「懲戒解雇は、普通解雇と異なり、企業秩序違反に対して使用者によって課せられる一種の制裁罰である。ところで、本件就業規則の条項は、従業員が単に公職に就任したために懲戒解雇するというのではなくして、使用者の承認を得ないで公職に就任したために懲戒解雇するという規定であるが、それは、公職の就任を、会社に対する届出事項とするにとどまらず、使用者の承認にかからしめ、しかもそれに違反した者に対しては制裁罰としての懲戒解雇を課するものである。
 しかし、労基法7条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民としての権利の行使および公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附する旨の条項は、労基法の規定の趣旨に反し、無効と解するべきである」としている。
29
5エ
 「従業員が公職に就任する・・・・」とあるのは、ある従業員が十和田市議会議員選挙に当選し、会社の承認を得ないで同市議会議員に就任したところ、従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の就業規則に該当するとして、会社側がこの従業員を懲戒解雇にした点についての効力が争われた」いわゆる十和田観光電鉄事件である。
 これに対する最高裁判決によれば、「会社業務の逐行を著しく阻害する虞れのある場合においても、普通解雇に附するは格別、当該会社の就業規則における従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないものといわなければならない」とした。
 この判決文を読む限り、公職(市議会議員)に就任したこと(当人は休職を希望したのであるが)自体を解雇理由にはできないとしても、そのことが「会社業務の逐行を著しく阻害する虞れのある場合」は普通解雇もやむを得ないのではないかとも読める。
28
1ア
 労働基準法第1条は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とある。
 そしてその位置付けについては、通達(S22.09.13発基17(1条関係)において、「労働者に人格として価値ある生活を営む必要を充たすべき労働条件を保障することを宣明したものであって、労基法各条の解釈に当たり、基本観念として常に考慮されなければならない」とある通り。
 ここで、「宣明」とは、字句とおりで、「宣言して明らかにする」ということ。
19
2
選択
 労働基準法第1条第1項においては、「労働条件は、労働者人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」と規定されている。
 [解説]
 
労働基準法第1条第1項によると、
 「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とある。
27
1A
 労働基準法第1条に「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とある通り。
 その趣旨については、通達(S22.09.13発基17(1条関係)を参照のこと。

6
1A
 労働基準法第1条にいう「人たるに値する生活」とは、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法第25条第1項)、とするいわゆる生存権を根拠としたものであり、
 通達(S22.09.13発基17号1条関係の2)に「人たるに値する生活は、標準家族の生活も含めて考える補足されている」
 しかし、実際のところどの程度の生活レベルであるかは、その時々の政府の裁量によって決まると考えてよい。
 これについてはいわゆる「朝日訴訟」(S42.05.24)があり、この訴訟で、朝日氏が厚生大臣を相手取り、日本国憲法第25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と生活保護法の内容について争った。
 ところが、最高裁に上告中に原告が死亡し、養子夫妻が訴訟を続けたが、最高裁判所は、生活保護を受ける権利は相続できないとし、本人の死亡により訴訟は終了したとの判決を下した。
 「なお、念のため」として生活扶助基準の適否に関する意見を述べている。
 それによると「憲法25条1項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり直接個々の国民に具体的権利を賦与したものではない。・・・・・・」
 しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されている」とした。
 問題文前段にある「社会の一般常識」によって決まるか否かはともかく、「厚生大臣の合目的的な裁量」によるものとされている。
 また、問題文後段にある「賃金の最低額を保障」に関しては、最低賃金法1条に「この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」とあり、直接的には、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」とは関係がない。
 ただし、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利と最低賃金額のあり方について、訴訟を起こすことは可能であろう。
30
4ア
 労働基準法第1条では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とある。
 この「人たるに値する生活」とは何かということに関しては、通達(S22.09.13発基17号1条関係その2)に、「労働者が人たるに値する生活を営むためには、その標準家族の生活をも含めて考えること」とされている。
 さらに、この場合の「標準家族」については、通達(S22.11.27基発401号1条関係)に、「法1条は、労働条件に関する基本原則を明らかにしたものであって、標準家族の範囲はその時その社会の一般通念によって理解さるべきものである」とし、問題文にあるような「社会の一般通念にかかわらず、「配偶者、子、父母、孫及び祖父母のうち、当該労働者によって生計を維持しているもの」という考え方はとっていない。
25
5A
 労働基準法第1条1項に
 「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とあり、さらに同2項において、
 「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、その向上を図るように努めなければならない」とある。
 これらにおける「労働条件」とは、労働法コンメンタール「労働基準法上P63」(厚生労働省労働基準局編) の労働条件によると、
 「労働条件とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいう」とある。
18
1A
 1条2項において、
 「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、その向上を図るように努めなければならない」とある

4
4A
 「労働基準法第1条にいう「労働関係の当事者」」とは、1条2項に、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、その向上を図るように努めなければならない」とあることによる。
 コンメンタール労働基準法上」(厚労省労働基準局編)においても、「労働関係とは、使用者・労働者間の労務提供ー賃金支払を軸とする関係をいい、その当事者とは、使用者及び労働者のほかに、それぞれの団体、すなわち、使用者団体と労働組合を含む」とする石井照久らによる「註解労働基準法」を肯定し、引用している。
 また、同コンメンタールでは、続いて、「労働基準法は、個別的な労働関係を規制の対象としている法律であるが、労働関係は常に二元的構造をもつものであるから、本条の労働関係を単に個別的な労働関係のみに限る理由はない」とある。
 確かに、今日の実態を考えたとき、労働組合は当然として使用者団体にも、「労働条件の向上について努力義務を課すこと」は、望ましいことであるだけでなく必要なことでもあると考える。

3
1A
 1条2項によれば、「この基準を理由として労働条件を低下させてはならない」とあるが、その意味するところは、(S22.9.13発基17―労働条件の低下)によれば、
 「2項については、労働条件の低下がこの法律の基準を理由としているか否かに重点を置いて判断するものであり、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由がある場合には、本条に抵触するものではないこと
」とある。
 つまり、労基法によればこうなっているからという理由だけで、労働条件を低下させることは労基法違反となるということ。
 その反面、たとえば「景気が悪くなった」など決定的な理由があるときは、労働条件を低下させてもやむを得ない。ただし基本的には、労基法の最低基準には満足せずに、労働条件を向上させるように労使ともに努力しなければならない。 
25
5B
 1条2項に、
 「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」とある通り。
 問題文にある「この最低基準が標準とならないように」とは、労働基準法の基準を上回っているところについて、わざわざ法の基準に合わせようとしてはならないということ。
 なお、「労働関係」とは、「指揮命令により労働をさせる側と、それに従って労務を提供し見返りとして賃金を受ける側との関係」のことである。
 1条2項における「労働関係の当事者」とは、使用者と労働者だけでなく、それぞれが属する使用者団体、労働組合あるいは労働組合団体も含むものと考えられる。
12
1A
 ここでいう1条とは、1条2項のことであり、
 「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」とある。
 一方、通達((S22.9.13発基17―労働条件の低下)によると、
 「2項については、労働条件の低下がこの法律の基準を理由としているか否かに重点を置いて判断するものであり、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由がある場合には、本条に抵触するものではないこと
」とある労働条件の低下の原因が社会経済情勢の変動等のような決定的なものである場合には、労基法1条に抵触しない」とある通り。
労働者にとっては有利な条件であったものを、労基法 ではこうなってているからと、基準通りに改めたために労働条件が低下することは許されない。
 しかしながら、景気が悪くなったなど決定的な原因があってあむをえず低下させる場合は、1条違反とはならない。

19
1
選択

 労働基準法第2条第1項においては、「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」と規定されている。
 [解説]
 
労働基準法第2条1項において、
 「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とある。
 参考までに、
 労働組合法1条1項では、
 「労働者が・・・労働者の地位を向上させること・・・」
 雇用対策法1条では、
 「労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、・・・労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図る・・・」
25
5C
 労働基準法第2条第1項に、確かに、「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」とある。
 もともと、「労働者」、「使用者」は平等な人格を有しており、対等な人格同士による自由な契約に基づいて労働条件は決せられるべきものであるが、このような私法上の問題に対して、強硬法規的な労働基準法が規定を設けようとする理由は、労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によると、
 「概念的な対等者間における現実の力の差と、労働者の人格から切り離すことのできない労働力の提供をその契約の内容とする労働契約の特質のゆえである。
 この現実の力関係の不平等を解決することが労働法の理念であり、本法においても、それは重大な視点である。
 本条第1項において労使対等の原則を宣明しているのは、右の理念を明らかにしたものである」と解説している。
28
1イ
 労働基準法2条1項に、確かに、「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」とある。
 この場合の「対等な立場」とは、「社会的、経済的な力関係を離れて、相互の平等対等な人格を尊重する原則的な立場を意味するもの」と解されている。
 そして、労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によれば、「本条は、原則を明らかにしたのみであって、現実に労働組合があるかどうか、また、団体交渉で決定したかどうかは、本条の問うところではない」としている。
 従って、「労働組合が組織されている事業場では、労働条件は必ず団体交渉によって決定しなければならない」ということまで言い切ることはできない。
 ただし、わざわざこのようなことを出題する意味がどこにあるかという点で疑問がある。
 過去問解説(25-5C)にもあるように、労働者と使用者には労働条件に関する交渉力において、大きな差があるのも現実である。
 よって、このような力関係の不平等を解決するために、日本国憲法28条において、「団結権、団体交渉権、争議権」を保障し、「労働基準法」のほか「労働組合法」、「労働関係調整法」からなる労働3法を制定して、対等の立場を担保しようとしていることも忘れてはならない。

5
4A
  労働基準法2条1項に、確かに、「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」とある。
 労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によれば、
 「対等な立場とは、社会的、経済的な力関係を離れて、相互の平等対等な人格を尊重する原則的な立場を意味する。
 しかし、そのような対等な立場というものは、個々の労働者と使用者の間では事実上困難であるので、団結権、団体交渉権の保護というものがこれを確保する働きをなすものである。
 しかし、本条は、右の原則を明らかにしたのみであって、現実に労働組合があるかどうか、また、団体交渉で決定したかどうかは、本条の問うところではない」とある。
 なお、問題文にあるように「使用者が労働者に労働組合の設立を促す」ことは、労働組合法7条3号の不当労働行為に該当する違法行為である。
21
1A
 2条1項に、
 「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とあり、
 対等な立場で決めたものであるから、その当然の帰結として、同2項に
 「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」とあって、労働者にも履行の義務が課せられている。
 ただし、だからといって、履行しないからという理由だけで罰則が課せられるわけではなく、通達(S23.7.13基発1016)においても、
 「2条は労働条件の決定及びこれに伴う両当事者の義務に関する一般的原則を宣言する規定であるにとどまり、(中略)
 労働協約、就業規則及び労働契約の履行に関する争いについては、それが労働基準法各本条の規定に抵触するものでない限り、監督権行使に類する積極的な措置をなすべきものではなく、当事者間の交渉により、又はあっせん、調停、仲裁等の紛争処理機関、民事裁判所等において処理されるべきものであること」としている。
23
6C
 労働協約とは、「労使が団体交渉などによって取り決めた労働条件やその他の事項を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印したもの」である。
 本肢は、労働協約に関する最高裁判例[賃金請求(日本シェーリング)事件](H01.12.14)からの出題である。
 すなわちある会社が、経営状況が良好でないことの一因が従業員の稼働状況にあるとの認識に基づき、稼働率(前年一年間の稼働時間の所定労働時間に対する割合)を向上させるための方策 として、稼働率が80%以下の労働者を賃上げ対象から除外する労働協約をふたつの労働組合と締結した。しかしながら、この稼働率算定の基礎となる不就労として、欠勤、遅刻、早退によるもののほか、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後の休業、育児時間、労働災害による休業ないし通院、同盟罷業等組合活動によるものを含め たために、争いが起きたものである。
 その判決文によると、
 「従業員の出勤率の低下防止等の観点から、稼働率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととする制度は、一応の経済的合理性を有しており、当該制度が、労基法又は労組法上の権利に基づくもの以外の不就労を基礎として稼働率を算定するものであれば、それを違法であるとすべきものではない。
 そして、当該制度が、労基法又は労組法上の権利に基づく不就労を含めて稼働率を算定するものである場合においては、基準となっている稼働率の数値との関連において、当該制度が、労基法又は労組法上の権利を行使したことにより経済的利益を得られないこととすることによって権利の行使を抑制し、ひいては右各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるときに、当該制度を定めた労働協約条項は、公序に反するものとして無効となると解するのが相当である」
 よって、問題文にある「労働災害による休業を不就労期間とすること」は、労基法上の権利行使を抑制するものに該当するので、経済的合理性があるとはいえず、公序に反する ものとして無効である。
14
1A
 均等待遇に関する3条では、
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあり、性別を理由とする労働条件についての差別的取扱は禁止されていない。
 ただし4条において、賃金についてだけは、労基法においても男女間での差別的取扱を禁止している。
 その他の労働条件に関する男女差別の禁止は「男女雇用機会均等法」で規定されている。
25
5D
 均等待遇に関する3条に、
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあり、労働法コンメンタール「労働基準法上P63」(厚生労働省労働基準局編通達)において、この場合の「労働条件」については、「賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における切の待遇をいう」としている。
 すなわち、「労働基準法第3条は、すべての労働条件について差別待遇を禁止している」のは正しい。
 差別に至る理由については、労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によると、
 「本条は、すべての労働条件について差別待遇を禁止しているが、いかなる理由に基づくものもすべてこれを禁止しているわけではなく、本条で限定的に列挙している国籍、信条又は社会的身分を理由とする場合のみを禁じている」と解説している。
 たとえば、「性別」を理由とする差別は3条違反とはならない。
 ただし、賃金についてだけは、4条において男女間での差別的取扱を禁止しており、その他の労働条件に関する男女差別の禁止は「男女雇用機会均等法」で規定されている。
 それ例外の理由による差別を禁止する規定はないが、民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする」に該当する場合は、その差別は許されない。
19
1E
 均等待遇に関する3条では、
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあり、性別を理由とする労働条件についての差別的取扱は禁止されていない。
 ただし4条において、賃金についてだけは、労基法においても男女間での差別的取扱を禁止している。
 その他の労働条件に関する男女差別の禁止は「男女雇用機会均等法」で規定されている。
 3条にある「国籍、信条又は社会的身分」は限定列挙であり、これ以外を原因とする差別は3条違反には該当しない。
23
1A
 均等待遇に関する3条では、
 「使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」
 一方、憲法14条は、
 「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
 両者を比較すると、事由について最も重要な差異は、「労基法の3条では、性別を理由とする労働条件についての差別的取扱は禁止されていない」こと。(ただし4条において、賃金についてだけは、労基法においても男女間での差別的取扱を禁止している。その他の労働条件に関する男女差別の禁止は「男女雇用機会均等法」で規定されている )
 なお、「人種」、「門地」は3条の「社会的身分」に含まれているともいえる。
 一方、憲法においては、「国籍による差別はいかなる場合もあってはならない」とはされていない。
29
5ア
 均等待遇に関する3条においては、「性別を理由とする労働条件についての差別的取扱」は禁止されていない」。ただし、賃金についてだけは4条において、男女間での差別的取扱を禁止している。
 なお、女性の結婚、妊娠、出産に伴う退職制度、男女別定年制については、民法90条により無効とする判例が出されており、男女雇用機会均等法9条においても、これらを禁止する規定が設けられるにいたった。また、同法の5条では「募集・採用」について、同6条では「労働者の配置、昇進、降格及び教育訓練 、住宅資金の貸付けなどの福利厚生措置、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新」において、性別を理由とする差別を禁止している。

2
4A
 3条においては、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とある。
 この場合の「国籍」の意味するところは、労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によると、「国籍による差別が我が国で問題になるのは、主として日本人労働者と日本国籍をもたない外国人労働者との取扱いに関してであろう。なお、二重国籍者又は無国籍者についても、国籍を理由として差別する場合は、3条に触れることとなろう」としている。
24
4A
 均等待遇に関する3条において、「信条」の意味するところは、通達(S22.9.13発基17、3条関係)
 「信条とは、特定の宗教的もしくは政治的信念をいい、社会的身分とは、生来の身分(生まれながらの身分)をいう」とある。
   なお、労働組合法では、その5条2項の4号において、
 「何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと」とあるが、労働基準法3条にいう宗教的信条は、いわゆる宗教というものに限らず、もう少し広い概念であると考えられている。
 なお、参考までに、「特定の宗教的信条を有しているからといって、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。
 しかしながら、特定の信条に従って行動したしたときに、それが企業の秩序維持に対して重大な影響を及ぼすような場合は、その秩序違反行為そのものを理由として、就業規則等にもとづき制裁を課すなどは、3条違反とはいえない」とされている。

4
4B
 均等待遇に関する3条において、「信条」の意味するところは、通達(S22.9.13発基17、3条関係)に、
 「信条とは、特定の宗教的もしくは政治的信念をいう」とある。
 問題文にある「特定の宗教的信念」が3条にいう信条に含まれることは容易に理解できるであろう。
 一方、「特定の政治的信念」についても、それを肯定する多くの判例と学説があるといわれている。
 たとえば、三菱樹脂事件(最高裁大法廷、S48.12.12)は、「三菱樹脂に採用されたある労働者が、3ヵ月間の試用期間満了直前に、大学在学中に学生運動に従事した事実に端を発して本採用拒否の告知を受けた事件」である。
 これに対する判決文では、「3条は、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない」として、労働者の主張は退けられたが、同判決文では続いて、「企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。
 労働基準法3条は、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の(政治的)信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される」とある。特定の思想、信条に従って行う行動が企業の秩序維持に対し重大な影響を及ぼす場合、その秩序違反行為そのものを理由として差別的取扱いをすることは、労働基準法第3条に違反するものではない。

5
4B
 特定の思想、信条に従って行う行動については、労働基準法3条に、「使用者は、労働者の信条を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあり、この場合の「信条」の意味するところは、通達(S22.9.13発基17、3条関係)から、「信条とは、特定の宗教的もしくは政治的信念をいう」とされている。
 よって、「思想、信条そのものを理由として差別的取扱いをすることは、3条違反になることは自明であるが、労働法コンメンタール「労働基準法」(厚生労働省労働基準局編)のP71によると、「特定の思想、信条に従って行う行動が企業の秩序維持に対し重大な影響を及ぼす場合、その秩序違反行為そのものを理由として差別的取扱いをする場合には、3条違反の問題は生じない」としている。
 たとえば、解雇確認等請求(いわゆる日紡貝塚工場事件)(S30.11.22)
 「本件解雇は、上告人等が共産党員若しくはその同調者であること自体を理由として行われたものではなく、原判決摘示のような上告人等の具体的言動をもつて、被上告人会社の生産を現実に阻害し若しくはその危険を生ぜしめる行為であるとし、しかも、労働協約の定めにも違反する行為であるとして、これを理由になされたものである、というのである。
 そして、原審の認定するような本件解雇当時の事情の下では、被上告会社が上告人等の右言動を現実的な企業破壊的活動と目して、これを解雇の理由としたとしても、これをもつて何等具体的根拠に基かない単なる抽象的危虞に基く解雇として強いて非難し得ないものといわねばならない。
 してみると、右解雇は、もはや、上告人等が共産党員であること若しくは上告人等が単に共産主義を信奉するということ自体を理由として行われたものではないというべきであるから、本件解雇については、憲法14条、労働基準法3条違反の問題はおこり得ない。右と同趣旨に出た原判決は正当である」
11
1A

 均等待遇に関する3条では、
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とある。
 ここで、労働法コンメンタール「労働基準法上P63」(厚生労働省労働基準局編通達)によれば、「労働条件」については、「賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における切の待遇をいう」としている。
 なお、「信条」の意味するところは、通達(S22.9.13発基17、3条関係)によれば、「信条とは、特定の宗教的もしくは政治的信念をいう」とされている。
30
4イ
 問題文に、「解雇の意思表示そのものは労働条件とはいえない」とあり、さらに「解雇の理由が規定されていても労働条件にはあたらない」とあるが、これだけだと、何を問題にしているかが分かり難い。
 3条とは、均等待遇を規定したものであり、「賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない」とあり、差別的取扱いをしてはならない対象としての「労働条件」のことである。
 また、1条においても、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなければならない」とある。
 これらの規定における労働条件とは、労働法コンメンタール「労働基準法上P63」(厚生労働省労働基準局編)労働条件によれば、「賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいう」とある。
 そして、「コメンタール労働基準法上」(厚労省労働基準局編)の75Pにおいても、「解雇の意志表示そのものは労働条件とはいえないが、労働協約、就業規則等で解雇の基準又は理由が規定されていれば、それは労働するに当たっての条件として、3条の労働条件に当たる」としている。
 また、「三菱樹脂事件」(最高裁大法廷、S48.12.12)」においても、「いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。労働基準法3条は、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される」とある。
27
1B
 3条が禁止している差別的取り扱いとは、「労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあることによる。
 一般に、差別的取扱いとは「不利に取扱うこと」と考えがちであるが、3条の均等待遇に関しては、労働法コンメンタール「労働基準法上P75」(厚生労働省労働基準局編)の差別的取扱において、「差別的取扱いをするとは、当該労働者を有利又は不利に取扱うことをいう」とある通り。
 なお、4条の女性であることを理由とする賃金の差別的取扱いについても同様で、通達(S22.9.13発基17、4条関連その2)の後段に、
 「差別的取扱いをするとは、不利に取扱う場合のみならず有利に取扱う場合も含むものであること」とある。(女性の場合は退職金を割増しする、などは駄目である)

3
1B
 3条が禁止している差別的取り扱いとは、「労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあることによる。
 この3条にいう「差別的取扱」とは、労働法コンメンタール「労働基準法上P75」(厚生労働省労働基準局編)の差別的取扱において、「差別的取扱いをするとは、当該労働者を有利又は不利に取扱うことをいう」とある通り。
09
2D
 均等待遇に関する3条の「労働条件」には、雇入れそのものは含まれていない。
 これに関しては、いわゆる「三菱樹脂事件」(最高裁大法廷、S48.12.12)」があり、
 「三菱樹脂に採用されたある労働者が、3ヵ月間の試用期間満了直前に、大学在学中に学生運動に従事した事実を身上書に記載せず、面接の際にも秘匿したとの理由で、本採用拒否の告知を受けたことに対し、労働契約に基づく権利の確認と賃金の支払いを求めた」ものである。
 これに対する判決は、
  「企業者は、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。
 また、労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない
一般
15
5E
 前段部分は「三菱樹脂事件」についての最高裁大法廷判決(48.12.12)であり、正しい。
 ただし、法令による雇用についての制限が現状において全くないわけではない。
 例えば、労基法56条によると、
 「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない」とあり、特別な条件下においても56条2項により、「満13歳に満たない児童についても、同様とする」とある。 
21
1B
 3条には、
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とある。
 ここで、労働条件とは、労働法コンメンタール「労働基準法上P63」(厚生労働省労働基準局編)労働条件によれば、「賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいう」とある。
 しからば、雇入れに関してはどうかというと、これには有名な「三菱樹脂事件」についての最高裁判例があって、
 「労働基準法3条は賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない」とある。
28
1ウ
 前段については、3条にある通り。
 また、この労働条件についての差別の禁止は雇入れそのものについても及ぶか否かについての最高裁判例とは、いわゆる「三菱樹脂事件」(最高裁大法廷、S48.12.12)」のことであり、それによれば、
 「労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない」としている。
 つまり、労働基準法は、他人の指揮命令を受けて労働を提供し、その対償として賃金を得る、使用者と労働者との関係が成立した後に適用されるものである、ということ。

6
1B
「労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じている」とある部分は、3条にある通り。
 次に、「特定の信条を有することを、雇入れを拒む理由として定めること」とあるが、ここで注意すべきは「雇入れ」の場合については、最高裁判例いわゆる「三菱樹脂事件」(最高裁大法廷、S48.12.12)」があり、それによれば、
 「労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない」としている。
 つまり、労働基準法は、他人の指揮命令を受けて労働を提供し、その対償として賃金を得るという使用者と労働者との関係が成立した後に適用されるものであるということ。
20
1E
 4条の、
 「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」の通り。
令元
3ア
   4条には確かに、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない」とある。
 この意味については、通達(H09.09.25基発648)によると、「「女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないこと等を理由とすることの意であり、これらを理由として、女性労働者に対し賃金に差別をつけることは違法であること」とある。
 よってこれによれば、問題文前段の「社会通念として女性労働者が一般的に勤続年数が短いことを理由として女性労働者の賃金に差別をつけること」は含まれている。
 さらに、後段の「当該事業場において実際に女性労働者が平均的に勤続年数が短いことを理由として女性労働者の賃金に差別をつけること」もまた含まれている。
 個別の労働者について、「勤続年数が短い、能率が悪い」などの理由により、賃金に差別をつけることは、男性であろうと女性であろうと、そのことだけでは4条違反にはならない。
 しかしながら、「わが社の女性は、実際に、平均的金属年数が短い」ということを理由にして、すべての女性労働者の賃金を低く抑えることは、4条違反である。

6
1C
  4条によれば、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」とある。
 本肢の場合は、これに関連してさらに突っ込み、「事業場において女性労働者が平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いことが認められたため、男女間で異なる昇格基準を定めていることにより男女間で賃金格差が生じた場合」とある。
 ここで、「女性であることを理由として」について、通達(H09.09.25基発648)をよく読んで見ると、「「女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないこと等を理由とすることの意であり、これらを理由として、女性労働者に対し賃金に差別をつけることは違法であること」とある。
 よって、本肢の場合も、労働基準法第4条違反である。
24
4B
 4条に、
 「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」とある。
 労働基準法が制定された当時の通達(S22.9.13発基17、4条関連)によると、
 「本条の趣旨は、わが国における従来の国民経済の封建的構造のため、男性労働者に比較して一般に低位であった女性労働者の社会的、経済的地位の向上を、賃金に関する差別待遇の廃止という面から、実現しようとするものである」
 すなわち、賃金以外にもさまざまな差別があったが、一挙に解決することは困難であったことから、まず「賃金」を突破口にしたものである。
    また、一方では女性労働者は平等というよりは保護されるべき対象としてとらえられていた側面もあって、かっての労働基準法には、時間外労働や深夜労働などに対する保護規定が設けられていた。
 その後、長い時間の経過が必要であったが、昭和60年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」が公布され、その後、平成9年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(いわゆる男女雇用機会均等法)」と名称変更され、今日に至っている。
 すなわち、「女性であることを理由とした差別的取扱い」については、労基法では4条による「賃金による差別」のみを禁止しており、そのほかの 差別的取扱いについては、「男女雇用機会均等法」で規制されている。
 また、この男女雇用機会均等法の出現により、時間外労働や深夜労働などに対する労働基準法による別扱い規定も廃止された。
27
1C
 前段については、4条にある通りで、「女性であることを理由とした賃金に関する差別的取扱い」を禁止したものである。
 「賃金以外の労働条件に関し、女性であることを理由とする差別的取扱い」については、労働基準法では規定されていない。
 その経緯は過去問解説(24-4B)の通りで、現在においては、「男女雇用機会均等法」により規制されている。
25
5E
 4条には、
 「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」とある。
 この規定の趣旨については、過去問解説(24-4B)の通り。
 また、労働法コンメンタール労働基準法(厚生労働省労働基準局編)によると、
 「憲法14条第1項は、性別等により政治的、経済的又は社会的関係において差別されないと定めており、賃金の差別的取扱いのみに限らないのであるが、本条は、特に顕著な弊害の認められた賃金について、罰則をもって、その差別的取扱いを禁止したものである」と解説している。
 なお、本条に違反した場合は、119条の1号に該当し、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。(参考までに、3条の「均等待遇」違反も同様である)
 また、女性であることを理由として差別的取扱いをするとは、「労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤務年数が短いこと、主たる生計の維持者でないこと等を理由とすることの意であり、これらを理由として差別的取扱いをすることであって、
 その労働者の職務、能率、技能等によって、賃金に個人的差異があることは、4条に規定する差別的扱いではない」
10
1C
 4条により、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」とあるが、賃金以外のその他の労働条件については、労基法では禁止されていないので、この点において誤り。
 また、通達(S22.9.13発基17、4条関連その2)の後段に、
 「差別的取扱いをするとは不利に取り扱う場合のみならず、有利に取り扱う場合も含む」とあり、女性であることだけを理由として男性よりも高い賃金を支払うことも4条違反となりうるので、この点でも誤り。
 なお、参考までに、男女雇用機会均等法においては、賃金以外に対しても性別を理由として、差別的取扱いをすることを原則禁止しているが、過去の女性労働者に対する取扱いなどが原因で生じている、男女労働者の間の事実上の格差を解消する目的で行う「女性のみを対象にした取組」や「女性を有利に取り扱う取組」、いわゆるポジティブアクションについては均等法違反ではない
21
1C
 4条では、
 「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」とある。
 この賃金に関する差別については、通達(S22.9.13発基17、4条関連その2)の後段に、
 「差別的取扱いをするとは不利に取り扱う場合のみならず、有利に取り扱う場合も含む」とあるように、女性であることを理由として男性よりも高い賃金を支払うことも4条違反となりうる。
30
4ウ
 4条に「女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない」とあることは正しい。
 この賃金に関する差別については、通達(S22.9.13発基17、4条関連その2)の後段から、「女性労働者の賃金を男性労働者と比較して不利に取り扱う場合だけでなく、有利に取り扱う場合も含まれる」
 たとえば、「女性労働者が退職した場合の退職金は所定のルールに基づく額の5割増とする」などと就業規則に明示して、それを実行すれば4条違反であろう。
 一方、「産前産後の休業又は生理日の休暇についてはこれを有給とする」ということは、女性であることを理由として有利に取り扱うということではなく、肉体的な条件によるやむをえない休業を考慮したものという意味であるから、4条違反ではない。
12
1C
 通達(S22.9.13発基17号の3号)によると、
 「労働協約、就業規則、労働契約等によって、予め支給条件が明確である場合の退職手当は賃金である」としており、本肢の場合の退職手当は賃金である。
 そして、通達(S22.9.13発基17、4条関連その2)の後段に、「差別的取扱いをするとは不利に取り扱う場合のみならず、有利に取り扱う場合も含む」とある。
 よって、「労働者が結婚のため退職する場合に、女性には男性に比べ2倍の退職手当を支給すること」は労働基準法第4条違反である」
 ただし、本肢の論点は、実際にそのような支給を行ったのではなく、4条違反の定めがある就業規則をどう取扱うか、ということにある。
 これについては、通達(S23.12.25基収4281号4条関係)によると、
 「就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定があって、現実に男女差別待遇の事実がない場合においても、法4条に違反するものであると思料するが如何」というお伺いに対して、回答は、
 「就業規則に法4条違反の規定があるが現実に行われておらず、賃金の男女差別待遇の事実なければ、その規定は無効であるが、法4条違反とはならない」とある。
 そして、無効な就業規則については、92条2項により、「行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる」
 結論として、「その就業規則は労働基準法第4条に反し無効であり、行政官庁は使用者にその変更を命ずることができる」

4
4C
  「就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定がある」とある。
 これでは、4条の、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」に反する。
 ところが、これは「(規則にあるだけで)現実には適用されていない」らしい。
 このことについては、通達(S23.12.25基収4281号4条関係)によると、
 「就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定があって、現実に男女差別待遇の事実がない場合においても、法4条に違反するものであると思料するが如何」というお伺いに対して、回答は、
 「就業規則に法4条違反の規定があるが現実に行われておらず、賃金の男女差別待遇の事実がなければ、その規定は無効であるが、法4条違反とはならない」とある。
⇒その規定は無効ではあるが、4条違反ではない。
 つまりは罰則(119条1号「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)は適用されないが、92条2項により、「行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる」
16
1E
 15条1項に基づいて明示すべき労働条件の範囲は、施行規則5条により、個別具体的に限定されている。
 一方、1条2条の労働条件の範囲は法の中では明確にされていないが、労働法コンメンタール「労働基準法上P63(労働条件)」(厚生労働省労働基準局編)によると、
 「労働条件とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む、労働者の職場における一切の待遇をいう」とある。
 こちらは、労働条件を幅広くとらえている。
ちょっと考えてみても、人たるに値する生活を営むための必要を満たすべき労働条件の範囲が、施行規則5条で示される範囲に限るかというと、答えは「ノー」にならざるを得ませんね。
令元
4A
 問題文に、「労働契約の期間に関する事項は、書面等により明示しなければならない」とある。
 まず、明示すべき事項に関しては、施行規則5条に、明示しなければならない労働条件として、「労働契約の期間に関する事項」が1号に規定されている。
 そして、その明示方法については、施行規則5条の3項4項から「1号の労働契約の期間に関する事項は、文書(あるいはこれに代わるもの)による明示が必要」とされている。
 問題文では続いて、「期間の定めをしない場合においては・・・」とある。
 この場合の文書等への記載方法については、通達(H11.01.29基発45:15条関係)に、「期間がない労働契約の場合はその旨を明示しなければならないこと」とある。
 つまり、「契約期間の定めはない」旨の記載が必要である。
25
6C
 15条1項に基づいて労働条件を明示するに当たって、明示すべき事項は施行規則5条に、
 「使用者が労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。
 1号の2:期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間(労働契約法18条1項に規定する通算契約期間)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)に関する事項 。
 ただし、1号の2に掲げる事項については、期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限る」とある。(契約更新の可能性がない場合は、当然のことながら明示は不要ということ)
 なお、この1号の2は、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準(平成15年厚生労働省告示357号)」によっていたものを、平成25年4月1日の改正によって、施行規則5条の中に組み込まれる形でより強固に規定されるようになったものである。
 そして、令和6年4月1日の改正によって、基準の( )内の「通算契約期間(労働契約法18条1項に規定する通算契約期間)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む」が追加された。
 さらに、この1号の2は、施行規則5条3項から「絶対的明示事項すなわち1号から4号(ただし3号の中の昇給に関する事項を除く)」に該当するので、明示の方法については、同施行規則5条4項から、「その事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい」ことになっている。
 つまり、「期間の定めのある労働契約であつて、契約期間満了後に契約更新する場合があるときは、契約更新する場合の基準に関する事項は、原則として書面で明示しななければならない」ことになる。
 参考までに、契約更新する場合の基準とは、通達(H24.10.26基発1026第2号)によれば、
 「更新の基準の内容は、有期労働契約を締結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となるものであることを要する」
15
2A
 15条1項により、
 「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」とある。
 ここで、「厚生労働省令で定める事項」とは、施行規則5条3項による、「絶対的明示事項のうち1号から4号まで(ただし3号の中の昇給に関する事項を除く)」のことであり、「厚生労働省令で定める方法」とは、施行規則5条4項から、「その事項が明らかとなる書面の交付(を原則)とする。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい」ことになっている。
 また、労働時間については施行規則5条1項の2号により、「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項は、絶対的明示事項(ただし3号の中の昇給に関する事項を除く)に該当するから、原則として、書面の交付により明示しなければならない」
18
3C
 労働条件の明示15条1項により、
 「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項(すなわち、3号の中の昇給に関する事項を除いた絶対的明示事項)については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」とある。、
 ここで、「厚生労働省令で定める方法」とは、施行規則5条4項から、「書面の交付(を原則)とする。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい」ことになっている。
 また、労働時間については施行規則5条の2号により、
 「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項は、3号の中の昇給に関する事項を除いた絶対的明示事項に該当するから、原則として書面の交付により明示しなければならない」
 ただし、所定労働日以外の日の労働(つまり休日労働)の有無については、特に規定されてはいない。
 休日労働を行わせることにより、所定労働時間を超えることが予想される場合は「所定労働時間を超える労働の有無」として明示しなければならないが、時間外労働有りとなっている場合に、改めて、休日労働があるか否かについては、必ずしも明示しなくてよいことになっている。
 また、予め振替休日を指定することにより、休日労働とはならない処理の方法もある。
21
2B
 労働条件の明示15条1項により、
 「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項(3号の中の昇給に関する事項を除いた絶対的明示事項)については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」とあり、「厚生労働省令で定める方法」とは、施行規則5条4項から、「書面の交付(を原則)とする。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい」ことになっている。 問題文にある、
 「労働契約の期間に関する事項」は施行規則5条1項の1号
 「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)」は同条同項の1号の3
 であり、いずれも3号の中の昇給に関する事項を除いた絶対的明示事項であるから、原則として書面の交付によって明示する事項に含まれれている。

3
2B
 労働契約の締結の際に、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)」については、施行規則5条1項の1の3号に該当し、必ず明示しなければならない事項である。
 そして、明示の方法は、15条1項後段の「厚生労働省令で定める事項、すなわち施行規則5条3項による、「絶対的明示事項のうち1号から4号まで(ただし3号の中の昇給に関する事項を除く)」については、厚生労働省令で定める方法、すなわち施行規則5条4項による、「原則は文書」により明示しなければならない」とある。
 なお、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項の(  )内にある「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む」は、R06.04,01の法改正により、追加されたものである。
 明示する程度、範囲については、その人の定年にいたるまでについてを入社時に決めて明示することは事実上できない相談であるから、通達(H11.1.29基発45)のAにおいて、
 「雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を合わせ網羅的に明示することは差し支えない」とされてきた。
 しかしながら、R06.04.01からは、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む」とされたことから、通達(R05.10.12基発1012-2号) にあるように、「今後の見込みも含め、当該労働契約の期間中における就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲について、明示することが要求されることとなった。

6
3B
 労働条件の明示については、15条1項に、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」とある。
 この場合の「労働契約の締結」とは、労働法コンメンタール「労働基準法(令和3年版上)」P237によれば、「労働契約の締結には、新規に労働契約を結ぶ場合だけでなく、有期労働契約の期間満了後の契約更新や定年後の再雇用も含まれる」とある。
 そして、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」の明示については、施行規則5条1項の1の3号に「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲含む)」とあって、 必ず明示しなければならない事項である。
 すなわち、問題文にあるように、「使用者は、労働契約の締結と有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の更新のタイミングごとに、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」に加え、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲についても明示しなければならない」
 ここで、「就業の場所及び従事すべき業務」、「変更の範囲」の具体的な詳細は通達(R05.10.12基発1012-2号)にある通り。
11
2D
 「労働契約の締結に際し、使用者は労働者に対して賃金、労働時間等の労働条件を明示する必要がある」とある。
 これは15条1項にある通り。ただし、より正確には、賃金、労働時間その他の労働条件」を明示する必要がある。
 「その際、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)や労働時間に関する事項はもとより・・」とある。
 実は、明示すべき事項と明示の方法具体的な内容は、施行規則5条に規定されており、
・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)は、施行規則5条1項の1号の3に規定されている絶対的明示事項のひとつ。
・労働時間より具体的に、「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項」は、同じく2号に規定されている絶対的明示事項のひとつ。
 続いて問題文にある
・退職手当に関する事項、より具体的には、「退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」は4号の2にある相対的明示事項(すなわち、定めがない場合は省略できる明示事項)     、
・賞与に関する事項、より具体的には、「臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び8条各号に掲げる賃金(精勤手当、勤続手当、奨励加給又は能率手当) 並びに最低賃金額に関する事項」は5号にある相対的明示事項。
 表示方法についてまとめると、
@絶対的明示事項のうち、3号の中の「昇給に関する事項」を除く事項は、施行規則5条3項に該当するので、施行規則5条4項による「原則は文書」による明示
A相対的明示事項(と絶対的明示事項のうち3号の中の「昇給に関する事項)は、施行規則5条3項に該当しないから、施行規則5条4項による「原則は文書」による明示義務は適用されない。つまり、口頭でもよい。
24
2D
 施行規則5条1項に
 「使用者が15条1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、4号の2から11号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない」とあり、
 10号が「表彰及び制裁に関する事項」である。
 すなわち、「表彰に関する事項については、それに関する定めをする場合は、明示しなければならない」
 なお、明示の方法は口頭でもよい。また、定めていない場合は、明示しなくてよい。
14
2C
 労働基準法15条によれば、「労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、そのうち一定の事項(賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項、すなわち、施行規則5条1項にある1号から4号までの絶対的明示事項(ただし、3号の中の「昇給に関する事項」を除く事項))については、厚生労働省令で定める方法すなわち、原則として書面の交付による明示。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよいとされている。
 そこで、本肢の論点である、「健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項」であるが、明示すべき事項について規定した施行規則5条を見ても、「社会保険、労働保険に関する事項は定められていない」
 原則書面の明示が必要な絶対的明示事項でもなければ、口頭でもよい相対的明示事項でもない。
 参考までに、職業安定法5条の3においては、
 「公共職業安定所及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者等は、職業紹介、労働者の募集に当たり、従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件(同施行規則4条の2の3項によれば、契約期間、就業場所、賃金の額、健康保険、厚生年金、労災保険及び雇用保険の適用)に関する事項を明示しなければならない」とある。
15
2C
 「労働契約の締結に際し、労働者に対して、原則書面の交付により明示しなければならないこととされている賃金(退職手当及び一定の賃金を除く)の決定及び計算に関する事項」とある。
 これは、15条に、「労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、そのうち一定の事項(賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項、すなわち絶対的明示事項1号から4号(ただし、3号の中の「昇給に関する事項」を除く事項)については、厚生労働省令で定める方法(すなわち、原則として書面の交付による明示。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい)による」とあることによる。
 そこで、本肢で問題にしている「賃金(退職手当及び一定の賃金を除く)の決定及び計算に関する事項」であるが、これは、施行規則5条の1項の3号に該当するので、絶対的明示事項であり、「原則書面の交付による明示」が必要。
 ただし、その内容はこまごまとしたことに及ぶことが多いので、通達(H11.03.31基発168号)に、
 「書面によって明示すべき事項は、賃金に関する事項のうち、労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期であること。
 具体的には、基本賃金の額、手当の額又は支給条件、時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその率並びに賃金の締切日及び支払日であること。
 また、交付すべき書面の内容としては、就業規則等の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないこと。この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいうまでもない」とある。

2
5イ
 労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき賃金に関する事項及び書面については、施行規則15条に基づく施行規則5条4項により、「労働者に対して規定する事項が明らかとなる書面の交付を原則とする」とあり、さらに詳細には、通達(H11.03.31基発168号)により、
 「労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期であること。具体的には、基本賃金の額、手当の額又は支給条件、時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその率並びに賃金の締切日及び支払日であること。
 また、交付すべき書面の内容としては、就業規則等の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないこと。この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいうまでもない」とある。
11
2C
 「賃金や労働時間に関する事項について、労働契約締結時に原則書面により明示する必要がある」とある。
 これは、15条にある通り。
 そして、「賃金」については、通達(H11.03.31基発168号)に、
 「書面によって明示すべき事項は、賃金に関する事項のうち、労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期であること。また、交付すべき書面の内容としては、就業規則等の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないこと」とある。
 また、「労働時間に関する事項」につては、通達(H11.01.29基発45:15条関係)のBに、「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項について、当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならないこと。
 なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること」とある。
 これらを受けて、通達(H11.1.29基発45)によれば、「労働条件の明示にあたって交付する書面の様式は自由であること。なお、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えないこと」とある。
 つまり、「賃金や労働時間に関する事項について、労働契約締結時に原則書面により明示する必要があるが、その際、労働者に適用される部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない」
24
7E
 労働基準法第15条により、使用者が労働契約の締結に際し、(原則)書面で行うこととされている労働条件の明示方法については、通達(H11.1.29基発45)によると
 「書面の様式は自由である。
 なお、明示すべき事項については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない」とある。
12
2C
 「労働契約の締結に際し、原則書面を交付して明示すべき労働条件のうち、退職に関する事項」とある。
 退職に関する事項は、施行規則5条の4号に該当し、「3号の中の昇給に関する事項を除く絶対的明示事項のひとつ」であるから、施行規則5条4項により「厚生労働省令で定める方法(すなわち、原則として書面の交付による明示。ただし、当該労働者が希望した場合には、電子メール等によってもよい)」
 後段については、通達(H1101.29基発45号:15条関係)のCに、「退職に関する事項:退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること」としている。
27
3C
 15条1項は、「賃金、労働時間その他の労働条件を明示」することを使用者に義務付けており、これは強硬規定であって、それに違反した場合は、120条により「30万円以下の罰金に処する」ことになっている。
 ただし、この場合の15条1項違反とは、「明示すべき範囲の労働条件を明示しない場合や省令で定められた事項について定められた方法(すなわち、原則書面による方法)で明示しない場合のことで、あくまでも使用者の不作為が処罰の対象になっているのだ。
 労基法では、明示した労働条件が実際とは異なることだけで使用者を罰することまでは規定していない。
 ただし、15条2項により、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除できる」(どうしても納得いかない場合は、民事訴訟をおこすことである)
 また、雇用保険法においては、「特定受給資格者」になりうる。
 さらに、平成31年4月1日の法改正により、施行規則5条2項が新たに設けられ、「使用者は、法15条1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」ことが、法律ではないが、省令(施行規則)に書き込まれた。(ただし、施行規則レベルであるから、法律による罰則規定の対象にはならないが、行政指導の対象にはなりうるであろう)
 ここで、同施行規則にいう「事実と異なるもの」とは(基発0907第1号H30.09.07)によれば、「事実と異なるものとは、15条2項(即時契約解除)において、労働者が即時に労働契約を解除することができるとされる場合と同様に判断されることに留意すること」とある。
24
2E
 問題文の前段にある労働者派遣法44条2項には、
 「派遣中の労働者の派遣就業に関しては、派遣先の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、公民権の補償、労働時間(32条、32条の2の1か月単位の変更労働時間制その他)・休憩・休日、時間外・休日労働、深夜業、危険有害業務、年少者、妊産婦、育児時間、生理休暇等の規定並びに当該規定に基づいて発する命令の規定(罰則の規定を含む)を適用する」とある通りで正しい。
 それでは、派遣元事業主は労働基準法15条による労働条件の明示において、これらに関わる事項は、明示義務を免がれるのかというのは、本肢の論点。
 これに関しては、通達(S61.06.06基発333)に、
 「派遣元の使用者は、労働者派遣法による労働基準法の適用に関する特例により、自己が労働基準法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて、 労働基準法15条による労働条件の明示をする必要があること」とある。
 つまりは、雇入れについて契約するときは、直接の責任は負わないとしても、派遣先の労働条件をしっかり把握し、これを明示して行わなければならないとされている。
 なお、登録型派遣の多くがそうであるように、労働契約の締結時点と派遣する時点が同時である場合には、
 労働基準法15条による労働契約時点での労働条件の明示義務と、労働者派遣法34条による派遣先における就業条件の明示義務を併せて行って差し支えないことになっている。
29
3E
 「労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなして適用することとされている労働時間、休憩、休日等」とある。
 派遣労働者の場合、事業主は派遣元と派遣先がいるので、どちら(あるいは両者)を労基法上の使用者とするかについては、特別な規定があり、労働者派遣法44条2項によると、「派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなして、労働時間(32条、32条の2の1か月単位の変更労働時間制その他)・休憩・休日等を適用する」とある。
 つまり、これらについては派遣先事業主のみを使用者として労基法が適用される。
 それでは、施行規則5条1項の2号にある「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等」に関する労働条件の明示義務も派遣先の事業主に課せられているか」というのが本肢の論点。
 これに関しては、通達(S61.06.06基発333)に、
 「派遣元の使用者は、労働者派遣法による労働基準法の適用に関する特例により、自己が労働基準法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて、 労働基準法15条による労働条件の明示をする必要がある」とある。
 なお派遣元事業主は、労働者派遣を行おうとするときは、労働者派遣法34条により、派遣先における就業条件の明示義務も行わなければならないことになっている。
 要するに、派遣元事業主が労働派遣を行う労働者を雇い入れするときは、派遣先のこともよく把握して労働条件を定め、それを明示しなければならないのだ。
21
3C
 89条の1号、2号、3号は、89条の本文中の「次に掲げる事項について就業規則を作成し・・・」とあることから、「いかなる場合であっても必ず記載しなければならない」いわゆる絶対的必要記載事項である。
 一方、3号の2から10号は、各号の文中に「・・・の定めをする場合は」とあることから、「定めをする場合においては必ず記載しなければならない(定めをしない場合は記載の必要はない)」いわゆる相対的必要記載事項である。
 もちろん、その他の事項であっても任意に記載することは構わない。
 記載事項の一部を欠いている就業規則の効力についてはどうかというと、通達(S25.2.20基収276)に、
 「89条の1号から3号までの絶対的必要記載事項の一部または、同条3号の2以下の相対的必要記載事項中で当該事業場が適用を受けるべき事項を記載しない就業規則についても、その効力発生について他の要件を具備する限り有効である。
 ただし、そのような就業規則を作成し届出ても、使用者の89条違反の責任は免れない(30万円以下の罰金)」とある。
14
6C
 フレックスタイム制を採用する場合の就業規則については、通達(S63.1.1基発1)において、
 「89条1項1号において、就業規則で始業及び終業の時刻を定めることと規定しているが、
 フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則において、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨の定めをすれば同条の要件を満たすものである。
 その場合、コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)も始業及び終業の時刻に関する事項であるので、それらを設ける場合には、就業規則においても規定すべきものであること。
 なお、このことに関して、フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる一日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨に合致しないものである」とある。 
26
7エ
 フレックスタイム制を採用する場合の就業規則については、通達(S63.1.1基発1)から、
 「就業規則において、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨の定めをすればよく、 その場合、コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)を設ける場合には、それらに関する事項を就業規則においても規定すべきであること。
 そうすれば、89条1項1号の「始業及び終業の時刻を定めることと」の要件を満たす(記載義務を果たす)ものとされる」 
28
5B
 前段にある労働基準法41条3号に定める「監視に従事する者」とは、原則として、一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない者(交通の監視、駐車場における誘導、プラントの計器監視、危険又は有毒な場所での業務などは一定の緊張を強いられるので対象外)。
 また、「断続的労働に従事する者」とは、休憩時間は少ないが手待時間が多い者で、寄宿舎の寮母や役員専属の自動車運転手など(タクシー運転手は認められない)。
 これらの者は、同条にあるように、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されない」
 その理由は、労働密度が疎であるから、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しなくても、労働者保護に欠けることはないであろうとされている。
 ただし、使用者が勝手にこれに該当する者を決めては困るので、「監督官庁の許可を受けたものに限る」という縛りがついている。
 しからば、「労働時間・休憩の規定は適用されないということなら、就業規則に「始業及び終業の時刻を定める必要はないのではないか」というのが本肢の論点。
 これについては、通達(昭和23.12.25基収4281)に、「41条3号の許可を受けた者についても、89条は適用されるのであるから、就業規則には始業及び終業の時刻を定めなければならない」とある。
  なお、これらの者は8時間を超えて労働させても割増賃金の発生はないので、始業及び終業の時刻の間の拘束時間がある程度長時間であっても許される。(12時間程度以内か?) 
令元
7E
 「同一事業場において、労働者の勤務態様、職種等によって始業及び終業の時刻が異なる」とある。
 就業規則に関して、89条の1号にある「始業及び終業の時刻、・・・」は絶対的必要記載事項である。
 これが、同一事業場にあっても職種等によって異なる場合の記載の仕方については、通達(S63.3.14基発150)によると、「同一事業場において、労働者の勤務態様、職種等によって始業及び終業の時刻が異なる場合は、就業規則に勤務態様、職種等の別ごとに始業及び終業の時刻を規定しなければならない
 ただし、パートタイム労働者等のうち本人の希望等により勤務態様、職種等の別ごとに始業及び終業の時刻を画一的に定めないこととする者については、就業規則には、基本となる始業及び終業の時刻を定めるとともに、具体的には個別の労働契約等で定める旨の委任規定を設けることで差し支えない」とある。
 本肢は、パートタイム労働者等について問題にしているわけではないので、「勤務態様、職種等の別ごとに始業及び終業の時刻を規定しなければならない」(パートタイム労働者等に対しても、労働時間は1日8時間とするという就業規則の記述だけではだめである)
30
7B
 「就業規則の記載事項として、労働基準法第89条第1号にあげられている「休暇」」とある。
 89条1項1号には「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」とあり、「休暇」は絶対的必要記載事項である。
 続いて、「この休暇には、育児介護休業法による育児休業も含まれる」とあるが、これについては、通達(H11.03.31基発168)の「育児休業の就業規則への記載(1)休暇」において、
 「89条第1号にある「休暇」の中には、従来から、育児休暇も含まれるものと解してきたところであること。育児介護休業法による育児休業もこの育児休暇に含まれるものであり、育児休業の対象となる労働者の範囲等の付与条件、育児休業取得に必要な手続、休業期間については、就業規則に記載する必要があること。
 なお、育児休業法においては、育児休業の対象者、育児休業期間等が具体的に定められているので、育児
となる労働者の範囲、育児休業取得に必要な手続、休業期間については、育児介護休業法の定めるところにより育児休業を与える旨の定めがあれば記載義務は満た」ていると解されること」とある。
 また、「就業規則における育児・介護休業等の取扱い(厚生労働省)」によれば、「平成21年厚生労働省告示第509号にあるように、育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児・介護のための所定外労働、時間外労働及び深夜業の制限などについては、法律上の要件を満たす労働者が適正に申し出ることにより休業等の法的効果が生ずるものであるが、各事業所においてあらかじめ制度を導入し、就業規則に記載する必要がある」とされている。
25
1B
 89条1項2号にあるように、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は絶対的必要記載事項である。
23
5A
 常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成する義務があるが、89条の3号 にあるように、
 「退職に関する事項(解雇の事由を含む)については、その就業規則において必ず記載しなければならない事項である」
  なお、「退職とは、日常用語としては期間満了による自然退職や労働者の意思に基づく任意退職等の場合を指し、使用者の意思に基く労働契約の終了である解雇を含まないのであるが、ここにいう退職は、解雇を含め労働契約が終了するすべての場合を指すと解すべきである。
 従って、「退職に関する事項」とは、任意退職、解雇、定年制、契約期間の 満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいう。
 なお、解雇の事由については、少なくともどのような事実がある場合に解雇されることになるのかが明確になっている必要があるものである」(労働基準法下厚生労働省労働基準局編より)

24
3オ

 前段については、89条の1号から3号までが絶対的必要記載事項であって、
 3号に「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」とあるとおり。
 後段については、過去問解説(23-5A)にある通りで、
 ここでいう「退職に関する事項」とは、任意退職、解雇、定年制、契約期間の 満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいう。
24
7A
 前段については、89条にあるように、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成する義務がある」
 しかし、その3号にはあるように、
 「退職に関する事項(解雇の事由を含む)については、その就業規則において必ず記載しなければならない」が、退職手当に関しては、その3号の2に、
 「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 を必ず記載しなければならない」とあって、いわゆる相対的必要記載事項に属する。
 後段の退職手当の支払義務について労働基準法では、
 「退職手当は労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給が明確にされている場合は賃金である。つまり、使用者に支払義務がある」とされているが、「勤続期間が3年以上の労働者に対して退職手当を支払わなければならない」などという規定はない。
28
5C
 「退職手当」については、89条の3号の2に、「定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に記載しておかなければならないとある。
 問題文には、さらに「不支給事由又は減額事由を設ける場合」とあるが、どんな事由により退職手当が不支給あるいは減額されるかというルールは、退職手当の額の決定、計算方法そのものであるといえるから、このルールを設けておいて、就業規則に記載せずに適用することは、大いに問題があるといえる。
 この点、通達(S63.01.01基発1号)においても、
「・89条の3号の2の退職手当の決定、計算及び支払の方法とは、例えば、勤続年数、退職事由等の退職手当額の決定のための要素、退職手当額の算定方法及び一時金で支払うのか年金で支払うのか等の支払の方法をいうものであること。
・退職手当について不支給事由又は減額事由を設ける場合には、これは退職手当の決定及び計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要があること」としている。
 なお、退職手当に関する事項は詳細にわたる場合が多いことから、これらについて別の規則を定めることもできることにも注意を。
13
5C
 施行規則5条による労働条件の絶対的明示事項2号は、
 「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項」とあるが
 89条による就業規則の絶対的必要記載事項1号には、
 「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」とあり、
 所定労働時間を超える労働の有無は、就業規則の絶対的必要記載事項ではない。
 ただし、所定労働時間を超えて労働させる場合があるときは、就業規則にその旨を記載しておく必要がある(就業規則によらない場合は、個々の労働者との何らかの合意が必要である)
15
2E
 問題文にある「就業の場所に関する事項(及び従事すべき業務に関する事項)」は、施行規則5条における1の3にあるように、「労働契約の締結に際し労働者に対して書面により明示しなければならないこととされている絶対的必要明示事項」の一つである。
 一方、就業規則における絶対的必要記載事項は、89条の1号から3号まで、すなわち、
@始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項、
A賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算、支払方法、締切り日、支払日、昇給に関する事項、
B退職に関する事項(解雇の事由を含む)
 であって、「就業の場所に関する事項」は該当しない。
 なお、この就業場所がすべての労働者に適用されるものであれば、89条10号に該当するので、記載義務の発生する相対的必要記載事項である。
30
7C
 就業規則における制裁の位置づけは、89条9号に「制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項を記載」とある。
 つまり、制裁の定めをする場合は必ず記載しなければならないが、制裁を定めない場合は何も記載しなくてよい。
 ただし、就業規則に全く記載がない場合は、実際に制裁を行いたい事案が発生したとしても、これを行うことはできないと考えられる。
 最高裁判例(フジ興産事件H15.10.10)においても、「労働者を懲戒(制裁)するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類および事由を定めておくことを要する。さらには、労働者にこれを周知させる必要がある」とあるとしている。
 逆に、就業規則に懲戒(制裁)の定めを記載し、これを周知させた場合は、その範囲内で制裁を実施することができるが、その程度、内容によっては、「公序良俗に反する」として無効となることもありうる。
14
2B
 休職に関する事項は、労働条件の明示に対しては、施行規則5条1項11号の通りで、相対的明示事項になっており、定めをする場合には明示しなければならない。
 また、就業規則に対しては、89条10号により、「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、就業規則に記載しなければならない」 とされている。
23
5B
 常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成する義務があるが、89条の10号に、
 「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項 を就業規則に記載しなければならない」とある。
 よって、「ボランティア休暇制度」についても、これを当該事業場のすべての労働者に適用するものとして定める場合は、就業規則に 記載しなければならない。
25
1D
 前段の就業規則の作成と届出義務については、89条に、
 「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」とある通り。
 後段の記載すべき事項については、同条の10号に
 「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、就業規則に記載しなければならない」 とされている。
 これについては、通達(S23.10.30基発157)においても、
 「法89条10号の事項は、労働協約あるいは規定がなくても慣習等として存在する事項も包含するものと解してよいか」という問い合わせに対して、「従来の慣習が当該事業場の労働者のすべてに適用されるものである限り、見解の通り」とある。

2
7A

 「慣習等により、労働条件の決定変更につき労働組合との協議を必要とする場合」とある。
 これが、89条で規定されている就業規則に記載すべき事項か否かであるが、通達(S23.10.30基発1575)によれば、「法令慣習等により、労働条件その他の決定変更につき労働組合との協定、協議又はその経由を必要とする場合は、その旨を就業規則に規定すべきものと思料するが如何」というお伺いに対して、回答は「当事者の自由である」とのこと。
 つまり、89条10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに該当するとは言い切れないが、はっきっりしないところもあるので、記載してもしなくてもかなわない」ということか。

3
7B
 「欠勤(病気事故)したときに、その日を労働者の請求により年次有給休暇に振り替える取扱いが制度として確立している場合」とある。
 このような場合は、就業規則における記載事項を規定した89条の10号、「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項は、相対的必要記載事項である」に該当する。
 この点に関しては、通達(23.12.25基収4281)においても、
 「欠勤(病気事故)した場合、その日を労働者の請求により年次有給休暇に振り替えることは違法ではないと思料するが、就業規則その他にそのことを定める必要はないか」というお伺いに対して、「当該取扱いが制度として確立している場合には、就業規則に規定することが必要である」との回答がなされた。
23
2B
 労働契約の即時解除については、15条2項
 「15条1項(労働条件の明示)の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」 とある通り。 
 ただし、即時解除できる対象は、明示されたすべての事項ではなく、15条1項、具体的には施行規則5条に定められている事項に限られる。
 ただし、その他の事項が原因である場合についても、契約不履行として民事で争うことはできる。
28
2B
 「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違している」とある。この場合は、15条2項にあるように、「その労働者は即時に労働契約を解除することができる」
 「即時に」ということは、たとえば2週間前に申し出なければならないとか、明示された通りにやってくれと催告してからでないと解除できない、などということはなく、文字通り「直ぐに」解除できる。
 (明示された条件が契約内容であるから、直ぐにはやめないで、契約通りにやってくれて履行を要求する、それでも履行しない場合は損害賠償を請求することなども当然可能である。
 逆に、何もしないでそのままずるずると時間が経過してしまうと、そのような実態を容認したとも受け取られかねないので注意を要する)
 本肢の論点は、「契約を解除した場合、その労働契約の効力は遡及的に消滅し、契約が締結されなかったのと同一の法律効果が生じる」か否である。
 民法でいう一般的な「契約解除」とはこのようなことをいい、解除されると、双方は「契約前の状態に戻す義務が発生することになる」
 しかし、労働契約の解除についてもこのように捉えると、これまでの賃金支払請求権もなくなるなど、不都合な点があるので、「労働契約関係を将来に向かって消滅させること」と解されている。
12
2D
 15条2項により、
 「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」ことになっており、その際は、3項により、帰郷旅費も請求できることになっている。
 さてこの本肢の場合は、通達(S23.11.27基収3514(15条関連1))にある事例で、「労働者Xの雇入れに当たり、契約したXの賃金は同事業場に使用されるY等他の労働者の賃金に比較しはるかに高額なので、Xは、労働者Y等との折り合いの関係もあり、Y等の賃金の引上げを要望し、事業主はその引上げをなすべき旨言明して労働契約を締結したところ、事業主は約束に反してY等の賃金の引上げを行わないので、Xは労働契約を解除した。
 この場合、Y等他の労働者の賃金の引上げをしないのも、法15条の明示された労働条件が事実と相違するといえるか」という問に対する回答は、
 「法15条1項は、労働者が自己の労働条件の具体的な内容を承知せずして雇入れられることのないよう、使用者に対し労働条件の明示を義務付けた規定であるから、設問の場合の条件は、労働契約に伴う付帯条件ではあるが、同条1項にいう「賃金、労働時間その他の労働条件」には該当しない。
 従ってこの場合は2項の規定は適用されない」とあり、
 つまり、2項を根拠として自分自身の労働契約の即時解除をすることはできない。

5
5B
 問題文後段にある15条2項による労働契約の解除権とは、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」のことである。その際は、3項により、帰郷旅費も請求できることになっている。
 しかしながら、問題文前段において、「社宅が単なる福利厚生施設とみなされる場合」とある。
 これは、通達(S23.11.27基収3514(15条関連2))にある事例で、「労働契約の締結にあたり社宅を供与するべき旨契約したにもかかわらず、これを供与しなかった場合、法15条の明示された労働条件が事実と相違するといえるか」という問に対する回答は、
 「社宅が、単なる福利厚生施設とみなされる場合は、社宅を供与すべき旨の条件は15条1項の「労働条件」には含まれないから、これを供与しなかった場合でも同条2項の適用はない。
 なお、法15条の適用がない場合においても、民法541条の規定によって契約を解除することができるから、念のため」とある。
 すなわち、労働基準法によっては、15条2項による労働契約の解除権を行使することはできない。
  ただし、同通達によれば、「設問の社宅を利用する利益が、法11条にいう賃金である場合は、社宅を供与すべき旨の条件は、法15条1項の「賃金、労働時間その他の労働条件」であるからこれを供与しなかった場合は、同条2項の規定が適用される」ともあるので、実務においては、「その社宅を利用する利益が、労基法上の賃金であるか否かについての正しい判断が求められる」
29
3B
 「明示された労働条件と異なるために労働契約を解除」とある。
 このような場合は、15条2項にあるように、「(労働者側から)即時に解除できる」
 即時であるから少なくとも2週間前に通告などは不要であるが、ある程度時間が経過すると、その労働条件を承認したとも捉えられかねないので、それ相応の早い対応が必要であろう。
 続いて、「15条3項に基づいて使用者が負担しなければならない旅費」とある。
 それまでに若干でも労働したことがあれば、その日数に対応する賃金の支払いはもちろんであるが、それに加えて、契約解除後14日以内に、元居た場所などに帰る場合は、必要な旅費も負担しなければならない。
 本肢では、この場合の帰郷旅費の範囲を問題にしているが、通達(S22.09.13発基17)によると、「必要な旅費とは労働者本人のみならず、就業のために移転した家族の旅費をも含むこと。ここで、家族とは、労働者により、生計を維持されている同居の親族(届出をしないが、事実上その者と婚姻関係と同様の事情にある者を含む)をいう」とある。

4
5B
 労働基準法15条3項とは 、同条2項に、明示された労働条件が事実と相違する場合、「労働者は即時に労働契約を解除する」ことができるとあり、これを受けて、
「就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない」とあることによる。
 本肢の論点は、「契約解除の日から 14日以内であるとは、解除当日から数える当日起算14日でよいか」ということ。
 これに関しては、労働法コンメンタール労働基準法(上)の231Pに、
 「契約解除の日から14日以内であるか否かの計算は、民法140条の期間計算の原則によるものと解されるから、例えば6月1日に労働契約を解除した場合は、翌日の6月2日から数えて14日、即ち6月15日までをいい、この日までに帰郷しなければ、本条は適用されない。
 なお、労働者が14日以内に帰郷するとは、14日以内に目的地に向かって現住所を離れることで足り、目的地に到着することは要しない」とある。
 よって、本肢については、「9月1日に労働契約を解除した場合は、9月1日から 9月15日までをいう」
 参考までに、「帰郷旅費とは」通達(S23.07.20基収2483)にあるように、通常、就業する直前に労働者の居住していた場所まで帰ることをいうが、必ずしもこれのみに限定されることなく、父母その他親族の保護を受ける場合にはその者の住所に帰る場合も含むものと解されている。